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遠野で、自分らしいお産と出会える場をつくる。Next Commons Lab・渡辺敦子さん(前編)

2016.06.25 746view 

あれから、第一子出産を前に遠野へ移住した渡辺敦子さん。新しい暮らしの場は、遠野駅から20分ほど車を走らせた山の中。以前は60代の夫婦がカフェを営んでいたというその古民家は、隣に小さな沢が流れ目の前に無農薬の畑が広がっていました。

現在、渡辺さんは女性の産後を支える新しいプロジェクトを遠野で始めようとしています。お産を経て、渡辺さんの目の前に広がる世界はどう変わっていったのでしょうか。そしてそこから、どんな女性としての生き方の可能性が見えてきたのでしょうか。

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妊娠中、病院まで車で片道1時間かけて通った日々。遠野のお産を支える場所をつくりたい

桐田: お久しぶりです。またお話うかがえること、とても嬉しいです。そして何より今回、かわいいお嬢さんともお会いできて嬉しい! 遠野でのお産はいかがでしたか?

渡辺: お産ね、良いこともたくさんありましたがなかなか大変なこともあったんです。なんと遠野には産婦人科がないんですよ。新幹線が止まる花巻と沿岸の釜石の真ん中あたりに遠野があるんですけど、そのどっちかに行かないと出産ができないという状況で、車で1時間かけて病院に行かなきゃいけないんです。しかも、私の場合は夏に出産だったから大丈夫でしたけど、冬の遠野は山に囲まれていてすごく雪が降るので……。

桐田: それは、天候によって運転ができない日もありそうですね。

渡辺: そうなんです。でも、そうせざるを得ない状況だから、そろそろ予定日だという方たちはそわそわしてどうにか色々な対策をしていくわけなんですけど、車内で分娩なんていうこともあるそうです。 そういった地域の課題を知ってしまったから、何か民間でやれることはないかと思うようになって、これから遠野で産前・産後の施設を開くプロジェクトを進めようとしているんです。

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桐田: そうなのですね! でも、東京で働かれていたころは同じく働く女性のための健やかな暮らしを提案し続けていらっしゃって、母親として地域で生きるようになってからは、地域の女性の暮らしを考えるという、とても自然な流れのように感じます。渡辺さんの産前産後はどういった状況だったのでしょうか?

渡辺: 私は産前がとても元気で、まったく問題なく出産までスムーズにいけたんですけど、産後が本当に辛かったんです。乳腺炎を1か月に2回して、そのときに41度の熱を出したんです。病院に電話をして状況を伝えたんですけど、「来てもらわないと薬が出せないから、本当に大変なのはわかるけれど1回来てください」と言われてしまって。病院側も辛いのはわかってくれているけれど、フラフラしながら1時間かけて行かなきゃいけない状況に、「何でこんな思いをしなきゃいけないんだろう」と疑問に思ってしまって。

そんなこともあって、これから人口も減るからこそ、若いうちから産むという選択肢を考えられるようにしたいし、産むことが大変なことであっちゃいけないなと思ったんです。産院や助産院が多くある都会は都会で、「社会復帰ができるか」とか「保育園に入れない」とか、また違うハードルがあるけれど、地方は地方で産むことに対して前向きになれない状況がある。その状況に何ができるんだろうと色々考えて、助産師さんたちと一緒に産後ケアの専門施設を遠野でできたらと考えています。

昔の日本では、産後3週間はとにかく寝たままで体を休めるようにと伝えられていましたが、今ではそういった環境をつくることはとても難しいんですよね。たとえば遠野だと実家に暮らしている人が多いから、おばあちゃんがいて、旦那さんがいる状況だったりします。そうすると人手はたくさんあるように感じるけれど、実は旦那さんも産後についての知識は十分でないし、お婆ちゃんも農業で忙しかったりするし、お母さんにとってはお嫁入りした家だし、休んでいられる状況じゃなくて、産後すぐに家事を始めちゃったりする人が多いそうです。本当は、産後の3週間をしっかり休めばその後回復が早いと言われるんですけど……。そこで休めないと、2〜3か月後とか、半年後とか、それこそ更年期に影響が出るかたちで、体に響くと言われています。だから、その時期にちゃんと休める場所をつくりたいなと思っているんです。

桐田: その施設ではどんなケアを行うのか、もう具体的なイメージは生まれてきていますか?

渡辺: そうですね。基本は産後の入院施設です。病院からの退院後、ゆっくり養生しながら赤ちゃんのお世話の仕方を学んだり、母乳の相談ができたりします。さらに、産後の家族の暮らしを支えるための教育的な取り組みも含んだプログラムをつくりたいなと。例えば産後のお母さんのための運動講座には、夫婦のコミュニケーションのためのワークショップやセッションが一緒に行われることが多くて、それが本当に良いんですよ。気持ちを理解してもらえたら、産後の辛さも半減すると思うんですよね。

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自分の中で育てて、自分で出して、そこから地続きで子育てが始まっていく

桐田: お話うかがえばうかがうほど、渡辺さんが今後つくられていくものは本質的には「かぐれ」と変わらないものなんだろうなと感じます。

渡辺: うん、本当にそう思います。ステージを変えただけで。

桐田: そうなると、入院プログラム一つじゃおさまらない気がしますね(笑)。「かぐれ」も、展示会や勉強会、ワークショップにと、一つのアパレルブランドという概念にはおさまらず幅広いことをされてきたのを知っていますから。

渡辺: そうなんですよ(笑)。産後に来てもらう場所というのはもちろんなんですけど、生まれる前からの体づくりを提案していったり、妊婦さんのときから通ってもらえるようなプログラムをつくっていきたいなとは思っています。そうして自分のお産を、自分らしくイメージしていけたらいいですよね。

桐田: 私はまだ未体験の世界なのであまり詳しくなくて、たとえばどんな選択肢があるんでしょうか?

渡辺: 病院の指針によっていろんな違いがあると思います。東京では、アーユル・ヴェーダを取り入れたりしている助産院もありましたよ。多くの助産院では「自分のからだで産む」ということを教えられるようです。そのために生活習慣を指導されたり。本来それって普通のことなんですよね。昔は家に産婆さんに来てもらって、自分で産んでいたのだから。けれど今は、赤ちゃんは病院の先生にとり上げてもらうという方が一般化しています。もちろん出産の高齢化も進んでいるし、ハイリスクなときは病院の助けは必要です。でも健康で元気だったら、できるだけ自分の力で産めた方が、自信を持ってその後の子育てにあたれるようにも思います。

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桐田: すごく意外なところでつながっているなと驚きました。DRIVEは、自分で仕事をわくわく創っちゃうことが当たり前の世の中になることを願って、そういった「つくる生き方」を伝えているメディアなんです。今までは、仕事という切り口を中心に「つくる人」を追ってきたけれど、今のお話を聞いていると出産もそうだよなあと。何か目に見えるものをつくっているわけじゃないけれど、それは自分で生き方をつくるという姿勢につながっているんだろうなあと感じます。

渡辺: うんうん、本当にそうだと思います。

産む前だけじゃなく、伝えていきたいのは産んだ後の体のこと

桐田: 私はまだ子どもを産んだことはないですが、女性として最低限の出産の知識は持っていたつもりだったんですよね。でも渡辺さんのお話をうかがいながら、ああ、全然知らなかったんだなって。

渡辺: そうですよね、わかります。私もこの子が初めての子で、産んだことがなかったし、妊娠もしたことがなかったです。その状態って、どこか妊娠・出産が人ごとみたいな感じがしませんか? 私はそうだったんです。大家族で暮らしていたり、地域のコミュニティが密接していたら、兄弟や親戚といった他の人の妊娠・出産を身近に見る機会もあって、自分の子供ではないけれど、子育てを手伝わされたりする機会も多くなるかもしれません。でも私はそういった経験がなくて、この子が生まれて初めて、赤ちゃんのおむつを替えました。

桐田: 確かに! 私も親類は遠方にいましたし、自分自身も妹ですし、身近に赤ちゃんはいなかったです。おむつも替えたことないですし……。

渡辺: 今はもう、おむつ替えは自分の子どもが初めてです、という人が半数占めているんだそうですよ。つまり、自分のこととして出産がやってくるまで、体感としてほとんど何も知らない状態ということですよね。そして私もそうでした。周りでは一昨年ぐらいから出産ラッシュで、赤ちゃんを抱っこするとかはたくさんあったけれど、それと実際の育児とは別物なので(笑)。

だから、いざ妊娠したときに急いでいろんな情報を集めて、何をしたらいいのか考え始めたんです。私はつわりもほとんどなかったし、元気だったから、いろんなことをいっぱい調べたり探したりすることができたというのもあるけれど、そこからはじめて、「さあ、ちょっと取り組んでみよう」みたいな感じになってしまって。

桐田: そう考えると、何だか出産前と後が分断されていますね。

渡辺: そうなんです。なんとなく仕事して生きてきて、妊娠した途端に「じゃあ、そうなったので産みましょうか」みたいな感じになっちゃうんです。たとえば私は、自分自身の関心ごとのなかに「体を気づかうこと」があるので、周りには助産院で出産する人も多いですし、食事をはじめ体のことに関する情報が多い環境だと思うんですが、世間一般では違うのかもしれません。例えば東京では私も普通の産婦人科に通っていたんですけど、素足にピンヒールを履いている妊婦さんが結構いらっしゃって、その状況に圧倒されたりしていました(笑)。

古くは家族の中で、いろいろ教育されたんでしょうね。足を冷やしちゃいけないとか、食事はこういったものをとか、妊娠後期になったら本を読んじゃダメとか、携帯やテレビをやめなさいとか。今は一部の助産院や本から学ぶことも多いのかもしれません。

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桐田: 渡辺さんは、産後どういった場で学びを得ていましたか?

渡辺: 産後の5日間は入院するのですが、私がお世話になった病院は先生もいらっしゃるけれど、ほぼ助産師さんたちが運営しているところで、出産自体も助産師さんにやってもらって、先生が入らなかったんです。私はたまたまそういったやり方を選択できて、産後も「同床」と言って、すぐに子どもと一緒に寝ることができました。産後すぐから、おっぱいをあげることも、おむつを替えることも私が自分でしなきゃいけない状況なんですが、その5日間の間で毎日助産師さんたちがおっぱいのあげ方とかいろいろ見てくれて、教えてくれて過ごすので、何となくやり方が分かるようになったんです。それこそ、いきなりおっぱいは出ないんですけど、それもちゃんと時間をかけて、飲ませられるようなところまで持っていってくれて。お風呂の入れ方をはじめお世話の仕方を全部教えてもらって、退院時には明日から自分の家で引き続きこれをやりましょうとなっているんですね。とても助かったんですが、ここまで教えてくれるケースは少ないようです。退院後に、赤ちゃんのお世話の仕方がわからずに悩みを抱えるお母さんも少なくないようです。

桐田: 赤ちゃんにも個性がありますし、それぞれの親子のペースに合わせた丁寧なサポートがあると助かるんでしょうね。

渡辺: この子も予定日より3週間早く産まれてきたから、産まれてからはもうぼーっとしていて、おっぱいを全然うまく吸えなくて、ちょっと飲み始めたら寝ちゃうみたいな感じで、体重が増えなくて大変だったんですよ。

桐田: でもいまは、すごい勢いで飲んでますね(笑)。

渡辺: そう、すごい飲むんです(笑)。こんなことも含めて、産んだ後の体のことってちゃんと聞かないと誰も教えてくれないなって、しみじみ感じています。

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後編はこちら

渡辺さんが関わる新しいプロジェクト「Next Commons Lab」はこちらから。「本当の資本とは、貨幣ではなく人間の創造力である」というコンセプトを掲げ、「ポスト資本主義」を「今を生きる人たち」の手で具現化する取り組みです。

この記事を書いたユーザー

DRIVE編集部・桐田理恵

DRIVE編集部・桐田理恵

NPO法人ETIC. DRIVE編集部。1986年生まれ、茨城県育ち。大学時代は文芸の研究をしつつルワンダ人とのコミュニケーションを楽しみ、2011年より医学書専門出版社にて企画・編集職に就く。精神医学や在宅医療、緩和医療の書籍づくりを経て、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。

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