アメリカン・エキスプレス社の日本事務所開設100周年を記念して開催された、”Social Entrepreneur Gathering Collective Action for the Next 100 years”(主催:特定非営利活動法人ETIC. 協賛:アメリカン・エキスプレス財団)。
ダイジェストでお伝えした前回のレポートに続いて、「セッション 1: コレクティブ・インパクトによる社会変革の可能性」のディスカッションをお伝えします。
「セッション 1: コレクティブ・インパクトによる社会変革の可能性」では、アメリカにおいてコレクティブ・インパクトを推進しているFSG社のフィリップ・サイオン氏の講演と、日本における事例紹介に続いて、ディスカッションの時間。以下の方々が登壇しました。
フィリップ・サイオン 氏 (米国 FSG 社, マネージング・ディレクター)
高 亜希 氏(一般社団法人 Collective for Children 共同代表/認定 NPO 法人ノーベル 代表理事)
本木 恵介 氏(NPO 法人かものはしプロジェクト 共同代表)
矢田 明子 氏(コミュニティナースカンパニー株式会社 代表 / NPO 法人おっちラボ 代表理事)
<ゲストコメンテーター>
須藤 靖洋 氏(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. 法人事業部門 ジェネラル・マネージャー副社長)
(以下敬称略 / 肩書は当時)
*当日のダイジェスト動画も併せてどうぞ
前に進むためにお互いを知り、信頼することからはじめる
基調講演と事例紹介を受けて、AMEX須藤氏のコメントから対話がスタート。
AMEX須藤氏(以下”須藤”):AMEXとしても、スタートアップの企業や起業する人たちを支援する、というのがひとつのテーマになっています。そういう意味でこのセッションに参加することができ嬉しく思います。
発表してくださった皆さんが、フィリップさんが説明してくれたコレクティブ・インパクトに実際に取り組んでいて、結果を出していることに感銘を受けました。コレクティブ・インパクトの5つの条件というものを、意識しているしていないはあるかもしれませんが、たしかに条件を伴っている活動であるということに驚きもいたしました。そして様々なステークホルダーを引っ張って束ねる、協働するということができていたからこそ、結果を出せていたんだなということを感じました。
ETIC.山内(以下”山内”):ありがとうございます。コレクティブ・インパクトという考え方が注目されているのは、社会課題を解決する取り組みにおいて、そのインパクトが分断されている状態というのがあること。それを束ねて前に進んでいくんだ、ということが求められている状況があるからだと思います。
まずお互いの事例紹介ややりとりを聞いて、参考になったこと、自分の活動での課題、などについてコメントを頂けますか。
Collective for Children高氏(以下”高”):私たちの団体は2016年に立ち上がってスタートしたばかりで、5つの条件の中の”共通のアジェンダ”についてはまだ、自分たちにとって課題だなと感じました。集まったNPO同士のコミュニケーションはある程度できているのですが、行政や地域との共有はまだまだこれからだなと思っています。
山内:複数のNPOが組んで課題解決に取り組んでいこう、というのが高さんたちCollective for Childrenのチャレンジですが、これから具体的にこういうアクションをしていきたいというのはありましたか?
高:「同じテーブルにつく」ということをフィリップさんも仰っていましたが、それを地域の人たちとまだできてないので、それをしっかりやっていきたいです。
山内:NYのホームレスの問題解決に取り組んだロザンヌ・ハガディさんの話で、14の団体が集まって取り組みを始めたときに、「自分たちが全然コレクティブにできてない」ということに気づいてまずやったのは、みんなに招待状を送ることだったんだそうです。そしてみんなでテーブルを挟んで議論を始め、データをお互いに持ち寄ろうということになった。しかし個人情報の関係で持ち寄ったデータを見ることができなかったので、「それじゃあここにいる皆でデータを一から集めるところからいっしょにやろう」、と取り組んだそうです。
本木さんはお話を聞いていかがですか?
かものはしプロジェクト本木氏(以下”本木”):フィリップさんが示されていた鳥の群れの映像を見て、なるほどなあと腑に落ちました。また、矢田さんの発表を聞いていて、自分たちの活動でも振り返ると何かしらの法則や整理ができて、見えてくるものがあるかもしれないなと感じました。
山内:ありがとうございます。お話を受けて矢田さんにも伺います。矢田さんはコレクティブなアプローチを、理論やフレームワークではなく、自然に、ある種天然にやっていらっしゃるなとかねがね感じているのですが。
コミュニティナースカンパニー矢田氏(以下”矢田”):集まった皆さんはそれぞれ、活動の現場を持っていらっしゃるので、最初にみんなテーブルに揃ってたらいいなとは思います。ただまずは自分たちといっしょにやる相手との一対一の間で、協働することでいい体験ができた、ということを通して共通の目標やアジェンダをじわじわ作りながらやっていかないと、おそらく全体のテーブルがワークしないだろうなと思いました。
また、これは地域じゃなくてもそうなのかもしれませんが、地域という場所では、◯◯部長とか△△のリーダーといったような肩書、役割でテーブルに座る人が多い傾向があります。肩書だけで意志の無い人にテーブルに座ってもらっても意味がないので、意志ある人をいかにテーブルに引っ張ってくるか。こういったところも私たちの役割としてあるなと思いました。
あとは私たちのフィールドである雲南の場合は、体験することを喜んだり、誰かと一緒に何かやっていくことを受け入れる文化のようなものがあるんですが、数字で見るというのが弱い。そういうところで数字に強い企業さんが入ってくると、具体的な数字で目標を目指せると思うので、そういったことを具体的な次のアクションとしてやっていけたらいいなと。
山内:矢田さんから企業の巻き込みという視点が出ましたが、須藤さんにお聞きします。企業としてこういう関わりができそうだな、面白そうだなということはありますでしょうか?
須藤:AMEXはアメリカで、スモールビジネスサタデーというアクションをやっています。11月の第四木曜、アメリカではサンクスギビングデーという祝日がありまして、ほとんどのアメリカ人は地元に帰ります。サンクスギビングデー翌日の金曜も祝日になっていて、この日は多くの人がショッピングをするので、黒字の金曜日、ブラックフライデーと呼ばれています。そして土曜と日曜もお休みなので4連休。その土曜に、地元の商店に行って買い物をして、地元のスモールビジネスを支援しよう、というアクションを行政も巻き込んでやっています。2012年には、土曜日に当時のオバマ大統領が地元の書店で本を買って、Twitterでツイートするということもありました。今ではイギリスやオーストラリアにも広がっていますが、これは企業が行政等を巻き込んで地域を支援するという試みかなと思います。
山内:ありがとうございます。企業が入ることで地域に与える影響があるということでいうと、宮城県の女川町ではロート製薬が地域にはいって健康に関するプロジェクトをやっています。効果測定をしっかりやっていこうということと同時に、ロート製薬さんという企業が入ってくることによって、住民が面白がって関わってくれる、そういう効果もあるようです。
次はフィリップさんに、事例の発表などをお聞きになっての感想などあればお願いできますか。
フィリップ・サイオン氏(以下”フィリップ”):皆さんの活動について大きな感銘を受けました。成果を出すためのスピードについてのお話がいくつかありましたが、時間軸の話は重要です。どのくらいの時間をかけて成果を産み出すのか? しかし成果を出すスピードを優先するよりも、関係構築を優先することが重要です。矢田さんの仰っていた一対一の関係ももちろん重要ですね。
私の関わったあるプロジェクトでは、ステークホルダーに、「なぜこの場にいて、どこに関心があるのか?」ということを個別に聞き、それぞれの個人を理解するということからはじめていました。前に進むためにはお互いを知り、信頼するということからはじめなくてはいけません。
”インパクトを出す”ことに固執する
山内:時間軸、どういうタイムラインで課題解決を進めていくのか、というところは気になったポイントです。時間軸の考え方については皆さんいかがですか?
高:皆さんの事例を拝見していると、やはりすごく時間がかかるんだなとあらためて感じました。私たちとしては、関係構築と事業の安定に3年という設定をしています。それから5年、10年という時間をかけてインパクトを出していく、そういう時間軸を見ています。
本木:わたしは若気の至りでつい、「3年でこのくらいやりたい」なんてことを言ってしまうタイプなんですが、振り返ってみるとそんなに進まないことも多いし、逆に進むこともあります。
大切なのは変化の連鎖をつくっていくことかなと思っています。私たちと現地の団体の一対一でスタートした時から比べると、今は5ー6団体が集まって取り組みをやっていまして、それぞれの団体も取り組みを通じてかなり変化してきました。その変化した団体がさらに行政などに働きかけていく、そういった連鎖が起こってきています。
その時に大事なのは、被害にあった当事者(サバイバー)たちの声です。ワークショップでは、当事者たちにヒアリング対象ではなく、プログラムの一員として来てもらっているのですが、その場で、強い悲しみや怒りなどが出てくるわけです。「自分たちは悪くないのにこんな被害にあった」「こんなひどい目にあった」といったような。
その場に参加していた弁護士も最初は、「インドの今の制度ではこうなっていて、あなたの立場はこうだ、だからしょうがないんだ」という対応をせざるを得ないですが、話しているうちに何か気づく瞬間があって、怒りの気持ちが入ってくる。すると自分の弁護士としての役割を超えて、「法律をこう変えなければならないんじゃないか」と変わってくるんです。その弁護士の変化が組織の変化を生んで、さらに政府の変化を生む、そういう変化の連鎖ができてくるんですね。実際にこういうプロセスが連鎖していくためには長い時間がかかります。
山内:お話を聞きながら、一方で「長い目で見る」ということを言い訳にしないのも大事だなと感じました。成果を検証して、変化のシステムを学習していくサイクル自体がコレクティブ・インパクトのアプローチの重要な点だなと。矢田さんいかがですか?
矢田:時間軸については感覚でやっているんですが、足元が固まりはじめるのに3年はかかっていますね。1年は計画を積み上げて、とりあえず3年は突破する、というのが大事だなと。それを5年くらいやってくると、「核になるのはこれかもしれない」というのがなんとなく固まって見えてくる。
ただし、活動をはじめて10年が経過して思うのは、社会自体が変化すること。時代が変わるので、特に後半の5年については計画を手放して、計画自体をどんどん変更していく、という要素も入れておかないと時代の変化に対応できないこともあるなと。3年、5年、10年という時間軸を、みんなでどう共有すればいいのかな、ということを考えながら聞いていました。
山内:タイムラインについて、フィリップさんいかがですか?
フィリップ:私は”インパクトを出す”ということに固執しています。アクションをしてみたら、失敗することもあるかもしれませんが、それをやりながら学ぶというのはとてもいいことだと思います。時間が経過したということは学んだということであり、その経験をベースにして、政府や他のステークホルダーを巻き込んでいくということもできるでしょう。指針になるのはやはり、「どうしたらインパクトを出せるか」を考えることだと思います。
山内:ありがとうございました。まだまだお話を続けていきたいのですが時間も限られていますので皆さん最後にコメントをいただけますでしょうか。
矢田:自分たちのやっていることをまとめると、人の役に立つんだなと思いました。個人的に思っているのは、あまり気難しがらずに、「こういうの面白いよね!」というムードがあることでコレクティブな取り組みがより進むのではないかなと思っています。
本木:矢田さんに重ねて言うと、ここにいるフィリップは、今日のプレゼンテーションもすごい内容で、実際すごい人なんですが、一方でジョークが上手で日本好きのとても面白い人なんですよ。なので皆さん気軽に話してみてほしいです。フィリップが持っているアメリカで蓄積されてきた知見と、日本での様々な取り組みがコミュニケーションして学んでいくことも、コレクティブなアプローチを進めるためにとても大事なことだと思いました。
高:Collective for Childrenをはじめたとき、フィリップさんの言っていた5つの条件というものは全く知らなかったんですが、自分たちの活動がある程度この条件を満たしているんだなと改めて感じました。でもやはり、なかなか進んでいないよなあとも思った。それが今日の気づきです。活動を体系的に見てみること、学んでみることも大事だなと。
須藤:あらためて、みなさんの志が高いことに感銘を受けました。そして、「ひとりではないんだ」ということを感じました。私たちがそれぞれ、様々な問題を抱えつつも、それをシェアすることで世の中を変えていくことができる、そう思いました。
山内:皆さんありがとうございました。「インパクトに固執しているんだ」というフィリップさんの言葉が印象的でした。どうしても私たちの活動というのは、自分の活動に固執してしまうところがあると思うのですが、産み出していくインパクトに固執するということにフォーカスする。そのために、真ん中に当事者がいる、課題解決を支援していくエコシステムをいかに再構築できるかということ。そのコレクティブなアプローチに、行政や企業が今大きな関心もってきているタイミングだと思います。
今日はありがとうございました。
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