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「心が傷ついた少女たちを助けたい」子どもが大人に頼れる場をつくる京都の子ども食堂―NPO法人happiness

2023.11.30 

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NPO法人happiness

・居場所づくりで大切にしたいのは、楽しいこと、大人が子どもと一緒に考えること。しんどいことはこっそり聞く。

・親の虐待から逃げてきた少女たちに願うのは、「生きていてよかった」と思ってくれること。

・子育てはほどほどに。頑張りすぎると困った問題が起こる原因にも。まわりに助けてもらいながら楽しんでくれたら。

 

京都の住宅街に、地域の子どもたちが集まる食堂があります。「ハピネス子ども食堂」。2016年に「NPO法人happiness」(ハピネス)代表の宇野明香(うの さやか)さんが仲間と立ち上げ、以来、子どもたちを支える活動を広げています。今年春「みてね基金」は第三期 ステップアップ助成に「happiness」を採択し、事業運営の基盤づくりなど伴走支援をしています。今回、宇野さんに子どもたちへの想い、特に「知ってほしい」と話す、親からの虐待で心が傷ついた少女たちを支える活動について伺いました。

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NPO法人happiness 代表の宇野明香さん

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

「自分を受け入れてもらえた」実体験が人生を変えた

 

宇野さんが「ハピネス子ども食堂」を始めたのは、2005年に初めて出産を経験してから11年後。大きなきっかけは何だったのか、宇野さんに質問をすると、「子どもの頃からの体験が大きいです」と話してくれました。

 

幼少期から厳しい家庭環境で育ったこと、その後、公的な経済的支援や子どもの支援を受けることがないまま一歳年下の妹との自立を強いられ、少女から大人になったこと――。そんな宇野さんの人生を大きく変えたのは、夫と出会い、夫の家族に「そのままの自分を受け入れてもらえている」と実感できる日々を経験できたことでした。

 

「夫の家族は、私をすごく大切にしてくれました」と、宇野さんは義理の両親が出会った頃からたくさんの愛情を注いでくれた思い出を一つひとつ語ります。わが子を産んだ時には、「こんなに大事なものがこの世にあるとは思えへんかった」と、初めて感じる愛おしさに驚きを隠せなかったそうです。

 

同時に、宇野さんが想像したのは、自分と妹に理不尽な思いをさせた実の母親の気持ちでした。「年子二人の子どもを一人で育てることに限界を感じたのだろうか」。母親の孤独な状況が思い浮かんだ時、過去の複雑な感情が消化されたと言います。

 

「でも、子どもには何の罪もありません。子どもは生まれる環境を選べない。それなのに、生まれ育った環境で将来の道が決まってしまうのは不公平だと思いました。どうにかできへんのかなと。自分が親になった時から、『子どもを支える活動がしたい』とずっと思っていました」

 

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近所の公園の地域イベント。気軽に声を掛け合える親子との一コマ

 

一緒に考える大人がいる子ども食堂

 

「今も、昔の私のように親の虐待や経済的に苦しい環境でつらい思いをしている子どもがいるはず。私は、子どもたちと一緒に考えられる大人、頼ってもらえる大人になりたい」

 

宇野さんの想いは、育児中に高卒認定を取り、就職をした後に新聞記事で知った子ども食堂(*1)を実現させる大きな力となりました。当時、紙面に掲載された子ども食堂へ実際に話を聞きに行き、行政や関連団体への相談を重ねるなど入念に準備をし、7年前、人事の仕事をしながら子育て仲間や元同僚たちと一緒に「ハピネス子ども食堂」を月二回運営を開始、現在は、週三回、数十人のボランティアスタッフと協力しながら地域に開いています。

 

「まずスタッフが楽しめることを大切にしています。子どもたちにとっても楽しい場であってほしいですね。そのためにも、スタッフや食堂を訪れる人に対して何も強制しないし、誰でも来ていい場所にしています。お母さんたちだって、週一回でもご飯を作らんでいい日があったら最高じゃないですか。子どもも大人も来てもらって、『もし、しんどいことがあるんやったら、こっそり聞かして』って思っています」

 

ただし、子どもたちの言葉にならないSOSは見過ごさない。気になることがあれば気持ちを聞きながら、その子にとってベストな選択を一緒に見つけていきます。

 

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「happiness」のスタッフとボランティアの皆さん。地域イベントにて

 

親の虐待から逃げたい少女たちを支える場が足りない

 

「ハピネス子ども食堂」を中心に学習支援、コミュニティカフェの運営など活動の幅を広げている宇野さんたち。現在、最も力を入れているのが、親の虐待から避難した少女たちを生活面、就労面などでサポートする活動です。

 

「少女たちの支援は、もともと子ども食堂に来ていた子たちのために始めました。10代半ばくらいになると、『家に居づらい』と言って夜出歩くようになる子がいて。危険な目に遭わせないために、まず安心して寝泊まりできる場所をつくったんです」

 

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まずは安心して寝泊まりできる場所を

 

宇野さんによると、保護者のもとで暮らせない子どもを公的責任で養育する仕組み(社会的養護)が日本にはあるものの、暮らす地域の児童養護施設(*2)に空きがない、年齢制限の18歳を超えているなどの理由で施設に入所できない子どもたちは、就労支援も行う自立援助ホーム(*3)に行く場合が多いとのこと。京都市では児童養護施設も自立援助ホームも数が不足している状態なのだそう。

 

「中学生以上の女の子たちが親の虐待から逃げたくても、受け入れ先が圧倒的に足りません。一時的に保護されたとしても、その後、児童養護施設などに入れなければ保護者のもとに帰されてしまいます。そうすると、子どもたちはまたしんどい日々を送るしかなく、大人への信頼感もどんどん削られてしまいます。『どうせ誰も助けてくれへん』と。行き場のない女の子たちの支援が不足していることを大きな問題として多くの人に知ってほしい」

 

「もっと早く誰か気づけなかったのか」。宇野さんは少女たちと関わるなかで数えきれないほどやり切れない思いを行動に変えてきました。少女たちの支援を行う他団体、また医療機関などから専門的な知識を得て、手を借りながら、彼女たちを支える体制づくりに奔走しています。

 

「例えば、『happiness』では行き場のない少女たちに宿泊シェルターの『ハピネスハウス』を提供していますが、安全に住める場所が確保できたとしても、傷ついた心がすぐ元気になるわけではありません。

 

彼女たちは生まれた時から、親が求める自分でいることを強制されてきました。自分自身を見失っていて、『自分らしく生きるって何?』という子も多いです。自分が何を好きなのかもわからない。そういう女の子たちとの出会いは、『生きているのがつらい』という状態から始まっています。だから、まずはとにかく『生きていてよかった』と思ってほしいです」

 

少女たちの心が健康な状態になるために、「彼女たちにとって、逃げないでそばにいてくれる人の存在がすごく大事です。私もそうありたい」と宇野さんは話します。

 

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逃げないでそばにいてくれる人の存在が大切

 

「生活支援や就労支援から女の子たちが卒業する目安は、自分の意志をもって一人暮らしの住居が確保でき、安定した収入が見込めることですが、支援が終了した後も継続して関わるようにしています」

子どもたちには幸せになってほしいから

 

宇野さんにとって、少女たちを支える活動で印象的だったのは、支援を受けていた少女が、自分から「進学したい」と言ってくれた時のこと。「将来、やりたい仕事に就くための資格を取りたい」と。

 

「出会った頃はいつも死ばかりを考えていて、生きる希望をなくしていました。だから、自分の将来のために変わろうとする姿を見ることができてすごくうれしかったです」

 

「私たちがそばにいることを必要とする子がいる限り、活動を続けたい」宇野さんは力を込めます。

 

「彼女たちの心がたくさん傷ついてしまう前になんとか助けたいと思っています。私たちが関わってきた子どもたちには幸せになってほしい。『いろいろな大人があなたたちを大切に思っているよ』と伝えていきたいです」

 

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「いろいろな大人があなたたちを大切に思っているよ」

 

誰かを頼れるように

 

少女たちとの関わりを通じて、「親の支援の必要性も感じる」と宇野さんは話します。

 

「親御さんが子育ての悩みを気軽に相談できる先がもっとあればいいのにと思います。例えば、子どもの発達で気になることも早期に相談して適切なケアを受けられれば、問題を未然に防げることが少なくないんです。私たちは子どもの支援が中心ですが、親御さん自身の生まれ育った環境、発達の特性、パートナーからの身体的・精神的暴力、経済的な困窮など、親御さんの事情を知ると、一方的に加害者だと言い切れない気もします」

 

最後に、日々頑張るママやパパへの言葉をお願いすると、宇野さんは「子育てはほどほどでいいと思います」と気持ちが軽くなるような一言をくれました。

 

「頑張りすぎると返っていろいろな問題が生じることもあると思います。子育てを楽しんでほしい。と言っても、私も子どもたちが小学生の頃までは毎日大変で、『キーッ』ってなっていましたけれど(笑)。お互いさまの気持ちで、みんなに助けてもらいながら子どもを育てられる社会になるといいなあと思います」

 

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子育てを楽しんで

 

とはいえ、もしかしたら「迷惑をかけたくない」と人に助けを求めることをためらってしまう人も多いかもしれません。どうすれば、もっと人を頼れるようになるのでしょうか。そう問いかけた時には、宇野さんは実感を込めてこう答えてくれました。

 

「人を頼るって難しいですよね。自分もそうでした。ただ、誰かの力を借りなければ生きてこられなかったかなと思うこともあって。私は誰かに助けてもらえて、助かった経験があります。

 

私は、助けてもらうことのしんどさも、助けてもらうことのありがたさもわかる経験をしました。だからこそ、今は平気でいろいろな人に『助けて』と言えていると思っています」

 

例えば、自分を頼ってほしいと思ったら、宇野さん自身がすすんで誰かに助けを求める。そういった姿を親御さんたちに見てもらうことで「頼ってもいいんだ」と、自然と頼ってくれる人が増えていく――。こんなふうに、「困ったら誰かを頼ろう」と思ってもらえるような見本になりたい、と宇野さんは考えています。

 

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すすんで誰かに助けを求める。そういった姿を見てもらうことで自然と頼ってくれる人が増えていく

 

「もし、目の前に助けが必要だと感じる人がいたら、その人が『申し訳ない』と遠慮しなくてもすむような助け方ができるといいですよね。

 

忘れ物をしていたら、『これ忘れてんで』とさりげなくその荷物を渡すように。相手の人が負担を感じなくていい頼られ方ができるようになりたいです」

< 取材後記 >

 

宇野さんは、子どもたちや少女たちを継続的に支えるために、スタッフのみなさんにとっても「しんどいことを含めて何でも言える環境」を大事にしているそうです。「私も弱さを見せるから、あなたも何でも言っていいんだよ」。大人たちのそういった思いのやりとりは、子どもたちの心に確かに届くのだろうと思いました。「自分を頼ってほしいと思ったら、自分が助けられる姿を見てもらう」というお話もぜひ実践したいと思います。ありがとうございました。(たかなしまき)

 

オープンで何ものも受け入れてくれそうな宇野さんの温かい雰囲気を取材中ずっと感じました。一人の女性の想いから始まった小さな活動が周囲を魅了し、時に人の心の琴線に触れながら、ポジティブな軌跡を残していく様子が目に浮かびます。これからもご活躍を心より応援しています。(みてね基金事務局 せき)

 


 

フォトグラファー : KØÜKÏ / こうき

Lovegraph(ラブグラフ)フォトグラファー。「どんな時でも誰にでも見せられる写真を撮る」事を大切に。関西を中心に活動するフリーランスのカメラマン

 

*1 子ども食堂 :  子どもの育ちを支援する重要な役割を果たしている子ども食堂は、子どもの貧困対策や地域交流の拠点として重要な役割を果たしている。

*2  児童養護施設 : 保護者のいない児童や保護者に監護させることが適当でない児童に対して、安定した生活環境を整え、生活指導、学習指導、家庭環境の調整等、また養育を行い、児童の心身の健やかな成長とその自立を支援する機能をもつ施設のこと。

*3  自立援助ホーム(児童自立生活援助事業) : 義務教育を終了した満20歳未満の児童等、大学等に在学中で満22歳になる年度の末日までにある者(満20歳に達する日の前日に自立援助ホームに入居していた者に限る)、児童養護施設等を退所した者、またはその他の都道府県知事が必要と認めた者に対し、共同生活を営む住居(自立援助ホーム)において、相談その他の日常生活上の援助、生活指導、就業の支援等を行うこと。

 


 

団体名

特定非営利活動法人happiness

申請事業名

若年層少女のための緊急生活相談対応・宿泊支援事業推進に向けた運営基盤等の強化

 

 

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みてね基金子育て寄付
この記事を書いたユーザー
たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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