#ローカルベンチャー
外国人観光客も取り込むホームステイ体験、世界の磯焼け問題への挑戦、防災教育を海外へ…グローバルな視点をもったローカル起業家3人が語る!―ローカルリーダーズミーティング2023レポート(7)
2023.10.19
7月8~9日の週末、宮城県気仙沼市で「ローカルリーダーズミーティング2023」(以下LLM2023)が開催されました。
ローカルベンチャー協議会が主催し、NPO法人ETIC.が事務局となったこのシンポジウムには、全国からローカルベンチャー(地域資源を活用した事業家)、自治体、中間支援組織、さらに首都圏の大企業などから約160名が参加。気仙沼市内でのフィールドワークや分科会、さらに若手起業家等によるピッチ(プレゼンテーション)などを通して有意義な意見交換・ネットワーキングを行いました。
本稿では、「ローカルベンチャー×グローバル」をテーマとした5人のピッチの内容を2本に分けてレポートします。前編では、いわゆる観光地ではない地域での関係人口づくりや環境問題、防災といった課題に、グローバルな目線で取り組む3人の活動をご紹介します。
ホームステイ体験のマッチングサイトで、地域に人とお金の流れを生み出す
杉本朋哉(すぎもと・ともや)さん/株式会社Familyinn代表取締役社長・ローカルベンチャーラボ6期生
1998年2月生まれ。 東京都出身。4つの小学校に所属し、福井、兵庫、札幌、東京と幅広い地域で育つ。東京都立大学に入学。2019年に株式会社Familyinnを創業。大学を退学し、都内の家を出され、群馬県で半年間暮らす。その後20地域程訪れ、地域ごとの特色を活かした暮らしを学ぶ。都内の効率を追求した人を頼らない生き方による感情の働きの劣化に違和感を抱き、社会背景・感情の育み・日本再起の道を研究。不便さがあるが故に、自分たちの暮らしは自分たちで創っていくという意識を持てる生き方に希望を抱き、文明化した国々の生きる道だと実感する。
WEB : https://familyinn.jp
Familyinn(ファミリン)は、国内外からの旅行者が少し長めの4泊5日以上その地域に暮らすことで地域に溶け込み、深いつながりと気づきを得るという、ホームステイ体験のマッチングを行うWeb上のプラットフォームです。
僕は小学校6年生から20歳までと東京暮らしが長かったんですが、スマホ1つで完結してしまうような暮らしに物足りなさを感じていました。自分自身だけではなく、周りの人も活力が足りないように感じられて、違う生き方が必要なんじゃないかと模索していました。
そしてたどり着いたのが、田舎へのホームステイです。Familyinnは、日本の自治を確立すること、つまり自分達の暮らしを自分達で治めていくということをミッションとしています。こういったミッションを掲げているのは、マクロ的な資本主義の機能不全等、様々な背景がありますが、自治を確立するためには域内の経済循環と外資獲得が必要だと考えています。そこでホームステイを通じて、地域に人やお金の流れを作っていく担い手として活動していきたいと思っています。
Familyinnのチームは合計10名で、英語・フランス語・中国語等、多言語対応できるメンバーです。台湾にもフォーカスしているので、台湾在住の外国籍メンバーもいます。現在は、プラットフォーム事業と直営事業の2つの事業に取り組んでいます。
全国各地のホストと旅行者をWeb上でつなぐプラットフォーム事業には、国内向けのFamilyinn事業と、海外向けのFamilyin Japanがあります。2023年5月にリリースした海外向けは、英語・中国語に対応しています。サービス内容は国内向けと同様で、少人数の受け入れと長期滞在により、地域の方に顔を知ってもらえる、お互い多様な生き方を知ることができる、地域にお金が落ちるというメリットがあります。誰も疲弊することなく、旅行者・ホスト・地域の3者ともがWin-Winとなるサービスを目指しています。
ホストは全国で50軒程です。利用者はファミリー層がメインで、日本語が堪能な外国人も10%ほど利用しています。外国人利用者は台湾、シンガポール、中国、マカオからの旅行者が中心です。海外の方は、自然と寄り添いながら生きる日本の暮らしを学びたい、アニメの影響から日本語を学びたいといった理由でホームステイを選んでいます。
直営事業は最近始めたもので、Familyinが自社で物件を確保してゲストハウスの運営を行うものです。プラットフォーム事業で得たノウハウやデータを活かし、効率的な運営ができると考えています。台湾・フランス・タイの3エリアからの旅行者を重点ターゲットとして、1週間程度の田舎暮らし体験の他、3ヶ月程度のお試し移住、1年間の移住体験と、期間に応じた3つの移住体験を準備中です。
この8月、高知県須崎市に3人で一斉に移住しました。今では6人が定住しており、竹細工職人や起業家、アーティスト、アメリカ人、フランス人と、国際色豊かな仲間と暮らしています。アメリカ人のルームメイトはスタンフォード大学の地球科学部卒業で、魚のエサとなる微生物を自分で作る高知の事業者の話を聞き関心をもち、移住予定です。
直営事業として、石川県羽咋市(はくいし)にゲストハウス1号店をオープンさせるべく、複数人の移住希望者と10月末に物件内覧予定です。中国語・英語の多言語が堪能な仲間や豆腐屋、宮大工の仲間がいるので、海外からのゲストの受け入れを進めていきたいと思います。
この8月に3人で高知移住を実現させた私の経験を仕組み化して、全国各地の歴史や風土を感じられる地域で直営事業を広げていきたいと考えてます。ホームステイの受け入れ先や、直営店をつくってほしい地域も募集中ですので、ぜひお声かけください!
北三陸から世界の海を豊かに! 非営利とビジネスの両面から磯焼け問題に挑む
眞下美紀子(まっか・みきこ)さん/ 株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役COO・一般社団法人moova 代表理事
1982年洋野町(旧種市町)生まれ。大学卒業後は、情報誌を発行する出版社へ就職、情報誌の販売促進やマーケティング業務に従事。その後、転職し大手飲食チェーンに入社。店長として店舗マネジメント、新店舗の立ち上げ、社内大学にて店長育成教育プログラム作成、教育ツール作成などに従事。2016年、地元である岩手県洋野町の水産加工会社「㈱ひろの屋」に入社。2023年5月に㈱北三陸ファクトリー代表取締役COOに就任。現在は、㈱北三陸ファクトリーにて主に国内部門・中短期経営を担うとともに、2022年12月一般社団法人moovaを立ち上げ、海洋教育事業、地域振興事業などを行っている。
岩手県の沿岸最北端の洋野町(ひろのちょう)から参りました、眞下美紀子です。父が漁師だったこともあり、「海と産業と人の好循環を創造する」というライフミッションを掲げながら活動しています。本日は、再生型水産業で世界の海を豊かにするというテーマでお話しさせていただきたいと思います。
私はNPO法人ETIC.(エティック)の右腕プログラムを活用し、2016年に故郷の洋野町にUターンしました。そのときに参画したのが、現在私がCOO(最高執行責任者)を務める北三陸ファクトリーの親会社にあたる株式会社ひろの屋です。一般社団法人moova(モーバ)の代表理事でもあるのですが、どちらもひろの屋グループ内の企業で、ビジネスを担うのが北三陸ファクトリー、非営利を担うのがmoovaとなっています。
私達は、ウニの養殖・加工を行う会社です。ウニは7月が最盛期で、洋野町は本州一の水揚げ量を誇ります。そんな我々にとって非常に深刻なのが、国内外で問題となっている磯焼けです。磯焼けとは海から海藻がなくなってしまう現象で、磯焼けに悩まされる地域は年々増加しています。少し古いデータですが、2013年には日本のほとんどの沿岸部で磯焼けが発生しているという状況です。
海藻はウニやあわびの餌になるのはもちろん、CO2の吸収や、稚魚を育むといった役割もあります。海藻が生えなくなってしまう磯焼けは、漁獲高の減少に直結します。海の砂漠化とも言える、水産業全体の問題です。その磯焼けの大きな原因の1つが、我々の商材であるウニだと言われています。地球温暖化によって海水温が上昇し、ウニが活発化して海藻を食べつくしてしまうのです。
一方で漁村地域では人口減少と少子高齢化が加速し、漁業従事者は60歳以上が7割を越えています。10年後には産業の存続自体が危ぶまれるような状況です。そこで私達は、環境に配慮した「育てる漁業」で負のスパイラルを断ち切り、磯焼けの改善や漁業全体の魅力向上といった好循環を生み出したいと考えています。北三陸から世界の海を豊かにすることが私達のミッションです。
洋野町には、世界で唯一の「うに牧場」と呼ばれる場所があります。元々、干潮時には海藻が干上がってしまうような場所でしたが、天然の遠浅の岩盤に50数年前の漁師さん達が溝を掘り、天然の昆布やわかめが育ちやすい漁場へと生まれ変わらせました。半世紀以上前につくられたこの仕組みのおかげで、洋野町は本州でキタムラサキウニの水揚げ量がNo.1の地域になりました。
私達は先人が残してくれた「うに牧場」を活用し、非営利分野を担うmoovaと、ビジネス面から課題にアプローチする北三陸ファクトリーの両輪で、磯焼け問題の改善に取り組んでいます。
moovaでは、藻場(海藻が生える場所)、漁村、そして人と海の関係性の3つの再生を目指しています。具体的な藻場再生の取り組みとして、地元である岩手県立種市高等学校海洋開発科の生徒と一緒に、廃棄されるウニの殻を再利用して堆肥ブロックを製造し、海に沈めて海藻の生育を促す活動を行っています。
水産・海洋系高校は全国に45校程ありますので、藻場を再生させながら水産業に関わる人材を育成するというネットワークを更に広げていきたいです。
もう一方の北三陸ファクトリーでは、ビジネス面から藻場の再生に取り組んでいます。磯焼け海域からその原因となる老齢のウニを採取し、生け簀で育てて実入りをよくします。養殖前は廃棄料1個あたり5円のウニが、2ヶ月程度で100倍のプラスの価値を生み出せるビジネスです。2023年4月にはオーストラリアに現地法人を設立しましたので、この養殖技術を海外でも役立てていきたいと考えています。
ビジネスと非営利、両輪の取り組みで藻場を再生させ、漁業・水産業を30年後の次世代へバトンタッチできる産業にしたいと思っています。世界に誇れる北三陸へ向けて、漁村再生の取り組みに応援をお願いします。
東日本大震災で得た知見を世界へ。釜石とインドネシア・アチェを防災でつなぐ
細江絵梨(ほそえ・えり)さん/一般社団法人walavie 代表理事・一般社団法人根浜MIND JPP事業プロジェクトマネージャー・ローカルベンチャーラボ3期生
1987年東京都生まれ。東日本大震災後、岩手県へ移住し復興支援活動に従事。2017年より釜石ローカルベンチャー1期生として釜石市・根浜地域にて地域振興事業を実施。釜石ローカルベンチャー卒業後にJICA草の根技術協力事業でインドネシア・アチェ地域へ釜石の防災知見をシェアする活動を行いながら、「世界の知恵を紡ぐ」ことを目標に一般社団法人walavieを設立。現在、多様な価値観を許容しあう機会を若年層に提供する事業等を準備中。
私は現在、岩手県釜石市で海の防災・減災に取り組む住民主体の組織・一般社団法人根浜MIND(ねばまマインド)にて活動中です。JICA草の根技術協力事業(JPP)の採択を受け、東日本大震災を経て培われた釜石の防災に関する知見を、インドネシアのアチェ地域で広めていくという事業を担当しています。この活動から、2022年3月に一般社団法人walavie(ワラヴィ)を設立しました。
今日はJPP事業の取り組みや、walavieが目指していることをお話しさせてください。JPP事業の対象としているインドネシアのアチェは、2004年のスマトラ島沖地震で大きな被害を受け、国際的な支援が数多く入った地域です。ですが20年弱経った今、津波に関する防災教育が根付いていないことが一番の課題です。
50ヵ国以上からの支援を受けて設立されたアチェ津波博物館
アチェにはコンサルタントが作ったような見栄えのする防災計画があるものの、行政はそれを活かしきれておらず、実際にアチェを襲った津波の映像を見ても「フェイクニュースだ」として信じない市民さえいるような状況です。一方釜石では震災前から防災教育が行われており、特に海から500m程の近距離に位置していた釜石市立釜石東中学校・鵜住居(うのすまい)小学校の99%の児童・生徒は迅速に避難し、津波から逃れることができたという事例は広く知られています。
こういった釜石のノウハウを活かし、インドネシアのアチェに防災の取り組みを移転しようとこの事業を始めました。JPP事業では現地パートナーであるアチェ津波博物館と協力し、中学校を中心に地域と連携した防災システム作りに取り組んでいます。
こちらは今年(2023年)5月に訪問した現地の中学校の先生や博物館の職員のみなさんが、津波や地震がどうして起きるのか講義を受けているところです。釜石だったら小学生でも答えられるような基礎的な知識ですが、アチェでは学校の先生でさえあやふやです。現地の大学の先生にも協力してもらいながら、基礎知識の普及を行っています。
学びの振り返りには模造紙や付箋を使いましたが、インドネシアではそういった道具を使う文化がないため、1つ1つの作業が新しいものとしてとらえられました。私達にとっても新しい発見が多く、勉強になります。
一方で、JPP事業を通じて釜石側にも課題があると感じるようになりました。特に若年層とのコミュニケーションで感じるのは、コミュニティの狭さです。自分が快適に思う空間から一歩踏み出そうとする若者や高校生が少ないように思います。
このような現状には、機会の少なさも関連していると考えています。東日本大震災から時間が経つにつれ、地域外との交流の機会はどんどん減っているのが現状です。そこで釜石側の課題に寄り添ったプロジェクトとして、walavieでは若年層が海外と接する機会の創出を目指しています。
こちらは今年3月に仙台で行われた世界防災フォーラムに釜石高校と大槌高校の生徒を連れて行ったときの様子です。普段は外の取組に参加しない生徒にも声をかけ、がんばって全部英語で発表してもらいました。半ば強引にこういった場に引っ張り出していますが、最終的には学びと楽しさがあったようで、次はインドネシアに行きたいと言っている子もいます。
walavieは日本語の「3つのwa(和と輪と環)」と、フランス語で暮らしや人生を意味するla vieという単語を組み合わせて名付けました。ローカルとグローバルをつなぐハブとなることを目指して、本格的な活動に向けて準備を進めています。
今年度は復興庁の「地域づくりハンズオン支援事業」にも採択されたので、若年層向け事業の実施も考えています。三陸の子ども達を海外、特にアチェのような津波被災地につないでいきたいと思っていますので、ご支援の程よろしくお願い致します。
今回のピッチは、ローカルベンチャーラボの受講生やOBOG、次世代を担う若手起業家や、ローカルベンチャー協議会の自治体が、今まさに課題を感じて取り組んでいることを紹介し、関心や同じ価値観をもつ参加者と交流することを目的に開催されました。ピッチのレポートは、次の記事に続きます。
<関連リンク>
>> ローカルベンチャー協議会
https://initiative.localventures.jp/
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