ソーシャルセクターで働く人にはなじみのある「コーディネーター」と呼ばれる仕事。「調整役」といった意味で幅広い業界で使われている言葉ですが、NPOで働くコーディネーターはどんな役割を果たしているのでしょうか?
このDRIVEメディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)におけるコーディネーターという仕事について、事業統括ディレクターの山内幸治、事務局長の鈴木敦子に聞きました。
聞き手:DRIVEメディア 編集長 佐藤茜
山内 幸治(NPO法人ETIC. 理事/事業統括ディレクター) 写真・右
1976年生まれ。早稲田大学在学中にETIC.の事業化に参画。1997年に起業家型人材の育成とベンチャー企業支援を目的とした長期実践型インターンシッププログラムを開始。企業、大学、省庁などさまざまな組織と連携し、若者がチャレンジしていく環境づくりに取り組んでいる。
鈴木 敦子(NPO法人ETIC. 理事/ 事務局長/ディレクター)写真・左
1971年生まれ。早稲田大学第2文学部卒業。ETIC.は創業期よりともに立ち上げる。年間約2000名の起業家や学生の起業相談、キャリア相談を受け、約100社のベンチャー企業と学生のインターンシップのコーディネートなどの実績がある。現在は、マネジメントサイクル全般、主に人事、組織作りなど担当。
価値がないものや異質なものを繋げて新しい価値を生んでいく、変革の触媒
――ETIC.におけるコーディネーターの仕事はどのように始まったのでしょうか?
山内:ETIC.代表の宮城が学生時代に始めた、起業したい学生たちと経営者たちを招いた勉強会やイベントがきっかけでした。学生が、その場で出会った社長のカバン持ちをしたいといった形で、「勝手インターン」が発生することがあったんです。それでETIC.を事業化する時に、インターンシップ紹介を始めました。
僕たちはコーディネーターとして、経営者たちの話を聞き本も読んだりしながら、様々な業界への理解を深めつつ、学生たちが活躍できる領域を見つけて紹介する、そんなことをしていたんだよね。
鈴木:26年前だから、「インターンシップをコーディネートする」なんて概念がなくて。市場感ゼロ。正直、商売にならないと思ってた(笑)。
でも、インターネットという、当時の世の中からしたら訳の分からない、新しい業界がガガーっと生まれて。そしたら急に「新しいことはよく分からないから、若い人、学生に手伝ってほしい」って経営者が出てきたんだよね。そういう若い人に対しての期待感が急に生まれたことで、インターンシップの事業を市場化する波に乗っかれた感じです。
山内:経験より、若者たちの意欲や好奇心、情熱のほうが重要だって感じてくれる経営者が増え始めた、というのがタイミングとして大きかったね。
学生と一緒に成長しよう、未知のことに挑戦しようという気持ちを持った、すごくいい経営者と出会える機会にもなった。
鈴木:当時、「当事者意識」という言葉をよく使っていて。その経営者の気持ちになる、その経営者の景色を自分たちが見る、という。
山内:自分たち自身が、その経営者のやろうとしていることを面白がって、共感して、ここにだったら学生の活躍の場があるなと見出すことが大事だと思っていました。自分が面白がっていないことは、人に勧められないから。
鈴木:そうだよね、絶対に。
新しい事業を立ち上げていく人たちの企みを一緒に考えていくっていくのが、毎日毎日楽しくて。
山内:面白かったね。
起業家が何をしたいのかというのを、自分が起業家になったつもりで想像するというETIC.のいまの基本は、この時のインターンシップのコーディネートから始まってる気がします。
鈴木:初期の頃の重要なキーワードとしてもうひとつ、「チェンジエージェント」という言葉がありました。佐藤真久さん(ETIC.理事・東京都市大学大学院教授)から教えていただいた言葉で、まだ価値がないものや異質なものを繋げて新しい価値を生んでいく、そういった変革の触媒としての役割、という意味。
当時は、コーディネーターというよりも、チェンジエージェントとしての意識を持つようにしていました。
「場をつくる」、そして「個をつなぐ」コーディネーターへ
――ETIC.は、NPOや行政のコーディネーターとして機能する、いわゆる「中間支援組織」に分類されることも多いですが、当時からその言葉は使っていましたか?
山内:確かに中間支援的なポジションではあると思っていましたが、プレイヤーとしての意識を持ってやりたかったので、その言葉はあまり使っていませんでした。
鈴木:起業家精神を育んでいくという意志を持った、いちプレイヤーという気持ちで。
山内:大切にしているのは、情報や人のハブになること。中間支援組織は、本来的にはハブだと思うんです。
社会には、この人を仲介すればその分野のキーマンと出会えるという、ハブになる人たちがいて、その少数のハブを通して情報や機会は流通し合っています。世の中にリソースは既にあるので、それが相互に相乗効果が生まれるような形で出会える、そんなハブとしての役割を担えればと思っていました。またそうやって関わりを持ってきた一人ひとりが、それぞれの立場でハブ的役割を担ってくれるようになると、色々な想いが実現されやすくなる社会に近づくのではないかなと。
チェンジエージェントという言葉からは、そんなことを想像するきっかけをもらいました。
――当時と比べて、ETIC.の変わっていないところ、変わったところはどこでしょうか?
山内:「◯◯をやりたい」という人たちの意志を具現化していくところは変わっていません。学生、起業家、地域で活動する人、自治体、企業…対象は広がっていますが、そういった「始める人たち」のファーストフォロワー的な立ち位置で、それを応援し「初めのひと転がり」を伴走することは、いまも昔も変わらず続けているね。
ただ、人の一対一のコーディネートから、場をつくってそこでコーディネートをするということが増えてきた。
鈴木:プログラムをつくったり、コンソーシアムをつくったり、コンセプトをつくってそこに参画するコーディネーターを増やすといういうものだったり。
山内:ETIC.の機能は、つくった場に入ってきてもらって、場の中の熱量を高め続けるようなコーディネートをやり続けていくという側面が1つ。もう1つが、特定の意志が前進していくための、個対個のマッチングをしていくというものです。「場をつくる」、そして「個をつなぐ」。この2つです。
ETIC.の目指す「コーディネーター的機能」を様々なセクターに広げる未来
――ETIC.がこれから実現したいことについて聞かせてください。
山内:コーディネーター的機能を、様々なセクターに広げていきたいと思っています。世の中には、劇的なテクノロジーのイノベーションが必要な領域ももちろんありますが、ETIC.の活動を通じて、人の意志のスイッチの入り方や、人と人との新しい繋がりが生まれることが加速すれば前進することもかなり多いと分かりました。
2011年の震災後、個人を取り巻く社会環境やメインストリームをもっと巻き込んでいかないといけないなと痛感したんです。行政や自治体、大企業の中にも、今までのやり方ではダメだと思っている方がたくさんいることも分かってきて。結局、そういった組織にいる個人の方がハブになり、意志のある個人と結びつくことで、様々な変化が起こっている。これからも社会のインフラを巻き込みながら、これをどうスケールさせていくかに注力していきたいです。
鈴木:ETIC.という場が、ある種の信用をつくりだしていることを嬉しく思っています。ETIC.のコミュニティで出会ったなら信頼できる人だということで、人が繋がって変化が起こるスピードが速くなっているなと。そういった形で、これからも信頼をつくり、信頼を積み上げていきたいです。
このインタビューはETIC.の年次報告書(アニュアル・レポート)のために行われたインタビューです。最新の年次報告書はこちらからご覧ください。
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