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#経営・組織論

ソーシャルビジネス発展に必要なものとは?法人格比較から見る「NPOの資金調達」の新たな形

2014.07.02 

"ソーシャルビジネス" ? 日本でもだいぶ馴染みのある言葉となったが、実際のところどれほどのインパクトを世の中に生み出しているのだろうか。 資金調達と法人格 日本でソーシャルビジネスと言えばNPOの形態をとることが多い。だが、内閣府の調査によると、平成25年度時点で総収入金額が1億円を超えるNPOは全体のわずか5.8%に過ぎない*1。日本において、規模の大きなソーシャルビジネスはまだまだ少ないのが現状だ。 【特定非営利活動事業の総収入金額】

特定非営利活動事業の総収入金額 内閣府「NPOを知ろう(統計情報)」より

では、なぜ日本においてソーシャルビジネスの拡大は進んでいないのだろうか。その大きな理由の一つとして、NPOの資金調達が抱える構造的な問題が挙げられる。特に、資金調達という観点から考えると、創業から間もないNPOが急速に成長していくことは、現状ほぼ不可能であるといっても過言ではない。

 

わたしたちの社会をより良いものにしていくためには、今後ソーシャルビジネスの発展を欠かすことはできない。そこで今回は、NPOと株式会社、それぞれの資金調達の方法を改めて確認したうえで、ソーシャルビジネス発展の希望の光となりうる、イギリスのCIC(Community Interest Company)という法人形態を紹介する。

 

その上でCICの抱える課題を考え、さらにもう一歩踏み込み、「社会的リターンを期待した投資」という、NPOが今後目指していくべき新たな資金調達の形について考えてみたいと思う。 *1:内閣府「NPO基本情報」

NPOの資金調達では、創業期の急速な成長は難しい

まずは、NPOの資金調達について整理してみよう。NPOの資金調達は主に以下の3つに分類される。

 

1.事業収入 提供するサービスへの対価。一般的なビジネスと同様にサービスの受益者から対価をもらう形。 例:認定NPO法人フローレンス*2、NPO法人クロスフィールズ*3

2.寄付 サービスの受益者に対価を支払う能力が備わっていない場合、そのサービスの社会的意義に共感した第三者からの寄付金により、サービス提供に必要な資金をまかなう。 例:認定NPO法人かものはしプロジェクト*4

3.補助金・助成金 公共的なサービスを提供するソーシャルビジネスは、行政からの補助金や助成金が資金の一部となる場合が多い。

 

NPOの資金調達は主に以上の3つに分類される。しかし、これらの方法でしか資金を調達することができないことが、創業期のNPOのスピーディな発展にブレーキをかけているのだ。

 

まず事業収入に関してだが、ソーシャルビジネスの性質上、営利企業と比較してサービスの受益者から対価を得ることは難しく、サービス開始からすぐに充分な事業収入を得られることはまずない。

 

また、寄付金においては、「組織への信頼」が重要な要素となるため、創業間もないNPOがいきなり大口の寄付を獲得することは難しい。 さらに、補助金・助成金に関しては、助成が単年度ごとであったり、事業全体ではなく一つのプロジェクトへの補助であったりするため、組織全体が複数年度にわたってその資金を基に成長していく、という仕組みにはなっていない。

 

このように、創業から間もないNPOにとって、現状の資金調達方法では事業の急速な発展は不可能であることが分かる。このことが、冒頭で述べた「1億円規模のNPOが日本にはほとんどない」というソーシャルビジネス発展の鈍化現象を招いているというわけだ。

*2:認定NPO法人フローレンス:「子育てと仕事の両立」を目指し、病児保育サービスを中心にさまざまな事業を展開している。 *3:NPO法人クロスフィールズ:「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ること」をミッションとし、ビジネスパーソンが途上国NPOで一定期間就業する「留職」プログラムを提供している。 *4:認定NPO法人かものはしプロジェクト:児童買春問題の解決を目指し、主にカンボジアやインドにおいて活動を展開している。

「ベンチャーキャピタル」が可能にする株式会社のスタートダッシュ

では、株式会社の場合はどうだろうか。

 

NPOと大きく異なるのは、創業間もない株式会社を狙って投資をする組織が存在することだ。いわゆる「ベンチャーキャピタル」と呼ばれる組織である。

 

ベンチャーキャピタルは「非上場企業」に対して投資を行う。ベンチャーキャピタルの最終的な目標は、「投資先の企業を上場させること」。投資した企業が上場することで、株価はその企業の価値に応じて上昇し、そのタイミングで株式を売り払うことにより莫大な利益を得ることができる。それがベンチャーキャピタルのビジネスモデルだ。

 

株式会社はこのベンチャーキャピタルという存在により、創業直後であっても圧倒的なスタートダッシュを切ることが可能なのだ。どの資金調達の手段であっても急速な発展が難しいNPOとは大きな違いがあることが分かるだろう。

NPOと株式会社のハイブリッド法人格 "CIC"(Community Interest Company)

gov.uk

CICを管轄するCIC RegulatorのWEBサイト

NPOと株式会社との資金調達の方法の違いをここまで振り返ってきた。現状のままでは、ソーシャルビジネスの急速な発展は望むべくもない。

 

そこで次に紹介したいのが、イギリスのCICと呼ばれる法人形態だ。CICはCommunity Interest Companyの略であり、意訳すると「社会(地域)の利益のための会社」とでもなるであろうか。CICの注目すべき点は、日本で言うところのNPOと株式会社の中間的な法人格であり、両者のハイブリッドともいえる特徴を持つことである。

 

CICの特徴は以下の通り。*5

定義 A CIC is a special type of limited company which exists to benefit the community rather than private shareholders. (CICは特殊な企業であり、その存立基盤は出資者ではなく、コミュニティの便益にある。)

NPO的側面 組織の目的は金銭的利益の追求ではなく、社会にとっての利益 CICs are intended to use their assets, income and profits for the benefit of the community (CICは資産、収益、利益をコミュニティの便益のために使うこと)

株式会社的側面 株式を発行し資金を調達することが可能

CIC独自の側面 株式の配当は低額に限定される(Asset Lockと呼ばれる) They are subject to an ‘asset lock’ which ensures that assets are retained within the company to support its activities or otherwise used to benefit the community. (CICは”asset lock”に準じなければならない。資産は、事業の維持の範囲までとし、またはコミュニティの便益のために使用されなければならない。) 特筆すべき点は、「社会にとっての利益を組織の目的に掲げながらも、株式による資金調達が可能」という点である。 NPOの成長のボトルネックが「資金面」にあると述べてきた以上、CICは理想の形態のように思われるかもしれない。しかし、そこにはもう一つ大きな壁が存在する。 *5:イギリス政府のWEBサイトをもとに作成

CICが抱える課題と「社会的リターンを期待した投資」の必要性

CICが抱える課題、それは「投資側のインセンティブがない」ということだ。

 

CICはAsset Lockという制約により、株主へのリターンが限定されている。つまり、株式会社への投資のような「金銭的リターン」というインセンティブが存在しないのだ。よって株価は上昇しづらく、結果として株式会社にとっての「ベンチャーキャピタル」のような組織が生まれることはない。 では果たしてどうすればよいのだろうか。そこで今後必要になってくるのが「社会的なリターンを期待した投資」という新たな形である。

 

「金銭的なリターン」というのは、投資した個人の利益でしかない。しかしもっと広い視野を持ち、社会全体の利益を期待する投資、「社会的リターンを期待した投資」が増えていく必要があるのだ。

 

「事業を通して社会にある課題を解決したい」そんな熱意を持った人や組織に対して、その事業の先にある明るい未来に期待して人々が投資をする。ソーシャルビジネスのこれからの発展のためには、こうした全く新しい資金の流れを作り出していく必要があるのではないだろうか。 それは難しいことかもしれない。しかし、その実現のためにはわたしたち一人ひとりが根本的に考え方を変えていかなくてはならないのだ。

日本での最新の取り組み「ソーシャルビジネス法人」

最後に、日本での最新の取り組みを簡単に紹介しよう。 「法人格」という観点から言うと、自民党の成長戦略において「ソーシャルビジネス法人」という新たな法人格が検討されている。これについてはフローレンス代表理事である駒崎弘樹氏が分かりやすくまとめてくれているので参照してほしい。

・新法人格「ソーシャルビジネス法人(仮称)」が自民党の成長戦略に掲げられたことに関して、ソーシャルビジネス当事者より

また、「社会的リターンを期待した投資」という動きも始まっている。 ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)のWEBサイト

ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)のWEBサイト

2013年、ベンチャー・フィランソロピー・ファンド*6であるソーシャル・インベストメント・パートナーズ(Social Investment Partners, SIP)が第一号案件として「NPO法人放課後NPOアフタースクール」への投資を開始した。こちらの動きも今後注目していくといいだろう。 *6:ベンチャー・フィランソロピー(VP)とは、支援先の社会的事業の基盤強化・事業拡大を目指し、資金・時間・スキルを投資する仕組み。

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梅村 尚吾

梅村 尚吾

1992年生まれ、東京大学文学部英語英米文学科3年。学生インターン。大学受験中にマザーハウスのドキュメンタリー番組で「ソーシャルベンチャー」という概念に出会い、その道を志すように。大学1,2年次はアフリカ渡航などを経験。3年次を休学し、認定NPO法人フローレンスで1年間のインターン。ソーシャルセクターにおけるIT技術活用のインパクトの大きさに可能性を感じ、現在キャリアを模索中。生涯スポーツである水泳のため、スポーツジムに通うのが日課。

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