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一人ひとりの「物語(ナラティブ)」はキャリアと人生を豊かにするのだろうか? 越境的・創造的キャリアづくりを支えるAFTの挑戦

2022.09.13 

AFTバナー

 

すべての人、一人ひとりには、生まれてからの物語(ナラティブ)があります。世界でたった一つの、何物にも代えられない大切な自分の人生です。未来の物語をどうしたいかは、主人公である自分次第です。

 

最近、スタートアップ企業や起業家に対して、大企業などが力を入れている「アクセラレーター(支援者)」の取り組み。アクセラレーターは、企業にある資源を活用しながら起業家たちをサポートし、見込みのある事業の成長を加速させることを役割としますが、今年春、アクセラレーターの新しい役割を生み出すチャレンジが始まりました。

 

「まだ何者でもない」一人ひとりの想いや物語を尊重しながら、越境的・創造的キャリアづくりを支える「トランジション・アクセラレーター(Action for Transition 以下、AFT)」です。

 

「トランジション」とは「変化」という意味。プログラムの参加者たちが自分のこれからの道を自分でつくるために、時に、自分の枠を越え、新しい仕事を創る、そんな転換期をアクセラレーターが支えます。プログラムを立ち上げたのは、NPO法人ETIC.(以下、エティック)の佐々木健介(ささき・けんすけ)と川端元維(かわばた・もとい)です。二人にとっても新しい挑戦となるAFTについて、始めた理由や想いを聞きました。

 

聞き手 : 腰塚志乃(NPO法人ETIC.「DRIVEキャリア」コーディネーター)

 

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佐々木健介(NPO法人ETIC. シニアコーディネーター/創業支援コーチ)

大学在学中よりETIC.へ参画。2002年より社会起業家の創業支援に取り組み、これまでに2,000人程の起業家予備軍の個人の相談・支援、200社程のソーシャルベンチャー支援・インパクト創出に関わる。専門は、創業を志望する個人へのエグゼクティブコーチング、関連する先輩経営者等の人的ネットワークの接続等。渋谷区在住。11歳・5歳の姉妹の父。

 

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川端元維(NPO法人ETIC. インパクト・カタリスト&innovate with代表)

「人・組織・社会の持続可能な未来づくり」をテーマに異なる国・文化・組織やセクターをつなぎ、新しい価値や変化を生む協働型の事業やプロジェクトを各地で展開。ソーシャル・イノベーションの触媒として、海外の投資家と日本の社会起業家をつなぐ仕事に尽力し、起業家型人材育成プログラムの開発・運営を通して4,000人以上の個人に学びと挑戦の機会を届ける。大阪に暮らし世界と働く二児の父。サッカーしてお酒呑んでるオタク。2022年より、英国The London School of Economics and Political Science修士課程(Executive MSc Social Business and Entrepreneurship) 在籍。

自分の物語の続きを書けるのは、自分しかいない

 

――最初に、お二人には、越境的・創造的キャリアと呼べる経験はありますか?

 

川端 : はい。初めての越境的・創造的キャリアは、大学卒業後、カナダで社会起業家の武者修行をした経験です。当時(2009年)、内定をもらっていた会社が行った新卒者向けの海外研修で、「海外で1年間、自分の興味関心を突き詰めて挑戦し、その体験を通して異文化を知り、人間力と語学力を磨く」趣旨のものでした。

 

その頃、日本では社会起業家ブームとも呼べるような波がきていました。大学時代に国際協力NGOで活動していた私は、海外の社会起業の現場を体験したくてカナダのトロントに渡りました。

 

でも、当時はリーマンショックの直後もあって、カナダのプロフェッショナルがNPOのインターンなどに応募することもあるなかで、日本の大学を出たばかりの自分が競争に勝つのは難しい状況でした。

 

同世代が活躍する様子と比べてくじけそうにもなりましたが、同時に「カナダで挑戦を続けたい」という気持ちに気づけて、団体や企業への応募をやめませんでした。最終的には2社でインターンとして働かせてもらえて、とても貴重な経験を積めました。

 

この経験を通して強く感じたのが、「自分の物語(ナラティブ)の続きを書けるのは、自分しかいない」ということです。他人と違う人生やキャリアを歩むのは答えのない判断の連続で辛いこともあると思います。でも、自分にしかない価値観や世界観、強みを大切にチャレンジし続けた先に、自己一致感のある幸せな人生とキャリアがあると信じています。

 

佐々木 : 私の越境的・創造的キャリアは、大学時代から参画しているエティックで、社会を変えるチャレンジをしている起業家たちとの出会いがベースになっています。彼らは想いを持ってビジョンを描き、さまざまな不合理や社会的前提を「障害」ではなく「機会」として捉え、何もないなかでも想いを語り、いろいろな人を巻き込み、現実化していきました

 

しかも、人のせいにすることはなく、苦労はあるだろうものの、さも楽しげに世の中を変えている姿に、「こういう人がいるから、世の中が変わっていくんだ」と、弱いと思われがちな個人の強さを強く感じました。「こんな人が世の中に多く増えていったら、社会はよきものになる」と直感的に思ったんです。

みんながやりたいことを面白がって続けたら、それだけで未来は明るい

 

――お二人のこうした経験が、AFTを立ち上げた理由につながっているのですね。

 

川端 : そうです。カナダで社会起業の現場を体感した経験は、自分が「AFTを立ち上げたい」と思ったきっかけでもあります。

 

また、私は、これまで多様なプログラムを通して、若い感性をもった人たちのチャレンジを応援する仕事に携わってきました。たくさんの人と話す中で、「本当は、起業したいわけではないんです」という人が一定数いることが気になっていました。「だけど、つくりたい世界があります」という想いも持っている人です。

 

以前は、各プログラムで想いを実現するための自分のあり方や心の持ち方と向き合うサポートをしていました。でも、これからは、つくりたい世界のある人が仕事を通して実現できるように、その伴走へと舵を切っていくことで、自分たちの仕事の本質に近づけられるんじゃないかと思ったんです。

 

佐々木 : 先日、300人が参加するイベントを開催したのですが、300人いれば300人のバックグラウンドや想いがあることを感じました。その時、「300人みんなの想いが叶うはず」と確信できたんです。

 

なぜなら、この数年で、クラウドファンディングやSNSなど活用できる社会のツールが増えて、想いを実現することは必ずしも難しいことではなくなったからです。では、私たちにできることは何か。そう考えた時に、「一人ひとりの花開く瞬間までのプロセスを一緒に走りたい」と思ったんです。

 

想いをもっていても、いざ行動を始めようとすると、どうしてもメンタルブロックなどで先へ進めなくなることがあります。これまで多くの起業家と出会いましたが、起業は手段の一つで、最も重要なのは、「何を実現したいのか」チャレンジする一人ひとりの想いです。でも、想いを整理できないままに、いくつかの壁や自分の思い込みがブレーキとなり、道半ばで諦めてしまった人は少なくありません。

 

そんな出会いを経験した私たちだからこそ、プログラムを通して一人ひとりの想いや行動を支えられればと思いました。300人全員が、やりたいことを面白がって続けたら、それだけで未来は明るいと。

 

個人の想いに対して、少しの勇気と、握りしめている捉われからの開放が、行動を加速させ、周囲に影響を及ぼしていく、そんな流れを強化したいと思ったのが、AFTを立ち上げた理由です。

「自分でやればいいじゃん」と動けるように

 

――想いをもった人がやりたいことを実現するために、AFTではどんなことを大切にしていますか?

 

佐々木 : 最近、仕事で収入を上げることと、毎日の暮らしを楽しめることはつながっていると感じています。

 

本人が仕事を楽しみながら力を磨いていくと、今よりもっといろいろな仕事ができるようになって、もし経営者になれば、収入もやりたい事業の報酬として上げていくことができます。目を輝かせながら動く挑戦が収入を増やすことにもつながる、そんな体験がたくさん生まれると、こんなに楽しい世の中ってないんだろうなと思うんです。

 

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イベントに登壇する佐々木

 

――では、AFTでは具体的にどんなサポートをしているのですか?

 

川端 : 人の技術力やつながりは、時間がたつと固定化されていくと思っています。ただ、すぐにはお金に直結しなくても、自分が情熱を持てるものがあれば、やり続けることで生まれる出会いや経験が自分を思ってもみなかった新しい世界へ連れて行ってくれることもあります。「やりたい」から始まる実りある挑戦や学びの機会にいつでも触れられるように、AFTはその人に合った人のつながりや場の提供でサポートしたいと思っています。

 

例えば、千人規模の企業でずっと働いていた人が、社員数10人くらいの組織で働くことはとても価値がある経験だと思っています。逆の場合も同じで、AFTは、そういう視野がぐっと広がる経験ができるプラットホームでありたいです。

 

佐々木 : やりたいことがあったら、「自分でやればいいじゃん」という人の動きが広がるといいなと思っています。

 

起業家精神の一般化というか、もしやりたいことが世の中でまだ形になっていなかったとしても、「自分が形にしよう」と想いがある人がチャレンジできるようになれたらと思うんです。AFTは、行動を起こすハードルになっている、モヤモヤした気持ちを解消して、「やろう」と動けるようになる場になるといいなと思っています。

3歩先を見据えた種まきを

 

川端 : 私は、自分の枠を越えて新しい仕事を創っていく人をサポートしたいという想いがあります。それは、社会人1、2年目くらいから20代までの若い人たちは、世の中に新しいカテゴリーの仕事を創っていく必要があると思っているからです。

 

例えば、エティックは2002年に社会起業家の支援を始めました。その後、ソーシャルアントレプレナーという、ビジネスの手法や効率性を活用しながら社会課題を解決する人たちが増えて、社会課題の解決を仕事にする生き方が珍しくないものになっていきました。

 

新しく作られたカテゴリーは、いずれも最初に新しいチャレンジをしようと行動した人がいて、また応援する人がいたから、新しい仕事が世の中に必要とされているかが可視化されながら形になったと思うんです。3歩先をゆきすぎて理解されにくいことでも、3歩先を見据えた種まきができていると思っています。

 

AFTでは、今はまだ形になり切っていない仕事を若い人たちが創っていくキャリア支援室のような機能も育てていけたらと思っています。お金以外の社会資本、例えば、人とのつながりや経験、知識、アイデンティティなどを自分で再編集しながら、新しいキャリアを作っていけるプラットホームになればいいなと。

 

佐々木 : 「居場所づくりを仕事にしたい」という想いを行動に起こした人がいます。元介護系企業の方ですが、ビジネスプランのプレゼンテーションに力を入れて、なぜ居場所づくりがしたいのか、その背景として、自身がシェアハウスの人たちに助けられた経験をもとにプレゼンを重ねたことで、創業支援を行う企業に就職をしたんです。

 

現在の仕事やこれまでやってきたことと直接つながらない分野でも、思いを伝えていけば、新たな仕事をつくっていくことができることを証明してくださっていて、こちらも勇気をもらいましたし、そんな人たちが増えていくきっかけになればと思っています。

 

川端 : AFTって、僕たちも含めて、共同社会実験なんです。「一人ひとりの物語(ナラティブ)はキャリアと人生を豊かにするのだろうか?」という問いに向かって、社会実験的に多様な体験を生み出せたらと思っています。

 

自分が「やりたい」と心から思えることにこそ、その人たらしめる題材があると信じています。AFTは、もしかしたらバラバラに見える題材を一つひとつ寄せて行って、その人が一番その人らしく可能性を発揮できる物語を紡いでいけるような場所になっていたらいいなと思っています。

「今までもよりも面白い」道を開拓できるように

 

――では、AFTのプログラムを作る中で、最も苦労した、または大変だったことはありますか?

 

川端 : まさに、現在進行形の苦労、産みの苦しみを味わっているところです(笑)。

 

まず、AFTは、「越境的・創造的キャリアのアクセラレーター」という、世の中的にも比較的新しいコンセプトへの挑戦です。世の中の人たちに、何をしたいのか、どんな変化を生み出すのかを伝えて理解してもらうのが難しいと感じています。

 

趣旨を理解したうえで協力を申し出てくださる企業や寄付者の皆さんの応援を帆に受けて、これから「まだ何者でもない」方々の越境的・創造的キャリアづくりをサポートして事例を増やし、社会に発信していくことで乗り越えていけたらと思っています。

 

佐々木 : 参加者の方々と一緒に場をつくっていくことが大事だと思っています。あくまで、参加者みなさんが新たな道を切り開いていくことの側面支援なので、新たな未来に対して、お互い知恵を出し合い、行動を重ねていきたいです。私たちに何ができるか、できるだけの選択肢で挑みたいと思っています。

 

例えば、これからAFTで始めようとしているのが、テーマを区切って参加者を応援することで、第一弾は、海外経験をもとに越境的・創造的キャリアを創ろうというプロジェクトに決まりました。海外留学経験者向けキャリア支援プログラム「トランジション・ラボ(セカイ越境編)」です。

 

これは、「トビタテ!留学JAPAN」と連携し協力を得て行っていくのですが、例えば海外での暮らしや仕事を通して、それまで大事だと思っていた価値観が塗り替えられた経験をした人たちを対象としたものです。価値観が変わった経験をきっかけに、自分が納得できる想いや方法で行動できるように一人ひとりをサポートしたいです。

 

地方で面白い事業をつくっている中小企業に入社して、新規事業部門で新しい価値や世界観をつくるのもいいし、個人事業主として事業を立ち上げるのもいい。「今までより、もっと面白いことができる」と予感できる道を開拓できればいいなと思っています。

チャレンジャーとして人の想いや行動に向き合いたい

 

――最後に、お二人自身がAFTによってどんなチャレンジをしているか教えてください。

 

川端 :  AFTの参加者のみなさんをサポートして、越境的・創造的キャリアの事例をつくること。これに尽きます。

 

また、個人的には、プログラムを企画運営している自分自身が「越境と創造のキャリア」を体現していくことが重要だと思っています。今年9月からイギリスの大学院の社会人修士に通うのですが、自分自身が現在進行形でトランジションしている事実もうまく活かしながら、「変わり続けることの楽しさやワクワク」を参加者のみなさん、社会に発信していきたいですね。

 

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大学のキャンパスにあるパブで過ごす川端。8月の取材後イギリスに渡った川端は、授業後に同級生たちとビール飲みながら授業の感想や人生について語る日々を送っているそう。「各国の社会起業家やビジネス、NPOや国際機関のリーダーたちが集まる中、人生経験をもとに今後の人生やキャリアをどうしたいか話が盛り上がります。まさにトランジション実践ですね…!」

 

佐々木 : 今回のアクションは、自分にとっても大きなチャレンジだと思っています。

 

これからの時代、ひとりの人間が社会的な顔をいくつも持つ時代だと確信しています。そのなかで、自分も、自分としての変化への想いを持って、体現すべく動きたいと思っています。具体的には、地域での取り組みや教育との関わり、家族との向き合い方、あらためて仕事を問い直す機会にもしたいですね。

 

参加者のみなさんからも勇気をいただきつつ、自分のチャレンジ自体もみなさんに少しでも影響力がもてれば。チャレンジャーとしてこれからに向き合っていきたいです。

 

***

 

【奨励金つき】海外留学経験を活かしたキャリアのアクセラレーター

「[Action for Transition] トランジション・ラボ(セカイ越境編)」の参加者を募集

世界に飛び出し、新しいチャレンジを経験した若者たちの越境的・創造的ファーストキャリアや再始動をアクセラレーターが支えます。詳細はこちらをご覧ください。

https://note.com/ta_etic/n/n235a01fade87

※本件の募集は、定員の30名に達した時点、もしくは9/19(月祝) 23:59にて締め切ります。

 

この記事を書いたユーザー
たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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