前編に続き、今回も認定NPO法人育て上げネット(以下育て上げネット)とデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下デロイト)の「ソーシャル・イノベーション・パイオニア(以下パイオニア)」プログラムでの協働についてお伝えします。
後編では、主にデロイトチーム(デロイト執行役員/パートナー・ストラテジー リーダー 藤井剛さん、マネジャー檀野正博さんに、今回のプロジェクトへの参画動機や、得られた学びについて語っていただきます。後半には、育て上げネット理事長の工藤啓さんも交え、第2回プログラムへのメッセージをいただきます。
>>前編「NPOが企業経営の視点を強くもつことが、成長の壁を越えていく突破口になる」はこちら
For NPOからWith NPOへ
--- このプロジェクトをリードすることになった経緯を教えてください。
デロイト藤井さん(以下:藤井): まず、私個人の動機としては、5年ほど前までSVP(ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京)という団体で、社会課題の解決に取り組む起業家の創業フェーズを支援させていただいていました。そこで目の当たりにしたのは、起業家が掲げる社会的な大義や本人が持つ熱量がエネルギーの源泉となって、多くの賛同者が集まり、「コト」が動いていく様子です。大企業向けの経営コンサルタントのみをやっていると、そういう熱に触れる機会や、実体験を持っている人って、あまり多くない。この「コト」をもっと多くのコンサルタントに感じてほしいし、もっと広く伝えていく方法がないかというのは、常に考えているところでした。
育て上げネットさんが取り組んでいる若者就労の問題は、今後ますますこの国の重要な社会アジェンダになっていくと考えています。生産年齢人口がどんどん減ってきて、今我々のクライアントである企業はみんな人手が足りなくて困っています。このような時代において、ロボットやAIで生産効率を上げましょうというアプローチだけではなく、本当の意味で働き続けられる人を増やしていくことには、行政面での財政上のインパクトも含めて、非常に大きな意義があります。その一方で、特に企業側には、その「コト」の価値や、若者支援団体への適切なかかわり方がまだ十分に認知されていません。ビジネスセクターとソーシャルセクターの連携がうまくいっているとは言い難い状況です。
デロイトの社内では、パイオニアプログラムの位置づけを「For NPOからWith NPOへ」と言っています。課題解決を加速させていくためには、今回のコンサルティングを通して、育て上げネットさんに、業界をリードするより強いNPOになっていただくことが期待されます。同時に、我々自身も若者支援領域の変革のパートナーとして進化し、育て上げネットさんに認められなければならない。そして、この重要なアジェンダに、日本企業をもっと巻き込んでいくことが必要です。
--- プロジェクトを進める中で、通常のビジネスコンサルティングとの違いとして感じておられることはありますか。
デロイト檀野さん(以下、壇野): 普段は、主に大企業のイノベーション戦略というテーマでお仕事をさせていただいています。今回育て上げネットの工藤さん、石山さんとお話ししていて一番感じるのは、当たり前のことながらお二人とも経営者であること。そして、10年以上活動されているとはいえ、スピード感はベンチャー企業のスピードそのものです。先週聞いたことが、今週変わっている(笑)。それは、先週聞いたことが間違っていたのではなく、本当に状況が変化しているのです。私たちは普段よく「スタートアップのDNAを大企業に埋め込むことが必要」と申し上げています。今回はそのようなDNAを、私自身に埋め込んでいただいているように感じています。これは、今後の大企業向けのコンサルティングにも必ず活かされるはずです。
NPOへのコンサルティングは「総合格闘技」
--- 今回のコンサルティングのポイントは、どのような点にあったのでしょうか
檀野: 「可視化」がひとつ大きなポイントでした。(前編で)藤井からも話があったように、多くの事業が複雑に絡み合っているので、事業ごとに話を聞いていくと、全体で見たときに結局何が重要かというのが見えづらくなってしまいます。それを、ひとつのフレームワークの中で各事業の動きや位置づけを整理することによって、「今ここじゃないですよね」とか、「今まさにここですね」とかそういう議論を、同じ土俵に乗せてできるようになりました。このような形で各事業を棚卸しすることが、これまであまりなかったようなんですね。
藤井: NPO側が気になっている課題を聞き、そのまま、「そういうことを課題とされているならこう解決しましょう」っていう、ある種受身の対応ですと、やっぱり大きなインパクトには至らないと思います。プロジェクトの特に前半は、工藤さん、石山さんがもともと持っている大局観や、無意識的に課題と感じておられるようなことを、会話を通して見えるようにしていくことに時間を割きました。NPOの経営者と同じ視座をもって、これから社会的インパクトを本当に大きくしていくためにはどうすればいいかということを、我々自身も当事者として考えていくという感覚です。
--- プロジェクトを通して、デロイトさん側にはどのような学びがありましたか
藤井: デロイトの通常のコンサルティングは、クライアントは大企業であり、デロイトの組織の中で専門分化が進んでいることもあり、例えば1つのプロジェクト単位で見ると、特定の企業に対しての戦略プロジェクトのみなど、範囲が限定的な場合がほとんどです。しかし、今回のプロジェクトは、戦略を触る、財務を触る、営業を触る、ガバナンス、人材育成、システム基盤を触る。一定期間の中で経営に関わる主要な課題すべてにリーチすることによって、経営が色々なバランスで成り立っているものであるということを腹落ちして理解した上で、この組織を一気にスケールさせるためにはどうするかという、本当の経営イシュー、トップイシューに向き合うことが求められます。しかも、NPOは組織としての社会的大義があり、最終的な成功の拠り所を財務的な利益だけでは語ることができないというバランスの本質も理解しなければなりません。
例えるなら、「総合格闘技」的な戦い方をコンサルタント一人ひとりがやらないと、本当に意味のあるアウトプットを出せないと思います。真の経営と向き合い、ひとりのコンサルタントとして価値を出すことが求められる、極めて難易度の高いプロジェクトです。特に若手コンサルタントにとっては意義のある成長機会にもなります。このような実情を、デロイト社内でも正しく伝えていきたいと考えています。
遠慮のリミッターを外すのは、お互いの責任
--- 第2回パイオニアプログラムの公募が5月下旬に開始されます。応募を検討されている方々に向けて、メッセージをお願いします
育て上げネット工藤さん(以下、工藤): コンサルティングを受けるNPO側にとって、覚悟が問われるプログラムだと思います。本当によい機会にしようと腹を決め、社内での優先度を高め、アサインした職員にはリソースを極力配分してもらう。日常業務と並行するのではなく、日常業務を一部止めてでもやる、というのは想像以上に覚悟がいりました。
「コンサルティングを無償で提供する」という場合、ともするとそれを受ける側もブレーキをかけるじゃないですか。どこまで要求していいのかな?無償だからここくらいまでだろうって。でも、その「リミッター」を外すのに時間がかかってしまうと、期待した結果にたどり着けなくなってしまいます。そこでリミッターをかけないで、遠慮せずに聞いたり伝えたりすることは、コンサルティングをやる側と受ける側、双方の責任であると思います。
藤井: そうですね。デロイトは、今回のような社会課題をコンサルティングファームとしてどう解いていくか、ということを、社長以下、会社をあげて真面目に議論しています。重要なのは、「大義」を持っている、ということ。そして、その大義の実現に向けてお互いに高度な要求をし合うことです。大義は持っているが、実現の方法が思いつかないので知恵を貸してほしい、というオーダーは大歓迎です。
工藤: 一期目のプログラム対象団体としての機会をいただいた私たちは、二期目の団体にバトンを繋がなければいけない。そして、二期目の団体は三期目に繋がなければいけない。一期目で終了という結果だけは避けなければならないという責任を果たせて安堵しています。この素晴らしいプログラムがNPOおよびデロイトさん両者の成長機会となり、継続していくことを願っています。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社は、第2回「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラム参加団体を募集開始しました。
募集するテーマは、下記の2つです。 1)Sustainability: サプライチェーン全体を視野に入れた持続可能でエシカルな生産・消費の実現 2) Opportunity: 女性・若者・外国人を含む多様な人々の就業・経済的自立支援
詳細はデロイトの「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラムウェブページに掲載されています。
また、第2回「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラムセミナー 「NPO/NGOの新しい企業連携の形」もこちらよりお申込みいただけます。 https://dtc.smartseminar.jp/public/seminar/view/319
<スケジュール> 5/25(木) : 第2回プログラム公募開始 6/20(火) : プログラム説明会(於 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社) 6/30(金) : 公募締切 |
あわせて読みたいオススメの記事
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論