ソーシャルビジネスのビジネスモデルや戦略について伺うシリーズ第2弾。第1弾では認定NPO法人Rebitのお話を伺った。今回お話を伺うのは空間づくりワークショップの專門集団、KUMIKI PROJECT株式会社。「はじめたいを”ともにつくる”で実現する」をミッションとし、全国各地の木材会社と開発した家具や内装キットを用いて、お店やオフィスなどの空間づくりをワークショップで形にする。
KUMIKI PROJECTは、単にワークショップを開催するだけが仕事ではなく、空間のコンセプトづくりからデザインなどのクリエイティブまでトータルで実施。ワークショップの参加者募集では、空間をつくりたいオーナーへのヒアリングをもとに参加者像を設定。例えば、「地域のおじいちゃんおばあちゃんが気軽に来れるようなお店にしたい」という場合、空間づくりの段階から、そのような方々と一緒に楽しめるように工夫した参加者の集客を行っている。
また、空間づくりワークショップで活躍するインストラクターを地域ごとに育成していくために、2018年に新たに立ち上げたのが一般財団法人KILTA(キルタ)だ。一般の人々が、家具や空間づくりを楽しめる「ものづくりのシェア工房機能」と、インストラクター育成などの「人材育成機能」を兼ね備えた拠点として、現在、全国3箇所に工房が立ち上がっている。
暮らしをつくる人を全国にふやすことや、はじめる人を支えるために、KUMIKI PROJECTは自分たちだけで事業を推進することにこだわらない。DIYではなく、DIT(Do it together=ともにつくる)をコンセプトに掲げ、組織の枠を超えて社会的な価値をともにつくることを目指して活動を続けている。このようなビジネスモデルはどのように生まれたのか?代表の桑原さんにお話を伺った。
KUMIKIのはじまり
ーKUMIKI PROJECTがはじまったきっかけを教えてください。はじめからこの方法で事業を進めていたのでしょうか?
はじめからこのやり方にたどり着いたわけではありません。もともと僕は、社会課題をビジネスで解決することを目指すコンサルティング会社にいて、東日本大震災発生後、
当時の陸前高田は津波被害がとにかく甚大。なんとか復興を支える一助になれればとの想いで、事業化調査で知った気仙杉を活かす新たな事業づくりのために、現地で起業。可能性は全く見えてはいませんでしたし、計画もありませんでしが、目の前の必要性に駆られて始めたのが本音です。はじめの3年は、陸前高田市や宮城県石巻市などで、杉を使った集会所づくりをに取り組んでいました。
ー集会所はどのように建設・運営していましたか?
行政の補助金や企業の助成金を集め、建設費を捻出し、地元の住民のみなさんと一緒になってつくりあげました。運営は、地域で立ち上がったまちづくり団体にお任せするという流れで取り組みました。その後、復旧から復興段階となり、行政主導でコミュニティセンターの再建計画が進んだことから、僕らは次のステップとして気仙杉を活用した家具の開発販売に着手しました。自分で組み立てるキット形式なのは初期からです。というのも、杉は柔らかくて傷がつきやすいため、他の家具との差別化を図るためにも、親子や家族で組み立てるキット型の商品としてなら、購入してもらえるのでは?と思ったからです。
価格設定も多いに悩みました。市販品で安くて丈夫な家具が溢れるなかで、傷の付きやすいキット型の杉の家具の価格は、ローテーブル1台で2万円ほどが限度でした。そのときの粗利は4千円(笑)。月に何台売れれば食べていけるのか?考えれば考えるほど、難しさを感じました。結局、販売台数もなかなか数がでません。その一方、「地域材を活用して被災地で起業した」ということで取材されることも増えていきました。助成金と補助金でしか食いつなげず、理想と現実がどんどん乖離していくのを感じていました。社会起業塾に入ったのもまさにその頃でした。
家具を買う人を増やすのではなく、杉が「使われる」状況をつくる
ーそこから今の仕組みを思いつくまでにはどのようなプロセスがあったのでしょうか?
転機は、社会起業塾メンターの牧大介さんに、「そろそろソーシャルマントを脱いだら?」と言われたこと(笑)。「被災地で起業。地域材を使い、福祉作業所材とも連携し、新たな挑戦をしている。社会的にいいことをやっていますというマントのおかげで、誰にも否定されないでしょ?」と。いろいろ考えるうちに、僕らは、家具を売りたかったわけではなく、気仙杉がたくさん使われる状況を作りたかったということに気づきました。そうすると、1つのローテーブルを買う人が増えるより、床をはれる人が増えた方が、使われる杉の量は多いのではないかと考えました。
そこから、工務店の知り合いに指導いただいて、「床はりワークショップ」を始めたんです。これは杉の魅力を知ってもらう方法としては、ぴったりだと感じました。
杉の良さは、素材を実際に触ってもらわないとわかりづらい。柔らかくて傷がつきやすく、家具には向かないとも言われますが、柔らかいということは逆に空気をたくさん含める素材であるということ。だから冬でもあったかいし、素足で歩けば気持ちがいい。ワークショップなら、職人のすごさを知ってもらうこともできる。ワークショップを通して、使うだけの消費者から自らつくれる生産者になってもらうこと、つまり「つくる」側の経験を提供し始めたことが、僕らのターニングポイントになりました。
ーワークショップを通して杉の魅力を伝える方法にたどり着いたのですね。そこから本格的にビジネスとして成り立つまでにはどんな経緯がありましたか?
最初は、企業を対象に、オフィスづくりワークショップを提案していました。でも、建築経験はなく、空間デザインも弱く、オフィスリノベーションの業界にはすでに先行する会社がたくさんある。そのなかで、選ばれる価値をつくり、届けることの難しさを痛感しました。
その後、大企業からベンチャーに対して、公共空間への提案など、いろいろな試行錯誤を繰り返すなかで次の転機が訪れます。ある日、僕らのワークショップに参加した人が、自分のお店をつくりたいと声掛けをしてくれました。いつかお店を開きたいと100万円を貯めた主婦の方。様々な場所で開催されている開業セミナーにも行ってみたけれど、予算が全く足りないと諦めかけていたそうでした。でも僕らなら、これまでに手がけてきた家具キットや、素人の人々が協力して床をはるワークショップ手法を使えば、予算内でもお店を始められるのではと考えたのです。
実際に、家具キットを単体で売っていた頃は、粗利は少なかったけれど、お店全体をプロデュースするのに家具キットをツールとして使うということになると、粗利率は一気に改善しました。僕らがもっとも得意とし、他の会社が価値を提供できていないのが、小さいけれど、個性あるお店をみんなでつくるという現在の事業領域でした。このビジネスモデルに移行してからの2年間で、秋田から神戸までの全国13都道府県で150回以上、400名を越える人が参加しての空間づくりワークショップを開催することができました。
つくる人がつながる場。ものづくり拠点「KILTA」
ーインストラクターの指導のもと、みんなでワークショップをするのですよね。インストラクターの育成はどうしているのですか?
KUMIKI PROJECTのワークショップ当日は、2名体制を基本としています。1人は、工具や道具の使い方を教えるインストラクター、もう1人は安全や時間管理、進行を行うディレクター。そこに、空間を自らの手でつくりたいという想いを持ったを依頼者と、依頼者の想いに共感してくれた地域の人たちが加わって、ワークショップを行います。
全国各地にある木材会社と連携して開発した家具・内装キットを使うことで、平均3日程度で素人が参加してもクオリティをコントロールした空間が、コストを抑えて実現できるようになりました。こうしたキットがあることで、必ずしも職人でなくてもインストラクターとして活躍できることがわかってきたため、地域に暮らす一般の人がインストラクターとなり、地域ではじめる人を、地域の人々とともに支えあうという循環をつくるため、全国各地でインストラクターを育成することを決めました。
当初は、単独で全国に育成拠点をつくり、取り組もうと考えましたが、人材育成をより広い範囲で、より早く実施していくには、一社単独では不十分だと考え、同じように地域内に建築のセミプロが増えることを必要としている企業などと一緒に、一般財団法人KILTA(キルタ)を立ち上げたのです。キルタとは、「ギルド」のフィンランド語であり、つくる人のつながりという意味です。財団を選んだのは、特定の企業の利益のために、育成された人材が活用されることのないように、より公共性を高めることと、資金の流れを透明化することが狙いでした。
KILTAでは「暮らしをつくる人になる」をコンセプトとした講座を実施しており、DIT(Do it together=ともにつくる)に興味のある一般の方々から、インストラクターを目指す人まで、様々な人が参加しています。KILTAの拠点は現在、横浜、春日部、神戸にあります。
ー一般社団法人KILTAはどのように運営されているのですか?
各拠点の運営は「オーナー制」をとっています。インストラクターのような「セミプロ」が増えたら嬉しい、地域への想いのある工務店や建設会社が運営し、財団本部はそのサポートを行っているという組織体制です。
運営費については、シェア工房の個人会員や、様々な講座の参加費で成り立っています。ただ、大切にしているのは、だれでも通える価格にすることで、日々の暮らしを支える生活技術の学び舎となること。ですから、シェア工房での収益性だけを求める個人や団体からの「KILTAをやりたい」というお話については、すべてお断りしています。図書館が暮らしの知恵を学ぶ場所だとするならば、KILTAは暮らしの技術を学べる場所でありたいということ。共感いただき、ともに歩める仲間たちと全国各地にインフラのように、じっくりゆっくりとKILTAを増やしていければと思っています。
長い年月をかけて育ってる杉の木のように、みんなが便利でできるだけ安いものを求める価値観をくつがえすには時間がかかります。じわじわと価値観を変えていきたいですね。
雇用する社員はゼロ。個人へ「機会」を提供する組織へ
ーKUMIKI PROJECTの組織体制について伺えますか?
役員は3名で、社員は9名。原則、全員業務委託契約の組織です。業務委託といっても、毎月固定収入が発生している人もいますし、完全にプロジェクトごとの費用で動く人もいます。例えば、僕らの場合、お店をつくるという仕事の価値を発揮するために、必要なプロセスを分類しました。
そして、必要なプロセスごとにかける時間と単価を設定し、会社からは各ステップを担当してくれた人に、予め設定された単価の業務委託費を支払います。こうすることで、1人で全工程でできるなら、すべての費用を受け取れますし、チームを自分でつくってチャレンジもできます。最近では、利益の1割を会社に残し、関わるメンバーが怪我や病気など、何らかの理由で一定期間働けなくなった時のセーフティーネットとして担保することも進めています。
こうした組織のあり方については、実は、この数年ずっと試行錯誤を繰り返してきました。個人的には、「会社のある場所で住む場所が決まったり、得られる給料で食べるものが決まるのであれば、人生で本当に選べているものは一体なんだろうか?」という想いから、できる限り、住む場所も、働く時間も、得るお金も、自分の意志でコントロールできる自由な組織をつくりたいと思った結果、現在の契約形態にいきついています。
会社は「機会が集まる場に過ぎない」と思っているんです。集まった機会に手をあげ、必要な能力を補完しあえるチームをつくり、挑戦するというのは、場に参画する個々の判断で決定できるようにしたい。そのために、情報共有に濃淡があると意思決定ができないとの考えで、会社に集まるすべての情報は、契約形態に限らず、共有・アクセスできるように徹底しています。なので、僕個人の給与や社会保険も、みんな見ることができます(笑)。
経営者の役割は、面白そうな仕事=機会を集めることだとも思っています。社員でない以上、より組織から離れやすいので、ともに仕事に取り組み、顧客にもクオリティの高い価値を提供し続ける組織づくりは今後も試行錯誤していくことになりそうですが、人生のなかでやりたいことも、住みたい場所も、時間を何にかけるかも都度変わっていくものだと思うので、ふらっと離れたり、また戻れたりする公園のような会社でありたいと思っています。
社会問題を生み出しにくいライフスタイルを提案する
ーこれから挑戦したいことはありますか?
ソーシャルビジネスという言葉は、多くの場合、社会課題を解決するビジネスという意味で捉えられるように思います。ですが、僕らが目指したいのは、起こってしまった課題の解決より、社会の困りごとを生みだしにくいライフスタイルを事業を通じて提案していくことだと考えています。
事業には、人の考えを変え、行動を変え、習慣を変える力があると思うんです。だからこそ、空間をともにつくることで、素材に触れ、産地の自然環境や職人の素晴らしさを想うこと。それは、「早くて・安くて・便利なもの」に囲まれてしまった現代の私たちにとって、人や環境に対する優しい想像力を取り戻すことではないでしょうか。
まちのなかで、はじめる人をともにつくることで支え合うこと。そこで生まれた人と人の新たなつながりや信頼、ふらりと寄れる場所が増えたことでの暮らしの安心感などは、まちに生きる人々にとって、豊かさの質を深めることにつながると思っています。つくれる人が多いまちは、何より、震災が起きてしまったとしてもなんだか心強いですしね。
一方で僕らがこれから本気で挑戦していかなければいけないことは、これまでワークショップに参加してくれた人は、もともとKUMIKI PROJECTの想いに共感いただける人でした。ですが、本当に問題の起きにくいライフスタイルを社会全体に広げるならば、こうした想いが理解されない、真逆にいる人々にこそ、価値を伝えなければならないと感じます。
そのためには、現代社会のなかで、時間やお金など様々な制約に縛られた人々が、僕らの取組に参加しやすくなるよう、あらゆる仕掛けを考え、仕組みにしていく必要があります。
実は、インストラクターを育成することは、こうした取組の一環でもあるのです。例えば、主夫・主婦の方がインストラクターの仕事をすることで、家庭の可処分所得はあがります。金銭的な余裕が生まれることで、労働時間を少なくできるなら、可処分時間も増えていきます。そうやってはじめて時間とお金の制約のある人でも、ともにつくる機会に参加しやすくなると思うのです。
複雑に絡み合った現代の社会問題を解決するためには、1つの事業ではきっとできないと思っています。だからこそ、KUMIKI PROJECTは「ともにつくること」を手段に、はじめる人を支えあえる社会をつくる。その取組のなかで、想いを同じとする企業や他のソーシャルビジネスの事業者とも連携していくことで、社会を変えるテコの原理を押せたらと思っています。
ーありがとうございました!
自分たちだけですべて抱えるのではなく、連携パートナーを増やし、他に任せて協働することで、その「全体」を通してインパクトをつくりだそうとしているKUMIKI PROJECTのみなさん。今回の取材では、「暮らしをつくる人になる」ことを応援するKILTAの取り組みと、「はじめる人」を支えるKUMIKI PROJECTの取り組みがセットになり、うまく連動・循環しているエコシステムをつくりだしている様子について伺うことができた。ひとつの団体ややり方に固執せずに積極的に他の企業・団体と連携を図ることや、収益性と公共性のバランスの取り方などは、他の活動にもヒントになりそうだ。
桑原さんも、社会起業塾イニシアチブ(通称“社会起業塾”)のOBです。現在年に1度の応募期間で締切は6/19(水)正午まで。ご興味のある方は公式サイトをチェックしてください!
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