近年、自分の死後に財産の一部を遺言を通じて非営利団体などに寄付する「遺贈寄付」を選ぶ人が増えています。遺贈寄付のグローバルリーダーとして知られる英国の遺贈寄付総額は、この30年間で4倍となる年間40億ポンド(約8,000億円)へと成長しました。毎年亡くなる人の15%、実に10人に1人以上が、遺言書の作成を通じて自身の遺産の一部または全部を、非営利団体に寄付することを選択しています。
その成長の背景には何があるのでしょうか。また、私たち日本人は何を学ぶべきなのでしょうか。英国で30年以上にわたって遺贈寄付に特化したマーケットリサーチなどを提供する企業、Legacy Futures創業者兼CEOのAshley Rowthorn氏にインタビューを行いました。
※この記事は、日本承継寄付協会と共同で取材・編集を行いました。
聞き手 :
・日本承継寄付協会 三浦美樹、松本侑子
・特定非営利活動法人エティック 山崎光彦
増え続ける英国の遺贈寄付。注視している指標は「件数」と「金額」
――自己紹介をお願いします。
Legacy Futuresは、非営利団体の成長を遺贈寄付で支えることをミッションとして、市場分析やコンサルティングを提供しています。主な活動地域は英国全土ですが、オーストラリアやカナダ、今年からはドイツでも遺贈寄付のトレンドを調査しています。
――どのように調査を行っているのか教えてください。
市場調査は、1994年に12の非営利団体が自団体の遺贈寄付に関する情報を自主的に共有しあうところから始まりました。その後、Legacy Futuresの前身となる団体がリードして調査を継続し、現在では81の団体から、自団体が受けた遺贈寄付の件数や金額などについて3ヶ月ごとにレポートを受け取っています。
2023年の最新の調査によると、彼らは年間約59,000件の遺贈寄付を受け取っていて、その寄付総額は18億ポンド(約3,600億円)にのぼります。
――英国の遺贈寄付市場はどのように成長してきたのでしょうか?
英国の非営利団体が受け取る遺贈寄付の総額は、この30年間で4倍の年間40億ポンド(約8,000億円)まで成長しました。私たちの予測では、2050年には年間100億ポンド(約2兆円)に到達します。
遺贈寄付は、国の経済成長に大きく影響を受けます。グラフを見ていただくと、90年代には大きく成長した一方で、2008年の金融危機や2020年のコロナウイルス感染拡大の際は停滞していることがわかります。また別の統計では、遺贈寄付の金額の推移と、同時期の不動産価格指数のそれには強い相関関係があることがわかっています。
英国の遺贈寄付総額の推移(1993年〜2023年)
参照 : Legacy Futures: Legacy Donation Market Research 2023
――市場の成長を牽引してきたファクターは何でしょうか?
私たちが特に注視している指標は、遺贈寄付の「件数」と「金額」です。
「件数」の指標に関しては、非営利団体によるファンドレイジング活動の成功、そして政府や支援企業による啓発活動の広がりが、成長のドライバーになっています。近年では、テレビなどでも非営利団体による遺贈寄付のキャンペーン広告が見られるようになりました。
後者の指標「金額」に対しては、前述の通りその時代の経済状況や不動産価格が主な影響要因となっています。
日本で遺贈寄付を広めるために必要なこと
――英国ではどのくらいの人が遺贈寄付をしているのでしょうか?
遺贈寄付をする人の割合については、複数の調査結果が存在しています。
私たちの調査によると、生きている間に遺贈寄付をしたいと意思表示をしている人の割合は約40%です。また亡くなった人のうち、実際に遺贈寄付を行った人の割合は、全体の15%に上ります。
非営利団体によるキャンペーンやファンドレイジング活動によって、遺贈寄付の認知度は近年飛躍的に伸びてきています。一方で、人々が最終的に寄付の意思を遺言書に記すに至るまでには、まださまざまなハードルがあると考えています。
――どのような人たちが遺贈寄付を検討しやすいのでしょうか?
他のグループに比べて遺贈寄付を積極的に検討するのは、「もともと寄付への関心が高い人」「大卒以上の学歴がある人」「普段からボランティア活動を行っている人」です。特に比率が高いのは、「子どもがいない人」のグループです。
また、特別に裕福な人(資産家)が多額の遺贈寄付をすることもトレンドになっています。非営利団体は、そのような資産家の動向に注目しています。
――日本で遺贈寄付を広めていくために、あなただったら何からはじめますか?
遺言書を作成し、寄付先の選択肢を知る行為そのものが、人生の充実感や幸福感を高めることにつながっていくことは、多くの調査で明らかになっています。
単に非営利団体に寄付をしようと訴えるのではなく、寄付にいたるプロセスがその人の人生にとって意味のあるものになるようにサポートしていくことが必要だと考えています。
インタビューを終えて――遺贈寄付の拡大に向けて、日本が描く協働のあり方とは
Legacy Futuresのような企業が市場を定量的に可視化し、そのデータをもとに非営利団体がファンドレイジングの戦略を立て、政府と協力してキャンペーンを展開する。
寄付者にとって遺贈のプロセスが充実したものとなるように、必要に応じて資産や法律の専門家によるサポートにアクセスすることができ、そうした専門家を育成する団体もまた複数存在する。
こうしたプレイヤーの層の厚みと、セクターを越えた協働の歴史のもとに、英国の巨大な遺贈寄付マーケットは創られてきました。
日本がこれから創っていく協働の歴史は、どのようなものになるでしょうか。
その未来を考える上で、高齢社会の到来というイシューを共有する英国との対話を進めることには非常に示唆が多いと感じました。
この記事は、日本承継寄付協会の遺贈寄付白書に掲載された内容を一部抜粋・編集してお届けしました。
日本承継寄付協会 遺贈寄付白書
https://www.izo.or.jp/news/news/20240906.html
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