いま私たちは、多くの”社会課題”に直面しています。数え上げればキリがなく、もはや既存の手法だけでは解決することが難しくなっています。いま、世界が、これまでに無い新たなアプローチを必要としているのです。
ソーシャルスタートアップ・アクセラレータープログラム「SUSANOO」では、そのような常識にとらわれない社会変革の挑戦者として起業家の挑戦を後押ししています。 「SUSANOO」というプログラム名は、かつて神々の世界でハグレモノだったスサノヲノミコトが、ヤマタノオロチ退治を経てこの国の英雄になったという神話になぞらえたものです。この閉塞感が漂う現状に対して、独自の視点と革新的なアイデアで劇的に反転させる爆発力を秘めた新たなタイプの社会起業家、すなわち「ソーシャルスタートアップ」*1 を輩出していくプログラムが「SUSANOO」です。
*1.ソーシャルスタートアップ:従来の企業や行政の手法では事業構築が困難な「市場の失敗」分野に果敢に挑み、高速仮説検証(ビジネスモデルについて迅速な仮説を構築・検証・修正を繰り返すこと)により革新的なビジネスモデルを構築し、人々の生活と世の中をガラッと変える取り組みや組織のこと。
今回は、そのプロジェクトリーダーである渡邉賢太郎(ETIC.スタッフ)に、ビジョンやプログラム内容について話を聞いてみました。
「SUSANOO」プロジェクトリーダー・渡邉賢太郎(ETIC.スタッフ)
-「SUSANOO」を始めたきっかけを教えてください。
渡邉:スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクは、常識に照らせば一種の変人だと思うんです。世の中の常識にとらわれていないから、最初は何を言っているのかよく分からない(笑)。だけど、自分らしさを極限まで追い求めてきたからこそ、世界中をあっと言わせるサービスを実現して世の中を変えてきたんだと思います。そういう人が日本からたくさん出ればいいというのが個人的な想いとして元々ありました。
- そういった方たちがたくさん出てくるためには何が必要なのでしょうか?
渡邉:必要なものは二つあると思っています。一つ目は、そういった生き方をして成功しているロールモデル。特別にぶっとんだ人がいると良いと思っています。二つ目は、「世の中を変えるぞ」という人を支える人や仕組みの存在ですね。失敗しても全然オッケーという環境も含まれます。
世の中に元々変わった人がいないわけではないんです。ただ、高校から大学、そして新卒で就職というキャリアの中で、ぶっとんでいた人もどんどん「真面目」になっていってしまう。 そういう人が思い切って渋谷に来れば、自分が本当にやりたいことをやって頑張るのが当たり前だし、それを応援してくれる人と大勢出逢えるというような環境を、SUSANOOプロジェクトを通じて創りたいと思っています。
「ブートキャンプ」と呼ばれるメンバーの集まり
- 本当に自分がやりたいことをやる起業家を応援する環境をつくりたいのですね。それでは、SUSANOOの各起業家は実際にどのような手法で事業を作り上げているのでしょうか?
渡邉:SUSANOOのプログラムの面白さは、リーンスタートアップ*2という手法を課題解決型のビジネスに応用しているところにあると思っています。 *2.リーンスタートアップ:事業の立ち上げに関する方法論。仮説の構築、製品の実装、および軌道修正、という過程を迅速に繰り返すことによって、無駄を最小限に抑えつつ素早く改良を続け成功に近づくというビジネス開発手法。
ビジネス領域におけるリーンスタートアップの意義は「当たるビジネスモデルを無駄なく探せる」ということにありますが、ソーシャル領域においては、それに加えて事業の社会的なポジショニングだったり起業家自身が本当に大事にしたいことだったりが明確になっていくということがあり、実はそれがとても重要なポイントなんです。
ソーシャル領域においては、極端な話それらさえ明確になってしまえばビジネスモデルを抜きにしても人的なつながりができていきます。それが社会にインパクトを与える可能性をもたらすのです。 私自身は、このリーンスタートアップを通じてソーシャル領域の起業家に起きる変化を、「杭を打ちこむ」ことや「錨を下ろす」ことに似ていると考えています。自分が何者で、何のためにこの事業に情熱を燃やすのかがしっかり定まることが、長期的に見るととても大事になってくるんです。
- 仮説検証を通じて自分が大事にしたいことが明確になっていき、その結果協力者とのつながりができてくるんですね。では、そのことは何につながっていくのでしょうか?
渡邉:このプロジェクトが最終的に目指すのはコレクティブインパクトケースという、行政、企業、NPO、基金、市民などがセクターを越え、互いに強みやノウハウを持ち寄って、同時に社会課題に対する働きかけを行うケースの輩出です。そのためにはデモデイなど聴衆の前で自らのビジョンや想いを語り協力を募る場を通じて、常識では手を組むことが考えられないようなチームがSUSANOOの起業家を軸としてできていくことを一つのゴールとしています。
デモデイのオープニング
例えば、このビジョン達成のためならばということで、ライバル関係にある企業が手を組んだり、大企業や行政、アーティストその他多様なセクターがチームになったりするというようなことです。そこからコレクティブインパクトが生まれていくのです。
- そういったコレクティブインパクトを生み出すために大切にしていることはありますか?
渡邉:「Think Big !」というポイントがあります。コレクティブインパクトも含めて大きく社会にインパクトを与えていくためにはどうしたらよいか。このことを考える際には、ドミノをどこから倒していくのかということを考える必要があります。つまり自分たちが見出したソリューションを、社会のどこにいる誰からぶつけていくと最も効果的に社会が変わっていくのかを考えるということです。
もう一つ重要なことは、他のアクターがどのように動かないといけないのかを考えることです。いくらドミノをうまく倒したとしても、自分たちができることの限界は出てきます。それでも世の中に与えたいインパクトがあるとしたら、他のアクターをどのように動かすのかを考える必要が出てくるのです。そのためにも、本気でインパクトを出したいソーシャルスタートアップは、Think Big ! にビジョンを語り、伝えていく力が必要になると思っています。
自分の原点を熱く語り聴衆を巻き込む起業家
また、課題を機会としてとらえる考え方も重要です。そもそもは同じことでも、問題と言えば問題になるし、チャンスと言えばチャンスになる。
例えば、空き家が増えていくという現状は問題として捉えることも可能ですが、それをチャンスと捉え、空き家の有効活用を通じてその「問題」を解決するというやり方もあります。Airbnbのビジネスはまさしくそれにあたりますよね。 社会課題に対してそのようなポジティブなアプローチをとっている方がビジネスセクターも乗りやすく、結果として変化の速度も早まると思っています。この課題を機会としてとらえる考え方は、ドミノの倒し方や他のアクターの動かし方を考える際に、持っておくとよい考え方だと思っています。
- 課題を機会として捉える考え方を持っておくと、世の中にインパクトを与える可能性が高まるのですね。では、そのプロセスにSUSANOO事務局はどのように向き合っているのでしょうか?
渡邉:徹底的に伴走者たることを意識しています。上から教える側では決してないと思っています。実際、私たちよりも経験豊富な起業家さんも多数メンバーとして参加していますしね。私達の立ち位置は、マラソンランナーの横で「頑張れ、頑張れ」と言っているコーチのような感じです。 走る、つまり仮説検証を回して事業を進めていくのは、あくまで起業家本人なんです。くじけそうなら、励まして水分補給くらいはできると思いますが(笑)。ただ、この伴走者には結構な覚悟が必要なんですよ。ランナーが走り続ける限り、どこまでも応援し続けることって簡単なことではありませんから。
デモデイでは多くの招待者と共に今後の戦略を練る
- 伴走者という意味では、SUSANOOの起業家の皆さんからSUSANOOに入って良かったこととして同じ志を持つ起業家の仲間ができたことが大きいという声が聞かれるのですが、メンバー間の関係も重要になってくるのでしょうか?
渡邉:SUSANOOは、共感・共有・共創をコンセプトにしています。メンバー同士で共感が生まれていることで、自分の事業と同じくらい同期の事業のことを考えるようになります。その結果、メンバー間でナレッジの共有や、さまざまなリソースのシェアがされていきます。
- なるほど。たしかにメンバー間で事業計画についてアドバイスをしたり、知人を紹介し合ったりといったことがかなりなされていますね。この共感・共有・共創というのは、他の場ではできないものなのでしょうか?
渡邉:共感・共有・共創というのは、ビジネスの世界だとやりづらいというのはあると思います。株式会社という仕組みだと、基本的に株主の意向が優先されやすい。しかし、ソーシャルスタートアップはそういったことに縛られず、より純粋に社会的なインパクトを追求しようとします。社会を変えたいという共通した想いがあることが、誰かの挑戦はメンバー間で全力で応援していくという環境につながっているのかもしれません。
- 社会を変えたいという想いを皆が持っているからこそ、共感・共有・共創のコミュニティができているのですね。最後に、SUSANOOのアクセラレータープログラムはいわゆる塾ではないんですよね? 何と言えばよいのでしょうか?
渡邉:たしかにみんなが座って誰かの話を聞いているというような、いわゆる“塾”ではないです。重要なことは誰かの話を聞くことではなく、現場でリーンスタートアップを実践することです。ただ、あえて塾という言葉に重ねると、松下村塾に近いと思います。松下村塾は出自関係なく人々を受け入れた。そのうえで吉田松陰先生は「諸君狂いたまえ」ということをひたすら言い続けました。
当時吉田松陰先生のところに集まったのは、周囲の空気が読めていない荒くれ者でした。でもそこから次の時代を支えた要人が多数輩出された。これは、SUSANOOが大事にしている常識にしばられている人のなかから面白いものは出てこないという考えに通ずるものがあると考えています。
- そういう意味では今後のSUSANOOメンバーとしてはどういう人に来てもらいたいですか?
渡邉:色々なタイプがあると思いますが、そのうちのいくつかのタイプを挙げます。一つは、「俺/私は絶対にこれが大事だと思う、これをみんなと一緒に変えていきたい、だけどそのやり方が分からない」というような人。もう一つは、「人生がすごく上手くいっていて、この先75歳くらいまでは大体予想がついている。だけどこのままだと面白くない」と思っている人。
この二つはあくまで例ですけど、「俺/私のやりたいことはこんなことだっけ?」、「こんなことのために人生あったんだっけ?」という誰もが持っている想いに従って門を叩いてもらえれば、いくらでも「荒ぶる」ための機会を提供できると思っています。
SUSANOO「荒ぶる」のポーズ
- 「荒ぶる」ですね。SUSANOOではこの言葉がキーワードとなっていますが、渡邉さんからこの意味を教えてもらえますか?
渡邉:これがSUSANOOのすべてだと思っています。「荒ぶる」というのは要するに、本当の自分を出す、ありのままの自分でいるということだと思っています。スティーブ・ジョブズの語った"stay hungry, stay foolish"とも同義だと思っています。 誰かの常識に従う必要はない、本当にやりたいことは自分の本能や直観が知っている、自分を全肯定して本能と直観を基に挑戦しよう、ということです。「荒ぶる」という言葉には、そういった意味を込めています。
- 起業家が「荒ぶる」ため、つまり自分の本能や直観を基に挑戦するためにSUSANOOのプログラムでは何をやっているのですか?
渡邉:「何がしたいのか?」「なぜしたいのか?」ということを繰り返し問います。そういった問いを続けられることが、自分が何者であるかを自覚することにつながります。それと同時に、ありのままでオッケーですよというメッセージも出し続けます。 それを通じて参加メンバーがそれぞれ本当の自分を見出したとき、社会に大きなインパクトをもたらす人的なつながりも自ずとできてくると考えています。そしてその先に、彼らがつくりたい社会の実現が待っていると考えています。
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