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#経営・組織論

想いを伝えたいなら、相手の関心をしっかりつかむ。いいチームをつくる秘訣を、西條剛央さんと考えてみた【その5】

2016.07.14 

いよいよ最終回となる第5回目(前回の記事はこちら)。これまでは小さなチームに焦点を当てて語られてきたこの連載も、最後は大きな組織へ視点を移していきます。

西條さんは現在、「ふんばろう」の経験を基に被災地支援のプラットフォーム「スマートサプライ」を構築、熊本地震においても導入されています。くまモンの生みの親・小山薫堂さんとの対談記事はこちらから>>熊本地震で考える「募金の生きた使いみち」【小山薫堂×西條剛央】

大きな組織で働く人たちが、心底楽しく力を発揮するために

早稲田大学客員准教授・哲学者の西條剛央さん

早稲田大学客員准教授・哲学者の西條剛央さん

宮城治男宮城
私自身、インキュベーションなどである種人の人生に向き合い続けてきたような面もあるのですが、その点からみると「生き方」と「チーム」のあり方がフラクタルみたいにつながっている気がします。
西條剛央西條

人の生き方に合っていないといいチームは作れないから、自然とそうなりますね。

インキュベーションで思い出したのが、ある大学のインキュベーションセンターに、「ふんばろう」の体制が変わるときに部屋を貸してほしいと頼んだことがあるんです。途中まで進んだんですが、株式会社じゃなければ貸し出せませんと断られてしまって。ソーシャルビジネスの文脈でそこのやっている授業で話して欲しいと依頼されていたのですが、インキュベーションを進めていくセンターなのになんて前例主義的なんだろうと(笑)。

一同:(笑)。

宮城治男宮城
われわれのところにも「インキュベーションセンターを作ったんだけれど、どう使ったらいいか」とか、「企業の相談窓口やセンターを作ったんだけれど、どうしたら活性化するんでしょうか」といった相談がくるんです。
西條剛央西條

僕のところにも来ました、そのときはCSRでしたが。形も整えて、予算もついていて「こういうことに使いたいんですけど、どうすればいいでしょうか」と。

でも大概のCSRって、相手の関心に合わせるんじゃなくて、自分たちの関心に合わせてほしいということになりがちで。本当に社会貢献したいというよりは、形を整えることが第一で、相手の役に立つということが2番目、3番目になってしまう。

宮城治男宮城

インキュベーションセンターを作ったのに、人々がインキュベートされる構造がつくれていないわけですよね。ハコは作りました、相談窓口も作りました、イベントを何回やる予定です、といったアウトプットについては整えているのだけど、本当に新しいアイデアとかアクションが生まれるためにはどうしたらいいかということが設計されていない。

これは政策全般に言えることなんだと思うんですが、その政策が本当に何を生み出すべきかという、その成果や価値から逆算した政策ではなく、政策そのもののアウトプットが、その政策を守るため、策定されたアウトプットをとにかく達成するためのものになっていて。

われわれとしては、社会起業家のような、ある種極端な突破者を育てる、応援するということも大事なんですが、一方で組織人の進化もとても大事だと思っていて、たとえば人事院との協働でこれまで1000人以上の若手官僚の方たちの研修もお手伝いしてきたり、大きな組織で働く人たちが、本当に楽しくパフォーマンスを発揮できるための、構造や文脈の転換のお手伝いをぜひしたいなと思ってます。

そのときに、たとえば「インキュベーションとかリーダー育成ってどうしたらいいですか」、「どうしたらイベントを盛り上げられますか」といった相談がくるわけです。それで、確かにわれわれがやると、盛り上がる。でもその役所の人がやると盛り上がらない。その本質的な違いは、じつはわれわれもうまくかたちにし切れていないし、ましてやその役所の人たちはわれれのイベントを見たところで、その違いがわからずに真似できないんです。うまく手法やシステムを開発できれば、大企業のビジネスパーソンの皆さんや役所の皆さんの文脈を変える変革も充分可能だと思うし、その機運も高まってきている。

いまの時代における社会の課題解決や政策を、価値あるパフォーマンスとして最大化するためには、人々の関心やコミットメントを引き出すことが大事。まさに関心を育むプロデュースが、ものすごく大事で。要するに、官僚や役所の人たちが課題解決の当事者に進化していくようにサポートをしていくことが、政策を価値あるものにする、あるいはサステナブルなものにしていくための本質としてあるわけですよね。

だけど、それを仕掛けられる行政マンや、プロデューサーを育てる方法論がないので。実際に様々な省庁や自治体との協働が進んでますが、われわれとしては、頼っていただける、任せて頂くのはありがたいのですが、本当は移管したい。できれば自律的な進化の流れをつくりたい。

西條剛央西條

 

なるほど。
宮城治男宮城

ここでうちがやっているアプローチのコアは、人間が自律的に動くパワーに向き合うということかもしれません。つまり、そのインキュベーションセンターのトップを、自律的に創造性を発揮する存在としてインキュベートするというやり方をずっと実践してきた。

でも、官僚だけではなくて、本当は企業の組織人でも変われるやり方はあるんじゃないかなと思っています。われわれとしてもそうした方法論の蓄積がどこかにあるんだと思っているんですが、まだ個別対応はできても、社会のシステムを自律的に変えていけるところまで昇華できていないんです。

想いを伝えたいなら、相手の関心をしっかりつかむ

西條剛央西條

僕が「ふんばろう」をやっていたときには、マーケティングも知らなかったから、哲学の原理だけで運営をしていたんです。まず価値認識の起点になるのは関心だと。そして、その関心を生み出すのは、契機(きっかけ)になるような経験だ、というように。

たとえば、うまく事業をまわせないNPOや支援団体って、「大変です! 大変です! 支援してください」と自分の関心のあることの「価値」だけ伝えようとするんです。

宮城治男宮城

 

そうですね。
西條剛央西條

でも、そんな風に伝えて手伝ってくれるのって、非常時以外は家族くらいなんですよね。「わかった、わかった」って。身内はやってくれるけど、結果として価値を見出すのは「他者」。だから、相手にそのことについての関心がなければ、関心を持ってもらうためのきっかけを与えなければいけない。

具体的にいえば、「現地がこういう状況に陥っているから大変なんです」と、なんらかの経験を通して伝える。その後に、他者の関心にかなう、価値を実現できる仕組みを提示する。ふんばろうで言えば、「そんな関心を持ってくれたあなたは、いますぐこのサイトから支援できますよ」と。こう提示すると、「あ、それなら支援しよう」って思ってもらえる。

経験(契機)→関心→価値という、この「流れ」が大事なんですよね。だからこそ他者に価値を伝えるためには、その人の関心とそれを引き出すきっかけ(契機)にさかのぼって考えなきゃいけない。けれど多くの人が勘違いしているのは、価値を伝えるノウハウがあればいいとだけ考えているところ。だからみんな、「どうすればいいですか」と聞きたがる。

根本的に相手の関心のその先というか、相手にこの関心を生み出すんだという視点がないと、価値は伝わらない。たとえば、実際にある政府主導のイベントであったことなんですけど、会も締めとなって、司会者が決めてきた台詞を喋りだしたけど、マイクが入っていなくて聞こえないわけですが、本人は型通りやることに注力しているためそのことに気づいていない、みたいなことを、普通にやってしまうんですよ(笑)。「相手の関心」に関心がないと。

宮城治男宮城

 

そうなんですよね。自分がなんのために、どんな価値を生み出すためにこの仕事をしているのかというところをみることが大切ですよね。
西條剛央西條

 

そうしないと、形を整えることだけが目的になってしまう。
宮城治男宮城
たぶん、自分がメッセージを届けたい相手が一体どういうことに関心をもって動けるかということを考えるために、まずは自分自身が何に関心をもってこの仕事をして、なんの目的でやっているのかということに向き合うということがすごく大事になりますよね。

多数派が変わった先にある社会

NPO法人ETIC.代表理事・宮城治男

NPO法人ETIC.代表理事・宮城治男

宮城治男宮城

われわれが社会起業家にフォーカスして応援している理由は、彼らが「いまの社会はダメだから変えよう」というよりは、「自分はこのことが大事だと思うから、自分がやりたいから、まずこの壁を突破しよう」という意思をもって、能動的に行動する人たちだからなんですね。

そういう存在が社会に増えていくことで、結果的に自分自身とは何者か、なんでこの仕事をやっているのか、そういうことに向き合える気づきが、人々に伝播していく。

しかも、たとえば若者の方が伝播しやすいといえば確かに伝播しやすくて。年齢に関わらず、頑なに受けつけない人をなんとか変えるというアプローチでは、社会の構造を変えることはできないかなと。

西條剛央西條

本当にそう思います。実は一度、著作のなかで社会変革モデルを構想していたことがあって。簡単にいえば、まず、ここに正規分布のグラフがありますと。100点に近いような少数の人は、何も言わなくても能動的に動いていく人たちとします。この人たちには、何かを伝える必要もない。その反対側に、何を伝えようとしても耳を塞いでいるような人たちを置きます。この人たちには、何を言っても変わらないから、ある意味では放っておくしかない。

社会が結果的に変わるときって、その両極の人はあまり重要ではなくて、大事なことはこの正規分布の中央の一番大きな人口がいる「山」を、ちょっと能動てきな人たちの方にずらすことなんだと思うんです。そうすることで、多数派が変わるんですよね。多数派が変われば、結果として社会が変わる。

だから社会にたいして関心とか違和感を持っている中央の人たちに、ちょっとした刺激を与えたり、ノウハウ、考え方を教えてあげたりすれば、「あ、そうか」って気づいて、自分で自分を変えることができる。

宮城治男宮城

そう思います。ちょっとの刺激や気づきで突破できる、壁が破れる人たちに、その機会を提供するということが、たぶんうちがやっていることなのかなって思いますね。

多くの人が、自分が踏み出せば変わるって、気がついていないだけで、ちょっとした機会だとか、メッセージが契機になったりする。そうした人たちが少しずつ少しずつ動きだして、それが連鎖してどこかの段階でクリティカルマスみたいなかたちで広がるんじゃないかなと思っているんです。

西條剛央西條
そうだと思います。たとえば、「方法の原理」は現在の状況と未来にこうありたいという目的を基軸とした意思決定を可能とするもので、「これまでやってきたものが無駄になる」という埋没コスト、つまり過去を基軸とした意思決定の真逆にあるものなんです。方法の原理とはとてもシンプルな考え方ですが、原発をはじめとして過去に囚われた不条理を脱するためには、こうした考え方を広めていくしか、おそらく本質的な処方箋はないんじゃないかと思っているんです。
宮城治男宮城
そうですね。それぞれの、こうありたいという思いが重なってつくられる未来は、きっとよい社会だと信じたいです。今回のようなお話、ふだんあえて言葉にすることもないし、うまくもできないのですが、西條さんとお話させてもらってあらためて自分の中でも腑に落ちた気がします。やはり自分自身にももっと向き合わないといけませんね。本当にありがとうございました。

第1回目>>いいチームをつくる秘訣を、3.11で3000人とチームをつくった西條剛央さんと考えてみた【その1】

第2回目>>組織は「内と外」があるけれど、チームは境界をのばしていける。西條剛央さんと考える、チームをつくる秘訣【その2】

第3回目>>人を育てるための「仕組み」は人を育てない? いいチームをつくる秘訣を、西條剛央さんと考えてみた【その3】

第4回目>>「本当にあなたが大事にしたい役割、自分に合ったスタイルは何ですか」。いいチームをつくる秘訣を、西條剛央さんと考えてみた【その4】

現在、西條さんは東日本大震災時に3000か所以上を継続的にサポートした仕組みから開発した「スマートサプライシステム」を、熊本支援プロジェクトに導入しています。2016年3月には、減災産業振興会主催の「第2回グッド減災賞」で最優秀グッド減災賞を受賞したスマートサプライ。熊本への支援にご関心のある方は、こちらから詳細をご覧ください。くまモンの生みの親、熊本出身の放送作家・脚本家の小山薫堂さんとの対談記事「熊本地震で考える「募金の生きた使いみち」 【小山薫堂×西條剛央】」はこちらから。ご著書『チームの力』はこちらから。
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桐田 敬介

哲学者・遊び研究者/よはく代表。1986年生まれ、埼玉県育ち。大学で哲学理論を作る一方で映画制作や演劇などを楽しみ、大学院では日本各地の面白く豊かで多様な学校を訪れ図画工作と造形的な遊びの研究を行う。現在はベンチャーで勤務しつつ遊びの研究を続けながら、哲学とアートを遊ぶワークショップを運営する団体「よはく」を主催している。