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「課題解決に立ち上がるリーダーを増やしていきたい」 Teach For America代表ウェンディ・コップ氏×Teach For Japan代表松田悠介氏 講演レポート【前編】
2016.01.06
「リーダーシップ」。世界中で語られ続けているこの重大なテーマについて、Teach For Americaの創始者ウェンディ・コップ氏とTeach For Japan代表松田悠介氏が語った。 非営利団体Teach For America(以下、TFA)は、全米の教育現場において課題を解決できるリーダーの育成に尽力している。
その活動はTeach For Allとして世界中へ広がり、日本においても代表の松田氏により2010年にTeach For Japan(以下、TFJ)が設立されている。 来る2015年11月、ウェンディ氏の来日記念講演に集ったのは200名以上の参加者たち。20代という若さで「様々な分野で活躍するリーダーを輩出して、課題を解決し、社会を変える」という大きな挑戦に挑んだ2人のリーダーを突き動かすものはいったい何なのか。彼らが描く世界の先には何があるのか。
「Why aren’t we recruited to the most needy society?」
「私の時代の若者は“Me”時代、自己中心的な人たちと呼ばれていました。でも本当は、みんな社会を変えたいのではないのかと思っていました。なぜ私たちには、最も社会課題を抱えている地域で挑戦するようにとの声がかけられないのだろうと疑問でした。
そんななかで、直接的に人の人生に影響を与えることができる学校の教室という場所に優秀な人たちを送り込めれば、どんなに素晴らしいだろうかと思っていました」 金融や経済業界を代表とした大手企業へ就職するという、いわゆる優秀な学生たちが選ぶ通常ルートではない別の道をつくるということ。社会がやらないのであれば、自分がやる。
ウェンディさんは、アメリカの名門大学の一つとされているプリンストン大学を卒業後、TFAを設立した。全米の優秀な大学卒業生を、劣悪な環境下にある各地の公立学校に2年間の期限つきで教師として送り込むことが目的だ。
設立当初、資金難に直面しながらも、優秀な学生が集まる大学に採用活動を行ったところ約2500人もの応募があった。派遣される学校は、経済的・環境的困難地域にある学校だ。子どもたちも家庭や学習に何らかの問題を抱えていることが多い。
大学を卒業してすぐに、何十人もの子どもたちの人生に関わって重い責任を背負い、目指すビジョンを描き、その実現へ向けて考え、悩み、実行し、周りを巻き込む。いったい、どれだけ人の人生、社会に大きなインパクトをもたらすのだろうか。確かにこれほどまでにリーダーシップが試され、鍛えられる機会を卒業後すぐに得られる環境は他にない。
続いてウエンディ氏は、TFA創設から25年間の歩みの中で学んだ教訓を以下の3つに絞り語ってくれた。
1.経済的に恵まれない環境であったとしても、サポートさえあれば子どもたちは驚くべき成果を出せる
まずは、チリの学校で教鞭をとっていたトーマス先生のエピソードだ。 大学進学率が15パーセント程度という、国内で最も所得の低い学校で教師をしていたトーマス先生。教育環境の改善を求めたストライキが頻繁に起き、その度に学校まで閉鎖されてしまっていた。
しかしそんな中でも、トーマス先生はチャペルで生徒の教育を続ける。努力のかいがあって、その年クラスの76パーセントの生徒が進学することになった。また、その内20パーセントはチリのトップ大学に進学。これは、たった5か月で成し遂げられた成果である。
「ここからわかるのは、どれだけ貧困が深刻な地域の子どもたちであったとしても、サポートさえあれば非常に優秀な結果を出すことが可能だということ」 例えば、ワシントンDCでは25年前にTFAの教師を派遣しはじめた。当時は、ワシントンDCDCの小学校に在籍する4年生の学力は他地域の1年生と同等だとされており、全国平均から約4年間学力が遅れていると言われていた。現在は、40校以上の学校が変革を起こし、子どもたちは大学に進学できている。
2. ソリューションの第一の核はリーダーシップ
トーマス先生の「生徒たちを大学に進学させる」というビジョンは、生徒たちの学習意欲を刺激した。そしてそのビジョンは大学に生徒たち進学をさせるだけにとどまらず、チリの未来を担う若者を教育することは、チリの社会を変えていく原動力になるという事実にまで及んでいる。
25年前と現代のワシントンDCで違うところは、教育システムをはじめとするシステム全体のレベルが向上しているということだ。強力なリーダーシップを発揮する人たちがワシントンDCに集い、変革が起きている。
ワシントンDCの教育長は TFAの出身であり、ワシントンDCにおける学校教員の20パーセントがTFAの出身者だ。 トーマス先生やワシントンDCで働く教師たちは、ビジョンを持って周囲が無理だと思っていたことを達成した。そしてそのすべてはリーダーシップによっているとウェンディ氏は語る。
「リーダーシップは問題解決の核であり、多様な考え方を持つ人たちと共に働くことが鍵となります」
3.グローバルアプローチ
設立から25年経った今では、国境を越えTeach For Allとして世界30数か国まで変革が広がっている。
ウェンディ氏がインドの学校を訪問したとき、現地の先生に彼らが抱えている問題は何かと質問してみたところ「皆と一緒です。私たちは、根本的には同じような課題に向き合っている。それはマインドセットの問題よ」と返ってきたという。
問題解決のアプローチは、それぞれの地域に合ったやり方やそれぞれの子どもに合わせる必要はあるが、問題をかみ砕くと共通の根本的な問題に辿り着く。 私たちが共通して向き合っている課題は、「子どもが成功できると信じていない」というマインドセット。Teach for Allはこのような意識を変えるために戦っているのだとウェンディ氏は語る。
「1人で悩むよりグローバルで見た方が解決策を見出しやすい」
三人寄れば文殊の知恵は、グローバルレベルでも通用することわざのようだ。
ビジョンを掲げ、教室をマネジメントできる教師を育成する
ウェンディ氏の想いを日本に引き継いだTFJ代表松田悠介氏の原点は、中学校時代の体験だった。 松田氏は元々勉強も体育も美術も不得意な中学生だった。2年生になったとき、柔道部の同級生から休み時間にからかい半分技をかけられるといういじめも受けた。大人は気づいてくれず、人に相談する心の強さもなく、母親にも言えなかった。
そんな松田氏は、体育教師である松野先生との出会いで変わっていく。ノートに子どもたちの特徴や成長をこまかく記録し、「限りなく子どもの個性に寄り添い、向き合ってくれるような先生だった」という。苦手だった体育も松野先生のおかげで好きになり、自分の労力を投資すればするほど子どもとの関係が築かれ、頑張れば頑張るほど他者の人生を変えられる力を持ちうる教師になると決意した。
中学校の体育教師になった松田氏は、日々の業務に追われ続ける現場の課題を目の当たりにし組織文化の中で教育への熱い想いを持続できる仕組みづくりの必要性に気がつく。ビジョンを掲げられる教師が少ないということ、マネジメント能力をつける機会が極端に少ないといった課題解決も必須だと思うようになる。
リーダーを輩出しているということがインパクト
勤務していた学校を退職した後、ハーバード教育大学院の教育リーダーシップ専攻へ進学。在学中にTFAのウェンディ氏と運命的な出会いを果たす。
「TFAの教師たちは、やんちゃな子どもたちを目の前にし、どんなビジョンを掲げ、誰を巻き込み、どうやって信頼関係を築き、どう理解や共感を得るのかを2年間試行錯誤し続ける。そうして教師としてリーダーシップを身につける経験を積んだ結果、教育業界のことや教師の頑張りを他人事とは決して思えなくなるんです」 TFAでの経験を通して教育を生涯のキャリアとして考えるようになる人もいると語るウェンディ氏。たとえ2年後に教師を続けることを選ばなかった人でも、その多くは優秀なリーダーとして経済界などで教育改革のために尽力している。
「研修の2年間では出せるインパクトに限界があるが、人生をかけてこの問題に取り組もうというリーダーをさまざまな分野に輩出しています」
理想の学校を創設しようと留学した松田氏だったが、TFAの「学校」という枠にとどまらない社会全体を巻き込みながらの教育改革モデルに感銘を受け、2010年にTFAの日本版であるTeach For Japanを設立。
「日本でも貧困は存在しているし、所得格差は大学の進学率にも影響している。中卒なのか大学を卒業するのかで、出会う人や経験が違ってしまう。やりたいことがないなら、経験を多く積める場に行けるように推進していきたい」
そして、家庭に介入することは極めて難しいけれど、家族の次に子どもと一緒にいる時間の長い人間こそが教師だと松田氏は続ける。
「過酷な環境に置かれた子どもたちでも、義務教育を受ける機会はあります。学校現場で最低でも1日6時間は子どもたちと一緒にいる学校の先生たちが熱い思いを持続し、子どもたちをサポートすることが大切だ」と訴えた。 教育は、社会を豊かにするには欠かせないインフラである。誰もが教育を受けられる社会になるために、教育格差を解決し社会変革をもたらしてくれるリーダーが必要だ。TFJは、そんなリーダーを輩出し続ける。
>>後編の質疑応答編はこちら。
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