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#スタートアップ

幸福度1位のフィンランド由来の腸内細菌カプセルで、世界中の人々のウェルビーイングを向上させる。研究者兼バイオベンチャー起業家・長﨑恭久さん

2022.09.21 

9月26日は「大腸を考える日」です。「9」が大腸の形に似ていることと、腸内フローラの「フローラ」の語呂合わせが由来だそうです。

 

今回は、フィンランド由来の腸内細菌を活用して世界中の人々の生活を豊かにしたいとサプリメントの開発を行うNERON(ネロン)代表の長﨑 恭久さんにお話を伺いました。

NERON長﨑恭久さんトリミング後

長﨑 恭久(ながさき・やすひさ)

TOKYO STARTUP GATEWAY2021レジリエンス賞/NERON 代表

フィンランド由来の腸内細菌で Wellbeing を実現するNERON代表。腸内細菌と病は気からの研究者。元国立研究開発法人理化学研究所研究員。大阪大学大学院修了。抗ストレス作用、認知機能の改善、鎮痛、食欲制御、粘膜免疫学などが専門。東京都主催TSG2021レジリエンス賞受賞。Tokyo Startup Degawa 2022に出演。

Twitter https://twitter.com/Neron_Ngsk32

幸福度No.1フィンランド由来の腸内細菌で世界中の人のウェルビーイングに貢献したい

 

「NERON」は、腸内細菌を使ったマイクロバイオームの研究と開発をしています。マイクロバイオームとは多様な微生物の集合体のことで、近年の研究では、ヒトの体内にも多様な微生物が生息し、健康や疾患と密接に関係していることがわかってきています。

 

人の腸内細菌には地域性があり、住んでいる国や遺伝的背景ごとに優勢な菌が異なっています。大腸の中にはいろいろな菌がひしめき合っていて、複数の菌同士が関わり合ってバランスをとっているといわれています。大腸の中も多様性が大事です。

 

「僕たちは、世界一幸福度の高いフィンランド※に住む人々の幸福度に寄与する腸内細菌を特定し、カプセル化して販売するための商品開発を行っています。幸福度が5年連続ナンバー1のフィンランド由来の菌を大腸に根付かせることで世界中の人のウェルビーイングに貢献したいと考えています。

 

NERONimage

(画像提供 : 長﨑さん)

 

『NERON』のメンバーは、僕とマーケティングを担当する元同僚の2人がメインで、まもなく登記し、フィンランド大使館商務部を通じて得た情報をもとに、データを分析して年度内には幸福度に寄与する細菌を特定する予定です。その後、ヒトの体内で作用する最適な複数の菌の組み合わせ「菌叢(きんそう)」を開発します。同時に資金調達も行いながら、2025年にサプリメントとしての発売を目指しています。

 

将来的には、医薬品として整腸剤に代わる治療・予防効果のあるものにしたいと思っています。さらに、一部の国や地域で合法となっている大麻産業にとって代わるような、リラックス効果やメンタルレベルの改善を狙っています。

 

映画の世界観で言えば、『マトリックス』に出てくる「赤のカプセル」です。飲むことで世界を救うために戦える、頑張ろうとしている人の背中を押すようなカプセルを作りたいと思っています。

 

『NERON』という社名は、NEURON(神経)から取りました。リーディングカンパニーになるためには親近感が大切です。世界中で知られている言葉であること、また語感がメロンに似ていて親しみを持ってもらえるようにと願い、名付けました」

 

※出典:国連「世界幸福度報告書2022

大手食品会社に研究員として10年勤務し特許取得や機能性表示食品開発に従事

 

長﨑さんは、大阪大学大学院で修士号(工学)を取得し、大手食品会社に就職し、2022年9月まで約10年間研究者として勤務しました。

 

最初は即席めんの製品開発、その後、基礎研究部に配属され、理化学研究所に出向。腸内細菌と粘膜免疫の関係について研究した後に、ストレスをおさえる細菌についての研究に移ります。精神を安定させるホルモン「セロトニン」の分泌を促進するビフィズス菌を発見し特許を取得。その菌を活用した商品開発を行い、臨床試験で成果が確認され、機能性表示食品としてまもなく発売が決まっています。

腸内細菌を使って「病は気から」の「気」にアプローチする

 

長﨑さんは自身を「病は気から」の研究者だと言います。

 

「いやなことからのがれられたらハッピーに過ごせると思うんです。

いやなこと=(痛み、苦痛)に着目して、どう回避するかを考えてきました。ストレスというペインをおさえるビフィズス菌もそうですし、お腹が減って食べてしまうのがいやだから食欲というペインをおさえる乳酸菌もそうです。

 

今回NERONでやりたいことも、恐怖や怖いというペインをなくせないかという考えからきています。それがコロナ禍など現在の状況もあいまって、皆さんのウェルビーイングに貢献したいと思いました」

 

ペイン(痛み、苦痛)に対して、体内の細菌にアプローチすることで、病は気からの「気」を科学の力で制御できるというわけです。

 

気力と体力が必要だと言われる研究者としての業務の傍らで、起業に向けた準備をしてきた長﨑さんの背中を押したものは何だったのでしょうか。

 

長﨑さんが起業を意識したのは19歳の頃でした。35歳で起業したいと思い、社会に対するインパクトが大きそうなバイオテクノロジーの分野に進みます。大学院ではドラッグデリバリーシステムという、体内の炎症がおきている部位に、炎症を鎮める薬を選択的に運ぶシステムを研究しました。

 

就職活動でも、将来の起業のためには規模の大きい仕事をしたい、自分のもつ資格や専門性を活かしたいと思って大手食品会社に入りましたが、30歳を過ぎてもなかなか起業に向けたふんぎりがつきませんでした。そんな中で、ある大きな出来事が長﨑さんの価値観を揺さぶりました。

背中を押したのは同僚の早すぎる死と父の言葉

 

「3年前、会社の同期が亡くなったんです。彼は病気で休職を繰り返していたのですが、彼の死が信じられなくて、でも告別式で遺体を見た時に、本当なんだ、人間ってけっこうすぐ死んじゃうんだと思ってしまい、早くやらないと人生終わるな、時間がないなと認識したんです」

 

その2年後、昨年(2021年)の東京都主催のビジネスプランコンテストTOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)で、長﨑さんはレジリエンス賞を受賞します。

 

そして、35歳になった今年(2022年)、10年務めた企業を退職し、法人登記し起業をする予定です。

 

「そういえば、親父にも『35歳までは、がむしゃらに(経験を)積み上げろ、35歳からは積み上げた貯金で生きていくんだ』と言われていました。35歳くらいまでは挑戦しやすいからチャンスだとよく言います。そしてTSGは僕を後押ししてくれました」

 

長﨑さんは、2021年のTSGを振り返り、会社員をやっているだけでは全然つながらなかった人とつながれたことが大きいと語ります。

 

「カエルの帽子をかぶっている人、マッチングアプリをずっと使っていたお姉さん、たまり場をさがすアプリをつくっている人……”『こいつやべえ』ってなる天才がいる!”と妻に教えたりしていました」

 

新しい価値観を得て刺激を受ける、TSGはそんな機会になりました。

 

tsg2021-pg-wm89

TSG2021で発表する長﨑さん

 

研究者のままバイオベンチャーを起業、経営者に

 

長﨑さんはこれから、研究者を続けながら、経営者としての人生をスタートさせます。

 

長﨑さんは自身の性格を「地道に愚直に徹底的にやり続けてきた、諦めることができない人」だと語ります。

 

「普通の人が1日1つやるところを8倍やる、同時並行でとにかく試行数を多くして多くのデータを出すことを心がけてきました。例えば、ある研究で一つの結論が出ていましたが、終盤になり足りないと思い、通常の研究員が400サンプルPCRをかける所、5400サンプル処理しました。その結果、狙った結論以上の知見が得られ研究者に求められる資質であるセレンディピティを実感しました。中途半端がいやで、手に入るまで探し続けてしまう、宙ぶらりんでは気持ちが悪いのでやめられないんです」

 

長﨑さんのお話を伺っていると、多くの著名人が残してきたこの言葉を思い出します。

 

“あきらめない限り、人生に失敗はない” 

 

研究者と経営者の両輪を回すことは一見難しそうに見えますが、愚直にやり続けることができて、諦められないという性格は、優秀な研究者にも、経営者にも通じるものがあるように思えます。NERONの事業に今後も注目したいですね。

 

***

 

事務局編集後記 : このインタビューの前日に長﨑さんは勤めていた会社を退職され、いよいよ事業化に向けて進まれるところでした。「研究者はデータを出してこそだと思うので、データ数を取るために、同時並行で実験をしています」という言葉から、最大限効率化して同じ時間でよりたくさんのデータをとる工夫をされているんだなと感じました。商品化は少し先になるとのことですが、長﨑さんの開発されたサプリメントを飲んで心も体も健康になりたいと思ったインタビューでした。

 


 

●東京都主催・400文字から世界を変えるスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2022」

https://tokyo-startup.jp/

 

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TOKYO STARTUP GATEWAYウェルビーイング健康起業
この記事を書いたユーザー
木村静

木村静

DRIVEメディア編集長。NPO法人ETIC.事業本部 広報 兼 ローカルイノベーション事業部 シニアコーディネーター。 北海道出身。札幌のまちづくりNPOに勤務し、コミュニティラジオ放送、地域情報の取材・執筆等を経て、2008年に上京しフリーランスに。アナウンス・司会、ライター、カメラマン、映像制作、講師、リサーチ、イベントのディレクション業などを事業領域に活動。 2015年〜NPO法人ETIC.に参画。 趣味は、歴史、映画、美術、ガーデニング、読書。

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