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「今を変えられたら未来はこんなに変わる」。自分を出せなかった女性が「対話型」キャリア教育を進化させるまで―アスクネット櫛谷さん

2023.01.31 

「子どもたちには、自分のようになってほしくなかった」

 

進学や就職など大きな節目のとき、自分自身が大切にしたいことにしっかりと向き合えず、まわりに流されるかたちで、「自分で選択をしなかった」ことを後悔していたと話すNPO法人アスクネットの櫛谷彩乃(くしや・あやの)さん。複数回の転職を経てたどり着いた仕事は、キャリア教育コーディネーターでした。

 

入社から4年、仕事をするなかで、悩み苦しんだ「暗黒の時代」と向き合った櫛谷さんは、現在、子どもたちに「自分で選択することの大切さ」を伝えています。

 

では、かつて自分を出すことが苦手だった櫛谷さんは、どんな転機を経て、どんなキャリア教育を実現しようとしているのでしょうか。櫛谷さん自身の思考や人との関わり方の変化をもとに語っていただきました。

 

プロフィール写真

NPO法人アスクネットの櫛谷彩乃さん

 

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自分の選択を他人任せにした生き方を後悔

 

「私は、自分のことを『きちんとキャリア教育を受けないとこうなる』というサンプルだと思っています」と、櫛谷さんは自身について話します。

 

進学校を卒業後、医療系の専門学校へ進学。その後は医療機関に就職し、2年目で退職した後は派遣社員、契約社員など何度か転職を経験しました。

 

「進学や就職では、将来を自分で決めることに自信がもてず、周囲の言葉を優先して選択していました。でも、失敗続きで……。そのうち興味のある仕事があっても、『どうせできない』と早い段階から自分の道を閉ざしてしまうようになっていました」

 

キャリア教育に強い関心を持ったのは、契約社員として専門学校の教務を担当していたとき。就職活動のサポートを通して、学生たちに昔の自分を重ね合わせるように。「〇〇に勧められたから」という理由だけで進路を決めようとしたり、長所がたくさんあるのに自己PRが書けなかったり。そんな学生と接するなかで、櫛谷さんは「この子たちに何かできることはないか」と自分にできることを探すようになったそうです。多くの情報からキャリア教育に可能性を感じ、仕事にすることを決めたと言います。

 

櫛谷さんがアスクネットに入社したのは2019年4月。

「子どもたちには、自分で自分の道を選んで、自分らしい生き方をしてほしい」。当時抱いていたこの想いは、今も変わらず持ち続けているそうです。

次につなげる本音の対話

 

櫛谷さんは、現在、アスクネットでキャリア教育コーディネーターとして主軸事業である高校生のインターンシッププログラムや探究学習などのマネジメントを担当。現場では、実際にプログラムの企画・運営を動かしながら、企業と地域、学校に「出会いと挑戦」の機会をつくっています。

 

櫛谷さんが仕事で大切にしているのが、「対話」です。関わってほしいと思った企業などには、キャリア教育やプログラムへの想い、企業に対して依頼する理由や参画する意義を丁寧に話すよう心がけているそう。

 

「私たちが提供するインターンシッププログラムでは、子どもたちと地域で活躍する企業をつなげています。私は、このプログラムは、関わるすべての人が『出会ってよかった』『挑戦してよかった』と思える機会になると信じています。

 

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インターンシッププログラムで仕事体験をする高校生たち

 

一人ひとりが主体的に関わり、学びの機会を楽しめるようにしたい。だからプログラム終了までの対話はとても大事にしています。例えば、企業には私たちに対して感じることもお聞きするようにしています。よく私が質問するのは、『なぜ依頼を受けてくださったのですか?』ということ。答えをいただくことで、お互いの想いにより近づける瞬間を感じられるんです。

 

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インターンシッププログラムで呉服店の仕事体験をする高校生たち

 

また、プログラム終了後、企業には子どもたちに起きた変化もしっかり伝えています。社会や子どもたちへの考えも企業側から教えていただきながら、もらった意見を次のプログラムに活かしています」

企業と子どもたち、そして櫛谷さん自身に起きた変化

 

「アスクネットに入社していなかったら、対話を深める仕事はできなかったと思います」と、櫛谷さんは自身の変化について話します。

 

「アスクネットに入社した頃は違和感だらけだったんです。自分の殻を破れなかったというか、入社前は自分の意見を優先することができなかったから、上司や先輩から『どう思う?』と問われても答えられませんでした。それでも、『どう思う?』から始まる話をたくさんの人たちと重ねるなかで『分かり合えた』という実感も体験できて。自分の話をすること、想いを伝え合うことの大切さを学びました」

 

社内研修の様子トリミング後

社内研修で自分の意見を出し合う櫛谷さん(中央)たち

 

最初に、自分の想いを言葉で伝えることの大切さを感じたのが、入社数か月後。企業にインターンシップへの協力依頼を申し出たときだったそうです。

 

「企業さんからのお返事は『今年は難しいかな』でした。理由は、『プログラムの良さをスタッフに理解してもらうためにはもっと時間がほしい』。

 

それを聞いて、改めて『この企業さんにお願いしたい』と思ったんです。代表のスタッフに対する想いが感じられて、『次の機会でもいいから、やっぱり私は御社にご協力いただきたい』と伝えました。そうしたら、帰ろうとしたときに『受けましょう』とお返事をくださった。それからは、毎年『いつでも声をかけて』と協力してくださっています。自分の想いが企業さんに届いたのかもと初めて自信をもてた経験になりました」

 

その企業では、インターンシップに参加した高校生との間でこんな変化を感じられたそうです。

 

「インターンが終わった後も高校生が企業さんと連絡を取り合って、遊びに行ってるんですよ。『私よりも歓迎されてる?』とびっくりするくらい(笑)、打ち解け合っているんです。

 

生徒はインターンシップを通して、自信をもったり、今後できるようになりたいことを見つけたりすることができました。インターンシップでの体験そのものはもちろんですが、スタッフのみなさんが生徒とたくさんコミュニケーションを取ってくださったり、行動を褒めてくださったり、一人の人として丁寧に向き合ってくださったからこそできたことだと思っています。

 

高校生たちには、いつか『あのときの出会いや、あのときの経験があってよかった』と思ってもらえたらうれしいですね」

 

スタッフと話しているところトリミング後

スタッフと笑顔で話す櫛谷さん(中央)

 

「今、自分で何かを変えられたら、未来も変わる」と伝えたい

 

「生徒や企業の方だけでなく、学校の先生の変化を感じることもあります。はじめプログラムに前向きではなかった先生も、リアルな社会の学びの場に同行していただき、子どもたちのイキイキした姿を見たり、企業の方々のあたたかさに触れたりするなかで、気がつくと子どもたちの邪魔にならないか心配になるくらい楽しんでくれて(笑)。プログラムの魅力をアツく語ってくださることもあって、少しは役に立てているのかなと思っています」

 

そう話す櫛谷さん。かつての自分を振り返りながら、「私は、『楽しい』と思えない状態をなくしたいと思っています」と続けます。

 

「昔は、自分で選択することを避け続けて、あげく『何のために生きているのか』わからなくなった時期がありました。『別に明日なんてこなくてもいいや』とも思って、すごくつらかった。

 

『あのとき、あの人がああ言ったから』とか、『こんな環境だからできなくても仕方ない』とか、まわりのせいにしていたらやり直したくても中途半端にしかならないと思います。でも、『今、自分で何かを変えられたら未来も変わる』という実感を持てたら、将来を楽しみに感じながら生きていけるんじゃないかと思うんです。

 

そういう意味では、今、私はアスクネットの仕事で企業や子どもたちの関係性などに前向きな変化を起こせていると感じられるし、将来が楽しみになる生き方ができているのかなと思います。

 

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小学生のためのプログラムで生き生きとコミュニケーションを取る櫛谷さん(右)

 

私自身の人生は失敗が多くて紆余曲折あったけれど、『自分で状況を変えることができたら未来はこんなに違ってくるよ』と、プログラムを通して子どもたちに伝えていきたいです」

 

「アスクネットの仕事を通して、自分の世界がすごく広がりました」と話す櫛谷さんには、仕事以外にもう一つの活動があります。ライフワークとして、2020年に仲間と立ち上げた、参加者同士が心を通わせる、対話と散歩を掛け合わせたイベントを行う活動です。

 

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仲間との活動では、街を散歩しながら対話の可能性を見出している

 

当初は自殺予防につながればという思いも強かったそうですが、仲間と話し合いを重ね、人と人とが寄り添い合い、支え合うことのあたたかさや愛おしさを感じることで、「誰もが生きることを愛する社会」の実現を目指して活動しています。

 

「名古屋市主催のまちづくりの取り組みから発足したプロジェクトで、特徴がクロスセクターで活動すること。アスクネット入社後にマネジメントスクールで出会った人から声をかけてもらい、『クロスセクターで課題解決』というのは仕事に直結しますし、『自分の探究活動としてもやってみたい』と思い、この取り組みに参加しました。子どもたちの頑張りを見て、『自分も頑張らなきゃ、負けていられない』と思ったんです。

 

プロジェクトの活動メンバーは行政の方、企業の方、そしてNPOに勤める私の3名で、『大丈夫な人が、大丈夫じゃない人を支える』のではなく、『双方向でつながって、一緒に生きていく』という視点で、『生きることを愛する社会』を少しずつでも実現していきたいと思っています。

 

誰もが明日を楽しみに生きていける世の中になってほしいから、キャリア教育でも、仲間との活動でも、自分を信じて、対話を通してできることをしていきたいです」

編集後記

 

とても正直に、誠実に自分の人生を生きている人。そんな印象を櫛谷さんに抱きました。不器用かもしれないけれど、苦しい状況で自分と向き合う強さを持ち、自身にも周囲にも変化を起こしていった強い方だと思いました。

 

NPO法人アスクネット代表理事の山本和男さんに櫛谷さんの印象を伺うと、少しずつ自己開示できるようになったことをきっかけに、自分の想いをのせた仕事で周囲にも変化を起こせるようになったそうです。「今では稼ぎ頭の一人」とも。

 

「人に好かれる才能を持った、コーディネーターに向いている人」と山本さんが表す櫛谷さん。自身も挑戦し続けることで、これからますます関わる人たちと明日を生きるのが楽しみになる世界をつくっていくのだろうと思いました。

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。