会社員からNPO法人への転職。最近事例は増えつつありますが、収入面などで、まだまだハードルは高いようです。そんな中、転職に踏み切った人たちは、いったいどんなことを考え、NPOへの転職へ至ったのか。また、今後どんなことを目指して活動されているのか。
2013年10月に民間企業からNPO法人ETIC.に転職し、現在「震災復興リーダー支援プロジェクト」を通して東北の復興に取り組んでいる、諸希恵さんにお話をうかがいました。
NPO法人ETIC.諸希恵さん。ETIC.のオフィスにて。
リクルートでの広告営業経験から見えたもの
自分の武器を作るために、リクルートに入社
荘司:前職は株式会社リクルート(現・株式会社リクルートライフスタイル)とのことでしたが、新卒で入社されたのですか?
諸:はい、大学を卒業し新卒で入社しました。「私はコレが出来る!という武器を身に着けたい」という理由で、自身を成長できるフィールドだと感じたリクルートに入社しました。
リクルートでは、広告営業を6年半担当しました。飲食店に足を運び、経営者の方から思いを伺い、集客戦略を考えたり、実際にWEBページを作っていました。 集客したいという想いを持った飲食店のオーナーさんや一緒に働いている仲間の「期待に応えたい」と次第に思うようになり、「自分の周りの方、目の前で困っている方のお役に立つために」ということを意識して、日々営業していました。
前職の時の諸さん
震災復興へ携わることになったきっかけ
荘司:そこから現在のような震災復興に携わるきっかけは何だったのですか?
諸:震災復興に関わるきっかけとなったのは、震災から半年後に参加した、会社のCSR主催のボランティアツアーでした。「半年経った東北がどんな状態なのか見に行こう」そんな軽い気持ちで参加しました。
行く前は「半年経っているから瓦礫もなくなっているだろう」とイメージしていましたが、瓦礫は大量に残り、子どものおもちゃなどが土の中から出てくるなど、想像とかけ離れた東北の現状を知り、愕然としました。
現地の方の涙をみて、自分にできることを考えた
諸:その中で、一番心に響いたのは現地の方の言葉でした。現地で食事を用意してくださった現地のお母さんが、私達の帰り際に涙を流されたんです。
「ボランティアの方が来てくれないと、すぐ津波のことを思い出してしまう。みんながこうやって来てくれるだけで元気になるんだ。何もしてくれなくても良いから、またこうして遊びに来てね。」と、涙ながらに手を握られたことで、何か自分には出来ることはないのか・・・ とぼんやりと考え始めました。
社内を巻き込み復興支援、そしてETIC.へ
多くの人に知ってもらうことで、新しい動きを作りたい
諸:しかし自分ひとりがボランティアとして関わっても、お手伝いできることなんてたかが知れているし、人を動かせるような立場でもない。でも東北の今の姿や、現地のお母さん達のような人たちの声を、1人でも多くの人に知ってもらいたい。 多くの人に知ってもらえたら、私よりも力のある人たちが動き始め、そこから何か新しい動きが生まれるかもしれない。そう思い、ボランティアツアーを計画し、会社の許可も取らず、全国の社員にメール送りました。
許可を取らなかったのは、後日怒られましたが(笑)思いを伝えたら、当時の社長もCSRの方も応援してくれました。その時は、「1人でも多くの人に東北の今を知ってもらいたい」という一心でしたね。
荘司:全国の社員を巻き込むなんてすごいですね!
諸:結局そのボランティアツアーは、3回開催し、全国から60人程度が集まり、東北に足を運ぶ機会を創出することができました。
有志で実施したボランティアツアーにて
「買う支援」社内で東北物産展を開催
諸:またツアーを企画する段階で、「ツアーに行きたいけど行けない」という方の声が多かったこともあり、東京にいながら出来る支援のカタチはないか?と考えました。そこで同じ思いを持った仲間たちと、八重洲オフィスの会議室で、復興支援の物産展を開催しました。
諸:開催にあたって、東北三県の観光協会にも電話し、協力を打診しました。いま考えると、突然リクルートの社員と名乗る人から電話が掛かって来たので、相手方は驚かれたでしょうね(笑)。
荘司:イベントの結果はどうだったのですか?
諸:社内告知なども行い、1日で述べ1,000人を超える方にご来場を頂き、売上をご協力いただいたところに寄付しました。なおそのイベントは、今でも継続する社内イベントになっています。
現地に行きたいけど行けない、という声に応えて開催した物産展の様子
・「買う支援」社内で東北物産展を開催(リクルートホールディングスWEBサイト)
ETIC.との出会い
諸:その物産展のイベントに、取り組み事例紹介として、出展していただいたのがETIC.でした。 それまではETIC.はもちろん、NPO法人に全く関わりはありませんでした。入社が決まった時に「NPO法人ってお給料貰えるんですか?」と聞いたのを覚えています(笑)。
荘司:そこから何故転職に思いが動いたのですか?
諸:当時、有志でツアーや物産展をやっている中で、やりがいと同時に限界も感じるようになっていました。いち社員の片手間でやれることにも限界があるし、会社に属している以上、通常の業務は絶対に手は抜きたくなかった。一方で「東北のために何か出来ないか」という自分の中で一度芽生えた思いは無視出来なかった。自分の中でやりたいことの天秤が揺らぎ始めてきていました。
やりたいことが出来る環境を求め、退職を決意
諸:そんな時にETIC.の担当者のお話から、右腕派遣プログラム*を知りました。しかし「特別なスキルがない自分が行っても、きっと何のチカラにもなれない・・・」と右腕エントリーは断念。その代わり、東北で奮闘している人たちを支えることに関わりたいという思いが強まり、退社を決意しました。こうして、これまで縁のなかったNPO法人に入り、震災復興に関わることになりました。
*右腕派遣プログラムは、被災地の復興に向けた事業・プロジェクトに取り組むリーダーのもとに、その「右腕」となる有能かつ意欲ある若手人材を、3年間で200名派遣することを目標とした復興支援事業です。右腕募集中の事業は「みちのく仕事」に掲載されています。
NPOへの転職、不安はあった?どう乗り越えた??
NPOへの転職には3つの壁がある
荘司:以前DRIVEに掲載された記事で、山元圭太さん(当時NPO法人かものはしプロジェクト/現NPOマネジメントラボ)の「NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁」という記事があります。
その記事ではNPOへの転職にあたり、3つの壁があると述べられています。
収入不安の壁
荘司:まずは収入不安の壁。給与水準が低いことに対する不安ですが、この不安はなかったのですか?
諸:収入に関する不安は全くありませんでした。最初お金をもらえない「ボランティア」だと思っていたくらいでしたから(笑)でも、お金をもらえなくてもやりたかった。やりたいことに関われることに、お金以上の価値を感じたんです。実家暮らしで独身で、自分以外について考えることがなかったということも大きかったかもしれません。
キャリア不安の壁
荘司:なるほど。次にキャリア不安の壁。こちらは転職したものの、「NPOを続けられなかった時に、またビジネスセクターに戻ることができなかったらどうしよう」という不安ですね。こちらはいかがでしたか?
諸:次のキャリア不安もあまり感じませんでした。転職前、先のことは全く考えていませんでした。 今もETIC.の後にどうしようなんて、全く考えていないし、目の前のことに精一杯取り組んでいます。 なるようにしかならない、という感覚ですかね。それはNPOだろうが企業だろうが、自信を持ってやってきたという事があれば、どうにでもなると考えています。
貢献不安の壁
荘司:最後は貢献不安の壁です。これは「自分なんかで役に立てることがあるのかな…」という転職前の壁と、「大丈夫でしょ!と思って入ったけど、全然思うように成果が出せなくてまずい…」という転職後にぶつかる壁の2つがある、と言われていますが、いかがですか?
諸:この貢献不安に関しては、とても感じています。やりたいという一心で飛び込んで来ましたが、当時は知識や経験も全くありませんでしたし、周りのスタッフとの差は感じました。しかし言い換えれば、努力するべきことが認識出来たとも言えます。確かに足りないスキルや経験はあるけど、そこはこれから頑張って埋めるしかない、と考えています。
右腕派遣のその先へ
右腕派遣プログラムのコーディネートと研修プログラムを担当
荘司:では今度は話をETIC.に来るまでの話から、現在のことへ移したいと思います。現在は震災復興リーダー支援プロジェクトの「右腕派遣プログラム」に携わっていると伺いましたが、具体的にどんなことをされているのですか?
諸:コーディネーターと研修プログラム開発を担当しています。コーディネーターでは、現地で右腕がほしいと考えている企業や団体様に伺い、「どのような事業を行っているか」「今後どうしていきたいか」など、ニーズを聞きながら、一緒に事業の加速に必要な人物像や未来を考えています。 また研修プログラムでは派遣前、派遣三ヶ月後、派遣半年後など、それぞれのタイミングでどんな研修を開催すれば右腕の方のパフォーマンスを上げることができるかを検討しています。
荘司:では単にマッチングするだけでなく、その後のフォローにも気をつけている、ということですかね。
諸:はい、マッチングさせることがゴールではないんです。右腕が活躍してパフォーマンスを上げて、事業に貢献する。その団体だけでなく、地域全体で見た時に、この事業が拡大していくことで地域にどんなインパクトがあるのか。広い視野で考えるように意識しています。
出張に行くたびに出会う人からパワーをもらう
荘司:なるほど、素晴らしいですね!活動のやりがいはどんなところですか?
諸:「もっと東北の現場に近い立場で伴走したい」という思いを持って飛び込んできましたが、今はまさにやりたい!と思っていたことをやらせて頂いているという感覚があります。
この事業はどうなったら拡大していくのか?この事業が拡大したら、地域にどんなインパクトがあるのか?そんなことを受入れ先の方や地域の方や右腕の方とお話をしていると、たまらなくワクワクするんです。 東北では「これからが勝負だ!」「今までなかったものに挑戦する!」という 熱い思いを持った人がたくさんいて、出張に行くたびに出会う人みんなからパワーをもらえるし、「応援したい」と思える人が増えていく。そんな人との縁やつながりが広がっていくこともとても嬉しく、やりがいに感じますね。
NPOに入ることがゴールになっていないか?
外にいる自分が右腕にどんな武器を持たせてあげられるか
荘司:今後こんなことをやっていきたい、ということはありますか?
諸:研修に携わっていることもあり、右腕の方がパフォーマンスを最大限発揮できるような仕組みを作っていきたいです。「何に困っているのか?」「何を求めているのか?」右腕の思いを理解した上で、外にいる私がその人達にどんな武器を持たせてあげられるかを考えています。
自分が現地に飛び込んで行けなかったこともあって、右腕として活動している人をとても尊敬しているし、心から応援したいと思っています。だからこそ、現地を知りながら東京にいる身として、現場や右腕の想いを知り、期待以上の支援をしてあげられるようになりたいのです。 その一つとして、右腕の方向け研修プログラムを確立していきたいです。いずれ「右腕経験者=地域・スタートアップの現場で活躍する人材」、というブランドを確立出来ればと思っています。
NPOへ就職・転職したい人へのメッセージ
荘司:最後になりますが、NPOに就職・転職したい、興味がある方へのメッセージを頂けますか。
諸:NPOに入ることがゴールなのか?ということですね。やりたいことができる環境がNPOだったから、私は今この場所にいます。自分のやりたいことが企業でできるなら、企業にいる選択肢も良いと思います。NPOに入ることが目的になってはいけないと思います。自分が本当にやりたいことと、それが実現できる場所を探すという意識でいると、NPOへの転職への不安は和らぐのではないかと思います。
荘司:NPOに入ることがゴールになってはならない、というのは、とても大事なメッセージだと思います。諸さんにとって、やりたいことを出来る環境がNPOだったのですね。今日は貴重なお話ありがとうございました。
東北の未来創りを支える事務局スタッフを募集しています。 NPO法人ETIC.
【編集より】震災復興リーダー支援プロジェクトでは、学生インターンも合わせて募集しています。右腕派遣プログラムのリクルーティング・マーケティング・企画、支援企業との連携や事務局業務など、幅広く活躍する機会があります。関心がある方はこちらの詳細(Project Index)をご覧ください。
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