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#経営・組織論

“支援する、支援される”の関係を越えた、社会変革のパートナーへ(後編)〜 戦略コンサルタントがソーシャルビジネスコンサルプロジェクトにみる醍醐味

2017.05.18 

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下デロイト)認定NPO法人ACE(以下ACE)が、デロイトの「ソーシャル・イノベーション・パイオニア(以下パイオニア)」プログラムをきっかけに協働を始めています。通常、コンサルティングファームによるNPOへのプロボノは、支援する・支援されるという関係にとどまりがちですが、ACE・デロイトはどのようにして社会変革のパートナーへと発展したのでしょうか。

今回の後編では、主にデロイトチームより、戦略コンサルタントとしてのソーシャルビジネスに対するコンサルティングの醍醐味を語っていただきます。

>>前編「ACE・デロイトの総合力で、日本企業の児童労働問題解決を前進させる」はこちら

デロイト石井麻梨氏(左)、執行役員/パートナー・レギュラトリストラテジー リーダー羽生田慶介氏(中央)、石曽根道子氏(右)

デロイト石井麻梨氏(左)、執行役員/パートナー・レギュラトリストラテジー リーダー羽生田慶介氏(中央)、石曽根道子氏(右)

全員が、自ら手を挙げての参画

デロイト羽生田さん(以下、羽生田):今回のプロジェクトを自身でリードしようと思った理由はいくつかあります。まず、これはデロイトだけの話ではありませんが、課題解決の専門家を名乗るコンサルタントたるもの、そのタイミングでなんとかすべき重要な事柄(問題)にアプローチする権利と義務があると考えています。例えば、児童労働をそのとき「なんとかすべき」問題であると思ったら、コンサルタントとして間に立って解決しようとすべきなのです。所属する組織に業務の所掌が制限されることの多い事業会社や行政機関とは違い、組織に縛られないのがコンサルタントのレゾンデートル(存在理由)です。

また、最初のタイミングで、このプロジェクトを成功させることに勝算があると思えたことも重要でした。プロジェクトを立ち上げる際には初日から一定の仮説があり、それを検証していくのが戦略コンサルティングの思考です。ACEさんの課題を拝聴し、課題である事業収入の拡大は、今まで培ってきた戦略コンサルタントとしてのスキルや方法論で解決できると考えました。

また、私個人のアスピレーション、熱意についてお話ししますと、私のやりたいことは、次世代に残るなにかを作ることです。今回の仕事はまさに、次の世代に残るものそのものですから、やりがいがあります。さらに、実はこれまでも子どもを支援するNPOへ寄付をしていたりと、個人的に子どもが好きということもありました。こうしたアスピレーションもあったのですが、それだけではお引き受けはしなかったと思います。アスピレーションと勝算がそろったからこそ、お引き受けしました。

 

デロイト石曽根さん(以下、石曽根): 私は博士課程で国際開発の研究をしていて、開発途上国へフィールドワークに行ったりしていましたので、今回は念願のプロジェクトについたという感じでした。アフリカの企業を支援する仕事もしていましたし、このチャンスは逃したくない、興味がありますと手を挙げて、他で忙しくなってもこれだけはやらせてくださいとお願いしました。

 

デロイト石井さん(以下、石井): 私は小さいころパリに住んでおり、郊外の路上で物乞いをしている子どもを見たことなどがきっかけで、たまたま置かれた境遇によって不利益を被る人をなくしたいという思いがずっとありました。今は本業と並行して国内の児童養護施設の子どもに関わるNPOでも活動をしているのですが、そんな話をしていたときに、羽生田から「こんなプログラムあるけど関心ある?」と声をかけられたので、「もちろん。入れてください!」とお願いをして。幸運にもタイミングが合い参画が叶いました。期間中、仕事の100%をこのプロジェクトにコミットしました。

戦略コンサルタントの強み、経済合理性の具備をソーシャルインパクトの拡大に活かす

羽生田: 今回の主なミッションは、ACEさんの事業収入を拡大しながら、企業と人権問題をつなげ、企業の人権リスクへのソリューションを高めること。もう一つが、ACEさんが児童労働の問題に関するルール形成をしていくサポートです。これらによって、ソーシャルインパクトを拡大していこうと考えました。

そもそも社会課題解決に取り組んでいるのは、我々コンサルティングファームだけではありません。各アジェンダに対する多くの専門家が政府やNPO、NGOにいる中で、我々ビジネスコンサルタントが生み出せる価値のひとつが「経済合理性の創出」だと考えています。

世の中で採られている社会課題解決のアプローチの多くが、多くのコストをかけて問題を縮小しようとするものです。そのコストが誰かしらの資金提供や税金で賄われています。このアプローチでの対応で十分成果が出ており持続可能性がある場合には、我々コンサルティングファームの参画の必要はないでしょう。ですが、課題の解決のプロセスで動く経済が「コスト」だけでは、運動エネルギーが極めて限定的になってしまうはずです。そこで我々が、誰も儲からないと通常考えられているような社会課題解決の活動のなかで、マネタイズできる主体を見つける。またはイノベーティブなビジネスモデルを考案することで、誰かが儲かるような方法で社会課題解決を行う。これによって一気に世の中を変えることができると信じています。

我々自身のバリューのもう一つは、ルール形成やアドボカシーです。ACEさんが1997年から直接1000人の児童労働を救ったという発表がありますが、より大きなインパクトをつくるために、世の中のルールそのものを変えていくことにも取り組んでいます。通常のコンサルティングファームでは扱われませんが、デロイトはルール形成やレギュラトリストラテジーに専門性があります。人権分野や児童労働関連においても大きな変革を起こすため、今後もビジネス分野を中心としたルール形成やレギュラトリ支援にも取り組みます。

(※レギュラトリ支援:ここでの意味は規制・ルールの構想・形成支援、またその実施に向けた戦略構築支援のこと)

世の中を変えるための数字作り

羽生田: (前編で紹介した)児童労働が明るみに出た企業への不買運動の結果、失われた売上高をシュミレーションしたグラフは、企業の意識を大きく変えるツールとなるはずです。

児童労働対策にはどの会社も総論で賛成です。それでも意識や美徳だけで企業は動けません。児童労働問題に起因する問題のインパクトや、その大きさを見せることが、欠けているピースだということが実体験や仮説としてありました。数字のなかでも、損益計算書でいう営業利益から上の項目に影響があると気づいた場合、企業の意識は大きく変わります。

 

ACE岩附さん(以下、岩附): 「こういうのがあればいい!」とは思いましたが、数字をつくってこられるとは思いませんでした。

 

羽生田: コンサルタントに作れない数字は存在しないというのが私の考えです。数字をでっち上げるという意味ではなく、客観性やロジックをもとに定性的なストーリーを数字に置き換えることができる再現可能なスキルがあるのがコンサルタントです。もちろん計算の仕方や根拠の粒度はその数字を使う目的次第で変わります。出資先に提示して説明するための数字の作り方と、多くの人にわかりやすくインパクトを伝えるための数字の作り方はトーンが違います。今回は企業が気づき、世の中を変えるための数字作りでした。

 

石曽根: 「これじゃ世の中に出せない」とか、「これじゃバリューがでない」と羽生田に叱咤激励を受けつつ、この数字が世の中を変えるんだ、と思いながら作りました。大学院で人権や途上国開発の研究をしてきましたが、そこでも定性的なデータはあるんですが、定量的な数字はあまり出回っていなかった。企業がこの数字によって意識を変えていくというところをモチベーションに頑張りました。

資料の説明をする石曽根氏(左)

資料の説明をする石曽根氏(左)

NPO・NGOのアントレプレナーシップないしはスタートアップの要素について

羽生田: 我々にも学びが大いにありました。今時のNPO・NGOの人たちは、アントレプレナーないしはスタートアップの要素が強いということです。ACEさんにしても、児童労働問題を解決する中で国内外でいろいろな仕掛けをしています。一定の業務を粛々とするのではなく、手を替え品を替えいろいろ試して、うまくいかないところは捨てたり、他人と手を組んでみたりしている。それはまさにスタートアップ企業が持つ風土やスピード感に他ならない。NPO・NGOへのコンサルティングと聞くと旧来型の非営利組織をイメージして、そこに対する支援だという感覚があるかもしれませんが、全く違います。利益の取り方は一般的な企業と同じではありませんが、ACEさんをはじめとする先鋭的なNPO・NGOは、課題解決のために日々新しい事業を仕掛けている起業家なんだ、というのが我々の多いなる学びだと感じています。

そんな日々進化している方々なので、一回一回のミーティングも緊張感があります。毎回の我々とのミーティング自体に価値を感じていただく必要性を強く認識していました。今日会ってよかったね、また次も会いたいねと毎回のミーティングで思っていただくことに大きなチャレンジがありました。お会いしていない1~2週間の間にも事業をどんどん変えて、進めて行く、そのスピード感が、大企業を相手にしているときとはまったく違う。 そしてそこには当然、我々が用意してきた資料にはまったく出てこないアジェンダがあったりするわけです。日に日に状況が変わる中で進化するお二人に、コンサルタントも鍛えられました。これからの協働においても、新しいこと仕掛けていけるのが楽しみです。

 

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社は、第2回「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラム参加団体を募集します。

 募集するテーマは、下記の2つです。

1)サプライチェーン全体を視野に入れた持続可能でエシカルな生産・消費の実現

2)女性・若者・外国人を含む多様な人々の就業・経済的自立支援

 

詳細はデロイトの「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラムウェブページにて5月下旬に掲載されます。

<今後のスケジュール(予定)>

5月下旬 : 第2回プログラム公募開始

6/20(火) : プログラム説明会(於 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)

6月末 : 公募締切

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本木裕子

1984年生まれ。大学卒業後、外資系消費財メーカーや国際協力NGO、日系企業での海外勤務等を経てNPO法人ETIC.に参画。ソーシャルビジネスの創業や成長支援に携わり、人を応援することへの興味を深めているところ。

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