コロナ禍をきっかけに、価値観の変化・雇用不安やテレワーク拡大が起こり、仕事や働き方への意識も変化してきている今。
例えば、内閣府の調査では、20代・30代の約半数が職業選択や副業等についての希望が変化したことが明らかになっています。将来の仕事や収入について考えるようになった、副業を検討しはじめた……そんな方が増えているようです。
一方で、
「興味はあるけど、仕事になるんだろうか…」「自分ができるんだろうか」
「家族のことを考えると…」「何かスキルを身に着けないと」
今の状態にもやもやを感じても、いざ、アクションを取ろうとするとやはり壁は存在するのではないでしょうか。
本記事では、「誰からいわれるでもなく、やりたいことにその人らしく頑張る人に向き合いたい」という想いで、15年以上前から社会起業家支援に携わり育成型起業コンテストを通じて2000人を超える仕事の創出と選択の現場をつくる仕事に携わり、プライベートでは二児の父として子育て・PTA活動にも積極的に関わる、佐々木健介さんから、自分のやりたいことを仕事としてライフスタイルの中に取り入れていく際の行動術を伺います。
佐々木健介(ささき・けんすけ)NPO法人ETIC. クリエイティブシティ事業部 マネージャー
2002年より社会的課題を解決しイノベーションを起こす「社会起業家」の輩出に取り組み、これまでに300社以上のソーシャルベンチャー支援・インパクト創出に携わる。
「NEC社会起業塾(現 社会起業塾イニシアティブ)」、経済産業省「新事業創出のための目利き・支援人材育成等事業」支援者、日本財団/西武信金による「西武ソーシャルビジネス成長応援融資」の企画運営協力等担当。
現在は、「都市生活に起業家的ライフスタイルをインストールする」をミッションに、やりたいことをプロジェクトにするオンラインコーチングプログラムPLAY!の立ち上げ運営や東京都主催で毎年1000人を超えるエントリー者が集まるスタートアップコンテストTOKYO STARTUP GATEWAYの企画運営に取り組む。渋谷区在住、9歳と3歳の娘の父で、子育て・地域づくりにも積極的に取り組んでいる。
やりたいことを事業にしようと考えた時に、立ち止まってしまう人をなくしたい
佐々木:自分のやりたいことがあって、仕事にしたいと一歩踏み出す――肌感覚としては『そういうのいいな』という感覚を持っている人は増えていると思います。でもそれが、必ずしも応援される文化や環境があるかというと、日本はまだまだ、という感じがしています。それをなんとかしたいと思って。
――自分のやりたいことを仕事にするために、具体的に何をどう行動したらいいとお考えですか。
佐々木:元も子もないですが一言でいうと、自分のやりたいことに対して、正面から向き合うことです。「自分が心動くことは何か?」、そこに意識を向けること。いつかやれるように力を付けようとか、お金を貯めようではなく、今これからやろうとするということ。そんな甘くないよとか、そんな力がないとかって思いがちなんですけど、これまで接してきた多くの起業家のみなさんを振返ると、長くやってきた人ほど、自分らしいやり方をしているんです。じゃあ自分らしいやり方は何かとか、具体的にどう動いていくのか。まとめると3つのポイントがあります。
自分のやりたいことを仕事にするための、おすすめの動き方
1.やりたいことを具体的に言葉にしてみる
2.実際に試してみる
3.自分の心の動きに意識を向け、問いを立てる
まずは、自分のやりたいことを明らかにする
まずは、言語化してみることからだと思います。
例えば環境教育をやりたい人がいます。といっても、案外その理解は自分でもあいまいだったりして、子供向けか大人向けか、自然環境のことなのか身の回りのことなのか。聞くだけで、「えっと……私にとっての環境教育とは***で、……」と語り始めて、言ってみてから、「自分はこうだったんだと自覚できました」という場面にすごくよく出会います。
自分のやりたいことを明らかにする。シンプルなようでいて難しいです。大したスキルがあるわけじゃないけど……と多くの人は自信がないところからスタートするし。でも、掛け値なく、やりたいことそのものとか、なんでやりたいのかというのを直球で対話していくと、明確になっていくんですよね。掛け値なく……つまり誇張なくありのままに、ということがみそで、その後どんな事業になるのか?キャリア開発の視点で何屋になるか……など考えすぎると点だと複雑になりすぎますね。
例えば、自分のカフェをやりたい人がいたとします。
一生懸命、開業資金を貯めるために別の仕事をして、人通りがいいところに、内装にも凝って念願の店舗ができた。でも蓋を開けてみたら、毎日コーヒーをただただ運ぶ日々で、「なんでカフェをやってるんだろう?」と自問自答していたとしたら、それはその人がやりたいことを仕事にできたとは言えません。そういうこと、意外と多いんです。
「そこで私がどういう毎日を過ごせたらうれしいのか」、というイメージがないままに進んでも、「あれ?なにか違う……」となってしまうんじゃないかと思います。「どうしたらやりたいことができるか」という問いが、途中から、「カフェを立ち上げるにはどうすればいいか?」という問いに変わって、事業化のプロセスにふりまわされてしまう。
でも、「カフェを立ち上げるにはどうすればいいか?」より、「なぜカフェを立ち上げたいか?」、「そこでどんなことが起こってほしいか?」という問いに目を向ければ、店舗をつくるだけじゃなくて、移動販売とか、カフェコンサルとか、カフェをイベント的にやる企画会社にもなれるかもしれない。どういうあり方が自分に合うか、選んでいくことができるはずなんです。
実際に試してみて、自分の気持ちに意識を向け、また問いを立てる
頭で考えるだけだと、前には進めません。自分でできる範囲のことを具体的に試してみて、「これこそやりたい」「この人の笑顔がみたかった」とか、「なんか思ってたんと違う」とか、自分の気持ちがどう動いたかに意識を向ける。そうすると、次に探求したいことの問いが自然に立つ。それに向き合っていくことが必要です。
そうすれば、勝手になるようになっていく。なぜかというと、自分に素直に、らしく動けるとパワーがみなぎって長続きするからです。長くやっていくことができれば、実績がつき、信用がつき、やればやるほど大きくなる、雪だるま式に。
逆に、そうでないとエネルギーをすり減らしながら、疲弊していって、ばたっと倒れてしまうことになる。
自分のこころの動きに意識を払って行動すれば、現実化する雪だるまメカニズムが動き始める
全体として、やりたいことの手段としての「武器」を装備していくのではなく、何をやりたいのかを明確にするを意識して動いていくことです。そのなかで、自分のモチベーションやエネルギー値があがって、自然と、周りを巻き込む力が出てきたり、引き合いがあったり、実績が実績を呼んで、「雪だるまメカニズム」が働く。
例えば、NPO法人となりのかいごの川内さんは、ひたむきに介護現場とそれに向き合う家族に向き合って来られた方です。
はじめ有料老人ホームの紹介をされていてそれなりに軌道にのりつつあったんですが、介護現場の悲喜こもごもとすこし距離のある仕事に違和感持ち、それを引き継いで辞め、直接本人や家族に関わる現場介護職に転職しました。そこで経験したことは目を見張るリアルな出来事やふれあいの繰り返し。そこで、そんな現実や介護に向き合う上で気を付けた方がよいということをブログで発信し始めると、ある時引き合いがきた。引き合いに答えるかたちでセミナーを始めたら、介護離職予防の課題を抱える企業の声掛けで引っ張りだこに。今は、その向き合ってきた現実を白書という形で可視化して、広がりもみせている。
いわゆる事業計画的じゃないし、一見遠回りで時間はかかったけど、でも、着実に拡がっている。
――それは、誰にでもできるものでしょうか?
誰からいわれているわけでもないけど、そこに対してそれなりにリスクをとってがんばる、という姿勢を自分が持てるかどうか、だと思います。要は、やりたいかどうか。
簡単なことではありませんが、特別な人が多少のクレイジーさとか抜群の商才をもってやるということでなく、今は、本当にふつうの人から、多様なチャレンジが生まれてきているという感覚を私としてはもっています。
例えば5年前なら、創業支援というと、1万分の1、10万分の1の特別な事例をつくっていくというイメージだったんですが、今は全く違う感覚です。毎年1000人の人と、それぞれが持つ事業ややりたいことのプランにも接していますが、挑戦の質も量も、すごく多様化している。
あまりおすすめではない、定番の動き方
逆に、よく耳にするものの、もう少しいい動き方あるかもと思ってしまう動き方として、
・足りないスキルを身に着けるために資格の勉強をはじめる
・MBAをとるためにスクールに行く
・資金調達のためにビジネスプランを考える
ということがあります。
その行動が手段として必要になってくる場合ももちろんあるとは思います。一概に悪いとか否定したいわけではありません。ただ、気を付けるべきは手段が目的になってしまって、やりたいことに対して遠回りになってしまわないか、ということです。
気持ちはわかるんですけどね。実際に何となくこういうことやりたいなと思っているタイミングで、どうしたらいいか戸惑う中で、まずアクションとしてそうしたくなる。
国際比較の研究データ(GEM(Global Entrepreneurship Monitor))でも、日本では、事業を開始するのに自分が必要な能力を持っていると感じる人の割合が低いんです。そして、やりたいことを事業にしたいと思う人の、実に4割の人が専門知識がないことが課題だと思っている。なんとなく自信がない、謙虚な国民性なのかもしれませんが。
(*注:Global Entrepreneurship Monitor(GEM) 1999年から開始された、米バブソン大学と英ロンドン大学の共同研究による世界の起業家精神についての研究。事業の立ち上げ期から起業を経て3.5年以内の人を起業活動者と定義し、起業活動者が18~64歳の人口に占める割合をTEA指数定義し、起業活動の活発さを表す総合起業活動(Total Early-stage Entrepreneurial Activity, TEA)指数による国際比較を行っている。)
地域の創業支援の窓口にいったら、「もっと計画をまとめてきてください」と言われるし、金融機関に相談にいっても、「お金を借りるための計画は?」と言わるので、その方法論をまずは身に着けてからと思ってしまうと思います。
確かに数年前だったらそういう動き方が定番だったと思いますが、選択肢が広がってきている今は違うアプローチもあると思います。
――今、選択肢は広がっているんですか?
これまでのビジネスは、属人性をいかになくしいかに規模を拡大してコストを抑え競争力を維持するか、ということだったと思います。そのための事業計画であり、融資であり、仕組化していくことそのものが事業化だという型があった。
でも、資金調達のやり方が変わってきて、変化が起きた。一足飛びに博打を打たなくとも、自分のペースで、少しずつ試して形にしていく。ボランティアや副業など儲からないところから着手し始めて一定の形にしていくことも含めて、3〜4年前だったら、概念でしかなかったことが、具体的にできるようになってきたと思います。
ニューノーマルな「事業化」像
今は逆に属人的な要素、例えば朴訥なキャラ、人の好さとか、その人にしかできないあり方を出せれば人が集って、例えばそれだけで収入も得られるファンコミュニティが形成される環境が整ってきています。分かりやすいものでいくとYoutubeとか。そういうコミュニティの中で、「新しいこういうものあったらほしいですか?」と作る前に募って、作ったら全部買い手のところに行って、売上100万とか。そういう仕掛け方ができるようになってきているんです。
ネット上のビジネスでなくても、例えば酒うららの道前さん。
この方は、日本酒とその作り手をこよなく愛する人で、愛する日本酒をおすすめする「出張日本酒バー」を岡山県でやっています。人口減少・高齢化に悩むいわゆる過疎の村に住んで、自分で運転する車に日本酒を載せて、出張バーを開店するという形式で事業をはじめられたんです。
地域の方からすると、ごくたまにだけれど家の近くに来てくれるから楽しくて行くし、道前さんの紹介でいろんなお酒を呑んでみる。財布のひもが固いと思われがちな高齢の方でも、道前さんにいろんな日本酒のことをおしえてもらって楽しくいろいろ呑んで帰る。場所を構える固定費はないし、お客さんも毎週来る固定客がいなくても、月に1回開くたびに来てくれる人がいる会を、場所を変えて何種類も開催することで持続的にビジネスになる。
これまでの一般的な事業化のやり方だと、日本酒バーをリアルに開店しよう!というのが目標になって、人口がいるところじゃないとできないし、そうすると、家賃が高くて、だから、借入計画をして、それが属人的にならないように何人かでやらないと……となっていたところかもしれない。
でも実際、無理せず自然体で、世間的には過疎の村だけど自分が好きな所で、収入が得られてもいる。
なにせ、すごいのは、こういうと語弊があるかもしれませんが、特殊な技術や取引先があるわけではなく、他の場所でもできることです。大事ことがあるとしたら、やる人の想いとキャラクター。
もう出会ったのは何年か前ですが、ある意味凄く革新的というか、時代の変化を感じて衝撃を受けたことが記憶に残っています。
佐々木さんの向き合い方
――ありがとうございました。最後に、改めて佐々木さんのやりたいこととその向き合い方について教えてください。
私は、自分のやりたいことがあって、仕事にしたいけど一歩踏み出しあぐねている人を応援したいと思っています。
前に触れた国際調査でも、日本では、「自分に事業を開始する機会が訪れると思う人」が欧米と比べ極めて少ないことがわかっています。
学校教育、会社、社会保障制度とか……社会として、会社員でいた方がよりサポートされる、という感覚は多くの人が持っているでしょう。
今でも、「起業」というと、「すごく儲かるキレキレのビジネスモデルを考えてユニコーンを目指す、一部の特別な人のもの」という感じもしているんじゃないかと思いますが、今日お話しした通り、そうじゃない仕掛け方が新しい当たり前になってきているんだと感じています。
注.ユニコーン:創業から間もなく、高い成長が見込まれるベンチャー企業のこと。(専門的には「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」「テクノロジー企業」といった4つの条件を兼ね備えた企業を指す。)
そういうときの補助線として使ってもえらえたら、と思って今Play!というオンラインプログラムを立ち上げています。東京都さんと一緒につくっている、Tokyo Startup Gatewayプログラムも、毎年1000人を超える、悩みつつも本気でやりたいことがある人達に出会える機会でもあります。JR東日本さんと連携した夜市では、自分の商品やサービスを実際に世の中に出してみる人達に出会える機会を作って、ファンコミュニティづくりをサポートしています。
すごく大儲かりせずとも経済的にも自立しつつ、何より日々の仕事に生きがいを感じ、胸を張っていきている人が増えていったら、それだけで日本の未来はすごく明るいと思いますし、こどもたちにとっても、なりたい仕事を職種で選ぶ時代から、親や地域の多様な大人に触発されて、自ら創り出していく世の中になったら、今あるさまざまな問題は結果的に解消していくのではと、このビジョンに自分もワクワクして日々仕事をさせていただいています。
――ありがとうございました。
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