TOP > 社会・公共 > 抽選で決まる理系女子のための奨学金がスタート。メルカリ共同創業者・山田進太郎さんと富島寛さんが再びタッグを組む理由

#社会・公共

抽選で決まる理系女子のための奨学金がスタート。メルカリ共同創業者・山田進太郎さんと富島寛さんが再びタッグを組む理由

2021.08.04 

トップ画像

 

優秀かつ経済的に困窮している家庭の子どもが受けられるもの、というイメージがある奨学金。しかし、「抽選制」で世帯収入に関係なくエントリーできる新たな奨学金が始まりました。その名も「STEM(理系)女子高校生奨学金」です。

 

STEM(ステム)とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の分野を総合的に学び、将来、科学技術の発展に寄与できる人材を育てることを目的とした教育プランのことを指し、今、世界的に注目されています。

 

この奨学金を発表したのは、メルカリCEOの山田進太郎さん。新たに個人で設立した山田進太郎D&I財団での事業です。今回は、この奨学金事業に立ち上げから参画していて、メルカリ創業メンバーの1人でもある富島寛さんに、財団設立までのこぼれ話や、どんなインパクトを生み出していきたいのか、についてお話を伺いました。

 

奨学金を抽選制にした背景とは?「実力も運のうち」という考え方

 

――はじめに、今回の奨学金の特徴を教えてください。

 

富島 : 今回の奨学金で一番特徴的なのは、「抽選制」をとっているところです。奨学金というと、経済的に困窮している層の子だったり、または超優秀でビジョンがしっかりある子だったりが応募して選ばれるもののというイメージがまだまだあると思います。

 

でも僕らは逆の発想をしていて。もちろん、そういう子たちも応募してもらえればと思いますが、どちらの層でもない子たちにも、気軽にエントリーをしてほしいと思っているんです。「理数系」や「STEM分野」を将来学びたいなーと思ったときに、「抽選」だったらいっちょやってみるか?!みたいな機運を作っていけたらと思っています。

 

あと、抽選にしたのは、ハーバード大学教授のマイケル・サンデルが書いた「実力も運のうち 能力主義は正義か?」という本に、進太郎さんがヒントを得たことも大きいです。この本では、運良く恵まれた環境に生まれたエリートが、その成功を自分の能力と努力によるものだと考え、成功しなかった人を自己責任だと切り捨てることへ警鐘を鳴らしています。そういった状況を改善するため、サンデル教授は大学入試の「くじ引き化」を提案していました。合格した人が、自分の成功が運に左右されるものだと気づいて謙虚になるはずだ、という意図ですね。今回の奨学金をつくる時に参考にした考え方です。

 

もう一つ、オンライン申請にして、できるだけエントリーの負担を下げようとしているところもユニークな所です。大量の書類を書かなくちゃいけない、とか提出書類が多いとかだとそれだけで気持ちが萎えてしまうことってあると思います。なので、必要なところは押さえつつ、簡略化できるところは簡略化して、挑戦する気持ちがあれば気軽に応募してほしいですね。

メルカリを創業した2人。出会いから、財団をつくるまでの流れ

 

――富島さんと進太郎さんとの出会いやこれまでの関係性についてお聞きしたいと思います。

 

ふたり

メルカリ創業時の山田進太郎さん(左)と富島寛さん(右)

 

富島 : もともと、僕も進太郎さんも違う会社をやっていた時に、IT系イベントで会ったのが最初です。そこからは仕事とかはせず、いろんな人を紹介してもらったり、BBQや花火に呼んでもらったり、ITスタートアップの先輩という感じでした。

 

2012年末の忘年会の時だったと思います。当時、進太郎さんは学生時代に起業したウノウという会社を売却して世界1周から帰ってきたところで「次の会社やろうと思ってるんだよね」と話していました。僕も前の会社を離れていたタイミングだったので、「興味あるんですけど…」と伝えて、そこから2013年2月にメルカリを一緒に創業、7月にアプリを公開。あっという間でした。

 

ITスタートアップって、当時はかっこいいサービスを作りがちだったけど、「たくさんの人に使ってほしいから、あえてダサくしよう」、みたいな議論をしていたのを覚えています。これはどのITスタートアップでもそうかもしれないですけど、与えられるインパクトの大きさはいつも気にしていて、メルカリを作り出す上では、どんな人にでも使ってもらえるように、というところはいつも意識していました。

 

あとは、進太郎さんも僕ももともと非営利っぽいことには興味があったかもしれないですね。でも、「営利の方がインパクトが出しやすいから、営利でやろう」という考えが根底にはあって。

それから僕はメルカリを離れたんですけど、また進太郎さんと一緒に何か作りたいという気持ちがありました。今回の財団の話は、こういう形で直接的にやるとは思ってはいなかったので、正直、結構驚きましたね。

 

――一度はメルカリを離れた富島さんが、今回、この財団のプロジェクトに参加しようと思った一番の想いはどんなところにあったんでしょうか?

 

今のふたり

今回の財団設立時の山田進太郎さん(右)と富島寛さん(左)

 

 

ITスタートアップを15年やってきて、ちょっと違うことをやってみたくなっていたんですよね。それでコロナをきっかけに、寄付やエンジェル投資を始めていたんです。でも、お金を通じて社会貢献に参加してみて、自分でお金を出すだけなのはあまり楽しくないなと思っていました。やるんだったら、自分でやったほうがいいって。

 

そんなときに進太郎さんから、今回の財団の話を聞きました。何かピンと来たんですよね。簡単に何かが変わるとは思わないんですけど、昭和を引きずっていた社会が今、転換点というか節目に来ているところがあるなとは感じていました。ひょっとするとこういう事業に取り組むことで、いろんな社会制度でうまくいっていないことが、変わり始めるタイミングが来るんじゃないか、やるなら今なんじゃないかと。

 

進太郎さんの能力のなかでもすごいと思っているのは、その辺の「タイミングを読む力」だと思っています。彼がこのタイミングでやるっていうのは、ただやりたいということだけじゃなくて、実際に変えられるタイミングに来ているのかもなと思えた。スタートアップでもサービスを立ち上げるのが早過ぎたら社会がついてこないし、遅過ぎたらチャンスは逃す、という世界なので、いつもベストなタイミングを見計らっているところがあるんです。

 

今回の財団の話は「ビジネスチャンス」とかではないけれど、完全に見込みがないことに挑むということでもなく、まさに機が熟してきている、そんな風に思いました。

女子の理系進学が親や先生から応援されにくい現状を変えたい

 

――今回、STEM分野に進学する女性がターゲットとのこと。この奨学金があることで、どんな未来を目指していますか?

 

富島 : 今回の奨学金をきっかけにできるだけ多くの女子学生達が、「自分がSTEM分野に進むとしたら…?」というのを考え始めてほしいですね。調べていくと、まだまだ、男の子が理工系に行くのは全力応援なのに、女の子が「行きたい!」というと反対する親や先生が一定数いるということがわかってきたんです。

特に親の場合、娘の幸せを願う親の気持ちとして「女の子が工学系なんて」とか、「結婚できなくなるんじゃないか」といった心配が背景にあるようなんですね。

 

東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の横山広美教授を中心とする研究チームが発表した「女子生徒の進学を阻む要因」のデータを見ても、学問分野によって親の賛成を得にくい分野があることがわかってきました。

 

例えば土木の分野や機械工学等には、男性のものという昔ながらのイメージがおそらくあると思うんですよ。でも、女性の視点が入ることで、ものづくりやインフラ等も進化していく余地がまだまだあるので、「やりたい!」と思う気持ちを持っているならばたとえ周囲の反対があったとしても、その子の背中を押してあげるきっかけにこの奨学金がなれればと思っています。

 

グラフ

「一般的に考えて、女の子が次に挙げる専門分野への大学進学を希望したら、賛成しますか」という質問に対する回答の割合(Credit:Kavli IPMU)

 

あとは、奨学金の募集していくにあたって、たくさんのSTEM分野で活躍する女性研究者や起業家に話を聞いたんですけど、作りたい世界を自分で作っている女性たちってみんなかっこよくて。理系に女子が進学すると、メーカーの研究職か体力勝負のSEか、みたいな職業観がかつてはあったと思うんですけど、今は本当に多様で面白いキャリアの可能性がSTEM分野にはあると思います。

 

奨学生となった子たちはもちろん、抽選に残念ながら外れてしまった子たちにも、こういった先輩女性との交流や刺激を受ける機会を提供したいと思っています。更に夢を具体的なものにして、好きな道を歩んでいってほしいですね。

 

――対象が大学生等ではなく、高校に入る前の中3生をターゲットにしている点は、かなり早いなという印象をうけますが、どうしてこの対象になっているんでしょうか?

 

富島 : 理系に進む女子がマイノリティになってしまっている現状をなるべく早い段階で変えたいと思っています。実際、日本の中3の時点での理数系の成績は男女で差がなく、国際的に見ても遜色はないというデータもあります。

 

一方、例えば高校段階で、理数科や高等専門学校に進学すると、クラスの中では確実に女子はマイノリティです。なので現状だと、「理数科に行く=他の子とは違う選択をする」ということになり、強い意思やビジョンがないと選びづらい選択肢になっているんです。サイエンスに関心があっても、理数の成績があまり良くないと「文系」という選択をしてしまったり、周囲も本人の関心より成績を重視した進路指導をしてしまいがちなところも影響しているのだと思います。

 

――最後に、この奨学金を検討している方にメッセージをお願いします。

 

富島 : 僕らも初めてやることなので、手探りで準備を進めてきたこともありますが、この奨学金の情報が多くの人たちのもとに届いて、自分の将来を考え始めたり、自分がやりたいことに向かって進路を自己決定する社会になっていくきっかけになればと願っています。ご応募、お待ちしていますね!

 

――ありがとうございました!

 

 

【STEM(理系)女子高校生奨学金に応募したい方へ】

募集期間:2021 年8月4日(水) ~10月10日(日)

※〆切日が9月30日(木)から10月10日(日)に延長になりました。

詳細は以下のサイトからご確認ください。

「STEM(理系)女子高校生奨学金」の詳細はこちら!

 

【無料オンラインイベント情報:8/22(日)17時から開催】

スプツニ子!さん、高橋祥子さん、大隅典子さん、山田進太郎さんがSTEM(理系) の面白さを語るオンラインイベントを開催します(保護者も歓迎)。

以下のサイトから詳細をご確認ください。

>> 活躍中の先輩が語るSTEM(理系) の面白さ ~女性中学生向けオンライン配信イベント

 

【最新情報はこちら:山田進太郎D&I財団のTwitterアカウント】

Twitterで山田進太郎D&I財団の最新情報を発信中です。ぜひフォローをお願いします!

>>@shinfoundation

 

ETIC_Letter_DRIVE

 

この記事に付けられたタグ

教育財団
この記事を書いたユーザー
アバター画像

田中 多恵

1983年千葉県出身。大学卒業後、㈱リクルートマネジメントソリューションズで組織/人材開発のコンサルティング営業を経て、2009年よりETIC.横浜ブランチ立ち上げに携わる。主に大学生のキャリア支援や起業相談を担当。プライベートでは、横浜在住で2児の母。