東京から広島県福山市の鞆の浦(とものうら)に移住し、夫婦で古民家カフェ&私設図書館「鞆の浦ありそろう」を経営しながら、地域内外でコミュニティづくりに取り組む長田涼さん。なぜ地方へ移住することにしたのか、夫婦で古民家カフェを始めた経緯、そこから「暮らし観光」の挑戦に至るまでのお話を伺いました。
※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。
長田 涼(ながた りょう)さん ※写真右
合同会社コト暮らし 共同代表 / ローカルベンチャーラボ7期生
京都生まれ兵庫育ち。大手アパレル企業、スポーツイベント会社、IT企業を経て2018年にフリーランスのコミュニティマネージャーとして独立。2023年に夫婦で「コト暮らし」を設立し共同代表に就任。コミュニティの専門家として、数多くのコミュニティを支援している。また、2022年に東京から鞆の浦へ家族で移住し、古民家カフェ「鞆の浦ありそろう」の運営を開始。地域の内と外、観光と暮らしをつなげる活動を行っている。
高いシビックプライドに惹かれて。子育てのため、ご縁のあった鞆の浦に移住
働き始めてから東京でずっと暮らしてきた長田さんが真剣に移住を考えたきっかけは、お子さんが生まれたことでした。これからの子育てを考えたとき、夫婦ともに「東京ではないのかも」という思いがあり、移住の候補地として全国様々な場所を訪れたそうです。
そんな中、広島県尾道市を訪れたついでに観光気分で立ち寄ったのが、お隣の福山市にある鞆の浦でした。宿泊施設「NIPPONIA鞆 港町」の元支配人である鳥井さん夫妻(現在はご自身の地元に移住)やカフェのオーナーなど、鞆の浦に暮らす同世代の移住者の方々や地元の方と交流し、ピンとくるものがあったと言います。
「会う人が口々に『子育てするなら鞆(地元の方は鞆の浦を「鞆」と呼ぶ)じゃろ!』と薦めてくれて、みんなこのまちのことが好きで、誇りを持っているんだと感じました。初めて来たときはそれが衝撃で、『これはもう1回来ないと』という気持ちになったんです」
近所の方との交流も多い鞆の浦の暮らし
翌月に改めて訪問したところ、なんと鳥井さんが物件の内覧の機会まで確保してくれていました。地方に移住する際は住む場所が見つからずに諦めるというケースも多く、鞆の浦でも賃貸ですぐに住める空き家が見つかるのは幸運なことでした。さらに、3日以内に申込書類を提出すれば、鞆の浦で唯一のこども園の翌年4月入園に間に合うというタイミングだったこともあり、鞆の浦とのご縁を感じたそうです。こうして、2022年2月に家族で鞆の浦へと移住しました。
現在長田さん夫妻が経営している古民家カフェ「鞆の浦ありそろう」も、鳥井さん経由でオーナーにつないでもらい出会った物件なのだそう。市議会議員でもあるオーナーが、鞆の浦の文化を残したいと買い取った元遊郭の建物でした。
「『ありそ楼』の名前を引き継ぐというのが、物件を使わせていただくにあたっての条件だったので、僕達はひらがなで『ありそろう』としました。地域の文脈を大切にしていきたいというオーナーさんの想いと僕達のスタンスもマッチしていたので、『とりあえずやってみようか』とスタートしました」
「鞆の浦ありそろう」外観。鞆の浦のなかでも、観光エリアに位置するという
「やれることから始めてみよう!」の姿勢で広がる事業
こうして移住から1年後の2023年2月に「鞆の浦ありそろう」がオープンしました。1階はカウンター席で、2階と3階は海の見える和室です。以前別の方がカフェをされていたこともあり、必要なものは既にひと通り揃っていて、改装も必要なかったと言います。
「夫婦で何かをやりたい、場づくりをしたいという想いが先にありました。妻がパンをつくれて、僕がコーヒーを淹れるのが得意だったので、『カフェが一番やりやすいかもね』と思いついたメニューから始めました。食器やコーヒーの機械を購入したくらいで、初期費用がほとんどかからなかったので、『やれることからまずは始めてみよう!』という姿勢です。ロゴなどを制作する過程で、少しずつ『ありそろう』という場の土台をつくっていきました」
また、住居とは別に空き家を破格の1万円で譲り受けたことから、その空き家に残っていた古道具の販売を始めることにしました。
「空き家に残っていた家財道具の処分や掃除も込みで1万円だったのですが、引き出物の食器など状態のいいものがたくさん残っていたんです。思いとともに古材や古道具を循環させている、長野県諏訪市のリビルディングセンタージャパン(リビセン)をリスペクトしているので、そんな商いができたらと、まずは小さく土間を使って販売を始めてみました」
さらに、鞆の浦には居酒屋が2~3軒しかなく、夜に若い世代が集まれる場所があまりないと感じたことから、月に1回の夜営業もスタートします。
ある日の夜営業の一枚。笑顔とカメラが向けられている先にいるのは、お二人の息子さん
「何事も実験ベースで1つずつ小さく始めています。月に1回くらいならやれるかなと始めてみたら、観光客がメインのゆったりした昼営業とはガラッと変わり、お客さんはほぼ鞆の浦の人で、すごくにぎやかな雰囲気で。僕達にとっても、『こういう雰囲気をつくりたかったんだよな』と発見するような時間になりました」
そして2025年2月からは、1階の土間が私設図書館へとリニューアル。こちらは、ローカルベンチャーラボ(以下LVL)修了生の黒川慎一朗さんの協力で実現したものです。黒川さんは、香川県さぬき市で宿泊もできる「うみの図書館」を運営しています。黒川さんらが実施している、「漂流文庫」という全国各地の飲食店やゲストハウスと連携した仕組みを利用し、「うみの図書館」から100冊の本を寄贈してもらってスタートしました。
「鞆の浦には本屋さんも図書館もないことが気になっていました。まちの暮らしや子育てを豊かにしてくれる文化的拠点が必要だと前々から考えていて、ようやく実現できました。これからはまちのみなさんにも本を寄贈していただきながら、みんなで育んでいきたいと思っています。
図書館を目指して来てくれる方も増えましたし、この1ヵ月ですでに200冊程寄贈していただきました。図書館をきっかけに地域との関わりが広がった手応えがあります」
ローカルベンチャーラボの仲間との提携で実現した私設図書館
コミュニティにとらわれ過ぎない。発想の転換から生まれた銭湯スクール
長田さんがLVLに参加したのは、運営事務局であるNPO法人ETIC.(エティック)のスタッフでもあるご家族を通しての誘いがきっかけだそうです。鞆の浦に移住してチャレンジを繰り返す中で、自分達の経験やリソースをどうまちに生かせるのか、模索しているタイミングでの参加でした。
「私設図書館の開設にもつながりましたし、各地に仲間ができたのは大きかったですね。中でも、花屋雅貴さんのゼミで何度も事業計画をプレゼンしてフィードバックし合う中で、たくさんの発見がありました。
当時は明確に何かを実現したいというよりも、自分に何ができるのか確かめたいという気持ちが強かったのですが、対話を重ねる中で『コミュニティ』に囚われすぎているのではないかと気付いていきました。
仕事でオンライン主体のコミュニティマネージャーをしているので、なんとかそれを活かそうとした結果、視野が狭まっていたんです。気付いてからは、まずやりたいことや好きなことを考えてから、コミュニティマネジメントの経験をどう活かせるかという順序で考えるのがよさそうだと、発想を転換することができました。
そこから生まれたのが、『わたしのまちで銭湯をはじめるスクール』という5ヶ月間の実践的な学びのプログラムです。『銭湯のある暮らしがしたいから、自分達で銭湯をつくろう! せっかくだから自分達だけじゃなく、みんなで始め方を学べる場をつくろう!』と、「銭湯ぐらし」代表の加藤優一さんとのコラボレーションで生まれた企画です。ここでも『鞆の浦にないものは自分達でつくろう』精神が発揮されていますね(笑)」
婚約記念の写真も小杉湯で撮影するほどの銭湯好き (撮影 : 土田凌)
「暮らし観光」の旗印となる、鞆の浦の本をつくりたい
このように様々な事業を展開している長田さんですが、「暮らし観光」をテーマとした鞆の浦の本をつくろうと、現在初めてのクラウドファンディングに挑戦中です。
「暮らし観光」とは、地域の暮らしやコミュニティを豊かにする観光のあり方。鞆の浦は歴史を感じる町並みが残っており、多くの観光客が訪れる地域ですが、それが必ずしもまちの豊かさにつながっていないのではないかと感じたことが、そもそもの発端でした。
「このまちのおもしろさは『暮らし』にあるというのが僕らの体感です。観光地に共通する課題だと思いますが、鞆の浦でも観光業とそれ以外の地元の暮らしが分断されるという事態が起こっています。観光客向けのお店が増えても、価格帯が高くて地元の人は全く行かない。そんな場が増えたところで、暮らしている人達に恩恵はあるんだろうか、逆に鞆の浦のよさが消されてしまうのではないかと危機感をもつようになりました。
この3年で120人くらいの友人達に鞆の浦のまちを案内してきたのですが、店主の個性が見えるお店に連れていったり、地元の友人達とご飯を食べたり、必ず地域の人々と交流する機会を設けています。僕達自身も、『鞆ええやろ』というシビックプライドの高さや暮らしに惹かれて移住しているので、観光ガイドに載っているような表面的なよさではなく、もっとディープな鞆の浦のよさを発信したいと思って始めたのが、今回のプロジェクトです。
『暮らしを観光資源として消費するのではなく、地域の暮らしやコミュニティがもっとよくなるような観光をつくっていきませんか?』と提案する、狼煙のような本にしたいと考えています」
鞆の浦の友人と県外の友人が混ざっての食事会
長田さんが本作りで大切にしているのは、私的な目線です。鞆の浦の友人達を「ともたち(鞆たち)」と呼び、彼らへのインタビュー記事を中心に、長田夫妻によるコラムなど、まちの未来を考える内容となっています。
「鞆の浦は歴史が深いので、みんな過去の話はしてくれるんですが、未来の話はなかなか語ろうとしないんです。LVLで岡山県西粟倉村へフィールドワークに行ったときにも感じたことですが、ローカルのおもしろい人達って未来のことをすごく明るく話すんですよね。本づくりをきっかけに、鞆の浦にもそんな流れをつくっていきたいと思っています」
制作中の『ともたち』
本づくりはあくまで最初の一歩。「暮らし観光」実現の挑戦は続く
本制作の真っ最中ですが、長田さんの構想はまだまだ広がっています。
「『暮らし観光』を実現するには宿が不可欠です。できたらこの1年以内に、神奈川の真鶴出版のように旅人と地域をつなぐ、これまで鞆の浦にはなかったスタイルの宿をつくりたいと思っています。
銭湯の方も始めるには資金が必要ですし、時間もかかると思いますが、『暮らし観光』の一環だととらえています。銭湯って、観光客も地元の人も自然と一緒に入れて交流できる不思議な空間なんです。こちらは5年くらいの時間軸で実現したいと考えています」
また、観光客に消費を促すようなお店ではなく、まち歩きで連れていきたくなるような個性的なお店が増えてほしいという思いから、ローカルでの開業を支援する土壌づくりに取り組みたいという考えもあるそうです。そんな長田さんから、地域に根付いた事業を考えたいという方へのメッセージをいただきました。
「地域づくりの文脈で土の人・風の人という言葉がありますが、僕らは土&風だと思っています。片足は軸としてまちに置きながら、もう片足は外に出そうというスタンスです。いろいろな地域を知って得たものを、しっかりまちに活かすのが僕らの役割です。LVLはこういった意識がある人におすすめです。実際に『このまちに行ってみよう!』という機会も思いも生まれると思います。
当時の僕のように明確にやりたいことが決まってない人にも得るものがあると思うので、ぜひ飛び込んでみてください」
鞆の浦の暮らしを感じられる個人商店を増やしたい
長田さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、現在受講生を募集中です(例年3月から4月に受講生を募集)。気になった方は公式サイトをご覧ください。
また、長田さんのクラウドファンディングは、2025年4月13日(日)まで実施しています。詳細はこちらのサイトをご覧ください。
暮らしが豊かになる観光への第一歩。日本遺産・鞆の浦の本を出版したい!
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