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コロナ禍で変わるビジネス・コミュニケーション。「データで語る」社会でSansanが目指すものとは?データ統括部門センター長、常樂さんに聞く

2020.10.30 

新型コロナウイルスは、私たちに新しい働き方・生活様式への転換を迫るだけでなく、人々の意識や世界観をも変えつつあります。先の見通せない激変する環境。経営者たちはどんな思いでこの状況を見つめているのでしょうか。

 

そこで、意外と語られていない「経営者のあたまのなか」を解剖してみようと立ち上がった本企画。第16回は、クラウド名刺管理サービスで80%以上のシェアを誇るSansan株式会社の創業者メンバーの一人、常樂諭(じょうらく・さとる)さんにお話を伺いました。「出会いのデータベース」をより良い社会の実現に生かすことを目指す常樂さんの「あたまのなか」の一端をお届けします。

 

常樂さんポートレート

常樂 諭(じょうらく・さとる)Sansan株式会社 取締役/CISO*1/DSOC*2 センター長

2007年にSansan株式会社を共同創業し、クラウド名刺管理サービス「Sansan」のプロダクト開発を統括。現在は名刺のデータ化やデータ活用の研究開発部門であるDSOCのセンター長を務めながら、CISOとして社内のセキュリティー施策を推進する。

*1 CISO: Chief Information Security Officer

*2 DSOC: Data Strategy & Operation Center

ビジネス上の「出会い」はイノベーションを生み出す資産

 

――はじめに、御社の事業内容について教えてください。

 

法人向けのクラウド名刺管理サービス「Sansan」と、個人向けの名刺アプリ「Eight」というプロダクトを展開しています。現在Sansanの契約数は6,000件、業界シェアは約83%。Eightは270万ユーザーにご利用いただいています。Sansanであれば、いちど取り込まれた名刺データは、外部の人事異動と連携して、その後の異動や昇進、転職などの変更を反映して常にアップデートされます。また、外部ニュースから、その交換した名刺に関する最新の情報が日々提供されるので、常に人脈を最新に保ち、かつ有効活用ができるようになります。

 

sansan&eight

 

ただ、私たちの事業は単なる名刺管理にとどまりません。企業としてのミッションは、「出会いからイノベーションを生み出す」。また、私が所属するDSOCのミッションは、「Activating Business Data」。人と人が出会った証である名刺情報を基に、他のビジネスデータも掛け合わせて「出会いのデータベース」を構築し、AIの力も使いながらそれを分析することで、人と人の出会いの価値を変える新たなソリューションを開発しています。

 

例えば、直近の名刺交換の傾向を元に、その人が「次に会うべき人物」をAIがレコメンドしたり、ビジネスマンとしてのタイプやスキルを分析してキャリアデザインにつなげたりすることもできますし、Eightのアンケート機能を使えば、名刺交換相手を対象にした、より精度の高い企業ブランド調査の実施なども可能となります。

 

なお、本社は東京・表参道ですが地方にもいくつか拠点を設けています。例えば、ITベンチャーやクリエイターの誘致で知られる徳島県神山町には、古民家を改修した「Sansan神山ラボ」と呼ぶオフィスを2010年に開設。サテライトオフィスという言葉がなかった時代から、サテライトオフィスを作り、運用しています。最近はコロナの影響でできていませんが、新卒研修や営業の合宿、エンジニア合宿、などが行われています。一時期は、この神山サテライトオフィスから、電話営業を行っていたこともあります。普段と違う自然に囲まれた環境で、社員が仕事をしたり合宿したりできるようにしています。

 

――常楽さんがセンター長を務めるDSOCとはどのような組織ですか?

 

DSOC (Data Strategy & Operation Center)はSansanのデータを統括する部門で、いま述べた出会いのデータベース構築とその分析・研究のほか、AIが下した判断の内容をわかりやすく説明するためのデータのビジュアル化なども行っています。私たちが扱っているのは、出会いのネットワークが社会経済の成り立ちにどう関わっているかという根源的な部分の研究なので、研究チームには画像処理や機械学習などのテクノロジー系だけでなく、経済学や社会学の専門家もおり、多様性に富んでいるのが特徴です。

 

DSOC

 

昨年11月、私たちはNPO法人ETIC.(エティック)と共同で全国1885自治体の「ビジネス関係人口」を割り出し、その上位10自治体を発表しましたが、その推算を行ったのもDSOCの研究チームです。「ビジネス関係人口」とは、名刺アプリEightのユーザーが1年間に取り込んだ名刺交換情報に基づき、各自治体が持つ他の地域との純粋な「関係力」を導き出したものです。その結果、上位には工業地帯を有する自治体や観光業が盛んな自治体以外にも、統計数字などにはすぐに表れにくい、ローカルベンチャーやエコツーリズムのような草の根での取り組みが盛んな自治体も含まれていることがわかりました。

 

>> DSOC Data Science Report08 名刺交換から地域のビジネス関係人口を測定する(2019年11月7日発行)

https://sansan-dsoc.com/pdf/DSOC_DSR-08.pdf

 

その後、この関係人口データと域内の経済財政データとの相関なども調査研究しており、今後これをどのようにして地域活性化に生かせるか、自治体のみなさんと一緒に考えたいと思っているところです。

 

コロナ禍で早まったプロダクトリリース。アフター・コロナを見据えて働き方の模索は続く

 

――コロナ禍で対面の名刺交換は減少したと思いますが、ビジネスへの影響は?

 

コロナ発生後、(SansanやEightに取り込まれる)物理的な名刺の交換枚数は半減しました。半面、ニーズが急増したのがオンラインでの名刺交換機能です。これは個人向けのEightでは既に2016年から提供していたのですが、法人向けのSansanでリリースしたのは今年の6月です。それ以前からずっと構想していたものを、コロナ禍で一気に優先順位を上げて実施する形になりました。現在(9月下旬)のご利用は3,000社以上。多数が参加するオンライン会議で生じがちな、誰がキーマンなのか分からないといった悩みの解決に役立てていただいています。

 

オンライン名刺交換

 

他にも、前から温めていたのがコロナでリリースが早まったものとして、「Bill One」というサービスがあります。緊急事態宣言下でも経理担当は請求書処理のために出社しないといけない、といった現象がありましたね。そうした課題を解消すべく、全社の請求書をひとまとめにデータ化し、内容確認から支払いまでオンラインでの完結を可能にしたものです。

 

――御社内ではコロナによる働き方に変化はありましたか?

 

緊急事態宣言の発令とともに出社禁止とし、全員在宅勤務としました。宣言解除後、一時は週3回まで出勤日数を増やしましたが、東京で第二波が始まり、現在は再び週1回としています。このことで、少なくとも短期的な生産性が低下したとは思いません。コロナ以前から月4日の在宅勤務を可能にしていたので、リモートワーク環境は整っていましたし、特にエンジニアはもともと在宅作業と相性のいいところがありますから。

 

ただ、私たちはオフィスという場所が今でも大切だと考えています。自分たちのプロダクトでイノベーションを起こそうと思っている会社ですから、私たち自身がイノベーティブなアイデアを大事にしたい。それはやはり対話から生まれるものであって、テキストコミュニケーションだけでは限界があるのです。社内の情報共有はSlackでできても、チームワークは同じ時間・空間を共有した方がうまくいくし、長期的な生産性も高いはずです。また、今年4月、緊急事態宣言下で入社した新入社員とのコミュニケーションも、対面でないと厳しいところがあると感じます。

 

今はまだウィズ・コロナの段階であり、感染収束後のアフター・コロナ時代とは分けて考えています。ただ、アフターになっても完全に元に戻るのではなく、(感染防止と生産性・創造性の)バランスを考えながら働き方を検討していくことになるでしょう。

 

正確なデータに基づく意思決定の重要性はますます高まる

 

―今後、特に自治体との連携ではどんな展開を想定されていますか?

 

コロナ禍を通じて改めて感じたのは、今は「データで語る」社会になっているということ。そしてデータの正しさの重要性。人の感情が様々に揺れ動くなかで、正確なデータに基づく意思決定こそ大切だということです。それは公共政策の分野も同じで、EBPM*(エビデンス・ベースド・ポリシーメイキング=合理的根拠に基づく政策立案)*というキーワードにも表れています。

*「EBPMとは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資するものです。」(内閣府ホームページより)

 

そこに私たちのデータが活用できる余地があるはずです。例えば、先ほどの「ビジネス関係人口」は、自治体が何か施策を打ったときのKPIや効果測定に活用していただけるのではないか。また、立ち位置が類似した自治体をグループに分類できるため、同じグループにモデルとなる自治体があれば、そこと比較して足りないところを可視化し、次の施策に生かすことも可能となります。「ビジネス関係人口」は、今後データの精度をより高めていくことで、有意義な経済指標のひとつにもなり得ると考えています。

 

一般に、情報というのは集めるよりも活用する方が難しいもの。私たちが蓄積したデータベースをどう使うかの最終決定はあくまで使う側に委ねられますが、私たち自身も行政の課題やニーズをよく理解したうえで、ぜひ一緒に有効な活用方法を考えていきたいですね。

 

――どうもありがとうございました。

 

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