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“未来を映し出すシネマ”社会変革のヒントが詰まった『女性の休日』

2025.11.13 

DRIVEメディアでは、世界中で起きている社会を変える「兆し」も追いかけています。特に今、世界的な大きな波になっているのが、ジェンダー平等に向けたムーブメントです。

 

ジェンダーギャップ指数でいつも上位にいる「平等先進国」アイスランド。実は、この北欧の小さな島国の平等の歴史を大きく変えた「ある一日」があったんです。その日を、当時の女性たちの鮮烈な「声」と社会の反応を通して描いたドキュメンタリー映画『女性の休日』(原題『The Day Iceland Stood Still』)は、私たちが感じる不平等を変えるための具体的な行動と、熱いインスピレーションをくれます。

 

これは過去の記録というだけでなく、今の日本が抱えるあらゆる「ギャップ」を乗り越えるためのヒントが詰まった、まさに羅針盤となる作品です。

 

「見えない労働」を可視化する力。彼女たちはなぜ立ち上がった?

1975年10月24日。アイスランドの女性たちが歴史的な決断をした、忘れられない日です。それは、有給・無給に関わらず、すべての労働を一斉に休むという、前代未聞のゼネラルストライキでした。

 

当時のアイスランドは、一見平等に見えても、賃金格差が大きく、政治や経済の重要なポジションに女性が少ないという構造的な不平等が残っていました。特に、「無償の家事・育児労働」が全く評価されていない現状に対して、女性たちは静かだけど、強い抗議の声を上げることを決めたのです。

 

この日、彼女たちは家事も仕事も全部ストップして、首都レイキャビクの広場に大集合! このムーブメントが、後に「女性の休日(Kvennafrídagurinn)」と呼ばれ、世界的に知られるジェンダー平等のための大きな運動となりました。

 

 

映画『女性の休日』は、この歴史的な一日を取り上げ、実際に参加した女性たちへの丁寧なインタビューを中心に製作。彼女たちが何に腹を立て、何を求めて行動したのか。なぜデモではなく「ストライキ」という手段を選んだのか。その行動が社会にどんな影響を与えたのかを、当時の貴重な映像を交えて、深く掘り下げています。

 

経済機能を麻痺させた「女性たちの不在」

このムーブメントが画期的で、強烈なインパクトを残した理由は、経済的な影響が目に見える形で、たった一日で表れたことです。

 

女性たちが「いない」という状況は、アイスランド全土の経済機能を一時的にストップさせました。

 

  • 経済の基盤が停止 : 銀行、工場、学校、漁業加工場など、女性の労働力に頼っていた多くの職場が完全に機能停止。特に女性が多い現場では、業務がストップしました。
  • 家庭内の大混乱 : 家庭では、家事・育児を担っていた女性がいないため、男性たちは初めてその責任を負うことに。多くのお父さんが子どもを連れて職場へ向かい、レジや電話対応ができなくなり、結果的にたくさんの店が閉まりました。
  • 通信のストップ : 電話交換手の90%以上が女性だったため、国内の電話サービスが事実上ストップ。女性の労働が社会インフラそのものを支えていたことが、はっきり露呈しました。

 

たった一日、女性たちが働かないだけで、アイスランドという国は文字通り動かなくなってしまったのです。これにより、今まで「当たり前」で見過ごされがちだった女性たちの労働、特に無償の家事労働が、いかに社会や経済の土台を支えているかが、誰の目にも明らかになったわけです。

 

 

未来を変えるために「憂う」だけじゃなくユーモアをもって「動く」

この映画ではムーブメントの火付け役となった市民団体「レッドストッキングス」の活動が描かれているのですが、彼女たちの行動が痛快でした。たとえば、男性目線の美人コンテスト会場に白い雌牛を連れて行き大会を妨害したり、ラジオ番組で性生活の赤裸々トークをしたり。過激なことをして扇動するのではなく、ユーモアをもって共感を広げてきたところに心を揺さぶられました。

 

 

アイスランドの女性たちは、不満や不平等をただ憂うのではなく具体的な「集団行動」に変えることで、社会に直接的なインパクトを与えました。その結果、政府は女性たちの要求を無視できなくなり、社会全体の意識もガラリと変わっていきます。

 

この「女性の休日」からわずか5年後、アイスランドは世界で初めて民主的に女性大統領(ヴィグディス・フィンボガドッティル氏)を選出、女性の政治参加への意識を大きく変えるきっかけとなりました。その後も、同一労働、同一賃金を義務付ける法律など、ジェンダー平等のための法整備をどんどん進める土壌をつくりました。

 

「現状を変えたい」という思いを、どうやって具体的な「力」に変えるか。『女性の休日』は、その社会変革のヒントと「やればできる!」という成功体験を鮮やかに見せてくれます。インタビューで語られる彼女たちのブレない態度と、仲間との連帯が生み出したエネルギーは、観た人みんなに「自分にも何かできる」という希望と、変革への勇気をくれるはずです。

 

社会を変えるトレンドは、特別な誰かが始めるのを待つものじゃありません。それは、一人ひとりの「行動」がつながり、声を上げることが連帯感を生み、その力が社会の仕組みを変えていくもの。本質的な社会変革を志すNPOの皆さんは必見だと思いますし、まさに今、ちょっとした不平等やギャップに、もやもやを感じている人にも確かな力をくれる良作品です。

 

 

映画『女性の休日』

アイスランド全女性の90%が仕事や家事を一斉に休んだ日をめぐるドキュメンタリー。

10月25日(土)より、東京・シアター・イメージフォーラムほか全国公開。

 

監督 : パメラ・ホーガン

2024年 / アイスランド・アメリカ / アイスランド語・英語 / ドキュメンタリー / 71分

原題 : The Day Iceland Stood Still

後援 : アイスランド大使館

提供・配給 : kinologue

 

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野田 香織

1974年兵庫県生まれ。短大卒業後、印刷会社でグラフィックデザインの仕事に携わり、不動産広告やCIなどを担当。2006年からマドレボニータに参画、人生賭けて挑みたいテーマを見つける。2009年にNPO法人ETIC.に参画。社会起業塾、アメリカン・エキスプレス・アカデミーなど起業支援のプログラム運営の後、求人サイト「DRIVEキャリア」のコーディネーターに。個人のキャリア相談の他、さまざまな組織の採用、人事の相談にも乗っている。