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高校生の進学・就職、“なんとなく”でいいの? 若者に伝えたい“働きながら学ぶ”新たな進路選択「アプレンティスシップ」【チャレンジ・コミュニティ20周年記念(2)】

2025.01.22 

1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」を開始したNPO法人ETIC.(エティック)は、2004年から日本全国に挑戦の生態系をつくることをミッションに、全国のコーディネート団体と一緒に「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートさせました。

このネットワークは「成長意欲のある若者」と「本気で新規事業に挑みたい中小企業やベンチャー企業」を、インターンシップや副業の実践型プロジェクトでつなぎ、地域の中で挑戦が生まれやすい生態系を築く仲間として全国に広がっています。

チャレコミは2024年に20周年を迎え、これまでの感謝を伝えるために「地域コーディネーターサミット2024」を開催しました。

本記事では、当日のトークセッション「地域の高校生×地域でのキャリア教育の可能性」から編集してお届けします。

 

「多くの高校でアルバイトが許可されていないからこそ、『アプレンティスシップ』にチャンスがある」と話すのは一般社団法人アスバシの毛受芳高さん。長年にわたり若者のキャリア育成の必要性を伝え続け、2023年には高校生のキャリア教育を推進するために「アプレンティスシップ」をスタートさせました。

 

「アプレンティスシップ」とは、実際の職場で働き収入を得ながら、知識やスキルを身に着け、キャリア形成を同時に追求することができる、働くと学ぶを両立する制度。高校卒業後の就職でも進学でもない第3の進路選択として注目を集めています。高校在学中から参加でき、なんとなくの進学や就職ではなく、目的意識を持った主体的な選択へつなげることが大きな目的です。

 

それだけでなく、労働力人口の減少、不登校の若者や子どもの貧困の増加という現状に対しても、「アプレンティスシップ」が大きな可能性を秘めていると毛受さんは語ります。

 

<登壇者>

毛受 芳高(めんじょう よしたか)さん 一般社団法人アスバシ 代表理事

山田 かな子(やまだ かな子)さん 株式会社TODAY 代表取締役

 

<司会進行>

小柳 真哉(こやなぎ しんや)さん 一般社団法人アスバシ シニアコーディネーター

 

※記事中敬称略。

 

アプレンティスシップで若者が目覚める── 一般社団法人アスバシ 毛受芳高さん

毛受 : 一般社団法人アスバシは、インターンシップを軸に高校生のキャリア教育事業を行う団体です。20年以上にわたり若者のキャリア形成の支援に取り組むなかで、インターンの及ぼす効果を研究したところ、大学生3カ月分の変容が高校生だと3日だということがわかったんです。これがきっかけでアスバシを立ち上げました。

 

いま、やりたいことのない子、自信のない子が増えていますよね。こうした若者がこれから地域を支えられるようになるためには、高校生インターンシップが鍵になると考えています。

 

高校生インターンシップには、まず最初に、さまざまな社会や課題を知れる越境体験型インターンシップがあり、その次のステップとしてアプレンティスシップがあります。

 

アプレンティスシップは、高校在学中に参加できる「長期実践型インターンシップ」のこと。高校生が業界の見習いとして入り、半年以上の期間、働きながら学びを深められることが大きな特徴です。

 

高校卒業後、このまま働きたい若者はいち早く社会へ出て働く「早活型高校生就職」を選択し、キャリアを積みます。こうしたスーパーコンボともいえる組み合わせで、地域直結のキャリアが今後、創出される可能性があると考えています。

 

これまで愛知県を中心に約5000人の高校生インターンシップ事業を行い活動を広げるなかで、インターンシップにより高校生が目覚める姿を数多く見てきました。それだけでなく、高校卒業後の新しい進路選択として、アプレンティスシップに可能性が出てきたとも感じています。

 

海外ではアプレンティスシップの取り組みが活発。イギリスでは政策に取り入れられ、大手企業でも導入されるほどメジャーな制度です。

 

日本でもアプレンティスシップを取り入れる企業が増えています。例えば愛知県で展開する「介拓(かいたく)奨学生プログラム」は、介護福祉施設で働けて、無料で国家資格「介護福祉士」を取得できるアルバイトです。働きながら学ぶ機会を働く現場で提供しています。介護福祉施設ではもともと、人手不足という問題を抱えていました。一方、高校生は不登校だったり進学資金がなかったりという問題を抱えています。このプログラムは、両者の抱える課題を解決する仕組みになっているのです。

 

「介拓奨学生プログラム」の概要

 

毛受 : 高校生の多くはアルバイトが許可されておらず、許可されたとしても飲食やスーパー・コンビニなど一部だけ。学校の学びがすべてで、バイトは役に立たないという風潮があると思います。

 

だからこそチャンスがあるし、ここを変えたいですね。我々の事業のように、働きながら学べて、キャリアになるアルバイトなら、学校の許可を得ることだって可能です。

 

これから先、地域では学校が減っていきます。学校がなくなると若者は地域から離れることを余儀なくされますよね。だからこそ、高校生のもう一つの選択肢として、アプレンティスシップに可能性を見出し、地域で働きながらキャリアを育成するという道を磨いていく必要があると思っています。

事業立ち上げから1年半、立ちはだかる壁を突破したい──株式会社TODAY 山田かな子さん

山田 : 株式会社TODAY(以下、TODAY)の山田かな子です。2022年にUターンして会社を設立しました。「若者と地域を繋げる紀南の人事部」をビジョンに掲げ、高校生・大学生向けの教育プログラムを提供する会社です。具体的には実践型インターンシップのコーディネート、高校生の探究プログラム「START LINE」やワークスペース「トウザン荘」の運営を行っています。

 

毛受さんのアプレンティスシップのお話に洗脳されまして(笑)。アプレンティスシップに興味を持った理由は主に2つあります。1つは人手不足を抱える事業者の方が多い点です。和歌山の紀南エリアには大学がないためアルバイトできる学生は高校生だけ。バイト人材が必要な事業者の方と高校生をマッチングできると思いました。

 

もう1つは、高校生のワークスペース「トウザン荘」に集う若者たちがアプレンティスシップに向いていると感じたからです。高校生からよく聞くのが、飲食・コンビニ・スーパーのアルバイトしかないという話。社会と関わるのが好きな子たちなのに、ほかのおもしろい仕事に出合えていないと思いました。

 

そこで約1年半、アプレンティスシップ導入に向けて企業へのヒアリングを進めてきたわけですが、まさにいま、壁にぶち当たっています。そこで今日は、2つを問いとして投げかけたいと思います。

 

まず、和歌山でのキャリア教育プログラムの取り組みは広まってきたと感じる一方で、一度の参加で終わらせず、さらにもう一歩踏み込んで「働く」につなげるには、どんなコーディネートが必要でしょうか?

 

また、新しく取り組みを始めるまでに打ち合わせは1年以上かかる場合が多く、開始まで報酬は発生しません。キャリア教育プログラムの費用は主催する組合や町が支払いますが、支払うべき金額は誰がどのように負担できるのか? をもう1つの問いとして挙げたいです。よろしくお願いします。

ルーキーライセンスで仮免許取得!? 適切なハードルづくりが一つの鍵

毛受 : 地域には地味な仕事が多いけど、アプレンティスシップ事業では我々コーディネーターがそこに価値観を見出し伝えられるかが大切です。TODAYではどうですか?

 

山田 : 私よりむしろ高校生のほうがおもしろく感じてくれています。「こんなことが地域で行われていたんだ」など高校生の反応が新鮮で、それに私が相乗りすることが多いですね。

 

毛受 : 高校生は純粋に驚いたり悲しんだりする感性がビビッドですよね。価値観が純粋な高校生の時期に、アプレンティスシップを介して社会と繋がることが重要です。

 

高校生の探究プログラム「START LINE」事前学習の様子

 

小柳 : インターンシップを通して高校生が刺激を受け、仕事に対する意欲が沸きやすいと実感します。その一方で、働くことと教育をつなげようとしたとき、コーディネートの難しさを非常に感じます。高校生は学業との両立という壁をどう乗り越えていけばいいのでしょうか?

 

毛受 : ハードルを作ってあげることです。まず、「アプレンティスシップは働きながら学ぶ機会。キャリア育成が目的なので、誰でもできるわけではないです」と説明したうえで、「研修を受けて認定された人が参加できる」というハードルを設けます。そうすると「この業界は楽しそうだから勉強したい。働いてみよう」という子が増えるんです。

 

山田 : ハードルとはつまり、認定されて資格が取れるということですか?

 

毛受 : そうです。「介拓奨学生プログラム」では、5日間のプログラムを受けて合格したら、「介拓ルーキーライセンス」という独自資格を取得できる制度を作りました。運転免許でいう仮免許のような位置付けです。

 

ルーキーライセンスを取得した若者が、職場で丁寧に教えられ大切に育てられると、ぐんぐん伸びますね。みんな、そこまで高い時給で働きたいわけではないんです。この業界に関わるとおもしろそうと思えて、かつある程度の収入があると、アプレンティスシップに参加したいってなりますね。

 

山田 : アルバイトとは違う、アプレンティスシップ独自の仕組みづくりも必要でしょうか?

 

毛受 : ルーキーライセンス取得後に、守るべき掟を設けることがポイントです。破ると1回目はイエローカード、2回目は免停といったような仕組みで運営しています。

 

小柳 : アルバイトという働く現場に教育カリキュラムを組み込み、学校に対しても学びだと言えるようにしていくことが重要になりそうですね。

若者本来の姿に出会えるアプレンティスシップ。この道を整備していきたい

司会進行を務めた一般社団法人アスバシ 小柳真哉さん

 

毛受 : いま広く行われている採用に直結する大学生インターンシップでは、企業がインターンシップに必要な一定の費用を出しています。

 

一方、高校生インターンシップの費用を地域の企業負担だけでまかなおうとすると、理解の壁があると私は感じます。一部を政府が負担するなどこの壁をいかにブレイクするかが課題です。

 

小柳 : 地域でアプレンティスシップを実践するためには、どのような進め方が求められるのでしょうか?

 

毛受 : 我々は、長期実践型インターンシップの先にドラマを見出しています。例えば「介拓奨学生プログラム」の参加者には不登校の若者が多く、なぜもっと早く手を打てなかったのかと、関わってきた大人が苦しい気持ちを持つほど深刻でした。ところが「介拓奨学生プログラム」で彼らが蘇ります。キュルキュルと時間を巻き戻していったような(笑)、本来の姿に出会えるんです。

 

みんな、本当に真っ直ぐで素直なんですよ。「介拓奨学生プログラム」で働くある男子高校生は、1日5時間、週5日働き、ある程度の収入があるにも関わらず、無駄遣いせずしっかり貯金しています。最近買ったものを聞いたら、弟と妹が欲しがったホットプレートだと言うんです。

 

だからこそ若者を、仕事に誇りを持つ社長や従業員の側でポジティブな価値感に触れさせながら育てていきたいし、そのための道を整備していきたいですね。

 

分科会の様子

 

小柳 : 最後にあらためて一言ずつお願いします。

 

山田 : 今日は具体的な話をお聞きして、今後のコーディネートの深め方を知ることができ、扉を叩く先も新しく見つかりました。ありがとうございます。

 

毛受 : 大切なのは、地域全員が、若者とこの地域をなんとかしようという気持ちを持つことです。アプレンティスシップこそがこの気持ちに応えられると思っているし、コーディネーターが旗振り役となってプログラム化し形にしていくことが求められます。

 

必要なのは、「働くと学ぶを両立させるプログラム」と「インターンシップ」の2つだけ。いまある若者の働く現場をアップデートするという、どこでもできる取り組みです。これを探求して形にしていくことが、チャレコミの新しい未来だと思っています。本日はありがとうございました。

 


 

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藤野 あずさ

高知生まれ、茨城在住のフリーライター。企業のCSR・環境報告書の編集・制作や環境マネジメントシステムの運営に携わり、2013年からフリーランスの編集・ライターとして活動を始める。サステナビリティやソーシャルビジネスをテーマに、地域の取り組みやその担い手の方々のことを執筆しています。海も川も山もある茨城で、人と自然とつながりながら暮らしています。