「食べ過ぎの先進国」と、「食料不足の途上国」をつないで食の不均衡を是正し、双方の健康改善を目指すTABLE FOR TWO International(テーブル・フォー・ツー・インターナショナル、以下TFT)。
その主な事業である「食堂プログラム」では、先進国の食堂にて肥満や生活習慣病予防のためのカロリーを抑えたメニューを提供し、売上の一部(=抑えたカロリー)を寄付とし、途上国の子どもたちへ給食という形で届けます。
世界経済フォーラム(通称・ダボス会議)における日本人参加者のディスカッションから生まれたこの仕組みは、2007年の発足以来、2,300万食をウガンダ、ルワンダ、タンザニアなどアフリカの国々に届けてきました。
また、現在では国内600以上の企業・団体と連携し、アメリカ・フランスなどの欧米、そして香港・韓国・ベトナムなどアジアを含む世界11カ国に拡大しています。(2013年10月末時点の実績)
今回のインタビューでは、代表理事である小暮真久さんに、TABLE FOR TWOという取り組みにこめた想いや今後の展開、そして小暮さんの仕事観などについて、幅広くインタビューしました。前編となる本稿では、TABLE FOR TWOについてお送りします。
<写真:TABLE FOR TWO International代表理事・小暮真久さん>
時と場所を超えた「おすそわけ」を届けるTABLE FOR TWO
石川:TABLE FOR TWOの仕組みは、ダボス会議での日本人参加者の対話から生まれ、そのコンセプトを託された小暮さんが事業を形にしていったと伺っています。まずはTABLE FOR TWO誕生の瞬間がどのようなものだったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか。
小暮:僕はその場に同席していなかったので伝聞なのですが、ダボス会議のヘルスケアに関する分科会で、ひとつのグループが肥満について、他方では飢餓についてディスカッションしていたそうです。
その後、それぞれに参加していた方の間で、「別々の社会課題にみえるけれど、食の不均衡という意味で、根底ではつながっている。だったら、同時に解決することはできないか?」という議論になったそうです。その問題意識を日本に持ち帰って何度か議論しているうちに、食を通じて先進国と途上国の健康改善を同時に実現するというTFTのコンセプトが生まれたそうです。
石川:以前、ダボス会議に参加された方から、「TABLE FOR TWOという仕組みには、日本的な思想や習慣が宿っている」ということを聞きました。その方の解釈かもしれませんが、非常におもしろいなと思いました。その点についてもお聞かせいただけませんか。
小暮:そういった要素もありますね。例えば「足るを知る」という言葉があります。先進国に生きる現代人はついつい、食べたいときに食べたいものを、食べたいだけ食べてしまいます。それを少し自制しようということですね。食に関しての「足るを知る」といえば、日本には「腹八分目」という言葉がありますし。
TABLE FOR TWOの仕組みはまさに時と空間を超えた「おすそわけ」だと思います。
石川:メディアなどでは「日本発で、世界にスケールしている社会的事業」と言及されることが多いTFTですが、単に日本人が発案したというだけでなく、日本的な思想にもつながるものがあるのですね。
小暮:そうですね。寄付の集め方も、欧米式に大口で集めるというよりは、日々の食事に紛れ込ませて、それと意識せずにできるようになっており、そこが陰徳の文化というか、恥ずかしがり屋の日本人には合っているのかもしれません。
社会貢献の枠をこえて、興味関心のシェアを広げる
石川:少しお話は変わりますが、TFTは「食堂プログラム」に留まらず、メーカーとの商品開発や様々なキャンペーンに取り組んでいますが、これはなぜなのでしょうか。
既に、「食堂プログラム」は、インパクトを出す仕組みとして確立されています。そのことは、2007年の創業以来、急速に拡大して現在までに600か所以上に導入され、2,300万食以上を提供した実績に現れているでしょう。この事業をさらに拡大していくだけでも、途上国に届ける給食の数は増え続け、ミッション達成に近づいていくと思います。その上でさらに、何を目指して、新しいことに取り組んでおられるのでしょうか。
小暮:おかげさまで食堂プログラムは順調に広がっています。ですがそこに留まらず、僕たちは常に新しい発想で、TFTへの参加の形を提案し続けていきたいと思っています。毎回同じことばかりやっていると、参加する人たちも飽きてきてしまいますから。「なんだか面白いことやってるな」と、注目していただくことが重要なのです。
僕は、「社会貢献が必要だからやる」というより、「楽しいからやる」という仕組みをつくっていきたいと思っています。義務感より、楽しさに訴えていきたいのです。だから、色んな新しいことに取り組んで、興味関心のシェアを拡大していく必要があります。それも、社会貢献の枠の中でTFTが選ばれるというより、デートや飲み会、バイトやSNSでのやりとりといった様々な「楽しい」の中で、シェアをとっていくことが重要です。
石川:そのお話を聞いて、思い出したことがあります。過去にTFTの仕組みを学食に導入した大学生や、社員食堂を社内提案しようとしている若手社員のお話を聞く機会がありました。その方々が、とても楽しそうにTFTについて語っていることが強く印象に残っています。事業全体を通して、関わる人々が「楽しい」と思えることを大事にされていることがわかりますね。
小暮:そうですね。食の不均衡という現状は、大きなうねりをつくっていかないと変わりません。僕達も限られた人数で精一杯やっていますから、たくさんの志を同じくする人たちを巻き込んでいきたいと思っています。
<写真:食堂プログラムを導入した企業の食事風景>
世界各地の課題とアクションをつなぎ、TFTモデルを開発する
石川:海外での取り組みにおいて、新しい動きはありますか。
小暮:そうですね、活動を進める中で新しくわかったことがたくさんあります。栄養不足という観点から言えば、先進国や新興国の中にも、「都市における飢餓」という重要な課題があることに気づきました。
現在TFTが取り組んでいる、飢餓状態にある子どもたちに成長できるだけのエネルギーを提供する以外にも、世界中には様々な食にまつわる課題があるのです。
石川:どういった課題なのでしょうか。
小暮:わかりやすい例で言えば、アメリカの貧困地域における給食という課題があります。ピザ一枚しか提供されないなど、先進国とは思えない状況がそこにはあるわけです。
そういった課題については、TABLE FOR TWO USAの寄付を使って、メニューにフルーツを加えたりすることで栄養面を改善していく、ということを行っています。同じようにアフリカでも、学校給食に加えて、乳幼児に対する栄養支援などの仕組みも研究しているところです。
石川:TFTというと、アフリカの学校給食というイメージが強いのですが、将来を見据えて世界中の栄養改善の機会を研究されているのですね。とても興味深いです。
小暮:「食の不均衡をバランスして健康を届ける」というTFTのミッションを考えれば、それは当然取り組むべきことですし、取り組むべきポジションにいるとも言えます。TFTはアフリカの現地NGOパートナーと連携することで、給食を届けていますが、彼らを横串でつないでインパクトを最大化させる組織が世界には存在しないのです。
僕は国連がその役割を担っていると思っていましたが、彼らもやっていない。個別のNGOがサイロ(縦割り)になってしまっているのです。そこで僕たちが、彼らが持つ優れた個別のソリューションを組み合わせて、インパクトを最大化するいわば「TFTモデル」を研究しています。
石川:まさにコレクティブ・インパクト(集合的なインパクト)の実践ですね。アフリカの現地パートナーと連携して効率よく栄養を届けるというモデルから、一歩も二歩も先に進んでいることに驚きました。国内・国外ともにミッション達成のために常に進化し続ける点は、僕も見習いたいと思います。
NPO法人TABLE FOR TWO International 代表理事/小暮真久
1972年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工学大で人工心臓の研究を行う。 1999年、同大学修士号修得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社へ入社。 ヘルスケア、メディア、小売流通、製造業など幅広い業界の組織改革・オペレーション改善・営業戦略などのプロジェクトに従事。 同社米ニュージャージー支社勤務を経て、2005年、松竹株式会社入社、事業開発を担当。 経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに強い感銘を受け、その後、TABLE FOR TWOプロジェクトに参画。2007年NPO法人TABLE FOR TWO Internationalを創設。
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