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「コンサルタントがフルタイムでNGO/NPOの経営計画を策定するプロボノ・プロジェクト」 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社CSR推進室 コンサルタント中村真理恵さん
2015.05.23
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社CSR推進室 コンサルタントの中村真理恵さんに話を伺いました。中村さんはCSR推進室員として、CSR活動全般の仕事およびNGO/NPOを対象としたプロボノ・プロジェクトの企画・実行に携わっています。
同社は年間約10団体に対し、15~20ほどのプロボノ・プロジェクトを立ち上げ、中長期の経営計画やファンドレイジング戦略の策定などを中心にプロボノ支援を行っています。
プロボノ・プロジェクトとしてNGO/NPOの経営計画やファンドレイジング戦略を策定
小川: 中村さんはCSR推進室の社員として、CSR活動全般のお仕事およびNGO/NPOを対象としたプロボノ・プロジェクトの企画・実行に携わってらっしゃいますが、今日は特にプロボノ・プロジェクトについて詳しくお聞きしたいと思います。 御社がプロボノ・プロジェクトを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
中村: 社員が千人を超えたことを契機として、目先の利益ばかりを求めるのではなく、社会市民としての責任を果たし、ビジネスで得た知見や経験を無償還元することで、社会や経済のさらなる発展に貢献したいと考えたことがきっかけです。
小川: なるほど。目先の利益を追うのではなく、社会や経済のさらなる発展に貢献したいと考えられたわけですね。素晴らしい。 では、そもそも御社の中では、プロボノをどういう風に定義されているのですか?
中村: 「NGO/NPO(非営利組織)に対し、無償で、コンサルタントとしての専門性を提供する活動」と定義しています。
小川: 従来、一般企業に対して行ってきたコンサルタントとしての専門性の提供を、今度はNGO/NPO向けに無償で提供していこうということですね、非常にわかりやすいです。 プロボノ・プロジェクトのメンバーは、仕事の傍らに活動をされているのですよね。
中村: いえ、メンバーはフルタイムでアサインされています。というのも、プロボノ・プロジェクトを始める際、テストマーケティングとしてあるNGOにインタビューしたのですが、その中でコンサルタントが有償プロジェクトと掛け持ちした際に、無償であるプロボノ・プロジェクトがなおざりになることが懸念点として挙げられたためです。
小川: それは驚きです。確かにNGO/NPO側からすれば、もっともなことでしょうが、フルタイムでのアサインを実現されているのは凄いことです。 では、プロボノ・プロジェクトとして、どのような団体を支援されているのですか?
中村: 国際協力、子ども・教育、震災復興の三つの分野に関連するNGO/NPOや、被災した地方自治体、震災復興支援機関などを支援しています。長期ビジョン策定や中期計画/ファンドレイジング戦略策定、人口増加に向けた産業育成など、多岐に渡る支援内容です。
4つのステップに基づき進めていくプロボノ・プロジェクト
小川: 直近では、どのようなプロボノ・プロジェクトに携わっていますか?
中村: 現在、国際人権分野で活動されるNGOと一緒に、ファンドレイジング戦略を策定しています。というのも、より幅広い支援者層からの継続収入に支えられた安定的な財政基盤を確立させる、という課題に直面しているためです。我々のコンサルタントとしての専門性を活かし、より効果的なファンドレイジング戦略の立案と、実現可能性の高い実行計画策定をご支援させていただいております。
小川: その国際人権NGOに対するプロボノ・プロジェクトは具体的にはどのように進んでいるのでしょうか?
中村: 内外環境分析?戦略仮説の立案?検証・具体化?実行計画策定、という4つのステップに基づき、プロボノ・プロジェクトを進めています。期間は約4か月、事務局長とファンドレイジングご担当者との協働のもと、週一回の定例会議を設定し、一つひとつ丁寧に議論と合意を積み重ね、戦略を最終化していきます。
小川: 興味深いですね。ぜひステップ毎に詳しくお聞きしたいです。 まずステップ1から。
中村: ステップ1の内外環境分析ですが、まず市場構造や寄付動向を把握するため、リサーチのほか、一般生活者向けアンケートを実施し、寄付に対する考え方や団体の活動に対する共感度をはかります。また支援者に対するインタビューやアンケートを通じて、内部の支援者構造(金額、属性など)、どのような価値観を持った方がなぜ支援しているのかなどを分析します。
小川: まずはインタビューやアンケートを通じて現状を分析していくわけですね。
中村: はい。続いてステップ2では、ステップ1の分析結果を踏まえ、ファンドレイジング戦略仮説を立案します。どのような属性・価値観を持ったターゲット層を狙うと、団体の主旨/活動に最も共感してくれそうなのかを特定し、詳細化して優先順位をつけます。そして各ターゲット層に対し、どういったメッセージを投げかけると最も効果的に響くのかも、併せて検討します。
小川: 仮説を立て検証していくと。
中村: 次にステップ3では、戦略仮説を検証・最終化するにあたり、数値目標に基づく収支シミュレーションを作成し、また戦略実行に必要な運用体制を整備していきます。 最後のステップ4では、戦略を具体的に日常の行動ベースに落とした実行計画を策定するとともに、進捗管理制度を策定し、導入します。この制度が団体に定着するまでは、月一回の定例会議に参加し、施策実行と目標達成度を共にモニタリングしていきます。
小川: 素晴らしい! まさにコンサルタントとしての専門性を活かした見事な支援内容です。とてもNGO/NPO向けの話を伺っているとは思えません。NGO/NPOの弱い部分を補ってくれる支援内容だと思います。
NGO/NPOにも有効だったコンサルタントとしての専門性
小川: 中村さんは過去に多くのプロボノ・プロジェクトに携わってこられたわけですよね。
中村: これまで年間約10団体に対し、15?20ほどのプロボノ・プロジェクトに携わってきました。最も多いご支援内容は、NGOやNPOと一緒に、中長期の経営計画を策定するプロジェクトで、中期的に団体が目指す姿や目標を明確化し、その実現に向けた戦略と実行計画・進捗管理制度を策定してきました。この結果、ミッション・ビジョンに基づき、直近3年間で組織として何を達成したいのか、そしてその目標達成にどれくらいの活動資金と人員が必要なのかを詳細にすることで、職員の皆さんが明日から何をしなければならないかが明確になったようでした。
小川: プロボノ・プロジェクトを通じて学んだことを教えてください。
中村: 一般事業会社に対し提供してきた"コンサルティングにおける方法論・経験”が通用することを確認できたことは、貴重な学びでした。そして成功事例を蓄積することで、社内のプロボノ機運を高めることに繋がりました。
小川: なるほど、実際にプロボノ・プロジェクトに関わることで、あらためて実感されたわけですね。 御社内のプロボノ機運が高まったことも素晴らしいと思います。 では、逆に反省点とか気づきとかはありましたか?
中村: そうですね、企業とNGO/NPOとでは仕事の進め方やペースが異なるため、より皆さんのことを理解し調整する必要があったと反省しています。また、新しい組織文化や制度を導入するにあたって意識改革が不可欠となりますが、改めてその重要性と難しさを認識しました。ですので、現在では戦略を描くだけでなく、実行にも寄りそって伴走することを意識して行うようにしています。
小川: 確かに実行に寄りそって伴走してもらえると、NGO/NPOにとっては心強いですよね。 プロボノ・プロジェクトに携わっての、率直な感想をお聞かせください。
中村: プロボノ特有の、さほど大きくない組織に対して行うコンサルティングならではの面白さ、醍醐味を感じています。大きな組織の一企業部門と仕事をすることが多いコンサルタントにとって、自身が行った仕事が組織/現場の一人ひとりにどのように受け入れられるのか、その人々の日々の行動がどうポジティブに変わる可能性があるのかを、なかなか短期間で感じられないのが実情です。
しかし、プロボノでご一緒する団体は100人未満の規模が多く、一人ひとりの顔が見える中で、日々ダイレクトに反応を感じることができます。コンサルタントとしてのやりがい、変革の難しさ、気づきを得られることができることは、とても幸せだと感じています。
小川: ダイレクトに反応を感じることができると、やりがいに通じますよね。
ホームステイで受け入れた難民親子との出会いが原点
小川: では、ここからは、中村さん個人のことをお聞きしたいです。 もともと、NGO/NPO、社会貢献、国際協力などに関して興味・関心はお持ちだったのでしょうか?
中村: 幼少期から20か国以上の方のホームステイ先として受け入れをしてきたことが、社会貢献意識や国際協力へ興味・関心を持つきっかけになっていると思います。
なかでも、高校生のときにホームステイで受け入れた難民親子との出会いが大きいです。戦渦の中で恐怖と戦いながら生き抜いてきた話を直接聞き、同じ世界にこのような人々がいることを実感するとともに、世界のさまざまな人種、立場、状況にある人々に囲まれて育ってきたことで、人生を通して社会のために貢献したいと自然と思うようになりました。それからは、休み時間を使って難民問題を勉強したり、国際協力に関する主張コンクールに参加して想いを届けたりなど、実際に行動へと移していきました。
小川: そうだったのですか。それは非常に貴重な経験をされていますね。幼少期から20か国以上の方のホームステイを受け入れてきたという経験は、めったにあることではないと思います。 大学ではいかがだったのですか?
中村: 大学生のときには国際関係学を学びつつ、インドやカンボジアの貧困地域の孤児院や小学校でボランティア活動を行ったり、マラウイ共和国で現地の農村開発NGOインターン生としてプロジェクトへ参加したりしました。国際協力を仕事にしていこうと覚悟を持ったのは、マラウイ共和国での体験です。
マラウイ共和国では、米国・韓国・マラウイとの多国籍チームを編成し、NGOが展開している農村開発事業の効果測定に携わり、データ分析や農村住民へのインタビューなどを通じて、国際援助機関やNGOへ報告を行いました。その中で、適切な医療保健サービスを受けられず村の人が命を落としてしまう現状や、子どもたちが感染症を患って学校に通うことができない実態を目の当たりにし、より貢献意識、使命感が強くなっていきました。
それまで漠然と抱いてきた「社会」に対する貢献意識が、自分の実体験を重ねることによって、さまざまな問題につき「人間一人ひとりの顔」が浮かぶようになったことが、国際協力分野で仕事をするという決意と覚悟へ繋がったのだと感じています。
小川: 素晴らしいの一言です。CSR推進室のコンサルタントとして、プロボノ・プロジェクトに携わっていらっしゃる中村さんの原点をみた感じがします。
「全員参加型プロボノ」を実現したい
小川: 今後、プロボノ・プロジェクトとして取り組んでいきたいことを教えてください。
中村: これまでは、NGO/NPOなど1つの組織に1つのプロジェクトを行うという、「点」の活動を行ってきましたが、これからはより効率的・効果的にその貢献度合いを拡げていくような「面」の活動を展開していきたいと考えています。
たとえば、行政、企業NGO/NPOにおける戦略的連携文化の促進や、若年層に対する社会貢献機会の提供などが挙げられます。各NGO/NPOで若年層に対し社会貢献機会を提供していると思いますが、業界全体で連携して取り組むことができれば、よりその活動の輪と成果は広がっていくと確信しています。
このため、最近は大学院で講義を行っているのですが、そこでは教授・学生のみならず、複数のNGO/NPOから職員やYouthメンバーの参加を呼びかけて、共に若年層による社会貢献に関して考え、貢献イメージを具体化するような2泊3日の講義合宿を行っています。
小川: なるほど、「点」から「面」に移行して、貢献度合いを拡大していきたいということですね。
中村: はい。さらには、「全員参加型プロボノ」を実現させたいと思っています。弊社のコンサルタント全員がそれぞれの得意技を、行政や企業、NGO/NPOの戦略的連携モデル構築に活かすことができれば、社会課題解決への貢献度合いは加速化すると確信しているためです。
小川: 確かにそれが実現されれば、社会課題の解決は加速されますね。応援します。 では、最後に読者の方に対するメッセージをお願いします。
中村: NGO/NPOが抱える課題、そして社会が直面している課題は大小さまざまで、そこに必要とされる知識や経験は必ずしも仕事で培ったものだけでなく、趣味や特技も挙げられると感じています。そして多くのNGO/NPOは皆さんのサポートを必要とされています。プロボノは誰でも気軽に参加できる、社会貢献機会のひとつです。ぜひ今日からプロボノをはじめてみてはいかがでしょうか。
小川: 中村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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