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人の活動を豊かにしながら、自然も回復させたい。南三陸をフィールドにネイチャーポジティブ人材を育成する太齋彰浩さん

2024.09.12 

リジェネラティブやネイチャーポジティブの領域に挑戦する起業家、研究者、企業人のインタビューをお届けする「【特集】PLANET KEEPERS 〜住み続けられる地球を次世代へ〜」

 

初回は、東北大学生命科学研究科客員教授で、宮城県南三陸町で海洋調査や企業・学校での人材育成、地域資源活用のコンサルティングを行う「一般社団法人サスティナビリティセンター」の代表理事・太齋 彰浩(だざい あきひろ)さんにお話を伺いました。

 

一般社団法人サスティナビリティセンター」の活動、そして東北大学に設置された、「ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点(NP拠点)」での活動について聞きました。

 

この記事は、リジェネラティブやネイチャーポジティブの領域での起業家・研究者支援、次世代人材育成を柱にしながら、推進に必要なリソースが集約され還流するエコシステムを、企業・地域・アカデミア・環境団体と共につくっていく「PLANET KEEPERS」プロジェクト(事務局NPO法人ETIC.〈エティック〉)が制作しています。

 

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太齋 彰浩(だざい あきひろ)さん

一般社団法人サスティナビリティセンター代表理事、東北大学 生命科学研究科 客員教授

筑波大学環境科学研究科修了(修士・環境科学)。民間の研究機関で、海洋生物・生態学研究に従事後、地域密着型の教育活動をこころざし、志津川町(現・南三陸町)へ移住。使われなくなった箱もの施設を再生し、志津川湾を学びのフィールドに変えることで年間数千人の交流人口を創出。

東日本大震災で町が壊滅的な被害を受けた後は、行政職員として水産業復興の計画づくりと資金獲得に奔走する。一方で「地域循環の仕組みづくり」にも注力し、南三陸町バイオマス産業都市構想の実現に貢献。地方創生・官民連携推進室に異動後は、町の総合戦略立案に向け、民間の推進会議委員と共に、ファシリテーターとして前向きで活発な議論の場を創出した。

そこでの議論を基にして、地域課題を自分事とする有志と共に「いのちめぐるまちづくり」を加速させる地域資源プラットフォーム構想を発案。構想実現のため、自らも役場を退職し、2018年4月、一般社団法人サスティナビリティセンターを設立。現在は代表理事としてその運営を担う。

 

東日本大震災で町の海が壊滅。復旧が叶わないなら、すべてを活かして持続可能な地域をつくろうと思った

――太齋さんのこれまでの歩みを教えてください。

 

生物学を学んで、大学院卒業後は民間の研究所で6年ほど、海洋生物・生態学研究をしていました。ただ、自分は研究よりも人と交流をしながら、実践的に取り組むことの方が向いているかもしれないと感じ、地域で人材育成に関わりたいと思っていたんです。そのような中で縁があり、2000年から志津川町(現・南三陸町)の役場の一部署である自然環境活用センター(ネイチャーセンター)で働くことになりました。

 

その11年後、震災が起きて、復興のため奔走する中で感じたことをもとに有志と共に地域資源プラットフォーム構想を発案し、「一般社団法人サスティナビリティセンター」を立ち上げました。

 

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ブルーカーボンの取り組みで、アマモ移植をしている最中の太齋さん

 

――サスティナビリティセンターの構想には、どのような背景があったのでしょうか。

 

大学時代に通っていた臨海実験所では、さまざまな方が日々訪れて、知の交換がなされていました。とても刺激的な環境だったので、各市町村にそうした場をつくれたらいいのではと考えていたんです。

 

また、震災前までは海を中心に活動していたのですが、震災で水産資源が壊滅的な影響を受けて、ふと周囲を見渡すと残っていたのは山だったんです。そして、山に関わる方々との対話を通して、森と海の密接な関係に目を向けるようになりました。森里海の自然資源といったこの町にあるものをすべて活かして持続可能な地域をつくりたいと強く思い、後に町が打ち上げた「森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸」という町の将来像につながる絵を描きました。

 

――サスティナビリティセンターでは、どのような活動をされてきましたか?

 

地域資源を活かして価値をつけることと、人材育成を中心に活動してきました。この2つはつながっていて、例えば先日は「いのちめぐるまちづくり」を学ぶ3泊4日の親子フィールドワークを受け入れて、町のプレイヤーの取り組みを学んでいただきました。これは視点を変えれば、町の取り組み自体が「商品」になっているわけです。

 

また、人材育成においては、科学に基づいた論理的な思考が大事な伸ばすべき資質だと思っています。一方で、地域にはいろんな人がいろんな想いでいるので、感性や感情もとても大切。 両方伸ばすことを意識しています。

 

加えて、大事なのがファシリテーションです。感情と感情の対立になると場が割れてしまい、地域にとってマイナスです。しっかり意見を出し合いながらも感情的対立にしないことを心がけています。

 

例えば、対立する意見が出たとして、それを個人の意見とせずに「Aという意見、Bという意見が出た」と扱います。そこから各々のメリット・デメリットを全員で考え、なぜそういう意見になったのかも聞き出せたら、それぞれへの理解が深まります。 そうした過程を手助けするのが、ファシリテーターの役割だと思っています。

 

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南三陸町立志津川中学校では、ホヤの授業(家庭科)を実施

人の活動を豊かにしながら、自然も回復させることはできる

――続いて「ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点(NP拠点)」についてお聞かせください。

 

東北大学が中心になって立ち上げたプロジェクトで、科学技術振興機構(JST)から資金を得て、10年間のプログラムとして始まりました。

 

「ネイチャーポジティブ」とは、これまで人間の活動により資源を食いつぶし、持続不可能な世界に進んでいたものを、2030年までに逆転させて、2050年までに完全回復させようというのが基本的な理念になります。

 

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(出典:https://www.naturepositive.org/)

 

そのために、NP拠点では下記3つのターゲットを掲げています。

 

Target01 自然の価値を見える化し持続的に高める

Target02 ネイチャーポジティブに向けてお金が流れる仕組みを作る

Target03 ネイチャーポジティブ発展社会を支える人を育てる

 

実は、NP拠点のビジョンとターゲットを決める際、私はファシリテーターを担っていました。研究者、企業、非営利団体、学生など多様なバックグラウンドの方々およそ50人が参加していて、今までで最も大変なファシリテーションでした。お互いの背景知識も異なる中で、3回の議論で決め切らなくてはならず、1回につき8時間かけて議論して本当に皆で苦労してたどり着いた、尊くも感慨深いビジョンとターゲットです。

 

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NP拠点のビジョン・ターゲットを決める議論の様子

 

――「ネイチャーポジティブ」が実現されたら、どんな社会になるのでしょうか?

 

人によってイメージに多少の違いはあるかと思いますが、私が考えるのは、人が活動すればするほど自然もよくなるイメージです。

 

例えば、南三陸の戸倉地区では、震災前は牡蠣養殖が過密で収穫までに3年かかっていました。養殖量を減らせばカキの品質も良くなるし、養殖期間も1年で済むことが生態学的には明らかでしたし、実は漁師さんたちも体感で知っていたそうなのですが、「隣の漁師が減らしていないのに自分だけ減らせない」という状態が10年くらい続いていたんです。

 

そこから震災が起こり、「子どもたちに誇れる養殖をしたい」という想いを持ったリーダーが、「1回やってみよう。失敗したら戻せばいいから」と、リーダーシップを発揮して過密養殖の解消が実現されることになりました。

 

結果は大成功。牡蠣の養殖棚を3分の1に抑えたことで、環境が改善され、牡蠣が1年で収穫できるようになりました。加えて、作業が楽になり、労働時間も減り、収入も300万から500万へ増加。最近では800万くらいまで増えたといっていました。 そこまで出来て初めて、自然にもいいし、自分たちにとっても成果が出たと言えます。この事例のように、皆が自然の使い方を理解して変えていくことを実現していきたいんです。

地域の「望ましい自然の姿」は、そこに暮らす人たちが決めていく

――NP拠点では、太齋さんはどのような役割を担われているのでしょうか。

 

Target03の人材育成の部分です。どうしたらネイチャーポジティブな事業や政策をつくることができる人材を育てられるかを考えています。

 

息をするように自然環境のことを捉えられる思考のインストールも必要ですし、それを社会に実装できるスキルを身につける必要もあります。あとはやっぱり、支え合える仲間が必要ですよね。一人だけでどこかの組織で頑張っても潰れてしまいますが、仲間がいれば頑張れると思うので、コミュニティを醸成していくことも大事にしています。

 

――どのような方を対象にされているのでしょうか。

 

企業の意思決定に関わる役員クラスの方、企業のサステナビリティ部門の方、行政の担当者など、生物多様性の対応を必要としている方々をまずは想定しています。

 

あとは学生や起業を目指す人たち、さらに一般の地域の方々に向けた啓発プログラムも考えていて、 対象は幅広いですね。

 

その際、基本の知識をお伝えする座学も大事ですが、現場を自分の目で確かめるフィールドワークも非常に重要になってきます。生物多様性というのは、地域の歴史や風土に紐づくものなんです。例えば沖縄の自然を北海道で回復することはできないですし、沖縄と一言でいっても様々な自然があります。より厳密なエリアでの地域固有性が大事になってくるんです。

 

日本は「生物多様性のホットスポット」といわれるぐらい豊かな生態系がありますから、まずは自分の足元をしっかり見ることが大事です。それをするために、例えば南三陸をはじめとした学びの材料が整っている場所で地域の見方を学ぶことが必要なのではと思っています。

 

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企業向け南三陸ツアーでの一コマ

 

――どのように社会が変わっていくのかイメージしていることはありますか?

 

リテラシーとしてネイチャーポジティブを理解している人が増えることは、それだけで影響が大きいはずです。とはいえ、どんな自然がその地域にとって望ましいかは、科学で決まる話ではなく、そこに暮らす人たちが話し合って望ましい姿を決めていくしかありません。そのためにリテラシーを持っていることは大事な条件ですし、対話のスキルも必要になってきます。

 

さらに、事業も重要です。「持続可能な世界をつくるために実際どう活動するの?」という部分ですね。正解がない中で進み続けるには、主体的に皆で話し合うことが大事になってくるので、 そのための土壌をつくっていくのが私の仕事かなと思います。そう遠くない未来、企業活動が立ち行かなくなる、あるいは我々の生活が立ち行かなくなる事態が容易に予想されるので、 そこをなんとか乗り切れるようなものを早くつくりたいと思うのですが……。例えば日本でも2030年に食料難が現実のものになるという話もあるるので、ゆっくりしていられないなという印象ですね。

 

――最後に、いま、どんな仲間を求めていらっしゃるでしょうか。

 

志を持っている方とご一緒したいです。 技術も必要ですが、一緒に同じ方向を向けるかどうかは大事で、それぞれみんな得意な分野を持ち寄って、同じ方向を向きながらいいものをつくれたらとても嬉しいです。いろんな個性を持った人が集まった方が、絶対に強いチームになると思っています。

 

――ありがとうございました!

 


 

「【特集】PLANET KEEPERS 〜住み続けられる地球を次世代へ〜」の記事はこちらから見られます。

この記事を書いたユーザー
桐田理恵

桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。

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