地域課題に挑む先進地域の動きを学び、次の一手を設計するプログラム「BRIDGEまちづくりコース」が開催されます。今回は、受入地域のひとつであるNPO法人きらりよしじまネットワークの高橋由和さんに話をうかがいました。
NPO法人きらりよしじまネットワーク・高橋由和さん
なぜまちづくりでNPOなのか
「きらりよしじまネットワーク(以下きらり)」は、山形県川西町吉島地区の全世帯が加入するまちづくりNPOです。 2,606人、728世帯(住民基本台帳平成27年3月31日現在)が住む吉島地区。これまでの地域の合意形成は、行政の担当課に合わせて存在する地域団体による縦割りの構造でした。
地域団体が複数存在しながらも、その役員は重複することも多く、合意形成は団体毎に行われるため団体を越えた協力も難しい状況だったようです。
「地域づくりを進めるにあたって、効果的な人のつながりや資金活用を思うと、地域の合意形成をひとつにする必要があると考えました。そのため、いままでのばらばらの組織をひとつにまとめ、そこへ住民が参加していくかたちとしました」。
ひとつにまとまることに対して違和感を示した方もいたけれども、これまでの合意形成のかたちが形骸化していたことは住民も認識しており、ビジョンを共有できたことがいまにつながっている、と語る高橋さん。
「NPO法人というかたちをとったのは、1. 地域づくりもこれからは経営の視点と知識が必要になってくる、2. 将来のビジョンを持ち住民が参加するかたちをつくる、3. 多様な資金獲得が可能となる、4. 行政と協働し住民が考えてできることからスタートする、5. 活動そのものは非営利であるため、です。地域の人材と資源を集約し、学び合いを繰り返していくことで、継続したまちづくりができるのではと考えました」
高齢化が進む地域や決まりごとの多い地域では、なかなか新しいことに挑戦できない部分もあります。そして一方で地域には新しいことに挑戦しようしている若い世代、中高年もいます。そんな地域と人をつなげ、コーディネートする役割を担っているのが「きらり」です。
地域にとって必要な技術を、地域の中で約束する
「きらりがコーディネートの役割を担うためには、その技術・ノウハウが必要です。そのためには、ファシリテーション、コミュニケーション、住民がやりたいことを実現するためのマネジメントのスキルをコミュニティの中で約束していくことが大事です。
また、住民が何をやりたいのかが定まったら、それに沿ったプロの技を学べる場をつくることが必要になります。そして、そんな場をつくることが住民に対するきらりの役割だと思っています。学ぶことで知識になり、それを実践することでその人のノウハウができていく、自信がつき次の一歩が出てくる。そんな学びの循環を地域の中にきちんと設定することが大事になると考えています」。
役割・目的を定めることで、必要な技術・ノウハウが明確になり、学び・実践するという流れをつくっています。きらり自身も、住民のやりたいことを実現するためのコーディネート役と定め、その学びと実践を繰り返しています。
そして、コーディネーターであるきらりが地域の中で機能することで、学びの循環が地域の中に設定され、活動が深まり、広がっていきます。この「地域にとって必要な技術を、地域の中で約束する」という考えは、地域に必要なことを考え続けるという姿勢であり、学ぶ姿勢でもあります。
一人ひとりの出番を真面目に考えること
「あの人は元気だから、あの人は発言力があるから、あの人は元〇〇だからと考えて、他の人の出番を阻害しないこと。地域の中でひとり一役を担ってもらえるような環境をつくることが大事だと思っています。
その一役の中には地域活動に参加するということも役割のひとつで、発言の場に必ずその人がいなければなけないわけでもないと思います。そういう捉え方、一人ひとりの出番を真面目に考えるということがすごく大事だと思います」。
キーパーソンという言葉があります。活動を進めていく上で、そのような存在は確かに存在します。しかし、活動を続けているその場所には、キーパーソンとは呼ばれない存在が間違いなく存在します。むしろ大部分の人がそうです。
そんな一人ひとりの役割を真面目に考えることで、ある指令を実現する集団ではなく、ある使命を持った個人の集まりとして集団が動いていきます。
やれることで元気が出る、やっていくことでつながっていく
「住民が地域の中でやりたいことをやれるようにコーディネートしているだけなので、住民一人ひとりが自己完結していく、自己実現していくことが大事だと思っています。やれることで元気が出ると思うので。これまでの地域には、話を聞いて、かたちにできるまで支援をしていく存在がいなかったので、そんな人を育てていかなければいけないと思います」。
地区計画策定、女性起業支援、学童保育の経営、産直経営、介護予防事業、買い物代行見守り支援事業、高齢者サロン事業、農都交流事業……やれることで元気が出て、やれることも増えていきそうです。いくつかの取組みを、ご紹介いただきました。
「農道 百笑一揆」吉島の農に関わる農業青年コミュニティ
「『農道 百笑一揆』という農業青年、非農家青年による農業青年コミュニティがあります。14名いて、半数はUターン者です。商品開発や企画、農業体験、就農希望者の育成に取り組んでいます。将来的にはUIJターン者の受け皿となる会社として成長していけばと思っています。
若い年代ですが、プロの技術を持つメンバーなので、彼らを表舞台に出していかなければと思っています。非農家のメンバーは営業・マーケティングを担当しています。昨年度一年間は、月に2回専門家を招いて勉強会を重ねており、今年は実践の年です。大学・企業とも連携を取り、企画も進んでいます」。
農について考え、学び実践する場が地域の中に生まれつつあります。企業・大学との連携により活動はいきいきと広がります。
農道百笑一揆ホームページより
フットケアを通した、身体のケアと日頃からのつき合い
「高齢者の入院の原因のひとつに転倒があります。その転倒の原因に巻爪や外反母趾があり、その部分をケアしながら見守る存在として、今年5人育ちました。日頃のつき合いの中から住民同士が悩みを打ち明ける場にもなります」。
身体のケアを日常の中に設定し、その機会を日常的な見守りの場としています。ケアを受ける高齢者は、サービスを受ける存在だけではなく、そこへ参加することで互いに互いの居場所をつくっています。
地域の中で「小さなおせっかい」がぐるぐる回る
「学童保育の経営を行っており、高齢者がその担い手として活躍しています。子どもたちへの読み聞かせ、手仕事を教えていただいたり元学校の先生に宿題を見ていただいたり、高齢者の出番がいま増えていっています。
また、高齢者自らがサロンや居場所づくりをしていくことを推進しています。 高齢者が仲間を呼んで、そば打ちをやったり、カラオケをやったり、麻雀をやったり。サロンはお茶飲みの延長でもあるので、拠点があれば活動は広がります。公民館でなくても、お店の2階を借りてもいいですし、なかなか外に出ることのできない人の家でサロンを開いてもいいですし、地域の中で小さなおせっかいがぐるぐる回ればいいと思っています」。
何歳になっても居場所、役割があります。これまでとの役割の変化から、戸惑うこともあるかもしれませんが、元気に活動していること、ただ元気でいることも大切な役割です。元気な姿が、誰かを元気にすることもあります。
「小さなおせっかい」がぐるぐる回る吉島地区では、元気な姿をいっぱい見ることができそうです。
苦労の乗り越え方、大人がしっかり応えるということ
きらりがフィールドワーク受け入れ先の先進地域として参加する「BRIDGEまちづくりコース」は、1. 先進地域へ学びに行き(2泊3日)、2. 先進地域で活躍する仕掛け人に自地域へ来てもらい(2泊3日、地域選考会有)、3. 「報告会」で次の動きを発表し、互いに地域課題への打ち手を磨き上げるプログラムです。
参加者にとって、「もやもや感を払拭する」プログラムになると語る橋さん。
「仕掛け人がどういう汗のかき方をしたらいいのかを示すことができれば、と思っています。何かをやると決めたら、いろいろな苦労があると思いますが、その苦労を乗り越えているからやれていることがあります。ですから、その苦労の乗り越え方を学んでいく必要があると思います。
きらりの事務局は、現在常勤が5名、非常勤が24名。非常勤のメンバーは、他で働きながら関わっている平均年齢34歳の若い世代です。それぞれが部会に参加し、聞き役となり、そこから動いています。そんな若い世代が活躍できるように、大人は閉鎖的になることなく、どんな役割・技術が必要なのかを示し、しっかりと応える必要があると思います」。 苦労の乗り越え方について、その当事者として、それに応える地域の大人としての姿を見ることができそうです。一人一役を考えることで、地域にいる一人ひとりの役割、大切にしたい姿勢が見えてくる気がします。ぜひ、吉島地区、きらりよしじまネットワークを訪ね、一人ひとりの役割・活躍を見てください。きっと、考えるより先にどのように動けばよいのか、姿勢で臨めばよいのかを感じることができると思います。
参加する一人ひとりにも役割があり、それに応える地域ときらりがいます。 地域の仕組みに悩む方、人の活躍の場をつくりたい方、一つひとつ実践する力をつけたい方、どこか不安な方、ぜひプログラムにご参加ください。 苦労もあるかもしれませんが、その乗り越え方は、きっと感じ取ることができます。
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