地域で仕事を創り出すための手法と感性を養う、短期実践型プログラム「地域イノベーター留学2015」が開催されます(現在参加受付中)。今回は、プログラム担当の林 春野、宮田サラ(NPO法人ETIC.スタッフ)にその魅力を語ってもらいました。
右からETIC.林 春野、宮田サラ
フィールドワークと講義を重ねて、地域での事業創造の感性を養う
地域イノベーター留学は、「現在は都内近郊で働いているが、近い将来地域での転職や起業を考えている人」「地域で仕事をする際の、具体的なスキルや仕事像をつかみたい人」「都市にいながら、地域と関わるやり方、仕事の仕方を考えたい人」などを対象としています。
プログラムは、現場での「フィールドワーク」と、東京での「講義&ワークショップ」を組み合わせた構成となっており、両者を繰り返すことで、地域課題の解決手法・実行可能なプロジェクト立案の流れを経験することができます(プログラムの流れはこちら)。
三重県尾鷲早田 現地での一幕
仲間との学びがもたらす自分自身の変化
「参加者自身が、自分のやりたいことと、地域のやりたいことを見ながら12の地域から関わる地域を選びます。参加者の興味や業種もさまざまで、地域への関心から選ぶ人もいれば、テーマやコーディネーターの存在から選ぶ人もいます。そのため、現地の人に会える機会として、マッチングイベントを開催しました。また、個別説明会でもそれぞれの地域にどんな人がいるのかを丁寧に説明しています。とにかく、地域の方々が魅力的なんです」(宮田)
都市部で働く者であっても、地域で自分のやりたいことについて考えることはできるし、地域を訪ねることで「この地域であればどのような働きができるだろうか」と考えることもできます。しかし、地域イノベーター留学では参加者が一人で模索するのではなく、地域コーディネーターや地域の中小企業の人々と活動をともにするため、地域の実情・やりたいことについて実感を伴って考える機会になっていると宮田さんは語ります。
「参加者は都市部から3~4名、現地参加が3~4名、最大計8名のチームをつくることになります。都市部からの参加者と同じだけの現地のメンバーがチームに加わるこの仕組みは、現地で事業計画を立てていくなかで、「誰が実行するのか」という問題意識から生まれました。現地参加者がいることで、より深みがあり、具体的なプロジェクトが生まれていきます。 プログラム実施後は、現地と都市部で関わりを持ち続けている人、参加した地域・関心のある地域・地元へ入った人、さらには移住・起業を行い、今回の地域イノベーター留学では企業担当者やコーディネーターとして参加している方もいらっしゃいます」(宮田)
企業担当者として参加する地域イノベーター留学OB石田元気さん
転職や起業、地域への移住について当たり前に語り合えるチームメンバーや、地域に入った際に言葉を交わすことのできる存在がいることは、参加者にとって大きなポイントのようです。
これまでひとりで考えていたことが、ひとりだけの悩みではなかったという気づきや、ひとりではなく人と一緒に悩むことで、これまでの想いが変わっていくという過去の参加者の気づきは、これからの参加者や地域の背中を押してくれそうです。 また、参加者も地域も多様なだけに、プログラム後に生まれる関係性も多様な広がりを見せてくれています。これは参加者それぞれに合った関わり方を選ぶことができた結果とも言えるかもしれません。
「変わりたいから、変わる」という主体的な想いが集う場所
「企業側が教えてあげる、地域側が教えてあげる、というようなかたちではなく、同じ参加者として地域の課題に取組んで、互いに得るものがある場にできればと思っています。 いまある課題もその解決策も正解があるわけではありません。地域コーディネーターも含めて挑戦の場であり、少しでもよい方向へ“変わりたいから、変わる”、一人ひとりがそんな想いで参加する旗印になればと思っています」(林)
一人ひとりが「変わりたい、見つけたい」という想いで参加することが大切だと感じている林さん。これは、これまでの参加者、地域の人々、地域コーディネーターとの関わりのなかから生まれていました。 地域に入る参加者にとっては「自らの仕事は地域にあるのか」、地域の人々にとっては「地域は外からはどう見えるのか」、地域コーディネーターにとっては「外と中の人を巻き込みながらどう企業課題や地域課題を解決していけるのか」、それぞれがそれぞれの立場で課題を持つことになります。
そのため、関わるすべての者にとって実践の場であり、その実践を通して変化していく場でもあります。一人ひとりが課題の元に集いそれぞれの課題に応えることではじめて、地域を取り巻く状況が変化していきます。
修了後に生まれる全地域との関係性
地域イノベーター留学では、地域中小企業や関係者を招き「修了報告会」を開催し、プロジェクトの提案を行います。日本各地12地域でそれぞれ活動を進めてきた参加者が一堂に会する機会です。
プログラムの最後に行われる「修了報告会」の様子
これまでに地域に入りプロジェクト立案を行って得た実感が、他地域の取組みに対する理解を深め、自らが実際に関わった地域を越えて関係性を広げてくれます。以下に、今年度のフィールドワーク先について、一部ご紹介します。
沖縄県名護市「日本一高齢者が元気な地域で、日本の農のモデルをつくる仲間募集!」
受け入れ企業、勝山シークヮーサーは、名護市勝山地区の特産品であるシークヮーサーの生産・加工・販売を一貫し行い、6次産業化に取り組む団体です。
農家がいつまでも安心して農業を続け、若者が農業に希望を持つことができる地域をつくるため、自社の買取価格を1キロ200円に設定(通常1キロ50〜60円)。商品開発、企業連携、自社販売に力を入れています。 農家の生活が成り立つ買取価格の設定には、勝山シークヮーサー設立の精神が示されています。
地域に根づいている農業をこのまま使い切るのではなく、地域の仕事として残していくことを選び、そのために必要な価格を設定、伴走し環境をつくり続けています。
勝山シークヮーサーでつくられている商品
岡山県笠岡市「瀬戸内の島に若者がチャレンジする仕事をつくり、魅力的な『海社(カイシャ)』にする」
受け入れ企業、かさおか島づくり海社は、島同士の連携の活動から始まり、島民主体の活動のなかから生まれた法人です。地域の公共的役割を担い、島民の創意工夫と連携強化により、笠岡諸島の自立的発展、島民の生活や福祉の向上を目的として活動を行っています。
取組みとして、笠岡諸島近海で水揚げされた天然魚を伝統製法で熟成させた『魚々干(とっとぼし)』や特産品の販売および情報発信・ツーリズム、「島で最後まで暮らしたい」という島民の声に応えるための『海社デイサービス』の運営、買い物支援サービス、保健福祉を学ぶ学生の実践学習の支援を行っています。
地域の実情に応じたケアを中心とした事業から、新たな雇用につながる地場産業を活かした事業化への挑戦を行っています。実践する者、試行錯誤する者がいない地域が多いなか、これだけ多くの取組みに挑戦しているこの笠岡では、島に入ることでできる多くのことが見つかるはずです。
岡山県笠岡市 笠岡諸島
静岡県浜松市北区三ヶ日町「みかんで全国的に有名な風光明媚な町で、若手の和菓子屋と一緒に経営革新!?」
受け入れ企業三ヶ日製菓有限会社は、昭和17年、戦時中の物資不足のなか三ヶ日の製菓店8人が力を合わせてお店をつくりました。地元で長年店舗を構え、お遣い物、地域の催事など、地元の方々へ向けて和菓子販売を続けています。しかし、地元の消費は高齢化とともに徐々に落ちています。
「地方にある零細和菓子屋は、時代の流れと共に淘汰が進み、結果としてなくなるべき運命なのでしょうか。一緒に考えてくれる方々にお会いしたいです。」
企業課題に綴られた最後の言葉からは、日々変わるもの変えるもの、地域と共にあったものとどう向き合っていくのか、選んでいくのかについて考えさせられます。どこにでも起こり得る話だからこそ、誰もが変える一歩を踏み出せるはずです。もちろん簡単な仕事ではありませんが、はじめることはできます。
三ヶ日町のみかん畑にて
新潟県長岡市「高齢化率70%!ムラのじじ・ばばが運営する宿泊施設の活性化プログラムを」
今回のプログラムの舞台「法末自然の家やまびこ」は、稲作や雪掘りなどの農村体験の実施、郷土料理の提供を行っています。しかし、集落の人口減少や高齢化などによって運営を続けることが難しくなってきています。
これまで復興のトップランナーとして地域づくりを牽引してきた法末集落の今後について、法末振興組合と連携し、取り組みたいと考えています。
どんな場所で、どんな人たちが、どんな生活をしているのか、知らない世界があります。参加地域のなかで、都市部と異なる部分が最も多い地域かもしれません。だからこそ、都市部とできることも多くあるはずです。
長岡での畦整備
一期一会の課題に取り組む
「自分自身と地域のこれからをつくっていく機会になればと思っています。それぞれの地域の人の想いが素晴らしくて、私自身が参加したいと感じています。地域に対する目線やこれからの地域に対する展望、そして、それをかたちにしようとしている姿に、ぜひ現地でふれて欲しいです」(宮田)
「地域に今ある課題は、状況もいる人も含めて、今しかない課題。一期一会のつもりでやっています」(林)
今ある課題を、このように考えることができたら、それだけで一歩進むことができているのかもしれません。 放って置いたら、今ある課題はなくなるかもしれません。しかし、それはかたちを変え新たな課題として、あるいはとても解決できそうもない大きな課題となって再び現われます。
今ある課題を大切に、今ならなんとかなる、なんとかしようと取組むことで、まだ現れていない多くの課題を未然に防ぐことができるのではないでしょうか。 そして今ある課題に取組む姿は魅力的で、それだけで何かを解決しているのかもしれません。ぜひ、現地で触れてみてください。
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