人口減少や高齢化など、地方が抱える課題解決を目的とした「地域おこし協力隊」。外部から地域へきた隊員による地域協力活動を通し、地域力の強化・維持を実現する最長任期3年の制度です。
福島県西会津町では2013年6月より「地域おこし協力隊」制度を導入し、地域の方々と連携して芸術・デザインを生かした地域振興や、商工連携による地域振興に取り組んでいます。
今回お話をうかがったのは、任期終了間近の西会津町の協力隊の小堀さん、協力隊の受入先の一つである西会津国際芸術村の矢部さん。地域おこし協力隊(以下、協力隊)の仕事内容・任期後の展望を通して、キャリア視点での協力隊や、協力隊が起こした地域の変化についてうかがいました。
西会津国際芸術村 小堀さん(右)、矢部さん(左)
町とともに協力隊のあり方を模索した1年目
―西会津国際芸術村はどのような場所ですか?
矢部: 西会津国際芸術村(以下、芸術村)は、廃校となった木造校舎をアーティストインレジデンスや展示ギャラリーとして活用してきた施設です。ここ数年は、アーティスト以外にも多種多様な人が集まる場をつくり、地域に対してさまざまな発見をしていただくことから新たなアイデアが生まれてきました。現在、さらに面白い人や情報が集まるしかけを画策中です。
昨年は、第10回を迎えた絵画の公募展や、写真や現代アートの展示、コンサートや子どもたちのアート合宿、一日食堂などを開催してきましたが、これらのほとんどは、この木造校舎に魅力を感じてくださった方々のアイデアで、我々はそれを実現するお手伝いをしています。地域資源を生かしたクリエイティブなことすべてに関われるコミュニティスペースですので、空き家の活用や移住相談なども行っています。
西会津国際芸術村 内観
―そのなかで協力隊の小堀さんの役割はどのようなものなのでしょうか?
小堀: 役割は任期を重ねるごとに変化していきました。私は西会津町の協力隊第1期生で、今年で任期最後の3年目なのですが、行政(以下、町)も私も、1年目は協力隊制度を十分に把握できていなくて、どうやって活動していけばいいのか模索する一年でした。
具体的には、協力隊先進地に町の職員と一緒に視察に行ったり、総務省の開催する協力隊に関するセミナーへ参加したり。また、町内中のイベントのお手伝いをし、イベントにたくさん参加したことで、段々と町民の方々との交流が増え、人脈も広がって行きました。
結果的には、この1年目があったから協力隊認知が広まり、募集人数が増えることに繋がったように思います。 そんな1年目を通して、私が町に貢献できる分野は芸術だと考え、町に提案し、2年目から芸術村へ配属ということになりました。そこで矢部さんにデザインの方法や地域活性化に関するコツを教えてもらい、デザインを使って町のイメージを良くしていこうという指針ができました。元々芸術の勉強をしていたので、楽しんで活動に励む事ができました。
具体的には、芸術村や町内のイベントの広告媒体のデザインをしたり、西会津町若者まちづくりプロジェクト(任意団体)に参加して、地元の若者と一緒に西会津町をPRする映像をつくったり、facebookなどのWeb媒体の広告担当をしたりもしています。デザインで思いをかたちにすることや、見えない価値をビジュアル化することが仕事だと思っています。
―小堀さんの生まれはどちらですか?
小堀: 東京の世田谷区です。見た目からかあまり皆さんに信じてもらえないのですが、生まれも育ちも東京で(笑)。ただ、西会津での協力隊の生活は「行政」「町民」「アーティスト」というまったく異業種の3者とガッチリ関わり、かつ友人関係にもなれる立ち位置なので、なんだか生まれ故郷よりも親しみ深くて。
イベント時の西会津町の若者たちの集合写真
「西会津はなんかおもしろいことやってるよね」が生みだす変化
―小堀さんが協力隊として活動しながら感じた、町の変化はありますか?
小堀: 矢部さんと2人でデザインに力を入れてから、だんだん町の方にもデザインの重要性が伝わってきて。今では役場の方々からも「見せ方が大事」「かっこよくなきゃだめだ」「名刺ももっとオシャレにしなきゃ」という言葉が聞こえてくるほどです。地域資源の見せ方に意識が向いたということは、この3年間の中で起きた重要な変化だと思います。
矢部: 見せ方もそうですが、福島県内に対しては、西端の町から東に向かって「おもしろいもの、新しいもの」をどんどん発信してきたいなと思ってます。おもしろい人が集まる地域になるためには、イメージがとても重要です。
この数年、「西会津はなんかおもしろいことやってるよね」と周囲から見られるようなイメージで発信し続けたら、西会津に住んでみたいという人も少しずつですが出てきています。それによって、町内にもちょっとずつ新しい風が入ってきて、そこでまた新しい視点やアイデアが生まれるという連鎖が起きていって欲しいなと思っています。都会では当たり前ですが、人の出入りによる「変化」があることが普通になっていかないと、西会津のような地理的条件の地域は衰退し続けてしまうと思うからです。
デザインにこだわったイベントチラシ
協力隊での経験からたどり着いた「医療」という選択
―小堀さんは、協力隊任期後のことは決めてらっしゃるのですか?
小堀: 任期後は医療系の学校に入りたいと思っています。とは言っても、西会津町とのご縁は続いて行くだろうなと。今後は交流人口の一人だったり、町を発信していくファンの一人として認識してもらえる活動ができたらなと思っています。「ジョセササイズ」という、西会津の皆で立ち上げた、除雪を労働ではなくエクササイズにしてしまおう!という面白い活動もありますし。そこでイラストを担当させてもらったりしているんですよ。
小堀さんデザインのジョセササイズ(除雪でエクササイズ)のイラスト
―なぜ医療の道へ?
小堀: もともと創作するのが好きで、アートに関わる仕事に興味があったのですが、この西会津国際芸術村での仕事を経験して、もっとわかりやすく人に貢献できるスキルが欲しいと思うようになりました。加えて、どこへ行っても仕事がもらえる職業がいいなと。
じゃあ、その条件を満たしつつ自分自身興味があって、創作活動にも影響がでるものって何かなって考えたところ、医療かなって。自分の中でアートと医療の共通項もイメージできたので。この3年間がなかったら、この答えにはたどりつけなかったので、人生でも本当に大切な3年間でした。
後任募集中! 芸術村で、デザインを通した地域おこしを
小堀: 現在、私の協力隊任期終了後に芸術村へ来てくれる次の協力隊を探しています。
―小堀さん後任の協力隊へのメッセージはありますか?
小堀: 最初に、協力隊の活動のあり方を模索していたとき、地域で「どう活動すればいいのか」「何を伝えればいいのか」「なぜ伝えなければならないのか」「どう伝えればいいのか」など、地域振興に関わるアドバイスや人生のヒントになるようなことを矢部さんからたくさん教えてもらいました。
矢部さんがいたから、協力隊としての任期3年間、続けられたと思います。 彼みたいに、一緒に考えてくれる人、かつ経験・知識もあって地域をなんとかしたいという想いのある人がいる地域は、そこに入った協力隊にとって本当に貴重な環境です。また、西会津町は行政の方がとても協力的なので、非常に魅力的な地域だと思います。
矢部: 自分がやりたいことの意味や理由が、自分も相手もしっかり理解できたか、本当に伝わったかをよく確かめることをアドバイスしています。何気ない会話でも、同じ言葉を話しているようで違うイメージを持っていたりすることが多いので。特に都会で暮らしてきた人間と田舎に長く住んでいる人間では、感覚に大きな違いがありますから。
あと、地域活性化には常に正解はないので、その場その場でよく考えることが重要です。短絡的に答えを急がず、正解がないってことがわかれば、デザインもアートも地域活性化も、正解に近いものを見つけていくというプロセスが大事だとわかります。
地域は人の集合体なので、前に進もうという人材が多くいることが活性化にはとても重要です。アイデアそのものよりも、アイデアを生み出す過程を多くの人と共有することが地域を活性化する人材を育てるので、諦めず、一緒に考えられればと思います。
それと、地域で必要なことに協力する人材だということを忘れずに、自分のやりたいことを実現するというバランス感覚が重要ですね。やりたいことを地域に伝えながらも、地域の求めていることをしっかりやる。お互いがお互いに考え合う関係が理想です。
小堀: 行政の担当者さんが、このバランスをよく考えてくれていて、「協力隊任期3年後のために、この活動だったら3年後のことも考えられるし、地域のためになって整合性がとれる」と勧めてくれたりしました。芸術村の場合であれば、矢部さんが整合性のとれる仕事にしてくれたりします。そういった部分に意識をもってくれる方が近くにいて、本当に助かってます。
―小堀さん、矢部さん、今日はありがとうございました。これからのご活躍楽しみにしています。
第1期 西会津町地域おこし協力隊(西会津国際芸術村staff)/小堀晴野
東京都世田谷区生まれ。幼い頃から両親の開く美術研究室でアートで遊びながら育つ。小学生の夏休みは合宿と称し、八ヶ岳の山中でツリーハウス作りや写生をしながら遊んだ。その頃から、自然の中で創作活動をしたり、皆でご飯を作って一緒に食べたりする事が好きになる。高校卒業後、美術の勉強を本格的に始めるが、東日本大震災をきっかけに創作活動に疑問を持ち、農業研修やWWOOF(ウーフ)等で東北を回るうちに西会津へ。2013年6月〜2016年3月の間、西会津町地域おこし協力隊となる。 西会津国際芸術村HP http://nishiaizu-artvillage.com/ 西会津国際芸術村FB https://www.facebook.com/nishiaizuartvillage/
西会津町国際芸術村コーディネーター/矢部佳宏
長岡造形大学で持続可能な集落風景デザインについて研究した後、上山良子ランドスケープデザイン研究所で公園や緑地の設計などに携わる。その後、カナダ・上海などで庭のデザインや都市計画に携わっていたが、震災を機に生涯の研究テーマであった西会津の先祖伝来の地に移住を決意。約360年続く山奥の小さな農家の19代目として土地と古民家を継承しながら、ランドスケープ・デザインのプロセス思考を地域に役立てるべく、西会津国際芸術村を拠点に様々な活動を展開している。
聞き手/ふくしま連携復興センター/奥田加奈
茨城県つくば市生まれ。大学で日本酒(麹菌)の研究、大学院でイノシシの研究をし、その後、大学の技術員として野生鳥獣管理技術者養成プログラムに従事。2014年4月より福島県復興支援専門員(ふくしま復興応援隊)として活動中。2015年4月より福島県普及指導協力委員(鳥獣害対策)を兼任。
聞き手/ふくしま連携復興センター/元岡悠太
1988年9月30日東京都練馬区生まれ。大学で観光まちづくりを学び、卒業後Webマーケティング企業でメディアコンサルティング業務に従事。2013年4月よりNPO法人ETIC.の右腕派遣プログラムを活用し福島県にIターン。2015年6月より福島県復興支援専門員(ふくしま復興応援隊)として活動中。 ふくしま復興応援隊Webサイト http://fukushimafukkououentai.jp/ ふくしま連携復興センターWebサイト http://f-renpuku.org/
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