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経営危機には山手線の中でも営業活動。「自分の選んだ道を正解にする」起業家20年の挑戦―TRYWARP 虎岩雅明さん

2023.06.13 

虎岩様スタッフと_トリミング後

 

「正解の進路探しに悩むより、今やりたいと思ったことを選ぼう。その道を一日一日、成功に変えていくことを自分の人生にしよう」

 

就職活動に疑問を感じていたある大学院生は、この自分の気持ちに正直に、就職活動をやめて大学の仲間を集めて起業。「大学生が教えるパソコン教室」や「地域SNS」を生み出し、その後にパソコン教室は全国7地域で展開、地域SNSは約7千人が利用するまでに成長した。

 

起業家の道を自ら開拓してきたのは、株式会社TRYWARP(トライワープ)代表取締役の虎岩雅明さんだ。創業から20年、パソコン教室の閉鎖や経営危機を経て、ずっと抱いていた大きな目標を実現するため新しい事業を本格展開させた。

 

虎岩様プロフィールトリミング後

虎岩雅明(とらいわ・まさあき)さん/株式会社TRYWARP 代表取締役

1979年、大分県生まれ。2003年、地域でパソコンを教える学生サークル「トライワーププロジェクト」を立ち上げる。04年、NPO法人TRYWARP設立。05年、千葉大学大学院修了。06年、地域SNS「あみっぴぃ」開設。07年、株式会社トライワープソリューションズ設立(12年、株式会社トライワープに商号変更、19年から現(株)TRYWARP)。現在は、パソコンライフサポート事業、WEBプロデュース事業わくわくTech教室事業などのほか、総務省地域力創造アドバイザーなども務める。

 

虎岩さんの創業時から10年間のチャレンジを追った記事はこちら

>> 「世代間ギャップをITで支える」株式会社トライワープ代表取締役・虎岩雅明さん

 

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事業の存在意義と徹底的に向き合った

 

創業10周年を迎えた2014年、虎岩さんは千葉から東京へと拠点を移し、新しいスタートを切っていた。当時は、東日本大震災の影響を受け、パソコン教室をすべて閉じた状態。大学時代から勢いにのるように成長させた後、大きな失敗をも経験した虎岩さんは、パソコンサポート事業の存在意義を徹底的に言語化した。当時はまだ世になかったオンライン化を形にするために数えきれないくらい企画書を書いていたという。同時に、全国のインストラクターを探しまわった。

 

目指したのは、パソコンに苦手意識をもつ人たちが取り残されないサービスを、必要とする人へ確実に届けること。「絶対にやり遂げる」。虎岩さんはそう決めていた。

 

「僕は創業時から、『テクノロジーをワクワクしながら活用できる世界』を実現する方法を模索していました。パソコンやスマホなどITの『困った』に寄り添った、安心できるサービスをつくりたかったんです」

 

パソコンサポートをオンライン化し、全国一律のサービスを提供する。構想はあったが、なかなか仕組み化には結びつかなかった。

 

一方で、大学生協を通じた大学生向けのパソコン教室は、スタッフの営業努力もあって提携先が3大学から7大学、後に40大学以上へと増え、大学生のアルバイト講師は250人にまで増えた。全国の各大学を対象に、250人が柔軟に動ける体制も整えられていった。一つの転機になったのは、新型コロナウイルス感染症拡大による急速なオンライン化の普及だ。

 

「新型コロナウイルス感染症がまだ拡大する前、いやな予感がしていました。感染症が拡大すればパソコン教室は開けなくなり、売り上げもゼロになる。どうすればいいか考えていた時、スタッフの一人が、『パソコン教室をオンラインで開きましょう』と言ってくれたんです」

 

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パソコン教室の現場を統括するディレクター陣

 

こだわったのは、通常のパソコン教室にオンライン化ならではの価値を上乗せし、高価値で提供すること。活用したのは、オンライン型コミュニケーションツールのZoomとSNSのLINEだ。学生は、Zoomで教室に参加しながらもLINEを使っていつでも質問でき、「困った」場面があれば画像を送ることで、瞬時に細かいサポートを受けることができる。

 

TRYWARPの特徴の一つ、大学の先輩スタッフが、パソコンスキルだけではなく、学部やグルメの情報を学生たちに教える親しみやすさも重視した。虎岩さんたちはLINE公式アカウントを作り、サポーターズと呼ばれる全国の大学生講師たちがインストラクターのもとサポートにあたる体制を構築。2020年4月、一度目の緊急事態宣言が発出された直後、全国の大学に対してオンラインでのパソコン教室を展開した。

 

「コロナ禍は大学生協での導入が進み、年間3,000人をサポートしました。また、創業以来、57大学を含む延べ約16万人の方にパソコン教室を受講していただきました(2022年6月時点)」

 

各大学の学生へ提供するために作ったパソコンサポート事業のオンライン化は、一つ大きな偶然を生んでいた。「パソコンに苦手意識を持つ人を取り残さないサービスを実現する」。まさに虎岩さんが、創業時から20年間探し求めていたものを形にしていたのだ。「この時が来た!」。虎岩さんは長年構想を練ってきた挑戦を本格展開する覚悟を決めた。

 

「財務基盤も、例え何年か赤字が続いても事業に投資できるまで強化できたので、昨年10月、LINEを使ったパソコンサポートサービス『Skets™(スケッツ)』を新しく発売しました。会員登録制で、現在、利用者数は約7千人超、6万件ほどサポートできています」

 

スケッツ画像

 

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頼れるパソコンの助っ人『Skets™(スケッツ)』のホームページより

 

震災後に襲われた事業の失敗と経営の危機

 

念願だったパソコン教室のオンライン化を実現することになった虎岩さん。「ピンチをチャンスに変えられる経営者になりたかったので大きな自信になりました」と話す。

 

虎岩さんにとって最も大きなピンチであり、最初の大きな転機にもなったのは、経営危機に陥った時だ。「一番孤独な時期でしたね」と虎岩さんは振り返る。

 

きっかけは、東日本大震災後にあった計画停電だ。当時、パソコン教室のお客様たちから「電気がないと使えないパソコンなんて意味がない」と指摘されたことで、虎岩さんはなんとかしたいと、計画停電時もパソコンが使えるように家庭用蓄電器を開発した。

 

発売後は売れ行きが好調だったものの、計画停電がなくなると状況は一気に厳しい状態に。手元に残ったのは大量の在庫と開発にかけた資金のための負債だった。

 

さらに震災の影響を受けて、各メーカーでパソコンの製造が停滞するなど、パソコン教室の経営が立ち行かなくなった。どの事業も赤字になり、資金繰りで苦しい時期が続いたという。

 

しかし、従業員の給与や取引先への支払いは滞らせるわけにはいかない。苦肉の策として、光熱費を滞納するしかなく、社会保険料も支払いを遅らせることに。社会保険庁に頼みに行った時には、窓口で「完済計画を立ててほしい」と言われ、月額1千円支払いを何千年計画で提出。その日は、保険料1千円を払って帰った。

 

「なんとか事業や生活をつなでいる時に起業家の先輩と会って、『大失敗してしまった。もう無理だ』と話したんです。そうしたら、先輩は、『虎くんにだったら、今すぐ3億円は出せる』と言ってくださって。実際の負債額は5千万円だったので、『先輩は僕を何十億円も失敗できる器のビジネスマンだと思ってくれているんだ』と恥ずかしくなって、『自分の力でなんとかしよう』と一念発起し、先輩からの申し出は断って帰りました」

 

虎岩さんが行動に移したこと、それは「お客様のためになる仕事を一つひとつ形にしていく」ことだった。経営者に会った時には、「困っていることはありませんか?」と聞き、「僕にまかせてください」と見積書を作り、知人や友人に仕事を依頼した。

 

とにかくお金を生み出す工夫をしていました。山手線の中でも営業して、10人×10講座のパソコン教室の受注もしたんです

 

そうやって約1年後、会社を立て直せたと確信が持てた虎岩さんは社会保険庁に行き、滞納していた社会保険料を前倒しで全額返済した。そんな虎岩さんに、担当者は「虎さん、お疲れ様でした。おめでとうございます」と言葉をかけ、さらに窓口の周辺では職員たちのスタンディングオベーションが起きた。

 

経営力って、自分の想いを形にする最大の力だと思うんです。経営力を磨く意味でも、経営を挽回させて再拡大させた経験は大きかったですね。自分の経験を活かせればと、翌年には経営困難にあった幼稚園も再建を実現できましたが、必然的な仕事だったと思います」

 

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社内セレモニーで話をする虎岩さん(左)

 

経営危機を乗り越え、創業10周年だった2014年には組織体制を変更、同時に虎岩さんは父親になった。そういった経験をもとに、「自分の命を何のために使うか」、自分に問い続けたという。

 

「それまでは、お客様に寄り添ったサービスを追求するためにスタッフにも成果を求めるところがありました。でも、自分の命を地球のために使おうと決めた時、企業間の競争に負けたくないという欲もなくなり、成果が出るまで待つ姿勢が身についたと思います。それからは心穏やかですね。

 

事業を世界へ広げることは小学3年生からの夢でしたが、今は200年先、500年先も社会の役に立てる会社にしたいと思っています。例えば、僕のお葬式には、会社のみんなが目指す世界を実現するための仕事が入っていて欠席を選ぶ、そんな光景が本望だなと思ったりするんです。今は、僕自身、次の世代の人たちが活躍するためにできることをしたいです」

パソコンへの苦手意識が強い20%の人に寄り添う

 

虎岩さんには、20年間、パソコンの「困った」に向き合ってきてわかったことがある。「パソコンスキルに年代は関係ない」ということだ。

 

子どもから高齢者まで、どの年代にもパソコンが苦手な人は20%の割合で存在します。検索のキーワードも思い浮かばないほど苦手な人たちは、周囲が“デキる”人ばかりだとできない自分にコンプレックスを抱えます。

 

どんなにITが進化してもどうにもならない、声にならない声があります。それを社会では見逃されがちです。できない人は自分から『できない』って言えないんです。だから、お金を払ってでもパソコンの苦手意識をなんとか克服したい」

 

パソコンがどうしても苦手という人が安心できる場所をつくりたい。「苦手だけど苦痛じゃない。だって、頼れる助っ人がいるから」、そう思われる存在でいたいと虎岩さんは話す。

 

「パソコンで困った時に頼れる代表的な企業はまだありません。それは、ビジネス的に課題があるからだと思いますが、社会起業家的な思いと行動力で走り続けてきた我々がそうなるべきだろうと思っています。ただ、20年経ってようやくこうした課題にも気づけたのですが(苦笑)」

 

虎岩様みなさまとトリミング後

幹部研修後、家族や親しい友人を招いたパーティで。虎岩さんは写真下中央

 

虎岩さんが目指すのは、パソコンが苦手な20%の人のためのサポートを社会のインフラにすること。そのために会員数を6年後の50歳に1千万人にしたいと話す。60歳には1億人だ。

 

今後、テクノロジーの進化がより速まる中で、ITリテラシーが高い人と、苦手意識を克服できないままの人たちとの格差がもっと顕著になると思います。その格差をなくしたい」

 

最近は企業との連携が始まったほか、地方自治体からも声をかけられることが増えた。

 

「地方の場合、役所でデジタル化を進めると窓口がパソコン教室状態になってしまうことがあります。つまり、住民がパソコンやスマホの使い方がわからなくて職員にたずねることが圧倒的に増えるんです。今は、どんなサポートだとお役に立てるか、自治体と一緒に可能性を模索しているところです」

経営難を越えながら16年継続させた、地域SNS「あみっぴぃ」

 

2022年3月には、虎岩さんが大学時代に作った、西千葉の地域SNS「あみっぴぃ」の提供が終了した。「あみっぴぃ」は、商店街の人たちがつながれる招待制の場として2006年にスタートし、「あみっぴぃ」の技術を使って各企業にも社内SNSを提供していた。

 

ただ、他のSNSの発展や地域の人たちのコミュニティの多様化にあわせて、徐々に役割の終幕を感じるようになったという。しかし、虎岩さんは、「思い入れを持って使ってくださっている方も多いから。地域に『帰りたいと思った時に帰れる場所』がある状態を維持したい」と、16年間、サービスを守った。

 

「最後はイベントを開催して、西千葉の商店街のみなさんに『お疲れ様でした』と言っていただきました。みんなで昔の日記を読んで、『こんなことを言ってたんだね』と盛り上がったりして、和やかな幕引きでした。いい終わり方で良かったなあと思いましたね」

 

「あみっぴぃ」の幕を下ろすまでの16年間、経営危機の間もサービスを提供し続けた。

 

結局、『あみっぴぃ』は、業績がどん底の時には継続させて、好調期に閉じました。経営危機の時、僕は34歳でしたが、振り返ると、『偉かったなあ』と我ながら思いますね(笑)。ただ、みなさん、TRYWARPはいつも好調だと思ってくださっているので、経営危機のことは社員以外、誰も知らないんです」

「自分が選んだ道を正解にする生き方」への答え

 

「大学生の時、『起業家になる』と決めた自分にすごく感謝しています。『自分が選んだ道を正解にする生き方』に決めたけれど、今ではその生き方が自然と身についているように感じます。特に経営を挽回させてからは、TRYWARPを応援してくれる人たちの顔が思い浮かんだりすると、やっぱり『やり遂げないと』と思います」

 

IT機器の「困った」の解決スピードが知らないうちに速まっている、そんな状態が世界中で当たり前になるように。「できれば、6年後の50歳までにはその世界を実現したい」と虎岩さん。その後は、子どもの頃からのもう一つの夢だった発明に没頭できる時間もつくりたいと話す。

 

また、妻と幼い子ども3人との5人家族の虎岩さんは、毎日、朝食作りを担当しているという。料理が趣味の一つなのだ。「1日家にいる時は3食作ります」。

 

「家族とは将来、5年に一度の割合で世界一周旅行をしたいですね。TRYWARPのサービスが世界中で活用されていれば、知り合いも増えます。子どもたちもつながっていけば、喜びの連鎖がより広がっていきます。長生きするほど満足できる生き方をしたいです」

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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