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1人じゃないから始められた組織課題解決。プロジェクト1年間を振り返った社長×副業人材対談

2020.02.19 

千葉県の最東端、銚子市にある老舗の食品卸会社「株式会社櫻井謙二商店」。副業プロジェクトのスタートから1年、どのような手応えを感じられているのか櫻井公恵社長と副業人材である野村慎一郎さんにお話を伺いました。

 

副業のテーマは「組織課題解決」。最初はそうしたことを副業でお願いできるなんて考えてもいなかったと語る櫻井社長ですが、現在はその成果をじわじわと実感されているそうです。企業として初の副業人材活用、そして初副業のお二人に、その道のりについて赤裸々に語っていただきました!

 

左:櫻井社長 右:野村慎一郎さん

 

櫻井公恵社長、野村慎一郎さん(株式会社櫻井謙二商店プロジェクト)

【櫻井 公恵 氏(株式会社櫻井謙二商店 代表取締役社長)】 大学卒業後4年間の不動産会社への勤務後、食料品卸売業を営む生家に入社。創業87年になる会社は昔から社員に何かがあった時には臨機応変に対応し雇用維持してきた中小企業。2010年より4代目として現職。47名の社員と共に常に試行錯誤しながらの働き方を模索中。目指すのは、誰もが何があっても働くことをあきらめずにいられる強くて優しい会社です。

 

【野村 慎一郎 氏(副業人材) 本業のITコンサルタントを軸に、人材育成実践家として、教育改革実践家として、三足の草鞋の実現に向け、昨年「紡結」を立ち上げ。「人は、考えたようにはならない。動いた通りになる」をモットーに、自分が出来る小さな挑戦にトライしながら、日々、成功と失敗を経験中。長崎県出身、千葉県在住。妻、2人の娘の4人家族。特技は、人の強みを発見すること。趣味は、トレーニング。

働き方のニーズの多様化を実感していた数年間。副業人材の可能性を知って、はじめての挑戦

 

――まず、櫻井社長はなぜ副業社員を募集しようと思われたのでしょうか?

 

【櫻井社長(以下、敬称略)】きっかけは銚子市とYOSOMONを運営するETIC.からのご提案でした。お話を伺うまでは企業課題解決のために副業人材の力を借りることができるなんて考えたことがなかったのですが、そうしたやり方があるならばやってみようかと思ったんです。とはいえ最初は半信半疑で、募集を開始してみたものの本当に応募があるのか疑問でした(笑)。

 

 

――「副業」という働き方には抵抗はありませんでしたか?

 

【櫻井】結果的に業務がうまく流れていけばどのような働き方であってもいいと考えているので、そこは大丈夫でした。むしろ様々な働き方のニーズがあって、働きたい時間や中身を上手に組み合わせるのが経営者のやらなければいけない仕事だと思っています。例えば弊社ですと職種は倉庫内作業など限定的だったりもしますが、フルタイムやパートタイム、さらに日数も応相談で多様な窓口を作り募集するようにしています。

 

――なるほど、すでに様々な働き方を受け入れていらっしゃったのですね。

 

【櫻井】そうですね。毎年高校生の新卒を募集するのですが、この5〜6年で地域の高校生の人数が減りさらに進学する子も増えたことで市場が狭くなり、中途採用も含め採用が難しくなってきていました。そんな中、個人的に活動しているNPOで事務局を週1で募集したところ応募が殺到したケースがあり、週1という働き方にこれほどニーズがあるのかと驚いたんです。人の持っている時間や希望する働き方が多様化してきていることを感じ、なるべく相手のニーズに合わせた働き方ができるよう社内の調整をしてきました。

退職まで残り約25年間、第2の人生の準備を始めるために

 

――それでは野村さんは、なぜ副業しようと思われたのでしょうか?

 

【野村さん(以下、敬称略)】元々は危機感からでした。人生100年時代に定年退職まで残り約25年という状況に向き合ったとき、今は会社の社会的信頼によって自分の話を聞いてもらえていますが、辞めたらどうなるのだろう?自分自身で勝負できるのか? 第2の人生にむけて本当に何がやりたいんだっけ? と色々考えるようになったんです。

 

具体的に動き出したのは2019年の1月からで、最初は自分をより評価してくれる場所に行けたらと転職活動を始めました。ただ、進めてみて気がついたのですが、今の会社や業務内容は決して嫌いではないんですよね。そうしたタイミングで自社の副業解禁を知り、社内で副業のパイオニアになるのも魅力的だなと、「働く場所を変える転職」ではなく、「やってみたい仕事をやる副業」にチャレンジすることに決めました。

最初は失敗してもいいから20年くらいかけて第2の人生の人脈や必要な知識、経験などを蓄えられたらいいなと思っています。

 

 

――その中でなぜ櫻井謙二商店の案件に応募を決めたのでしょうか。

 

【野村】世の中にマッチングサイトがあることを知らなかったのですが、検索してみたら「YOSOMON」ともう一つのサイトを見つけることができました。両方の案件をチェックしたのですが、櫻井謙二商店の案件を見つけてここならば自分のマネージャースキルが活かせるのではと感じました。また、社長の人を大切にする姿勢にも感銘を受け、二つが決め手となって応募を決めました。

 

――マネージャースキルがご自身の強みだと分析されていたのですね。

 

【野村】本業はITコンサルタントなのですが、出向先でマネージャーを経験し、そこで人をどう育成していくのか、どうすれば仕事を楽しんでもらえるのかに取り組み、3年連続で社員満足度を上げた経験があるんです。これが自分の中で一番の成功体験として残っていて、“人を育てる仕事”を第2の人生の軸にしたいと考えていたので、その経験が活かしていけるのではないかと考えました。また、このときに取り組んだ組織開発の手法1on1ミーティング(以下、1on1)は、櫻井謙二商店でも取り入れています。

 

野村さんとの面接で、今自分が一番に取り組みたいと思っていた課題に気がついた

 

――そうなのですね。1on1の詳細は、後ほど改めてお聞かせください。さて、櫻井社長にお伺いしたいのですが、野村さんにお願いしようと思われた決め手は何だったのでしょうか?

 

【櫻井】募集を始めた当初は自分自身が本当に一番取り組みたい企業課題が何なのかが分かっていなかったんですね。日々悩みも尽きないですし、まずは課題の洗い出しから付き合ってくれる懐の深い人でないと表面上で終わってしまうなと思っていました。そうしたとき、野村さんが面談で提案してくれた人を育てるプロジェクトを聞いてピンときたんです。またそのお人柄にこの方だったら洗い出しまで伴走してくれるだろうと感じました。

 

――なるほど、野村さんは意図的にそうした提案をされたのでしょうか?

 

【野村】そうですね、状況をお伺いして大体ここだろうなとは思っていましたが、最後の決め手はフィーリングだったと思います。

 

【櫻井】そうですね、フィーリングですね。この募集では蓋を開けてみたら5名にご応募いただけて、皆さん「自分はこういうことができるので、こうしたことをやってみたい」とそれぞれ素晴らしいご提案をしてくださいました。

ですが「私たちが今最優先で取り組まなければならないことは何なのだろうか?」という自分の中の疑問が最後まで晴れなかったんです。そんな中、最後の最後に滑り込んできた野村さんのご提案に、初めて「これだ!」と思えました。もしかしたら、それまでの面接で悩んだ経緯がなければそう思えなかったかもしれません。

 

私はこの会社を自分ひとりで経営する会社だとは思っておらず、“私たちの”会社だと思っています。ですから何をするにもまず一人で決めることはなく、役員や社員に相談します。関わる人の全てが自分ごとにならないと本気になれないからです。野村さんのご提案を聞いて、私は社員たちにとって櫻井謙二商店を自分たちの会社にすることがしたかったのだなと改めて気づくことができました。

 

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試行錯誤を重ねて。それでも「始められた」ことこそが価値

 

――では、具体的にどのようなプロジェクトを進められているのでしょうか。

 

【野村】まず社員の満足度を高め離職を防止することから始めましょうということになり、そうしたときに一番の鍵はマネージャー層の社員理解とコミュニケーションになってくるので、役員の方への1on1からスタートしました。ただこの春から働き方改革でなおさら多忙だった役員の皆さんの時間は中々とれず、いざ話すことができても形式的になってしまい、夏にはいったん方法を変えて私自身が社員一人ひとりに隔週で1on1を行い、不安や不満を吸い上げ、社長と役員にフィードバックする方式に変えました。

 

まず私と社長から1on1の目的を全社員の皆さんにお伝えの上で1コマ30分×10コマを設け、こちらからの指名ではなく個々人からの予約制にしています。始めて3ヶ月ほどですが、まずは世間話をしながらひたすら傾聴して相手を知り、2〜3回繰り返した方には私の方からその方の強みや魅力、課題等もお伝えするようにしています。

 

【櫻井】ちなみに1on1の前にまず取り組んだのは社員アンケートで、一人ひとりに「これは会社の課題を洗い出して会社を良くするためのものだから、ボロクソに書いてね!」と説明しながら渡しました。これは本当に勇気と覚悟が要ることでした。封筒にすべて集め終えたときには、これが第一歩目だと思わず記念写真を撮りました。

 

【野村】用紙に収まりきらず便箋にまで書いてくださった方もいらっしゃいました。でも本当に最悪の状況、例えば経営陣への信頼が完全に失われた状態ではこうした声もあがりませんから。まずはここから一緒に頑張りましょう! と取り組みを始めましたね。

 

――それは印象的なエピソードですね。とはいえ、働き方改革もありご多忙な時期だったようですが、実際に始めてみての負担感や始める前に持たれていたイメージとのギャップはいかがでしたか?

 

【櫻井】本当にやりたい、やる必要があることでも、様々な理由で中々スタートさせられないことがあると思います。それが弊社にとっては「人」のことで、私自身の手を動かすことが難しい部分でもありましたので、やり始めることができたこと自体に大きな価値があると感じています。実際始めてみれば最初に描いたようにはいかないものですが、大概のことはそうですから。野村さんにはまだまだ薄謝の状態ですし、私からみると本当にサポートいただいているというただそれだけです。

 

【野村】私の方も本業の会社の仕組みはそれなりに理解がありますし、40代になるとマネージメントが中心になるので時間を管理しやすいので、そうした面での負担感はないですね。これが20代のときだったら、自分で業務をコントロールすることが難しいので、副業にも影響があっただろうと感じます。

 

またスタート前と後のギャップですが、最初は役員の方々と一緒に大きく変えていけるイメージではあったので、実際に現場の忙しさを目の当たりにして想定とのギャップを感じました。でも他責にしても意味がないので、自分ができることを継続するという心持ちで挑戦しています。いつか変わる転換期がくるはずなので、その変化を1年といわずに長いスパンで考えていただける社長の度量の深さがありがたいなと思っています。

 

【櫻井】野村さんが毎日働いて3年かかったようなことです。人のことはそんなに簡単にいくはずありません。

社員一人ひとりの“いいところ探し”1on1から生まれる、企業が変わる循環

 

――それでは、プロジェクトを進める中で副業だからこそ必要だと思った工夫すべきポイントなどはありますでしょうか?

 

【櫻井】会社の中で普通にいてもらうことでしょうか。最初は1on1の日だけ会社に来ていただき、面談なので会議室で過ごしてもらっていました。それを途中から1on1が入っていなくても来ていただき、面談以外の時間は会議室ではなく社員と同じ普通の席や倉庫内にいてもらうようにしました。

 

【野村】どうしても来社できる時間が短く、この条件で人を育てるとなると圧倒的にコミュニケーション量が足りないんです。ですから来社したときにはできる限り色んな社員の方と雑談して、 1on1の予定が入っていない時間には勉強のために社内をウロウロ見て回ったりするようにしています。

 

「あの人はうちの業務を知らないじゃないか」と社員の方に言われていると知ったときには、社内を歩き回ったり、社員の方に質問したりして、皆さんが使う言葉を使い出したことで少し風向きが変わったと感じたことがあったんです。それから僕でも手伝えるような作業をされているときには手伝うようにしたりと、少しでも社内に馴染めるよう工夫しています。本業がコンサルタントなので、上から論理的に伝えることはできるのですが、それではまったく意味がないと思っていて、ボトムアップで会話をしながら関係性を作る意識でいます。

 

【櫻井】野村さんは人のいいところ探しがとても上手なんです。うちの社員は例えば少し不器用であってもいい人ばかり。野村さんはそんな社員のいいところを見つけては私に教えてくれるので、みんなを褒められているようでとても嬉しいんです。自分を否定しないでいいところを見つけてくれている。それは皆が感じていると思うんですよね。だから信頼や安心感が生まれ、社内に馴染んでくれてきているんだと思います。

 

【野村】1on1ではそこを意識的に狙っている部分があります。例えば僕が1on1で感じた社員のいいところを他の方の1on1で伝えたりすることで相手への見方がいい方向に変わっていけたら、それはとても嬉しいことだと思っていますから。

 

【櫻井】そういえば1on1中にデザインできる社員がいることが判明し、課題の一つだったホームページ制作も社員の手を借りて進められないかと考えているんですよ。

 

【野村】得意なことで社内でのコミュニケーションが生まれるのではないかと思っています。ホームページ制作が採用のためでなく、制作途中での社員間の会話を増やすための手段にしたいと考えています。

 

――素晴らしいですね。社員への1on1を始めて約3ヶ月とのことですが、他にどのような成果を感じられていますか?

 

【野村】ありがたいことに予約枠は埋まっていることが多く、僕に話すことで何かしら変わった、言ってよかったという循環が生まれているのかなとは感じます。さらにこれから時間をかけてもっとその循環が強化されていくような仕組みにしていきたくて、具体的には将来的に人事評価につなげていけたらとは思っていますが、それも段階を追って時間をかけてと考えています。

 

【櫻井】そうそう、時間をかけてね。1on1では野村さんには守秘義務がありどんなことでも話せる場という設定にしています。これまではただでさえ多忙な社員にそうした時間や場を設けることが全くできませんでした。今では社員が悩んでいるような時には「1on1の時間を活用してごらん」と伝えることができます。

外注とは違い、「一緒に生み出す」のが副業人材との仕事

 

――お二人からはとても心地よい信頼関係が築かれていることが感じられますが、そうした信頼関係構築のために努力していることや必要だと思ったことはありますでしょうか。

 

【櫻井】何もないです(笑)。スタート地点での「会社が、働くということがこうだったらいいよね」という思いを共有していたので、例えば一つの方法が上手くいかなくても「じゃあこうしてみようか」と一緒に試行錯誤できています。

 

【野村】ありがとうございます(笑)。そうですね、まず人任せにせず自分が動く、そして継続する、この2つかなと思っています。そこを感じてもらえれば、自ずと信頼関係はできてくると思っています。

 

――最後に、これから副業人材の活用を検討している企業、そして副業を検討している人たちへ向けてメッセージをお願いします。

 

【櫻井】多くの経営者の皆さんは現状に満足しているわけではなく、よりいい会社を作りたいと思っているのではないでしょうか。悩んだり困っているときは社内だけでなく社外に目を向けてみると素敵なヒントを得られるかもしれないです。やりたいことがあったときに、本や勉強会から学びを得るのもいいかもしれませんが、自分の力では足りない部分をその道に通じている人に出会って一緒に動かせていけたのなら、より早く、そしてよりいいものが生まれるのではないかと私は今感じています。

 

【野村】副業をすると、今まで接してこなかった方と出会って「まだまだ自分は甘いな」とか、「もっと自分が役に立てることがあるんだ」といった様々な刺激をもらえます。本業でも、もちろん成長はできますが、もっと早く成長するために外の人と出会うのはとても良い選択肢だと感じています。

 

企業で頑張ってきた方々は、相応のスキルは絶対に持っていると思っています。年齢が上がるにつれて社会貢献への意識も生まれてくると思っていますので、そうしたタイミングでまずは動くが最も大切だと思います。動いてみると、この歳になってもまだ成長できる自分に気づけると思いますよ。

 

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