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「ビジネス法務のスキル・知識を活用してNPO・教育業界に革新を!」 BLP-Network・鬼澤秀昌さん

2015.08.22 

大手法律事務所で弁護士の仕事をしつつ、ビジネス法務のスキルや知識を使ってNPOやソーシャルベンチャーを支援する弁護士のグループBLP-Networkの中心メンバーとして活動されている鬼澤秀昌(おにざわ・ひでまさ)さん。

「ビジネス法務のスキルと知識を活用して、NPO・教育業界に革新をもたらしたい」という鬼澤さんの熱い想いをうかがいました。 BLP-Network鬼澤秀昌さん

BLP-Network・鬼澤秀昌さん

ビジネス法務とソーシャルセクターをつなげる「BLP-Network」

小川:鬼澤さんはBLP-Networkの立ち上げから関わり、最初の1年は代表を務めていらっしゃったそうですね。BLP-Networkについて、詳しく聞かせていただけますでしょうか?

 

鬼澤:BLP-Networkは、ビジネス法務のスキルや知識を使って、NPOやソーシャルベンチャーを支援する弁護士のグループです。現在、30名程度の弁護士、修習生、法科大学院修了生などがメンバーとして活動しています。

 

小川:BLP-Networkは、具体的にどのような活動をされているのですか?

 

鬼澤:主に、NPOからの相談を受ける弁護士を紹介したり、NPO向けに勉強会やイベントを開催したりしています。また現在、ビジネス法務を活用したNPO支援をテーマに執筆企画なども進めています。 NPO向け法務セミナーの様子

NPO向け法務セミナーの様子

バラバラだった、同じ想いを持つ仲間を集めたかった

小川:鬼澤さんがBLP-Networkを立ち上げようと思った経緯は何だったのでしょうか。

 

鬼澤:そもそもは、大学時代にさかのぼります。ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(以下、SVP東京)* でインターンをしていたのですが、そのころから「ビジネス法務でソーシャルベンチャーを支える」ということをやっていきたいと思っていました。 そういった想いを抱え、ソーシャルベンチャーを支援している弁護士何人かに話を聞いてみたのですが、それぞれが同じような想いで活動しているお互いの存在は認識していなかったのです。 それではもったいないので、何かできないかと思ったのが法科大学院時代でした。

*ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京):社会的な課題の解決に取り組む革新的な事業に対して、資金の提供と、パートナーによる経営支援を行っている団体。

 

小川:同じ想いを持った仲間同士が協力できる場を作ろうとしたのが、そもそものきっかけだったのですね。

 

鬼澤:そうですね。それで、司法試験が終わった直後に、色々な方から積極的にソーシャルベンチャーやNPOを支援されているとの評判をよく聞く大 毅(だい・つよし)弁護士にお話をうかがう機会があり、BLP-Networkのアイディアを話したところ「それは面白い、是非やりましょう」ということで、大 毅弁護士にご協力いただけることになったのです。 さらに、大 毅弁護士を通じて木下万暁(きのした・まんぎょう)弁護士にもご尽力いただけることになり、3人が繋がっている弁護士を集めたという流れです。

弁護士ではなかった当時の自分だったからこそ生み出せた

小川:当時はまだ司法試験を受け終わったばかりだった鬼澤さんの想いに、すでに多くの人脈を持っているお2人が力を惜しまず実現の後押しをしてくださったのですね。最初はどのような活動をされていたのでしょうか?

 

鬼澤:当時はまだ司法試験を受けたばかりで、弁護士でもない自分が弁護士のみなさんに対して「グループを作りましょう」とか「一緒に活動しましょう」というのは勇気が出せず、3か月に1度飲み会を開催し繋がりを作ることから始めました。 その後、ホームページの作成、勉強会の開催など、やっていくことが増え始めると、3か月に1度の集まりでは少なくなり、自然と月1回のミーティングが開催されるようになっていきました。 BLP-Networkの合宿にて

BLP-Networkの合宿にて

特にそのときは意識をしていなかったのですが、後から言われてなるほどと思ったのは、逆に弁護士ではない自分が呼びかけをしたからこそ、色々な弁護士のみなさんが利害関係なく集まれたのではないか、ということです。 特定の事務所の弁護士として活動していると、営業のように思われてしまいかねません。 その意味では、図らずも良いタイミングで声をあげることができたのかなと思います。

NPOの大規模な資金調達を可能にするビジネス法務

小川: BLP-Networkの活動は社会にどのような変化をもたらしていると感じていますか?

 

鬼澤:徐々にですが、大きく分けて3つの効果が生じているのではないかと思っています。 1番目は、NPO。BLP-Networkを通じて、初めて弁護士へのアクセスができたNPOがあります。これはまさに、「グループ」を作ることで弁護士の認知度を向上し、弁護士へのアクセスを容易にしようという当初の狙い通りの効果があったと思います。

2番目は、弁護士に対する影響です。「この業界を支えていく」という仲間意識は非常に強くなったため、各メンバーのモチベーションの向上にも役に立っているのではないかと思っています。また、弁護士同士でNPOに関する情報を交換をすることで、ノウハウの共有、知識の蓄積が進んだように思います。徐々に、NPOなどに関心を持つ弁護士を増やしていければと思っています。

 

小川:モチベーションの向上や、ノウハウ、知識の蓄積が進んでいくことは、仲間がいてこそですからね。

 

鬼澤:3番目は、NPO業界全体への影響です。まだまだ、ビジネス法務によるNPOなどの支援が明確に浸透しているわけではありませんが、すくなくとも、このようなグループができたことで法務の重要性の認知度が徐々に高まってきているのではないかと思います。 今後、資金調達の金額も大きくなればなるほど、法務の重要性が高まっていくのは明らかですし、逆に、法的リスクもしっかりと対処することこそがNPOの大規模な資金調達を可能にすると思います。

活動は公認会計士の世界へも波及

鬼澤:また、業界への影響としては、もう一つ大きな影響を与えた出来事があります。BLP-Networkのイベントにご参加頂いた公認会計士の五十嵐剛志(いがらし・たけし)さんが、BLP-Networkの会計士版を作りたいとして、NPOなどの支援をする公認会計士のグループである「Accountability for Change」を設立されたことです。その話を聞いたときは、素直に嬉しかったですね。

 

小川:五十嵐さんには、以前インタビューをしたことがあるのですが、そういう繋がりがあったとは。

 

鬼澤:設立3周年を迎える今年はBLP-Networkにとって、一つの大きな節目だと感じております。 まだまだ小さな活動ですが、BLP-Networkを通じた変化は確実に感じています。これから、焦らず、インパクトの拡大を目指していきたいと思っています。

Table For Twoとの出会いが原点

小川:少し遡って、鬼澤さんがソーシャルな活動に目覚めたきっかけをうかがえますでしょうか? なぜ、ビジネス法務のスキルや知識でソーシャルベンチャーを支援しようと思ったのですか?

 

鬼澤:大学4年のときにたまたま出会った本がきっかけでした。Table For Twoの小暮真久代表が書いた『「20円」で世界をつなぐ仕事  "想い"と"頭脳"で稼ぐ社会起業・実践ガイド』です。

 

小川:名著ですね。わたしも影響を受けました。

 

鬼澤:社会的な課題を解決し、しかも持続性がある仕組みで、まさにイノベーションだと思いました。 非常に感動して色々調べていると、どうやらTable For Twoのような団体を「ソーシャルベンチャー」と言うらしいと知り、また、ソーシャルベンチャーを支援する中間支援団体であるSVP東京の存在も知りました。 そして、とにかくこの業界に飛び込みたいと強く思い、SVP東京でインターンをさせていただくことになったのです。

法科大学院時代は、中学や高校に法律の授業に行く「出張教室」に参加したり、いろいろなイベントの幹事をしたりと、とにかく「自分だからできること」を常に探していました。人任せのことが多い自分が、社会を変えることを実現するためには、まずは人をまとめる仕事をたくさんこなすことが重要だと考えていました。けれど、最終的に感じたのは「結局自分は何がしたいのか」ということです。それからは、自分がやりたいことはなんなのか自問自答する毎日でした。

そこで出会ったのが、SVP東京のイベントのスタッフをしているときにたまたま登壇をしていたTeach For Japanでした。その後、Teach For Japanでの活動を通じ、ビジネス法務がNPOにおいても役立つことを改めて認識し、ますますビジネス法務の可能性への確信を深めました。

動く理由は“ワクワクする”から

小川:鬼澤さんは、なぜソーシャルな活動に関心を持たれたのでしょうか。

 

鬼澤:なぜかと聞かれると、はっきりした答えは自分でも良くわからないのですが、NPOや教育関係の活動は、取り組んでいるとワクワクします。 関わっている人みんなが、誰かのせいにするのではなく、自分がどうやったら課題の解決に貢献できるのかを考えたり、自分の活動や仕事を非常に誇らしげに話したりするので、自分も前向きになれるからかもしれません。 TFJで一緒に働いた事務局メンバー(鬼澤、阿久津さん、岡本さん)

TFJで一緒に働いていた事務局メンバー(左から鬼澤さん、阿久津さん、岡本さん)

また、今はTeach For Japanの活動を通して教育への関心が深まったこともあり、不定期にですが学校の教員と弁護士を集めて、教育に関する裁判例を題材とした勉強会を行っています。弁護士は何かと教育に関しても、「べき」論で話をしてしまう傾向がありますが、実際起きた事案を題材に、現場の先生方の意見もうかがい、逆に、弁護士からは法的な観点からの意見を言うことで、毎回非常に充実した議論をさせていただいています。

NPOへの法的な支援提供を通して、業界全体が発展していくことを目指す

小川:鬼澤さんの今後の目標をお聞きしたいと思います。

 

鬼澤:BLP-Networkの理念は、弁護士が、ビジネス法務のスキルと知識を使ってそれぞれの社会的使命を果たすことです。この理念を実現できるよう、広報の強化や勉強会の開催、執筆活動などを通じて、NPOの相談の紹介件数を増やしていくことを目指していきたいと思います。 そのような活動を通じてより多くの弁護士がNPOに関心を持ち、より多くのNPOが弁護士から法的な支援を受けるという循環を生み出すことで、業界全体が発展していくことを促進できればと思います。

また、個人的に行っている教員の方々との勉強会も継続し、判例を題材につかった勉強会のみならず、弁護士として学校や教育系の企業・NPOの支援を通じて、子どもに向き合う教員の方々を支えていければと思っております。NPO業界、教育業界へ貢献するため、今後とも全力を尽くしてまいりたいと思います。

「専門家とソーシャルベンチャー」をテーマに設立3周年イベントを開催

小川:最後に、BLP-Networkは近々イベントの開催を予定されているとか?

 

鬼澤:9月に、設立3周年記念イベントを開催いたします。1周年記念イベントでは、ソーシャルベンチャーとお金、2周年記念イベントでは、中間支援団体とプロボノについて、それに続く3周年記念イベントである今回は、専門家(弁護士、会計士、税理士など)とソーシャルベンチャーがテーマです。 徐々に規模を拡大していくNPOにとっては、外部の士業の専門家をどう使っていくかも重要なテーマになります。NPOと士業の専門家の協力の仕方、NPO支援における士業同士の連携や、それぞれの士業における支援方法の特徴の違いについて色々と話ができればと思います。

 

小川:素晴らしいイベントですね。鬼澤さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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小川 宏

小川宏事務所 代表。1963年山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東芝入社。オフィス機器の法人営業部長時代にカンパニー社長表彰。2008年1月より法人営業のスキルを活かし、ルーム・トゥ・リード東京チャプターのファンドレイザーとして活動を開始。2011年8月より共同リーダー。2014年5月よりフリーランスのファンドレイザーとして、NPO向けにファンドレイジングに関する支援を行っている。立教大学社会デザイン研究所 研究員。 ブログ:http://probono-ogawa.com/