シリーズ「彼女の仕事のつくりかた」第1回目は、天然素材と手仕事の店「かぐれ」ブランドディレクターをされていた渡辺敦子さんです(前編はこちら)。
現在は岩手県遠野で母として新しいプロジェクト「Next Commons Lab」に取り組まれている渡辺さんは、東京ではどのような働き方をしていたのでしょうか?
自分が知ったいいものを、人に伝えなきゃいけない
桐田: インターンを経て、将来はものづくりするだろうなと思われていたんですか?
渡辺: そのときはお店を持ちたくて。場所を作って、自分が見つけたいろんな素敵なことを発表する場を作りたいと思っていたんです。
桐田: えっ! それは「かぐれ」そのものじゃないですか(笑)。
渡辺: そうなの、ほんとうに(笑)。自分が知ったいいものを人に伝えていかなきゃっていう気持ちで、いまもやっているんです。 桐田: 最初は「starnet」さんに入られたのですよね。「starnet」さんも、それこそ「自分が見つけたいろんな素敵なことを発表する場」ですね。
渡辺: 「starnet」のコンセプトは、「starnet」のオーナーにとって「自分が欲しいものを作る」ことなんです。「こういうお椀で食べたいから」陶芸家に作ってもらって、「こういう服が着たいから」服を作ってもらっていて。空間や建物から着るもの、食べるもの、すべてがフルオーダーなんです。でも、それは決して豪華なものではなくて、お茶碗だって2000円くらい。
そのオーナーの姿に、私は「ここまで自分で好きにやっていいんだ」って太鼓判を押された気分でした。もともとわがままだったけれど、ここまでやり切っていいんだって思えたんです。こんな言い方、なんだかすごくおこがましい気もするのだけど。
桐田: まったくそんなことないです。それは、自分の想いが常に形になり続けている環境ですよね。
渡辺: もう、いるだけで幸せですよね。食べ物も、近くの畑でおじいちゃんが育てた有機栽培のものを食べて、カフェの生ごみはコンポストでリサイクルさせて……そうやって暮らしのすべてをデザインしている空気があって、その圧倒的なセンスに驚いて「starnet」に入ったんです。
「場の力」みたいなものを、信じている
桐田: 「starnet」から「かぐれ」には、どのような経緯で移られたんですか?
渡辺: 「URBAM RESEARCH(かぐれの運営会社)」から、「starnet」に近いかたちでオーガニックコットンや日本の手仕事の取り扱いを中心とした、新しいブランドを作りたいという話をいただいて。私も、自分がいいと思うものや知ったことを、どこかでアウトプットしていかなければいけないという思いがあったし、それにはお店がいいなと思っていて、引き受けることにしたんです。
桐田: たとえばわたしだったら、その手段としてメディアを選ぶと思うんです。自分が言葉を使った表現に関心があるので。そこでお店という手段を選んだ、渡辺さんならではの視点はどんなものだったのでしょう。
渡辺: そうですね……私は昔からアートが好きで、高校生のときは水戸芸術館によく行っていました。あそこは現代美術ギャラリーがあるんですけど、もう、地方にあるのが惜しいぐらいの素晴らしい展示をよくやっていて。現代美術ってよく分からないけれど、そういったなんだかよく分からないけれど心がざわつくものに人は動かされますよね?
そういう“場の力”みたいなものをすごく信じているところがあります。手段は別に、それこそ書籍でもいいんですけど、私は感覚的に、空気とか形とか触感とか、「うわーなんか嫌な感じ」とか「これすごい気持ちいい」とか、そういう感覚で人が動くということを信じているんです。
桐田: それを自覚して行動されているって、実はものすごくすごいことなんじゃないかと思います。
渡辺: 今だからこんなに明確に言えるのかもしれないけれど(笑)。ただ、もともと人を家に呼ぶことがすごく好きで、どれだけその場所を気持ちよくするかとか、おいしいものをどうやって出すかとかを考えて、招いた人にそれこそ“プレゼン”する感じで楽しんでいるんですね。
資料を整えてプレゼンするよりも、きれいな場所でおいしいお茶を飲んでとか、そういった“プレゼン”をした方が伝わるんじゃないかなって思っています。
桐田: わ〜、渡辺さんのそんな“プレゼン”受けてみたい!(笑) でも、そういった自分なりの感覚を活かしていくのが一番いいんだって、私も大人になればなるほど感じています。
渡辺: そうそう。それがすごく大事だと思っていて。自分がどうなったら嬉しいかとか、自分が何で幸せになるのかみたいなことを、自分が分かっているといいですよね。
「自分の好きなものはこれなんだ」って分かってくると、嫌なことがあんまりなくなっていきます。どうせ好きな場所を選ぶし、好きなものばっかり周りに集めて、満ち足りていることができるんですよね。
もっとわがままになったらいい。自分をちゃんと満たすと、世界は変わる
桐田: 悲しい話、「明日仕事に行くのが嫌だ」っていう声を友人から聞くこともあります。私自身、それこそ「かぐれ」と出会う前にそう思っていた時期もありましたし……。嫌なことに慣れてしまって、自分の好きなこと、自分を快の感情にするものが分からなくなって、選べていない状態の人が多いのかもしれませんよね。私も今でも模索していますし。
渡辺: 本当にそう思う。だからね、嫌な人といなきゃいいと思うんです。でも、たとえばわたしも会社員だったりしたら、自分で選べないことも多かったかもしれません。ルールがいっぱいあったら、そこに当てはめるしかないと思いますし。
でもそうすると、やっぱりストレスが絶対たまりますよね。だから、本当に自分がどうやったら幸せなのか、喜ぶのかってということを、もっとみんなで考えられたらいいんじゃないかなと思っているんです。
桐田: 渡辺さんは、つねに考えていましたか?
渡辺: わがままだったからね、わたし(笑)。でも、皆もっとわがままになったらいいと思うんです。だって、目の前に好き放題やっている人がいたら、自分も好き放題やりますよね?
桐田: それは、やりますね! 皆そうだったら躊躇なくやれますもん(笑)。
渡辺: そうでしょう? だから、それでいいと思うんだよっていうのがわたしの持論で。それぞれが足りていればいいじゃないですか。自分のことは自分で幸せにしてくださいってすごく思います。わたしはぜんぜん優しくないですね(笑)。
桐田: いやでも、それはその通りですよ(笑)。「もっとわがままでいい」というのは、ひとつの大事なキーワードですね。
渡辺: 自分がこういう人間でこれをやったら楽しいって分かると、相手のこともこの人はこういう人なんだなって思えるので、人に何かを求めなくなると思うんです。だから、もの選びにしても、誰かがいいって言っているからとか、自分以外の基準で選ぶのは本当にもったいないなって思っています。
ひとつのことを知ると、ものの解像度が上がる。選び方も変わる
桐田: 最近DIYとか話題にのぼっていますけど、自分で好きなものをつくっていいんだ、選べるんだって意識になったら、変わりますよね。
渡辺: たとえば、塗物のことをひとつ分かったら、焼物のことも同じくらい分かるようになります。ひとつのことを知ると、解像度が上がる。そういう感じで自分の身の回りのものをもっと知ると、選び方も変わって、コミットする深さが変わると思います。
ここにあるから買う、という選択をしていくと、自分の基準が分からなくなるんですよ。自分がそれを喜んで買っているのか、本当に気持ちよく思って買っているのか。
桐田: 私、「かぐれ」でものを買っていると、自分が鍛えられていく感覚があります。
渡辺: 鍛えられてるって、面白いね。
桐田: いや、でもほんとうに、大それた表現ですが自分の生き方まで問われている気がしちゃうんですよね。ひとつ「かぐれ」のものが入るたびに、クローゼットの中でそれはもう異彩を放つんです(笑)。それに引きずられていって。
渡辺: もう、それが狙いなんですよ〜!(笑)。
桐田: まんまと狙いのドツボにはまってたんですね……(笑)。ついこの間は、レインブーツの金具にかぐれで購入した「omoto」のワンピースの裾のほうをひっかけてしまって、裏を見たらめちゃめちゃそのまんまの手縫いで驚きました。
もちろんそれが、何だか自分のために作ってもらったものみたいで嬉しくて、改めてそのワンピースが大好きになったんです。つくるということではないですが、消費者としてでも買うものの選び方で自分を鍛えることもできますよね。そうして、気がついたら生活への目線が変わって、生活全体が底上げされて、仕事でさえ変わっちゃうような。
渡辺: そうそう! 本当にそれで転職された方もいらっしゃいますから。農薬を作る会社の研究職をされていた方で、「かぐれ」に来るようになってから自然栽培の野菜を食べるようになったんですね。そうやって農薬というものを自分の暮らしから排除したんですけど、自分の仕事は農薬を作ることに寄与しているなと、その矛盾が我慢できなくなって仕事を辞めた方もいらっしゃるんです。 後編へつづきます
>>野性的に、わがままに。「いま、これが好き」が真実。「かぐれ」ブランドプランナー・渡辺敦子さん(後編)
前編はこちら。
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