
認定NPO法人チャリティーサンタ
・「認定NPO法人チャリティーサンタ」は子どもたちに「思い出」や「愛された記憶」を残すことに取り組んでいる。また、経済的な事情などに起因する「思い出格差」解消のための支援にも取り組んでいる。
・クリスマスイブにボランティアがサンタクロースに扮して子どもたちにプレゼントを届ける活動のほか、困窮世帯向けに誕生日のホールケーキをプレゼントしたり、長期休みに映画鑑賞体験を届けたりすることで、「思い出格差」解消を目指す。
・寄付活動自体が楽しい・幸せだと感じられるような、「新しい寄付のあり方」を普及させることにより、日本に寄付文化を根付かせたい。
「みてね基金」は2020年4月から、すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して、子どもや家族を取り巻く社会課題解決のために活動している非営利団体を支援しています。
「認定NPO法人チャリティーサンタ(以下、チャリティーサンタ)」は、「みてね基金」第四期イノベーション助成で採択され、子どもたち の「思い出格差」解消と、新しい寄付体験の普及に向けて活動されています。スタッフの河津泉(かわづ いずみ)さん、清水康正(しみず やすまさ)さんにお話を伺いました。
※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

左 : 河津泉(かわづ・いずみ)さん / 右 : 清水康正(しみず・やすまさ)さん (提供 : チャリティーサンタ)
「クリスマスくらいは」の言葉の裏に潜む「思い出格差」
チャリティーサンタはその名の通り、クリスマスイブの夜にサンタクロースに扮したボランティアが、小さなお子さんのいる家庭にプレゼントを届ける「サンタ活動」から始まった団体です。サンタクロースの訪問を依頼した家庭からの寄付金により、他の子どもたちにもプレゼントが届く仕組みで運営されています。
サンタ活動から派生し、2017年頃からはさまざまな困難によって体験格差を抱える子どもに向けた、新たな施策を次々と打ち出しています。まずは、サンタ活動以外にどのような活動をされているのか伺いました。
河津 : 「チャリティーサンタでは『子どもたちに、愛された記憶を残すこと』というミッションのもと、子どもたちの思い出を大切に活動してきました。ですが、当初のチャリティー活動としては困窮世帯の子どもたちにリーチできていなかったこと、また困窮世帯からの声に『普段からいろいろなことを我慢させているので、クリスマスくらいはなんとかしたい』という声がすごく多いことに気付いたんです。
わくわくするイベントの中にも格差があることが見えてきたので、それを取りこぼさないよう困窮家庭へのクリスマス支援を始めました。その1つとして、2017年に始めたのが『ブックサンタ』の活動です」
ブックサンタは、お祝いをすることが難しい家庭や、お祝いにしんどさを抱える家庭の子どもたちへクリスマスや誕生日といった特別な機会に本を届けています。活動に参加している書店で寄付したい本を購入する際に「ブックサンタに参加したい」と伝えて本を預けていただくことで、その本が子どもたちに届くという画期的な寄付活動です。参加書店は全国で1,851店舗(2025年9月時点)あり、これまでに累計40万冊以上の本が寄付されました。
ブックサンタの活動については、過去にも取材をさせていただきました。
誕生日の「丸いケーキ」を求める切実な声
河津 : 「クリスマスは1年の中でも特別な日です。友達同士で話題に上りやすいイベントだからこそ、『思い出格差』を感じやすいタイミングでもあります。
私たちが2016年に子育て世帯2,000家庭に対し、家庭の中で大切にしている日を調査した結果、一番重要視されているのが子どもの誕生日でした。また私たちの中でも、なんとなく『クリスマスの次は誕生日だよね』という思いもありました」
しかし、1年に1回しかないクリスマスとは違い、誕生日は365日。あらゆる子どもの誕生日に対応できるのかという不安もあったそうです。そんな中、自分たちにできる形で社会貢献がしたいという、岡山市内のとあるケーキ屋さんと出会います。
河津 : 「そのケーキ屋さんは個人店の方でした。月に5台ならホールケーキをプレゼントできるけど、困窮世帯の家庭がどこにいるかわからないし、メールのやりとりなど細かいオペレーションを回すのが難しいので、誕生日の企画を一緒にできないかとご相談いただいたんです。
このできごとから『ケーキ屋さんって誕生日のお祝いのプロだ!』と気付き、困窮世帯向けに誕生日を祝うホールケーキを届ける『シェアケーキ』の活動が始まりました」

シェアケーキで子どもの誕生日を祝うご家庭 (提供 : チャリティーサンタ)
岡山市のこども福祉課や岡山市社会福祉協議会と連携して困窮世帯に呼びかけたところ、ホールケーキ5台に対して50家庭もの応募があったそうです。45家庭に諦めさせなければならないという最初の経験は、河津さんにとって辛いものであったと同時に、事業拡大への原動力にもなりました。
河津 : 「応募動機を見ていくと、『去年は子どもが誕生日ケーキを食べたと友達に嘘をついていたので、今年はプレゼントしてあげたい』といった声が1つや2つではないんです。本当にすがるような気持ちで誕生日のお祝いを求めていることが伝わってきました。
クリスマスと同じように、誕生日は子ども時代にみんなが体験するものです。限りある子ども時代の誕生日を少しでも幸せな記憶にしてもらうために、多くの寄付を集めて提供数を増やしていかなければという思いを強くしました」
現在シェアケーキは、全国各地のケーキ屋さんと連携し、月に600台以上を届けるまでの事業に成長しています。
小さな諦めを重ねてしまわないために大切な、「思い出格差」への支援
チャリティーサンタは、経済的な理由による子どもの思い出不足を「思い出格差」と名づけ、その解消に取り組んでいます。なぜこういった課題に着目されたのか、改めて伺いました。
河津 : 「これまで話題に上がったクリスマスや誕生日のような、日常生活の中でもちょっと特別な日の支援って、意外とやっているところがないんです。クリスマスにプレゼントをもらったり、誕生日にみんなでケーキを食べたり、アルバムを見返したときに心が温かくなるような子ども時代の記憶は、その後の人生を支える大切なものだと私たちは考えています。
数字で出ているわけではありませんが、『サンタさんから何をもらった?』、『誕生日に何をした?』といった友達同士の何気ない会話や、絵日記のような宿題をきっかけに、こうした『思い出格差』が表面化しやすい機会が誕生日やクリスマス、そして長期休みです」
「思い出格差」に気付いてしまうことは、子どもの自尊心を損なうことや諦めにつながるばかりでなく、親の罪悪感や、社会的孤立を深めてしまう恐れもあることがわかってきたと河津さんは語ります。
河津 : 「楽しかったことやうれしかった思い出を人の前で語るというのは、すべての子どもたちにとって大切なことです。『思い出がなくて悲しい思いをするくらいなら絵日記なんてなくせばいい』という話ではなく、1人でも多くの子どもが心から楽しかったと言えるような機会をつくっていきたいと考えています」
「楽しむ寄付」で寄付文化の土壌を広げたい
寄付と言えば、経済的・心理的にゆとりのある人がするものだというイメージをもたれている方も多いのではないでしょうか。また東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨のような大災害が起きたときなど、深刻な危機に心を動かされて寄付をしたという方もいらっしゃるかもしれません。
チャリティーサンタが目指しているのは、こういった従来の寄付のイメージとは少し異なる「楽しむ寄付」です。「楽しむ寄付」とは一体どのようなものなのでしょうか。
河津 : 「ブックサンタの活動を始めたときに驚いたのは、『寄付を楽しんでくれる人がこんなにたくさんいるんだ』ということです。自分で選んだ本が子どもたちに届くというわくわく感をもって参加してくださる方が多いように見受けられました。
また、元々やっていたサンタ活動でも、初めてボランティアをするという方や、誰かを笑顔にできるのが楽しかったと言ってくださる方がすごく多かったんです。こういった経験から、楽しさやうれしさを動機付けにすることで、寄付文化を更に広げることができるのではと考えるようになりました。
実際に寄付を体験された方からは、『今年初めてブックサンタの存在を知りました。私自身、子どもの頃にたくさん本に救われた経験もあり、より多くの子どもたちに本を読む機会を増やしてあげられればと思います』といった声をいただいています。
潜在的に何かをしたいという思いのある方々が一歩踏み出せるような場やプロジェクトを、一般の方や企業も巻き込みながら作っていきたいです」

サンタ活動を楽しむボランティア (提供 : チャリティーサンタ)
こうした「楽しむ寄付」として、寄付者から自然発生した寄付の一例が、推し活の一環としての寄付です。ファン同士で集まり推しの誕生日を祝う「本人不在の誕生日会」。こうした推し活の延長として、推しの誕生日に合わせて、推しの名前でシェアケーキに寄付をするといった動きが自然発生的に生まれました。
河津 : 「初めてファンの方から寄付をいただいた際に、『私が推している著名人からもらった喜びや元気を、次はだれかのために』と寄付に変えてくださった、その気持ちが何よりもうれしいと感じました。
その感謝の気持ちを伝えたくて、寄付をしてくださった方々が推している著名人に感謝状を送ったりもしています。それを受けて、著名人の方自身が『こんな感謝状をもらったよ。ファンのみんな、寄付してくれてありがとう!』といった発信をしてくれるケースもあります。
このようなあたたかな流れを通じて、推し活文化の中に寄付という選択肢や、著名人を通じて社会課題を知る機会が生まれてくるといいですよね」
多くの企業と連携した新たな事業「シェアシネマ」
寄付文化を根付かせる上では、企業との連携も重要です。クリスマス、誕生日と並び、「思い出格差」が表面化しやすい長期休みの体験不足を解消するために、企業と協働している取り組みが「シェアシネマ」です。

シェアシネマの仕組み (提供 : チャリティーサンタ)
シェアシネマは、長期休みに思い出が作れない子どもたちのために、映画館での鑑賞機会を届けることを目的に、2024年にスタートした活動です。映画を選択した理由は、チャリティーサンタが生活困窮家庭への支援を10年続ける中で、長期休みの体験不足の声が多く寄せられたこと、また、「日帰りでできる体験」のニーズ調査を行ったところ、最も多く求められていたのが「映画館での映画鑑賞」だったためです。
シェアシネマの趣旨に賛同した方々から寄付を募って、それをもとに全国の映画館で使用できるデジタルギフト鑑賞券を購入し、申し込みのあった家庭に抽選でプレゼントしています。担当の清水さんにお話を聞きました。
清水 : 「2024年夏のテスト実施から始まり、『酷暑で屋外で遊べない中、映画の支援は助かりました』『初めて映画館に連れていくことができた』といった、家庭からの多くの感謝の声が届きました。
そのような声も後押しになり、『映画を通した社会貢献であればぜひ協力させてもらいたい』と、シェアシネマへの参画を検討してくださる映画関連の企業も増えています。
企業との連携には、広報面の協力や家庭や寄付者への特典を提供していただくような形があるのですが、家庭にはドリンクとポップコーンが特典で付くデジタルギフトが人気です」
チャリティーサンタが企業と連携する際には、「その企業だからできる社会貢献」を大事にしているそうです。
清水 : 「私たちだけでできることには限りがあります。ブックサンタは出版業界と、シェアケーキは洋菓子業界と組んだからこそ実現できたように、子どもたちの心に残る思い出を育てていくには、専門的なリソースをもつ企業や団体との連携が必要不可欠です。
たとえば今年は東映株式会社との連携で、シェアシネマに寄付をくださった方には仮面ライダーやスーパー戦隊作品のデジタル画像を、その作品を鑑賞した家庭にも作品のデジタル画像をプレゼントするという企画を実施しました。
寄付をされた方にも、寄付を受けたご家庭からも好評でしたが、何よりも作品を応援したいという気持ちと、子どもたちに見てほしいという気持ち、どちらも実現できるような寄付体験を設計することが大切だと思っています」

(提供 : チャリティーサンタ)
愛された記憶が、次世代のよりよい社会をつくる
最後にお二人に、事業に対する思いや、将来どのような状況を目指しているのかお聞きしました。
清水 : 「チャリティーサンタでは、サンタ活動から一貫してさまざまな体験を届けてきました。体験を受け取った子どもたちが大きくなったとき、『誰かのために何かしたい』と思える人になってほしいという思いで活動しています。
子どもたちに愛された記憶を残すことで、5年後10年後と代が替わっても『誰かのために』が連鎖していくような、大人たちが手を取り合える社会を実現できたらいいですよね。そのためにも、まずはチャリティーサンタの活動を知ってもらうことが第一歩です。
利用したり、ボランティアとして参加したり、いろいろな関わり方があるので、まずは知ってもらえたらうれしいです。『みんなで子どもを育てる・支える』という視点でこれからも活動していきたいと思います」
河津さんも同様に、子ども時代の思い出の大切さや、支え合える社会への思いを口にされていました。
河津 : 「たとえば小学校時代の夏休みは、たった6回しかない限られたものです。クリスマスも誕生日も同じです。そんな限られた子ども時代に、どれだけ心のアルバムを豊かにしてあげられるかがすごく大事だと思っています。
今は健康で経済的に大きな困難はないというご家庭でも、突然大変な環境に置かれるということは十分ありえます。そんな状況になったとき、子どもたちがいろいろなことを諦めなくてすむよう、大人が手を取り合って支える・支えられる環境が必要です。
そのためにも、肩で風を切って『やるぞ!』と意気込みすぎるのではなく、日常の中で楽しみながら気軽にできる機会やアクションをたくさん作っていきたいですね。10年後には、道を歩いているとそういった選択肢があちこち目につくような、ちょっとした『いいこと』が誰かの幸せにつながっていくような社会になっていたらいいですね」
取材後記
クリスマスや誕生日のお祝い、映画といったレジャー体験への支援は、個別性が高く、公的な支援が入りにくい分野だと思います。ですが、そんな体験の中でこそ育まれる豊かさがあるのも事実です。愛された記憶をたくさんもった子どもたちが、今度はそんな記憶を手渡せる大人になれたら素敵ですよね。
寄付というと、私も災害時や余裕がある人がするものというイメージが強かったのですが、推し活の一環として自分も楽しみながら寄付につながるような設計にすると、ぐんと間口が増えそうだなと感じました。
団体名
助成事業名
寄付体験を最適化し企業とNPOが連携する思い出格差の解消事業
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