ローカルベンチャー協議会(事務局NPO法人ETIC.〈エティック〉)が主催した「ローカルリーダーズミーティング2024」は、今年で第3回目を迎えました。今回の舞台は、宮崎県日南市(にちなんし)にある油津(あぶらつ)商店街。
「つながるって、前進だ!」を合言葉に掲げ、地域のプレイヤーや行政職員、起業家など全国から約140名が集結し、ローカルと結びつきの深いテーマを専門とする研究者との活発なコミュニケーションが行われました。商店街周辺の店舗やスナック、企業の会議室を会場に、研究者と参加者がざっくばらんに語り合ったセッションの様子をお届けします。
本稿では、初日の午後に実施されたブースセッションの様子をレポートします。当日は、油津(あぶらつ)商店街周辺の店舗やスナック、企業の会議室を会場に、ローカルと結びつきの深いテーマを専門とする26名の研究者と、地域で活動するプレイヤー達がざっくばらんに語り合いました
今回はその中でも、白木彩智さんによる「震災のためにデザインは何が可能か?」というセッションの様子を、要約してお届けします。
白木 彩智(しらき さち)さん
NPO法人issue+design 理事/デザイナー
1988年生まれ。岐阜県羽島市出身。東京造形大学デザイン学科卒業。大学1年から4年間、issue+designの主催する社会課題解決型のコンペティションに参加。そこでの実績が評価され、2012年より同団体に参画。デザインの力で、あらゆる地域の課題解決に取り組む。『311はじまり手帳』でGood Design Award 2012, 『Community Travel Guide』でGood Design Award 2012/2013/2014、『みんなでつくる総合計画』Good Design Award 2016などを受賞。
多様な関係者との対話の中から、課題解決につながるデザインを生み出す
デザインとは、論理的思考や分析だけでは読み解けない、複雑な問題の本質を直感的、推論的に捉え、そこに調和と秩序をもたらす行為です。白木さんが理事・デザイナーを務めるNPO法人issue+design(イシュープラスデザイン)では、デザインを単に美しくおもしろいものではなく、課題の本質をとらえることで共感を起こし、個々人の行動や社会の変化を促すものだと考えています。これまで、様々な地域課題や社会課題にデザインをプラスすることで、一歩でも解決に近づくようなものづくりに取り組んできました。
issue+designがプロジェクトを進める上で大切にしているのが、オープンに取り組むということです。デザインと言うと、デザイナーという専門職の仕事というイメージが強いかもしれませんが、課題を抱える当事者や実際に使う人、それを支える企業や自治体、NPO等、様々な立場の人とどんな形なら社会課題の解決につながるのかを話し合いながら、プロダクトや仕組みに落とし込んでいきます。
多いときだと1つのプロジェクトで500〜600人と関わることもありますが、少なくとも20~30人の関係者と対話しながらデザインされているそうです。今回のセッションでは、issue+designがこれまで手がけてきたプロダクトの中から、具体的な事例を基にデザインにできることを語っていただきました。
issue+design誕生のきっかけとなった、「震災+design」プロジェクト
日本で今後数十年のうちに確実に起こると予測されていて、なおかつ世界にさきがけて知見がたまっている社会課題のひとつが震災です。そこで、issue+designの活動が始まった2008年に設定されたイシューが避難生活でした。
阪神淡路大震災が発生した1995年は、日本のボランティア元年と言われる年です。全国から多くのボランティアが神戸に集まり、復興の一助となった一方で、初めて災害ボランティアに来たという人も多く、様々な課題が浮き彫りとなりました。
阪神淡路大震災の学びと経験を活かして次のアクションにつなげようと始まったのが、「震災+design」プロジェクトです。社会課題について考えたい学生を全国から募集し、2人1組でアイデアをブラッシュアップし、最優秀作品が決定するまでコンペティションを繰り返すという形式で行われました。
当時大学1年生だった白木さんは、チラシを見てこのプロジェクトに応募。研究室に所属し、教授からの声かけで参加した精鋭達とアイデアを競います。全国から集まった22組44人の学生からは、2ヶ月間で114もの震災時に避難所で起こりうる課題と、それを解消するアイデアが提案されました。
114のアイデアを分類することで見えてきた、デザインの5つの可能性
数多くのアイデアを分類することで見えてきたのが、以下の5つのデザインの可能性です。
1.決断を支えるデザイン
避難所には多くの人が集まっていますが、専門家がいるわけではありません。その中でいかに迅速かつ的確に物事を決断するかが避難所生活では重要です。例えば、水が不足している状況で「飲める」、「洗い物には使える」、「トイレを流すのには使える」といったことがひと目でわかるトリアージタグがあれば、水をどのように再活用できそうか、誰でもすぐに判断することができます。
2.道を標すデザイン
避難所では普段担っていた社会的役割が機能しなくなり、それどころか朝昼夜という時間感覚さえ失ってしまいがちです。混沌とした状態から抜け出し、小さくても自分にできることを自発的に進められるよう、1歩次のステップを見せることができるのもデザインの力です。時計を中心として情報を配置するだけでも、今何をすべきかがぐっとわかりやすくなります。
3.溝を埋めるデザイン
避難生活では、弱者がより弱い立場に追いやられてしまうことで起こる問題が多々あります。声を上げづらい人が抱えている課題は、そうでない人には見えにくいものです。参加学生からは、そんな溝を埋めるためのアイデアも数多く提出されました。
子ども用の紙製秘密基地は、避難所でも簡単に組み立てることができ、遊び場の優先順位が下がってしまう環境下でも、子どもが安心して遊べる場所を確保することができます。
4.継続を促すデザイン
日頃から災害に備えておくのが一番ですが、そうは言ってもなかなか難しいのが現状です。デザインには、日常と非日常をゆるやかにつなぎ、困難なことを無理なく続けられるよう促す役割もあります。
通路との境界がない床上での生活(非日常)から、避難所で簡易的に使える組み立て式のテーブルといすを使うことで生活空間の高さを上げ、日常に近づけるというアイデアが好例です。
5.関係を紡ぐデザイン
避難生活で心がすさむ中、助け合い行動が不足してしまいます。そんな中、やさしさや感謝を見える化できるのが星型の感謝カードです。蓄光紙で作られており、暗くなると光るので、体育館の壁に貼れば感謝の天の川が現れます。人とのつながりを大切にしようという雰囲気づくりに一役買うアイデアです。
阪神淡路大震災の教訓から生まれた、「できますゼッケン」
阪神淡路大震災では180万人がボランティアにかけつけましたが、大部分が特技や資格をもたない一般ボランティアでした。そのため受入側も何をしてもらえばいいかがわからず、ボランティア個々人のコミュニケーションの力量によって差が生まれてしまったようです。
コミュニケーションが上手な人は自分からどんどん地域に入り込んで活動することができますが、何ができるのかうまく伝えられず、思うような活動ができなかったボランティアも多くいました。そこで、何ができるかを書いた名刺サイズの紙をぶらさげておくという、スキル共有IDカードというアイデアが生まれます。2011年の東日本大震災の際、これをブラッシュアップして現場で活用されたのが、「できますゼッケン」です。
医療・介護支援を赤、外国語や手話等のコミュニケーション支援を青、大工や理容師等、専門技能を黄、炊き出しやベビーシッターといった生活支援を緑と、色で大まかな支援分野がわかるよう4つに分け、自分のスキルと名前を書いて、ゼッケンのように背中に貼って使用します。発災から10日程で、コンビニエンスストア等でプリントアウトして、だれでも使える状態にすることができ、多くの避難所で活用されました。
アイデア次第で広がる、デザインにできること
その他にも、震災の記憶をとどめ、次の震災に備えるための「311はじまり手帳」、わかりにくくなりがちな行政発のハザードマップを、今いる場所にはどのくらいの高さの津波が来る恐れがあるのか、スマホで手軽に確認できるものに作り変えた「ココクル?」という津波防災のWebサービス、近年各地で多発する大規模風水害に備え、接近から通過までの24時間をリアルにシミュレーションできるロールプレイングゲーム「風水害24」等、issue+designではデザインの力を活かし、社会変革につながるようなプロダクトの開発に取り組み続けています。
また、2008年に実施した「震災+design」プロジェクトについてまとめた書籍『震災のためにデザインは何が可能か(2009)』は、2024年1月に発生した能登半島地震を受け、現在PDFで無料公開されています。非常時においてデザインにできることをもっと深く知りたいという方はぜひご覧ください。
ローカルリーダーズミーティングでは、他にも全国の自治体や中間支援組織の参考になるような事例の紹介やディスカッションが多く行われています。気になる方は関連リンクよりまとめ記事をご覧ください。
あわせて読みたいオススメの記事
「共同生活が困り事を解決?社会課題解決型シェアハウスの可能性」by ETIC.横浜