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「子どもにやさしいまち」をめざすネットワークと協働【子どもNPOセンター福岡20年のあゆみ : 前編】

2022.10.18 

前編_子どもNPOセンター福岡

 

20年後の日本の子どもの未来はどうなっているのでしょう。

 

各地では、子どもの未来のため団体や市民同士が協働しながら、支援の網目を広げています。ひとつの組織や団体だけでは解決しきれないほど複雑化する子どもの課題。組織の垣根を超えた取り組みが必要とされ、各地で進みつつあります。

 

一方で、組織間のネットワークや協働が進んだものの、これでよいのか、停滞感をおぼえている現場も少なくありません。

 

そこで、各地域で協働(コレクティブインパクト)の実践に挑戦し続けている団体を対象に、「特定非営利活動法人 子どもNPOセンター福岡」の事例から試行錯誤の歴史を学ぶためにイベントを実施しました。子どもNPOセンター福岡は、歴史的にも早くから組織・団体・行政・市民間などでの協働を進めています。そして、「子どもにやさしいまちづくり」をキーワードに、今なお発展を続けています。

 

お話を伺ったのは、子どもNPOセンター福岡の前代表理事の大谷順子氏。2003年に同センターを設立するまでにも、子どもの課題に対応するNPOをいくつも立ち上げ、市民フォーラムを開催するなど、ネットワークの中心で積極的に活動されてきました。現在は「NPO法人 子どもアドボカシーセンター福岡」の専務理事として引き続き子どもの権利を守る活動を続けられています。

 

イベントでは、コレクティブインパクトの概念や実践を専門とするエンパブリックの広石拓司氏の解説とともに、「子どもにやさしいまちづくり」の本質について熱く語られる場面が印象的でした。今回は、そのイベントの一部をご紹介します。

 

NPO法人ETIC.(エティック)は2019年度より休眠預金等活用法に基づき、資金分配団体として「子どもの未来のための協働促進助成事業」を推進しています。全国の子どもを支援する団体が、協働による地域の生態系醸成を実践することを目的に、そのモデルとなりうる実行団体に対して資金的・非資金的な支援を実施中です。本イベントは、当事業の実行団体の協働を進めるための支援事業の一環として実施しました。

>> 助成事業について詳細はこちら

 

大谷さんプロフィールトリミング後

大谷順子さん/子どもNPOセンター福岡 前代表理事

子ども課題に取り組む市民・NPOのネットワークセンター「NPO法人 子どもNPOセンター福岡」の前代表理事。その他、「チャイルドラインもしもしキモチ」や「子どもとメディア」を設立。2013年から福岡市こども・子育て審議会委員を務める。2021年に子どもアドボカシーセンター福岡を設立し、専務理事に着任。2019年から「子どもアドボカシーシステム研究会」を開催、行政、関係機関、当事者、NPOの協働によるシステムのあり方を研究・提言。「子どもが幸せに『子ども期』を生きること」ができる社会を目指す。

 

広石さん

広石拓司さん/株式会社エンパブリック代表取締役

2008年株式会社エンパブリックを創業。ソーシャル・プロジェクト・プロデューサーとして、地域・企業・行政など多様な主体の協働による社会課題解決型事業の企画・立ち上げ・担い手育成・実行支援に多数携わる。著書に「共に考える講座のつくり方」」「専門家主導から住民主体へ~場づくりの実践から学ぶ『地域包括ケア×地域づくり』など他多数。 慶應義塾大学総合政策学部、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科、立教大学経営学部、青山学院大学 青山・情報システムアーキテクト育成プログラムなどの非常勤講師を歴任。

ネットワークづくりが成功するために大切な2つの要件は「目的」と「センター機能」

 

広石さん(以下敬称略) : 20年以上にわたり福岡では、「子どもNPOセンター福岡」を中心とするネットワークによって、協働(コレクティブインパクト)が実践されてきたように思います。これまでの歩みはどのようなものだったのでしょうか。

 

大谷さん(以下敬称略) : 現在、子どもNPOセンター福岡を中心とするネットワークには、登録38団体、273の個人が参加しています。具体的な活動内容は、月一回の「ひろば」と呼んでいる集まり、年一回の市民フォーラム、適時メルマガ配信、および年2回「子どもNPOジャーナル」の発行があります。参加はどなたでも出入り自由のゆるやかなつながりです。子どもNPOセンター福岡が、ネットワークのセンターであるとともに事務局の役割を担っています。

 

福岡でのネットワークづくり、そして子どもNPOセンター福岡を設立するにいたった動きのルーツとなったのは、1994年の子育て文化フォーラムの開催でした。同年に日本は子どもの権利条約を批准しましたが、当時から、子どものおかれた状況は深刻でした。子どものいじめ、自殺などが社会問題化するなどしていて、危機感を募らせていました。

 

地域でつながって根本的な解決を目指さなくてはと思いました。そこで、子どもにかかわるあらゆる団体(学校、PTA、行政や福祉団体なども含めて)に対し「子どもの危機を乗り越えるために、互いにつながろう」と呼びかけて、実行委員会をつくりました。これには200名を超えるメンバーが集まり、2日間にわたるフォーラムを成功させました。分野を超えたつながりが一つになって取り組む素晴らしさを体験し、これが福岡のネットワークづくりの原点となったのです。

その後、ネットワークづくりは少しずつ進みましたが、間もなく転機を迎えます。

 

広石 : 福岡に子ども中心のやさしいまちづくりをしようとできたネットワークを、維持、運営していく大変さもあると思います。長年維持されている背景には何があるのでしょう。

 

大谷 : 1994年の「子育て文化フォーラム」は大成功で、はじめてのネットワークにみんなが高揚し、熱が醒めやらぬまま中心メンバーで語り合う日々が続きました。しかし、しばらくすると「なんだかつまらない」気持ちに。行き詰まりを感じたのです。そして気づきました。「ネットワークそのもの」が目的化していたのです。何のためのネットワークか、目的が見失われてしまったら、存在の意味がなくなってしまう。重要な教訓となりました。

 

もう一つの気づき、それは、ネットワークにはセンターが必要ということでした。ネットワークでは、参加するひとり一人の主体性を尊重することが大切ですが、ただそれだけでは前に進みません。参加者の全体的な意思に基づきながら、方向性について提起し合意を得て、前に進む。ネットワークの旗印を掲げ続ける。ある意味でリーダーシップをもつセンター機能が必要です。その役割を担うNPOとして、2003年に子どもNPOセンター福岡を立ち上げました。はじめてのネットワークづくり「子育て文化フォーラム」から10年経っていました。

 

ネットワークづくりが成功するためには、明確な目的があること、そしてリーダーシップをもつセンター機能が欠かせないこと、10年にわたる経験から、この二つを大切な要件として、しっかりと胸に刻みました。

 

わたしたちの指針となったのは、ユニセフが子どもの権利条約の自治体レベルでの実現を目指して世界に展開している「子どもにやさしいまち*」でした。

 

子どもNPOセンター福岡を設立したとき、ビジョンを「子どものいのちと心を尊重し豊かな発達を保障する社会」に、ミッションを「市民のネットワークづくりと協働を通じて実現を目指す」としていましたが、その後、「子どもにやさしいまち」の理念と枠組みを知ったことで、漠然としていたビジョンが明確になり、何をすべきかの骨格をつかむことができたのです。以後、今日にいたるまで一度もぶれることなく進むことができたのは、とても幸せなことでした。子どもの権利条約という大きな羅針盤の導く力を感じます。

 

*ユニセフ子どもにやさしいまちの詳細はこちら

子どもNPOセンター福岡の設立にあたっては、新しい時代に相応しいNPOとしてのあり方をめぐってたくさんの議論をしました。組織のあり方として、それまでありがちだったピラミッド型を排し、関わるひとり一人が対等でフラットな関係を築くこと、また、課題解決のためには柔軟に対応できる組織でありたいこと、そんなイメージから、「アメーバー型」というキーワードが生まれ、ネットワークはどこまでも広がるイメージで「クモの巣ネット」と呼びました。そして、「どこにもない魅力的な組織」にしようと、みんなで意気込んだものです。

 

ネットワークの中心となる組織ができたことでネットワークは広がり、活発になっていきました。なにより、子どもの権利の実現、そして「子どもにやさしいまち」を共通のビジョンとして掲げ続けることで、参加する人々にとって、「ぶれない軸」として信頼してもらえる拠り所となれたと思います。

団体・組織同士の協働を深めるには「結論」を急がずに「過程」を大事にする

 

広石 : 子どもNPOセンター福岡はネットワークの中心的立場であることがわかりました。具体的な役割とはどのようなものでしょうか。

 

大谷 : 子どもNPOセンター福岡の役割は、誰もが気楽に集まれる「ひろば」を毎月開いて、みんなで交流し、学びあう場を積み重ねて行ったことです。内容はそのときによってさまざまですが、一貫して子どもの権利について学び深めることを基本にしてきました。

 

「ひろば」に集まったメンバーが実行委員となって、年1回の市民フォーラムを準備し、分科会を担うなど、テーマ別に深める場も積み重ねられました。このプロセスの中から、新しいNPOが生まれたり、ネットワークが立ち上がったりもしました。そのような活動を通して多くの人たちが成長していくことを実感して、わたしたちは、「市民の参加と成長の場」としての「ひろば」の意味を見つけたのです。のちに「子どもにやさしいまちを目指すプラットフォーム」と呼ぶようになりました。

 

ネットワークに参加する個人・団体は多様です。日常的に取り組む活動も、住んでいる地域・自治体も、違いをもちながら、ネットワークで集う場では、子どもにやさしいまちづくりの仲間として一緒に語り合えることをみんなが楽しんでいる、そんなふうに感じます。日常は、困難なことや苦労も少なくない、つい目先の課題に追われがちななかで、大きなユメを共有できることや、子どもにやさしいまちづくりの中での自らの位置や役割に確信が持てる場がある、ということはたしかに魅力であるに違いないと思います。

 

「子どもにやさしいまち」のビジョンを山に例えるなら、その頂きに向かう道は多様にあると思っています。子どもの課題に取り組む人や団体が、それぞれのやり方で登って行けばいつかたどり着ける、ともに登る人が多いほど、また多様であるほど道は豊かに広がる。子どもNPOセンター福岡の役割は、まだ出会っていない人々を繋いだり、時に山頂をめざすガイドの役割を務めることだと思ってきました。

 

このような動きはなにも一つではなく、ネットワークに参加するそれぞれが住む地域や自治体でのまとまりや、子どもを中心としたコミュニティに発展していると思われます。そういった活動そのものが、それぞれの「子どもにやさしいまちづくり」といえます。福岡県内でも、地域によって違いがあるのは当然ですが、そういうなかで、「子ども条例」への関心が高まり、現在までに6自治体で制定されてきた経緯を見ても、ネットワークの存在とは無関係ではないように思えます。

 

広石 : 概念的に、ネットワークづくりの実践では、ビジョンの共有が大事とされていますが実際はいかがでしょうか。

 

大谷 : ビジョンといっても、それだけが現実とかけ離れた存在ではなく、子どもが置かれた厳しい現状があり、その課題解決の先にあるものと考えています。逆に言えば、解決を迫られているさまざまな課題がある、その課題をどのような方向性をもって解決していくかがだいじな点なので、ビジョンはお飾りではなく、現状を変えていくための目標であり、強いモチベーションともなり得るものと思います。さらに言えば、ビジョンを目指して、現状を変えていくために、どのような手立てや戦略をもって進めて行こうと思うのか、その道筋を自らに課したものがミッションだと思っています。

 

ちなみに、子どもNPOセンター福岡の場合は、ビジョンを「すべての子どもが尊重される社会ーそれを私たちは子どもにやさしいまちと呼びますー」とし、ミッションを「市民のつながりと協働でめざす『子どもにやさしいまち』の実現」と設定し、これに基づいて定款の「目的」にしています。

 

ネットワークのセンターとしての活動は、これに基づいた活動ということです。ネットワークに対しては、この理念を語りかけ、これに賛同していただく方は会員として登録を、と呼びかけています。はじめに申し上げた、登録している個人・団体はそのようにして主体的に参加している方々です。

 

このことから、ネットワークの「ひろば」などでは、子どもたちのリアルな現状を語り、一方で子どもの権利や、ビジョンを語り合うことを心がけ、これは定着してきたかと思います。

行政との協働による「社会システム」づくりが重要

 

広石 : 子どもNPOセンター福岡の取り組みとして、団体同士の意見交換や議論の場の提供など以外にも、行政との協働を通じた「社会システム」づくりもあるかと思います。制度化はなぜ重要なのでしょうか。

 

大谷 : 福岡に限らず、市民の中には、新しい時代につながる創造的な活動が多く生まれています。それらが一過性のものに終わらず、社会の財産として継続し定着していくためには、社会的システムに組み込まれていくことが必要です。そのようにして行くことが、「子どもにやさしいまち」にも繋がっていくというイメージを持っています。

 

いま広がっている「子ども条例」制定の動きなどもその一つではないかと思います。福岡県では、6自治体で(実際には2022年4月現在、7自治体)子ども権利条例が制定されています。これに関して思うことは、子ども条例などの制度化では、市民・NPOの役割がとても大きいということです。制度策定に至るまでのプロセスも、制定後も、市民が関わり支え続けることで、制度に魂が入り、「形骸化」を防ぎ、そのまちで生きたものになっていくことができるからです。しっかりと市民の役割を持ち、行政と協働して行くことが大切です。

 

広石 : 子どもにやさしいまちづくりを進める過程で、行政との協働も欠かせないと思います。協働して取り組むときにどのようなことが重要でしょうか。

 

大谷 : 子どもNPOセンター福岡も、行政と協働した経験がいくつかあります。その一つが、福岡市から委託を受けて、2005年から現在まで継続している里親普及・支援事業(新しい絆プロジェクト)です。委託といっても、完全に協働型となりました。福岡市児童相談所と、市民側は子どもNPOセンター福岡が呼びかけたいくつかのNPOで、実行委員会(ファミリーシップふくおか)を構成して進めました。対等な立場で、ともにアイデアを出し合い、協力して毎年2回のフォーラムを開催するなどして、里親への理解と共感を広げてきました。20年近く積み重ねて、現在、福岡市では社会的養護の子どもの6割が里親家庭で暮らしています。

 

この間の里親委託率の飛躍的な増加は、全国的に注目されました。成果をもたらした原動力は、市民ネットワークと行政との協働による実行体制であったと考えています。

 

「委託」や「協働」の場面で、行政に対して市民が受け身になっていないか、気になることがしばしばあります。いずれの場合も、市民側の主体性が問われると思っています。いわゆる「仕様書」が示されたとき、目的達成のために「それで良いのか?」という目でみることも大切です。市民側に、行政を超えるアイデアや専門性があることが多いからです。少なくとも、「新しい絆プロジェクト」の成功は、行政と市民、双方が対等にアイデアと力を発揮したことによると思っています。

 

昨今は行政施策において、市民やNPOの役割が期待されるようになってきました。市民が、多くの活動を通して培った知恵や専門性に自信をもって、積極的に関わっていけたら、さらに社会に貢献できると思います。

 


 

< 広石さん解説1:協働のヒント「問いを分かち合うとは」 >

ネットワーク内において、何かをまとめたり議論を重ねる際に「結論」を急いではいけないように思います。まずは、どんな意見でも一回みんなで聞いてみる。たとえば、「子どもの権利を守るとは何か」を焦らないで問いかけ続けていく。一緒に悩むという経験やプロセスを共有することは、ネットワークの強化につながっていくでしょう。

 

解説1

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< 広石さん解説2:協働のヒント「循環型の問題理解・課題解決」 >

 

目の前の人のケアと、社会構造の変革とでは大きく視点が異なります。そして、子どもの課題に取り組むためには、両方をパラレルで進めなければならないでしょう。

 

制度や社会システムの変革のため、自治体との協働や議論は重要。具体的な事象に重ねて議論を循環するように続けていくことで、互いの共通認識や理解が深まります。さらに、このような循環型の議論のプロセスを「公開」することで、それぞれの立場の感覚的なものが具体的に共有され、共通認識が深まります。

 

解説2

 

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【後編はこちら】

>> 「子どもにやさしいまちづくり」に向けた協働の現場の今とこれから【子どもNPOセンター福岡20年のあゆみ : 後編】

 

この特集の他の記事はこちら

>>   子どもの未来に向けたコレクティブインパクトの実践

 

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。