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外資系企業から社員30名の老舗石鹸メーカーに転職―ボケない大阪移住プロジェクトの塩山諒さんに聞く大阪の暮らし(後編)

2016.09.06 

前編「東京から移住者を呼ぶほど大阪はヤバイのか?「ボケない大阪移住プロジェクト」塩山諒さんに聞く大阪のリアル(前編)」に続き、「ボケない大阪移住プロジェクト」について塩山諒さんにうかがいました。

後編は、東京の外資系企業から大阪・八尾の老舗石鹸メーカーに転職した峰松加奈さんのお話と、いかに大阪の暮らしが個性的かについて。ちょっと大阪に移住したくなります。

塩山諒さん

ボケない大阪移住プロジェクトを仕掛ける塩山諒さん

募集要項を無視して、外資系企業から老舗石鹸メーカーに転職

石川:老舗石鹸メーカーに転職して活躍している若手がいるというお話でしたね。どんなことをされているのでしょうか?

塩山:木村石鹸さんは創業100年近い、社員数30名ほどの老舗企業です。あらゆるタイプの石鹸を自社工場で作っていますが、売上の9割はOEMなので名前は業界でのみ知られているという、典型的な地場の中小企業ですね。

石川:堅実そうな印象です。

塩山:そうなんですが、経営陣が代替わりして若返ってから、思いきって自社ブランドの製品づくりを進めています。そのタイミングで「WEBデザイナー」を募集したところ、やってきたのがマーケティングを専門にしていた峰松加奈さんでした。

峰松加奈さん

木村石鹸ではたらく峰松加奈さん。座右の銘は「迷ったらドラマチックな方を選ぶ」。

石川:飛び抜けた方は、往々にして募集要項を無視する傾向がありますね(笑)。

塩山:彼女はもともと外資系消費財メーカーのユニリーバに新卒で入社して、シャンプーや洗顔料のマーケティングを担当していたそうです。ちなみに出身は東京で、大学も早稲田なので、大阪には縁もゆかりもありません。

石川:ユニリーバも木村石鹸も同じ洗剤ではありますが・・・企業としては対極にありますね。ところで峰松さんは、どうやって木村石鹸さんの求人にたどり着いたのでしょう?

塩山:求人サイトのWantedlyで「メーカー」って調べたら、東京のケーキ屋さんと木村石鹸がヒットしたそうです。それで応募したところ「WEBデザイナーじゃないけど、なんかおもろい人がきたぞ」とすぐに採用になった。

木村石鹸さんもすごくて、峰松さんのやりたいことやスキルに合わせて、すぐに新しく商品開発とマーケティングを担当する部署を立ち上げたんです。

木村石鹸4代目社長・木村祥一郎さん

ITベンチャー経営を経て、実家を継いだ木村石鹸4代目社長・木村祥一郎さん。

石川:木村石鹸も峰松さんも、驚くほどフレキシブルですね。

塩山:そうなんですよ。そこから近畿大学の講義と連携した商品づくりがはじまって、料理家の平野レミさんとのコラボが実現したり、新ブランドが立ち上がったりと、次々と新しい動きがうまれています。

大阪の中小企業はハングリー精神が旺盛なので、おもろいと思ったらすぐに動きます。そういうところが、新しいことに取り組みたいチャレンジャーと相性がいいんだと思います。

&SOAP

木村石鹸が2016年秋にリリース予定の新ブランド「&SOAP」

石川:なるほど。移住した後の働き方も気になりますが、峰松さんの場合はどうなんでしょうか。

塩山:わかりやすい変化としては、17時半に仕事を終わるようになったと。

石川:えっ、それはすごい。東京での暮らしとはずいぶん違いそうですね。

塩山:東京から移住してきた人たちはみんな、「自由に使える時間が増えた」って言います。峰松さんの表現を借りると「東京のしんどい部分をとっぱらって、いいものだけ残っているのが大阪」。

朝夕の通勤ラッシュもひどくないし、人も多すぎない。とはいえ交通インフラも整っていて、買い物にも不自由せず、家賃は安め。ちょっと褒めすぎかもしれませんが、実際そうだと思います。

石川:どうしてそんな働き方が可能になるのでしょうか。

塩山:峰松さんいわく「会社の規模が小さく小回りがきくので、とことん無駄がない」。だから、ちゃんと仕事をしても残業が少ないみたいですね。それと「過度のノルマやプレッシャー、残業はほぼなし。石鹸のようなホワイト企業を目指す」という木村社長の方針もあると思います。

石川:素敵な方針ですね。都会的な仕事をしつつ、生活も犠牲にしない。

スタッフのみなさん

工場にて、木村石鹸のみなさん。

大阪という地域は誤解されている

石川:お話をうかがっていると、首都圏在住者にとって大阪はとても魅力的な移住先のようです。とはいえ、これまで移住先として大阪が語られることはあまり多くなかったように思います。これはなぜなんでしょうか?

塩山:地方への移住というと田舎や自然が思い浮かぶとか、そういうこともあると思いますが、最大の理由は「大阪はめちゃめちゃ誤解されている」ということだと思います。

石川:どういう誤解でしょうか。

塩山:例えば週刊ダイヤモンドによる調査(http://diamond.jp/articles/-/90188?page=2)だと、大阪は「嫌いな県」堂々の横綱(一位)です。コメントは「とにかくずうずうしくてせこい」。

大阪に続く大関は東京なんですけど、同時に「好きな県」の大関でもある。大阪はぎりぎり番付にのる前頭と低迷しています。その他の調査でも「ボケな友達ができへん」、「ヒョウ柄のおばちゃん」、「治安が悪そう」、「なんか怖そう」とか。完全に否定はできないところもありますけど、ほとんどイメージなんです。

調査結果

週刊ダイヤモンド社による実に興味深い調査結果

石川:実際はそんなこともない。

塩山:全然そんなことないです。大阪人は親切ですよ。この前、福祉分野の方とお話してたんですが、大阪は障がいをもった方でも不動産を借りられやすいことで知られているそうです。

駅構内を歩いていても、助けてくれることがすごく多い。「どっからきたん、焼きそば食べたいん、じゃあ食べてくか」みたいな。本当にそんなノリなんです。悪く言えばかまい過ぎなんでしょうけど、とにかく人懐っこい。

石川:人情にあふれていますね。

塩山:そうなんです。良くも悪くも厚かましいんです。

石川:ボケない大阪移住プロジェクトのWEBサイトでは、大阪の各エリアの特徴も紹介されていますね。大阪といえば「グリコ」みたいな、ごみごみした雑踏のイメージが先行しがちですが、これをみると日常の暮らしの様子が伝わってきます。

谷町六丁目

長屋を使ったリノベーション物件が若いファミリーに人気の「谷町六丁目」。

塩山:実はWEBサイトで一番アクセスが多いのが、この「エリア紹介」なんです。大阪って、本当は暮らしやすいんですよ。そう言ってしまうとボケたことにならないので、大阪の人はあまりお国自慢をしませんけど。でもこのサイトは「ボケない大阪」なので、ストレートに「大阪暮らしは楽しいよ」と伝えています。

石川:知られざる大阪のいい暮らし。知れば知るほど、大阪は楽しそうです。僕は東京に疲れ気味なので、ちょっと心を揺さぶられます。

京町堀

写真、アーティスト、デザイナーなどなど、クリエイティブ・ワーカーが集結している「京町堀」。

塩山:東京で消耗してる人や、もっと人情のある街で暮らしたい人、そしてトガった中小企業で新しい仕事をつくっていきたいというには、大阪は本当に魅力的な選択肢だと思います。

歴史的に自分のまちは自分でつくる精神が強いうえに、人口が減りだしたことで皆が危機感を持って新しいことに取り組み始めました。これから大阪はもっと面白くなっていくと思います。ぜひこのタイミングで、われこそはという人にツッコんで来てもらいたいですね。

石川:お話をうかがって、ボケられない僕でも大阪で楽しくやっていける気がしてきました。ありがとうございました。 大阪への移住、いいかも。そう思った方はぜひ説明会へ。東京・銀座で三日間開催しています。

  • 2016年9月7日(水)19:30〜21:00
  • 2016年9月8日(木)19:30〜21:00
  • 2016年9月10日(土)14:00〜15:30

ボケない大阪移住プロジェクト・プログラム説明会(東京開催)

NPO法人スマイルスタイル代表理事/塩山諒

1984年兵庫県生まれ。2007年に社会変革への衝動を形にしようと「スマスタ」を設立。既成概念にとらわれない「創造力」と、セクターを越えた「つながり」で、この豊かなまちの格差や貧困問題解決に挑戦している。民間の職業安定所「ハローライフ」、高校生とつくる『いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)』は、2014年度グッドデザイン賞を受賞。

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石川 孔明

1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)とお茶と自然を愛する。