「農業DX」という単語が出て久しい中、AI×衛星データで農業DX化を日本と世界で牽引しているのは、坪井 俊輔さん率いる「サグリ」。最先端のデジタル技術を駆使して農業の持続可能性を高め、生産性を向上させることを目指しています。
デジタル技術を農業に応用することで、伝統的な方法とは異なる新しいアプローチを模索し、農業の未来像をどのように描いているのか、その思考プロセスと行動に迫ります。
坪井 俊輔さん
サグリ株式会社 代表取締役 CEO / 株式会社うちゅう 創業者 / TOKYO STARTUP GATEWAY2016セミファイナリスト
横浜国立大学理工学部機械工学・材料系学科を卒業。2016年民間初、宇宙教育ベンチャーの株式会社うちゅうの創業及び代表取締役CEOを務める。2018年に衛星データやAIなどのデジタル技術を活用し、農業の経営発展と脱炭素社会に貢献することを実現すべく「サグリ」を創業。MIT テクノロジーレビュー 未来を創る35歳未満のイノベーターの1人に選出。農林水産省 「デジタル地図を用いた農地情報の管理に関する検討会」 委員。経済産業省「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた若手有識者検討会」委員。ソフトバンクアカデミア生。Forbes 「世界を変える30歳未満30人」の1人に日本版およびアジア版で選出。自由民主党デジタル社会推進本部リバースメンター。
公式サイトサグリ:https://sagri.tokyo/
公式サイトうちゅう:https://uchu-next.space/
聞き手:栗原 吏紗(NPO法人ETIC.)
衛星データを活用して農業課題を解決
―今取り組んでいるプロジェクト・事業を教えてください。
衛星データを通じて農業の課題を解決することを目指しています。
事業としてはアクタバ、デタバ、サグリの三つのソリューションを展開しています。
アクタバは、衛星データで耕作放棄地の早期発見を可能にするサービスで、優先的にパトロールすべき箇所を把握することができます。タブレット一つで調査から結果登録まででき、データをまとめて管理することが可能です。
デタバは作付け調査を簡単に把握することを可能にするサービスで、作物分類レベルで約8割以上の精度を実現しています。 そして、サグリは農業従事者向けに土壌の状態や生育状況を一括で見える化し、肥料コスト減に貢献しています。
サグリ導入で肥料使用料を2割削減することが可能
きっかけはルワンダで見た「現実」だった
―事業をはじめたきっかけはなんですか?
「地球と人類の共存を実現」するというビジョンを掲げているんですが、非常に抽象的だと思っています。具体的に言うと、子どもたちの未来をどう作るかということです。
2016年に創業した「株式会社うちゅう」では、宇宙分野に関する教育事業を行っていました。
TSGの参加と同時期にルワンダで小学生向けに宇宙に関する教育イベントを開いた際、学校に行けず親の手伝いをする子どもを目の当たりにしました。教育イベントを開いた学校自体は日本からの寄付で運営しているのですが、農家になる子が多かったんです。
最後に子どもたちに夢をそれぞれ発表してもらったんですが、「夢を実現したいけど、できないことも自覚している」子どもが多かったんです。こうした状況を変えたいと思い教育事業を始めたのですが、教育だけでは解決できないと感じ、だったら農家になる子どもも多かったことを踏まえて、農業をより良いものにできたら子どもたちは学校にも通えて自分の夢を目指すことができるかもしれないと思いました。
―サグリのビジョンを実現するために取り組んでいることはなんですか?
農家さんの状況でいうと、飼料価格がコロナ前の約2倍に高騰していて、まずここを削減しないと農家さんの収入が大幅に減ってしまうんです。
肥料を削減するためには土壌分析をして土の状況を把握する必要がありますが、費用やコストがかかってしまいます。 そこでサグリでは、AIによる衛生解析を用いて、農家さんは自分の農地だけ登録していただければ自動で解析が始まり、現況を把握することができる仕組みを整えました。 世界中の農地に届けるためには区画が必要だったので、区画も衛星から作る技術を構築しました。
文字が読めなくても農地ごとに色のグラデーションで把握することができる
2030年までに、世界中に10億人戸以上の農家さんがいると言われているうちの10%に届けられる状況を作っていくのが目標です。
さらに農家さんの所得を上げるために、カーボンクレジットにも取り組んでいます。 カーボンクレジットとは地球温暖化を引き起こすガスの排出量を売買する取引のことで、 農家さんが肥料を削減することでカーボンクレジットを創出し、発行されたカーボンクレジットを企業に販売することで、販売益を農家さんに還元する仕組みです。
カーボンクレジットの仕組み
「アントレプレナー」ではなく「経営者」に
―起業する上で苦労したことはありますか?
家族の賛同が得られないことや、学業で時間が取れないこと、起業に必要なスキルがない、資料作りが苦手、人に任せるのが苦手……。資金がない、人脈がない、仲間がない、リソース全部です。
人に任せるのが苦手なことで、自分は失敗してどんどん成長する傍ら、周りがついてこれないことがありました。
―どのようにそれを乗り越えていきましたか?
なぜ人に託せないかというと失敗が怖いからだと思っています。人に任せて失敗したとき、その人を責めていたんですが、他責にせず会社で何が起きても自分の責任だと捉えるようにしました。責めるのではなくて、「なぜ自分は責めているのか」「何があれば失敗しなかったか」というようにマインドシフトしました。
最初はアントレプレナーだったんですが、組織で対応しないと本当に叶えたい未来は作れないと思います。 アントレプレナーは何か課題を発見してそこに対して思いを持って取り組むきっかけを作る人。ブースターを出してある程度までは進むかもしれませんが、途中でエンジンの補給が必要になります。叶えたい課題が小さければ可能かもしれませんが、大きな課題に立ち向かうには難しい。
一方で、どういう世界を創りたいのかをメンバーに示すのが「経営者」。
失敗した理由を一緒に考え見つけて次のステップに進めるようにすることは、チームビルディングの重要な部分だと思っています。
また、うちゅうを立ち上げてから、初期の段階でサグリの活動に取り組み集中する中で、株式会社うちゅうの代表を譲る際には、スタッフや自分にも葛藤が生まれました。 外部から招いた代表や、これまでチームを支えてくれていた共同代表にはそれぞれの想いがあり、スタッフやメンターなどと丁寧に会話をしながら権限移譲の方向を模索していきました。
今サグリに集中して取り組めているのは、原点である子どもたちのための教育をうちゅうのスタッフが自律的に行ってくれているおかげです。 農業の仕組みも教育の仕組みも、次の世代にもっと良い世界を残していくにはどうしたらよいのかを常に考え続けています。 スタッフは一緒に世界を作っていく仲間だと思っています。
同じ北極星を目指せる人です。
坪井さんとチームメンバー
「Active Ownership」「One Team」「Focus on Impact」をバリューに掲げているのですが、 ゴールを達成するためのマインドやモチベーションを鼓舞し合えることが大切。
スタッフ一人一人が主体的に動き、一緒に解決をして乗り越えていこうという姿勢をもっているからこそ、大きな社会課題の解決が実現できると考えています。
スタッフがどういう人生や歩みをしたいかを聞きますし、スタッフ自身にも考えてもらっています。サグリの組織が好きだからこそ、個人個人のパフォーマンスが上がって、サービスを届けたい人たちによりハッピーな状況を届けられるという状態を大切にしたいと思っています。
子どもたち向けに宇宙教室・ドローン体験を行っている様子
ー自信を無くしたり、逆境に陥った時の立ち直り法はありますか?
叶えたいと思ったときのシーンを思い返すために、写真を貼っています。
自分にとって大切な写真を見ることで、マインドが整う気がします。
あとはメンターと話をすること。
事業をしていると、笑う人に遭遇することやできないと思われることも多く、そうすると孤独なんですよね。
そういうのを鵜吞みにしてしまうと躊躇してしまうので、自分を応援してくれる人に巡り合えたのは僕としては大きかったです。
―TSGはどんな価値がありましたか?起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。
一緒に切磋琢磨し合える仲間に出会えたことは一番大きな財産ですね。
あとはセミファイナルで落ちてしまったことはやっぱり悔しかったです。
自分がPRしきれなかったことで、伝えきれなかったことへの漠然とした悔しさや不安もありました。同世代の仲間に差を感じたこともありましたが、人と比較しては駄目だという気づきも得ました。
―これからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
私自身は何もないところから始まって、いろいろな仲間やメンターに出会えたからこそ今挑戦できています。「今自分に何もないから〇〇だ」とか全く決めつける必要はなくて、 きっかけの一つがあってもなくても、まずは飛び込んでみるといいと思います。
世の中の社会課題がある中で、自分一人では到底解決できない規模の課題に向き合ってくれる仲間に会えたらうれしいと思っています。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
様々な起業家たちのチャレンジをぜひご覧ください。
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