2021年5月、28年にわたってNPO法人ETIC.(エティック)の代表を務めていた宮城治男さんの退任に伴い、エティックは自主経営組織の実現に向けて大きく舵をきることになりました。
長らくあった組織のヒエラルキーを手放し、エティックのスタッフ一人ひとりがアントプレナーシップを持って自律的に仕事に取り組めるようにと始まった組織変革の旅は、いつからどのようにはじまり、また現在はどんな変化の途中にいるのでしょうか。エティックスタッフにインタビューし、連載記事(不定期)としてお届けします。
前回の記事では、いよいよ無視できなくなってきた組織の歪みに向き合い、その状況を改善しようとする動きが芽生えてきている様子をお伝えしました。同じ頃、宮城さんは同時並行で個人としても組織としても様々な経験を重ねます。
2016年夏、井上 英之さんからジェレミー・ハンター氏(マインドフルネスやセルフマネジメントを、米国のピーターF.ドラッカースクールでMBAやエグゼクティブに教えてきた、世界でも草分けの一人)のセッションを日本のソーシャルリーダーに届けたいと、エティックのソーシャルイノベーション事業部に事務局運営の相談がありました。
そのセッションに感銘を受けた宮城さんは、他団体はもちろん、エティックのディレクターやマネージャーも受けた方がいいと推薦、全スタッフ向けにもジェレミー氏の話を聞く機会を設けます。他者からおもにネガティブなことを伝えられたとき、脊髄反射的に相手に反応するだけでは、本当に望んでいた意図している結果は起こらないことを学び、自分の思いや願いを伝えた上でクリエイティブに対話するために、自分自身の奥に眠るニーズに立ち返る大切さを多くのスタッフが少しずつ体験し始めます。
2017年春の全体会議では、ゲストを招いて場を持ちました(これまで外部ゲストを招いた全体会議はほぼありませんでした)。「本当に私がやりたいことってなんだろう?」と投げかけられた問いに対して、スタッフそれぞれからなかなか言葉が出てきません。
2017年秋、スタッフの一人である伊藤順平さん(ローカルイノベーション事業部スタッフ)がダイヤモンドメディア株式会社(当時)の武井浩三さんと同社が実践するホラクラシー型組織の考え方と出会います。これからのエティックに必要なのではないか、という予感がした伊藤さんは、宮城さんと一緒に同社の公開会議に参加したりしました。
そして2018年1月、「ティール組織」(フレデリック・ラルー著/英治出版)が出版されます。冒頭に紹介した記事の中にもあるように、「自分がアントレプレナーシップについて伝えたかったことが、社会のパラダイムの進化とともに整理されている気がして、すごく心に刺さりました。ティールの概念を取り入れることは、エティックの組織の進化のてこになるんじゃないか」と思った宮城さん。スタッフ全員分の本を購入し、同年4月にエティック内部でティール組織の読書会(勉強会)が始まりました。
「働き方改革委員会」のメンバーの一人だった番野智行さん(2018年4月当時 ソーシャルイノベーション事業部マネージャー)は、その具体的な方法や指針を読んで、これからのエティックの方向性としてあり得るかもしれないとピンときたと言います。
他の痛みを抱えた中堅メンバーと同じく、ディレクターのやり方に対して時に納得いかないこともあったという番野さん。2018年4月の全体会議でスタッフに向けて、個人的な「世紀の大発見」を共有しました。それは、「ディレクターはアントレプレナーとして素晴らしいが、組織マネジメントは好きでも得意でもない」ということです。
ヒエラルキー組織の論理で経営陣に組織マネジメントの責任を押し付けるのではなく、経営陣も強みと弱みを持った一人の人間として見ることで、組織内で繰り返されてきた期待と裏切りのループから脱することができるのではとの提案を投げかけました。番野さんは「皆が起業家精神を発揮できる組織」を、経営陣のみに頼らず、皆で創っていくための方法や指針として、ティール組織の考え方が参考になると感じていたのです。
しかし、ティール組織に向けた変革をトップダウンで進めるやり方は、そもそもエティックに馴染まないうえに、そのプロセスそのものがティール的ではありません。
上のスライドの紹介に続いて、ティール組織を導入した場合のエティックの最高の状態(ハイドリーム)と最低の状態(ロードリーム)の両方をスタッフみんなで意見を出し合ったところ、ハイドリームよりもロードリームのほうが盛り上がる結果になりました。伊藤淳司さん(当時 ローカルイノベーション事業部マネージャー)はこの日のことがとても印象的で、ここからよくなっていきたい、という気持ちが強まったと言います。
2018年4月の全体合宿でティール化した場合のロードリームのグラレコ
鈴木さん(当時 事務局長)は当初、ティール組織の語る理想はわかるが、現実的な意思決定やリスク管理を考えると実現は難しいんじゃないかと思っていました。しかし「これまでの20数年を振り返ると、宮城くんの言うことは最初『なんじゃそりゃ』と思っても、結局正しいんだよな」と、ひとまずティール組織に向けた動きを一緒につくっていくことにしました。
いきなり全社でティール組織に向けて舵を切るのではなく、まず小さなチーム単位で始めて徐々に広げ、このやり方はいいかもしれないという手応えを持つスタッフを増やしていくことにしました。上の写真にあるように、ティールを進めるとエティックがバラバラになってしまうのではないか、という漠然とした不安を持つスタッフも少なくなかったからです。
ティール組織が開く「三つの突破口」として紹介されている「自主経営(セルフマネジメント)」・「全体性(ホールネス)」・「存在目的(エボリューショナリーパーパス)」を全体会議のような機会にひっそりと忍ばせながら組織や事業部、担当するプロジェクトのことを考えることから始めました。
「ティール組織のめがね」をかける人を少しずつ増やすうえで特に有効だったのが「テンション」と「助言プロセス」の2つの共通言語です。次の記事では、組織の中でどんなふうに共通言語や原則を育んでいったかについて、ご紹介します。(つづく)
>> 特集「一緒につくるETIC.」の記事はこちら
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