いま、"地域"への関心が高まっています。 2011年の東日本大震災がその大きな契機となったことは言うまでもなく、安倍政権が「地域創生本部」を設置するなど、“地域”に対する取り組みはいまや最大の関心事の一つになりつつあります。
今回は、そんな”地域”で先進的な取り組みを続けているNPO法人ETIC.チャレンジコミュニティ事業部マネージャー伊藤淳司さんにお話を伺いました。 チャレンジコミュニティ事業部、通称チャレコミは2004年に発足し、これからの社会を担う学生や若手社会人に”地域”というフィールドでの挑戦の場を提供し続けてきました。
「挑戦の機会を提供したい」・・・大学時代から一貫して熱い想いを胸に秘めている伊藤さん。地域の企業と人材を後ろから支える彼が持つ、事業に対する想いから、これから作り上げていこうと考える社会像まで、普段語られることの少ない貴重なお話を伺うことができました。
写真:インタビューに答える伊藤さん
梅村:本日はよろしくお願いします。娘さん、熱下がりましたか?(伊藤さんは2人のお子さんをお持ちで娘さんの発熱のためインタビュー日程がずれるというハプニングが)
伊藤:ありがとうございます(笑)もう大丈夫かなあ。今日は保育園に行ってもらいました。
梅村:そうですか、それは良かったです(笑)では、本日はよろしくお願いします。まずはじめに、ETIC.に入社された経緯からお伺いしてもよろしいでしょうか?設立から間もないタイミング、本当にまだ規模が小さいころに入社されたということですが。
「インターンシップは人生の大きな転機になりうる」と感じた
伊藤:そうですね。えーと、もう15年くらい前になるから思い出せるかな(笑)もともとは早稲田でアイセック*という団体をやっていて、海外からの研修生が日本の企業でインターンシップをする企業開拓、ということをやっていました。
*:NPO法人アイセック・ジャパン(AIESEC in Japan)は、海外インターンシップを運営する国際的な学生団体。
当時、日本でやっとインターンシップというものが政策のなかに入ってきて、でも日本ではまだまだ短期のインターンしかなかった。その一方で、海外の研修生と接しているうちに「大学生にとってインターンは人生の転機になりうるな」と感じていました。 そういうわけで「もっとインターンを広めていく」そういったことを仕事にできればな、と思っていました。
そんな時にアイセックの一個上だった山内**にETIC.のあるプロジェクトに誘われて、それを手伝ったのがはじめのきっかけでした。
**:NPO法人ETIC.現ディレクター山内幸治
そのあとも色々あって正式に「ETIC.でやりたいです」と伝えたのが、忘れもしない98年4月30日。自分の誕生日でした。ETIC.にも4,5人目っていう規模だったかな。
梅村:運命的ですね(笑)入社されて最初はどのようなお仕事をされたんですか?
伊藤:最初は東京でのインターンシップのコーディネートの仕事です。企業への営業だったり、インターンシッププログラムを1から作っていく仕事だったり。 企業にとっては、事業の成長組織の変革に繋がるように、学生にとっては起業家マインドを持って生きていくきっかけとなるように、一つ一つ改善しながら、そういったプログラム作りに励んでいました。それが最初の3年くらいかな。
梅村:なるほど、初めは東京でのお仕事ですよね。現在は地域チャレンジコミュニティ事業部のマネージャーということで、「地域」に関わる仕事をしていますがそれはどういった経緯だったんでしょうか。まずは簡単に事業について説明していただけますか?
あくまでも僕らはプラットフォーム
写真:チャレコミの打ち合わせの様子
伊藤:ずっと東京でインターンシップのコーディネートをETIC.としてやっていて、2003年にETIC.のそういった取り組みを全国に広めていかないか、というお話を経産省からいただきました。 簡単に言うと、地域でETIC.と同じような、インターンシップをコーディネート、つまりインターンのプログラムを設計・運営していく組織を作っていかないかということですね。それを通じて地域の中小企業振興、企業の担い手育成、地域の新しい実践的教育体系の構築を目的にしています。
そうした取り組みから始まったのがチャレコミ(地域チャレンジコミュニティ事業)です。僕が関わり始めたのが2007年ごろのことで、現在では全国各地に36の団体が生まれています。地域の学生だけでなく、東京の学生や若手社会人が地域に飛び込んでいく事例も多く出てきています。
梅村:東京でインターンのコーディネートを長い間やっていたということもあって結構活かすことのできる部分もあったんじゃないですか?
伊藤:いやー、それがなかなか難しくて。はじめはうまくいかなかったんですよ。
梅村:難しいとは?
伊藤:シンプルですけど、地域でインターンのコーディネートをするのは僕ら自身ではなく、地域の人たちであって、僕らはそのサポーターでしかないんです。 そうすると、僕らは地域でそういったインターンをコーディネートする人々を「地域コーディネーター」と呼んでるんですけど、やっぱり彼ら自身が、自分の地域に合った独自のやり方を見つけてしっかり事業として確立して、自立していかなくてはならない。
あくまでも僕らはプラットフォームであって、地域の現場にいるのは地域の企業とそこに入り込んでいく人たちであって、それを支えるのが地域コーディネーター。さらにその後ろで支えているのが僕ら事務局なんです。
梅村:そうするとETIC.は現場からかなり遠い位置にいますよね。そこで求められるETIC.の役割をもう少し詳しく教えていただいてもいいですか?
挑戦の機会をコーディネートしてくれる人がいることは本当に価値があること
伊藤:ETIC.に求められている一つは、学生や若手社会人、社長の右腕となれるような人材、そういったタイプの人材を一人でも多くの地域に届けることです。 かわいそうだから助けにいく、ではなく、キャリアアップとして経験したい、挑戦したい、という学生・若手社会人をどんどんと発掘して紹介することが求められている。
地域の方でも、人口流出に困っている、少子高齢化で困っている、と言っても、ハローワークにくるような人、引退して地域でのんびりと過ごしたい人だけを求めているわけではない。 地域で新しく挑戦したい、仕事を創りだしたい、そして、地域で楽しく、地域にとってプラスになるような働き方のできる人を欲しているんです。 だからわたしたちはそういった人材をどんどんと発掘していかなくてはならない、そう思っています。
梅村:さらに突っ込んで聞きますけど、その中で伊藤さんご自身が求められている役割ってなんだと思いますか?
伊藤:まず一つは、東京にいるというアドバンテージを活かして大きな仕事を、全国の仲間と協働できるような仕事を創ることだと思っています。最近で言えば、ゴールドマンサックスさんとの「中小企業経営革新プログラム」( http://www.etic.or.jp/cc/mip/ )*3ですね。
*3 「中小企業経営革新プログラム」とはETIC.とゴールドマンサックスが2014年に共同で行っているプログラムであり、学生や若手社会人が地域の中小企業の現場に飛び込み、ともに経営革新に挑んでいくというもの。事前のプロジェクトブラッシュアップの段階でゴールドマンサックスの社員がボランティアで協力。
もう一つは「地域コーディネーター」の育成。地域コーディネーターという存在はまだまだ全国的に不足しています。一番の大きな理由は「食えるようになる」までに時間がかかるということ。そしてさらには「食えるようになる」とは思われていない、つまり仕事として認識されていないということです。
でも、地域コーディネーターって本当に大切な存在で。別に国内に限った話でもないし、学生だとか、社会人だとか、東京に住んでいるだとか、そんなことは全く関係ないんですけど、だれかが「挑戦をしたい」と思ったときに適切な挑戦の機会をコーディネートしてくれる人がいるということは、本人にとっても、地域にとっても、自治体にとっても、価値があり、とても意味のあることなんです。
地域には、リクナビには載っていないようなチャレンジングで面白い仕事があるのに、それが可視化されていなくて、磨かれていなくて、発信されていない。そこにアプローチしていくのが地域コーディネーターであり、いまだ地域との間には乖離があるけれども、彼らはそれを結びつけることができる。 地域コーディネーターが育っていく仕組みづくり、自分がいなくとも増えていく仕組みづくり、そういったことが自分に求められている役割だと思っています。
梅村:はじめにおっしゃっていたような、「人生の転機となるような機会提供を広めていく」ということと密接に繋がっていてとても素敵ですね。
ETIC.にいるのはそういうこと。チャレンジを繋げていくことができるから
写真:チャレコミの打ち合わせにて、ファシリテーターを務める伊藤さん
梅村:ご自身が目指していたことを仕事で体現なさっている伊藤さんですが、今後、いまの仕事を通じてどのような社会を作り出していきたいとお考えですか?
伊藤:そうですね。まず地域というところから言うと、ここ2,3年大きな風が吹き始めている、という印象を受けています。政府も「地域」とに力を入れようとしているので、これまで培ってきたノウハウ、仕組みを活かして、さらに広げていき、価値を高めていきたいです。 また、社会全体ということに関して言うと、さきほども言ったように、だれかが「挑戦」をしたいと思ったときに、ちゃんとその場が用意されているような社会にしていきたいと思っています。
レベル感は違うかもしれないけれど、「なにかやりたい」「なにか分からないけどウズウズする」そういった人たちは学生に限らず、大人のなかにもいるはずです。でも、いまの世の中では、そういった人たちが動き出すための情報、機会提供がうまくできていない。情報格差があるんです。
うまく繋げられていないし、うまく出会えていない。それはすごくもったいないことだと思っています。 そしてそれは本人のためでもあるし、社会のためでもあるんですよね。地域や社会に存在する課題は絶対に無くなることはありません。
なにか一つの問題が解決されたら、また次の新しい課題が待っている。 そういったことを解決していくためには、課題に向き合っていきたい、チャレンジしたい、この課題は自分が解決する、そういった気概を持った人たちが増えていかなくてはならない。
ETIC.にいるのはそういうことなんだよね。チャレンジを、繋げていくことができるから。それが一番やりやすい環境にいることができている。だから逆に言えば、そういったことが実現できていればいいわけだから、仕組みが完成したり、そういったことができないような環境になってしまったら、組織から離れていく可能性もあるかもね(笑)
梅村:最後に爆弾発言が飛び出しましたね(笑)本日はありがとうございました。
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