人材が明らかに不足し、優秀な人材の奪い合いになっているなかで、重要なのは、応募者の「数」の獲得よりも「質」です。
応募自体の「質」を高め、長く共に働ける仲間を採用するためにはどうすればよいのでしょうか。そもそも、自分たちにとっての「優秀な人材」とは何なのでしょうか。
昨年リニューアルした求人サイト『DRIVEキャリア』が、NPOやソーシャルベンチャーの採用担当者を対象にしたイベントを開催しました。
ゲストは、個人と組織の幸せを願い、さまざまな活動を展開する長谷川亮祐(はせがわ・りょうすけ)さん。長谷川さんは2018年、アート集団「チームラボ」興行部門の採用責任者を経て独立。現在は、面白法人カヤックの社外人事を担当。さらに、高校生・大学生を対象に1on1ミーティングを無償提供する Otonatachi(オトナタチ一般社団法人)の活動を行っています。
今回、DRIVEキャリアのイベントレポートとして、ソーシャルセクターの採用で大事にしたいことをお伝えします。
長谷川 亮祐(はせがわ・りょうすけ)さん
Otonatachi mentor / founder・面白法人カヤック 社外人事
2018年、アート集団「チームラボ」興行部門の採用責任者を経て独立。 Otonatachi(オトナタチ一般社団法人)は、次の大人たちを支援する非営利団体。高校生・大学生が日々を謳歌するための新しい仕組み『1on1 college』をつくる。面白法人カヤック社外人事併任。これまでアートミュージアム『teamLab Borderless』(東京・お台場)事業開発、ポピンズ社長室、衆議院議員秘書、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)など。
ソーシャルセクターの採用の難しさ
NPOやソーシャルベンチャーの採用に特化した求人サイトとして立ち上げ、10年目を迎えた『DRIVEキャリア』ですが、最近「急激に採用が難しくなった」という声を多く耳にします。
それもそのはず。労働人口の減少で、採用市場全体で求人数に対して人材が足りない状態が長く続いている中、人材の奪い合いが激化しているのです。特にキャリアアップを目指す若手の人材は、転職市場に現れなくなりました。情報過多で、信用度が見えづらい求人メディアはほとんど利用せず、エージェントからの紹介や、ヘッドハンティングなどスカウトにシフトし始めています。
一方で「社会に役立つ仕事がしたい、仕事を通した社会貢献がしたい」という関心は高まっていますが、民間企業の求人数と比べても、NPOは圧倒的に数も少なく、情報が正しく届いていない状態だと考えられます。
これらの背景を前提として、採用弱者ともいえるNPOがとるべき方法は何か。今すぐできることは何か(しかもお金をかけずに、今すぐできることは何か)長谷川さんが関わった事例をもとに、ポイントを教えてくれました。
最も重要な「選ぶための準備」。「What」「Why」「How」とは?
長谷川さんは話します。「採用はまず、経営陣の意思決定によって始まります」。
「人員の計画、ポジション、予算などが決まり、採用担当者にオーダーとして降りてくるわけですが、オーダーのままに募集を始めても、なかなか理想の人材に出会えない、面接しても採用には至らない、内定辞退やミスマッチが起きるということがあります。採用がうまくいかない時は、欲しい人材に選ばれる準備の前に、自分たちが『選ぶための準備』に立ち戻ってみてください」
「選ぶための基準」とは、「採用基準」を的確にすること。
「採用がうまくいかないと感じる時は、いま一度、『What』『Why』『How』の観点から人材要件を問い直してみてほしい」。
●「What」=その採用基準は明確か?
採用条件でよく見かける「団体や会社のビジョンやミッションに共感してくれる人」や「リーダーシップを発揮してくれる人」。このことについて「共感とはどういう状態なのか?」「どういうタイプのリーダーシップを求めているのか?」、なるべく具体的に言語化できる状態にする。
「共感」や「リーダーシップ」と同じように、人によって捉え方が違う事柄に関しては特に注意が必要です。
●「Why」=求める要件の人は自組織で活躍しているか?
「What」で立てた具体的な採用条件に当てはまる人が自組織にいるかどうかを見てみる。さらに「その人は今の組織のなかですごく活躍しているかどうか?」と、問いを立ててみる。
もし、自組織にいて今でも活躍していたら、その人が何に惹かれ、どのタイミングで応募してきたのかリサーチを。もし組織にいたとしてもあまり活躍はしていないようであれば、採用以前にやるべきことがあるかもしれない。
求める人材要件に見合った人を過去に一度も採用できていない場合、基準が適切かどうかを振り返ってみてほしい。例えば「英語を話せる人がほしい」場合、基準は何とするのか、どのレベルがほんとうに必要なのか、レベルはどう測るのか、それはTOEICの点数なのか。「営業経験3年以上」となっている場合、営業経験を3年以上経験している人には、どんなことが確実に貢献できると保証されているのか。「大学卒業以上」は何が保証されているのか。「業務に最低限必要なレベル」をもう一度見直してほしい。
●「How」=どのように採用基準を確認するのか?
「What」と「Why」の問いで10個の採用基準が上がったとして、それらをどう確認するのかをすべて精査する。もし確認できないものがある場合、採用基準からは外すべき。
書類選考で何を書いてもらうか、面接でどんな質問をするのか、『共感している』という言葉に対して、どうその気持ちを確かめるのかまで担当者間ですり合わせをすること。できれば確認する人を決めておく。
長谷川さんの場合、チームラボ在籍時はもう一人の担当者と2人で「見る係」を分担したそう。長谷川さんは価値観担当、もう一人はスキル担当。価値観担当の長谷川さんは、自社で活躍することができるかどうか、活躍することでその人自身がハッピーかどうかを確認していたと言います。
「『見る係』を分担することで、二人とも余計 質問をすることなく、集中して確認・判断を進めることができました」。
また、当時の採用では、「スキルよりも価値観が合う人に採用の優先順位を置いた」とのこと。価値観が合うことが最も重要で、「合わない」と判断した人にはスキルを確認する必要がないため。選考はスムーズに進み、採用担当者たちの間で例え異なる意見が出たとしても、「価値観がよりフィットするほうはどちらか?」と、決めやすくなったそう。
ターゲット像を明確化→自分たちの価値を欲しい人材へ確実に伝える
採用基準を決める「What」「Why」「How」を具体化させることで、「こういう人」とターゲット像が明確化されていくと長谷川さん。そうすると、次に考えたいのは、「その人は普段どんな気持ちで生きていて、仕事探しをしているのか。仕事探しではどんな行動をするのか」とターゲット像の立場にたち、採用方法を決めていくこと。
つまり、どんな媒体を選び、どんな写真と文章で求人情報を届けていくのか、を実際に形にする。これらが「選ばれるための基準」となっていく、と長谷川さんは話します。
「『選ばれるための基準』で重要なのは、自分たちの団体や組織の強み、特徴、独自の価値を訴求すること。ミスマッチを起こさないためには、この段階では自分たちについても顧みる必要があると思います。
社会課題の解決を第一の目的に事業をされている団体・企業では、採用の活動に力を注ぐことは大変な面もあると思います。しかし、やはり組織や事業は人ひとりひとりが作っていくのだとも思っています。僕は少しでもサポートできることを提供していけたらうれしいです」
今回は採用戦略のなかでも、長谷川さんが最も重視したいと話す、3つの「選ぶ基準」のポイントをご紹介しました。今後、みなさんの採用活動の参考になれば幸いです。
DRIVEキャリアでは、ソーシャルキャリアを考える方向けのイベントを行なっています。NPOで働いている方や、人事戦略のヒントにもおすすめです。今年は、まず1月29日(月)から、社会課題解決を目指すNPO・ソーシャルベンチャーからゲストを迎えたイベント「SOCIAL CAREER WEEK 2024」を開催します。NPOでのキャリアの積み方や、株式会社との違いなど、ソーシャルキャリアに関する気になるアレコレを深堀りします。
■開催期間 : 2024/01/29(月)〜2024/02/09(金)
https://social-career-week2024.studio.site/
また、イベントや勉強会等に関して、「こんなテーマで開催してほしい」といった声も歓迎しています。この記事への感想、その他興味・関心があることなどがあればお気軽にお寄せください。
>> DRIVEキャリアへのお問い合わせはこちら
https://drivecareer.etic.or.jp/contact
ソーシャルセクターでの採用活動に関連した記事はこちら
>> ソーシャルセクターの採用活動のポイントを代表や担当者にインタビュー
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