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“無個性”桃色ウサヒの生みの親が山形県の町に仕掛ける「地域振興×デザイン」のポイントとは―まよひが企画 佐藤恒平さん(後編)

2024.12.12 

山形県の人口およそ6,000人の町・朝日町(あさひまち)を拠点に、地域振興コンサルティングとデザイン・企画の事業をおこなう、まよひが企画の佐藤恒平(さとう こうへい)さん。前編では、公立中学校の空き教室を間借りしたオフィスから広げるコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の取り組みについてご紹介しました。

 

後編では、学生時代からインターンシップで飛び込んだ「地域振興×デザイン」について、また、佐藤さんが15年以上かけて育ててきた桃色ウサヒの誕生秘話もあわせてご紹介します。

 

佐藤 恒平(さとう こうへい)さん

地域振興サポート会社 まよひが企画 代表

1984年生まれ福島県出身。東北芸術工科大学大学院デザイン工学専攻修了。2010年に地域おこし協力隊として山形県朝日町情報交流アドバイザーに就任、着ぐるみキャラクター「桃色ウサヒ」による朝日町のPR活動を始める。現在も同町では関係人口人材との協業、義務教育学校の創設などの分野で地域振興プロジェクトを手掛けている。2014年1月、地域振興サポート会社「まよひが企画(マヨイガキカク)」を開業。2017年には、古民家をリノベーションした県内初の公設民営のゲストハウス「松本邸一農舎」を開業。あわせて総務省の地域力創造アドバーザーに就任。2022年5月より、朝日町立朝日中学校の空き教室をサテライトオフィスとしながらコミュニティ・スクール「スキマクラス2.5組」の活動を行っている。

Webサイト : https://mayoiga-k.jp/

 

インターンシップでの“学び”から着ぐるみへ

前編で紹介した、中学校の先生と生徒が自由に過ごせる佐藤さんのオフィス「スキマクラス2.5組」の片隅には、大きなウサギの着ぐるみが干されています。

 

中学校の空き教室を間借りしてつくった「スキマクラス2.5組」。写真左奥には、佐藤さんにとって地域振興の大切な相棒・桃色ウサヒの着ぐるみが干されている

 

佐藤さんが地域振興×デザインの世界に初めて飛び込んだのは、子どもの頃にさかのぼります。当時、引っ越しを多く経験していた佐藤さんは、過疎化が進んだ町で暮らしていた中学校時代、移住者としての馴染みきれない複雑な思いは漫画にして表現していたそうです。それは「着ぐるみを着てまちおこしをする」ギャグ漫画でした。その後は町を出て親元を離れ、美術系の高校へ進学。

 

「大学もデザイン専攻かな、と思ったとき、先生から『デザインで何したいの?』って聞かれたんです。『まちおこしはどうですか?』と答えたら、普段厳しい先生が信じられないくらい褒めてくれて。それがきっかけで、『デザインをまちおこしに活かしていこう』とやる気が出ました。当時、偶然出会った山形の大学の人からも『それなら地方の大学で実践した方がいいよ』って言ってもらえて山形の美術大学に進学しました」

 

大学3年の頃には、ゼミの先生から「学校外でも経験を積んでみないか?」と紹介された、NPO法人ETIC.(以下、エティック)のチャレンジ・コミュニティ・プロジェクト(以下、チャレコミ)のインターンシップに参加。1年半ほど、福島県会津市で陶芸関連の店舗で、住み込みの学生店長として店の切り盛りを任されました。

 

会津美里町の株式会社流紋焼の分館をリノベーションしたお店。改装もインターンの仲間達で行ったそう

 

2008年、大学院2年のときには、地域振興研究の一つとして桃色ウサヒを使った朝日町のPR活動をスタート。テーマは「無個性着ぐるみを使った、地域おこしがしやすい地域づくり」。一見、無気力のようなウサギのウサヒは、稲刈りや餅つきなど地域の人に呼ばれたら出向いて手伝いをしながら、地域になじんでいきます。住民とご当地キャラクターを育成しながら発信するというタウンプロモーションの地域づくりを形にしました。

 

呼ばれたところに現れる桃色ウサヒは少しずつ町になじんでいった

 

「チャレコミの活動をした1年半の中には、リアルな学びが詰まっていました。例えば、受け入れてくれる一部の担当者さんは、学生のチャレンジを起爆剤に大きなチャレンジをしたい。でも、地域の人や他の従業員の方々は大きなチャレンジに巻き込まれすぎて、いつもの日常が変化してしまうと日々の生活に支障が出やすい。どちらかというと、日々の中で小さな楽しみや笑顔が継続できるようなアクションを望んでいる。この温度差が共存しているのが、地域のリアルな状況です。

 

これらを可能な限り両立するには、情熱的で成長意欲が強いタイプでない人のほうが向いているのかも、と、一般的な地域おこしのイメージとのギャップを感じました」

 

町の名産品や魅力を積極PRしている桃色ウサヒ

 

「また、成功事例の過程を参考にしていても、人材やタイミングの違いで失敗する自治体もたくさん出ていることを知りました。流行にのりすぎず、独自の運用方法を考える活動をしようと、無個性なウサギの着ぐるみでも『ゆるキャラ』と同等の効果が出せるかをテーマにした研究『桃色ウサヒ』の活動をスタートしました」

 

2012年9月9日、「地域仕事づくりチャレンジ大賞」を受賞した当日の様子

 

桃色ウサヒの取り組みは、2012年にエティックの「地域仕事づくりチャレンジ大賞」でグランプリを獲得。誕生から15年以上が経った現在でも、変わらず朝日町のPRキャラクターを務めています。

 

地域振興×デザインのポイントは、誰が使うツールなのか。誰を笑顔にできるのか

高校時代から地域振興×デザインの実践を繰り返して突き詰めていった佐藤さんは、現在考えている「デザインの役割」についてこう話します。

 

「僕はデザインの仕事をとても狭く捉えていて、それは“ツールづくり”なのだと思っています。また、良いデザインとは、“誰が使うか”が考えられていること。田舎のおじいちゃんやおばあちゃんが効果を実感できるか、過疎の学校の先生が使ってテンションが上がるか、町を出た経験がない役場職員でも扱ってもらえるものか…。小さな町の地域振興に使うデザインもやはり現場での使い勝手が大事だと思っています。地域によってその力加減やバランスは違うからこそ、そこを大事にしていきたいです」

 

2023年に開催された町内の産業まつりで。桃色ウサヒは子どもたちにも大人気

 

「例えば桃色ウサヒなら...」と佐藤さん。

 

「商店街のベテラン店主が『試しにウサヒの商品を作ってみたらよく売れてね』と笑顔になれるようなものが僕の目指す使いやすいデザインです」

 

朝日町・永勝堂菓子店のウサヒ上生菓子(季節限定)

 

「町内の公立中学校で取り組んでいる『スキマクラス2.5組』だったら、先輩たちが楽しそうにしている姿を見て、自分も友達を誘って放課後に遊びに行ってみたとか。そんな行動を誘発できるような道具をデザインしていきたいです」

 

「スキマクラス2.5組」の様子。普段、佐藤さんはここで通常業務を行い、放課後には自習室・フリースペースとして開放している

 

では、地域振興×デザインという形を今後どう深めていくのでしょうか。

 

「ジャンルを超えて数を多く作っていけるデザイナーでありたいです。エティックさんでインターンシップを経験させてもらってからもう20年、場所やフェイズによって地域振興に必要なツールは変わっていきます。

 

地域振興を始めたい人が、『前例としてこんなツールがあるんですよ』と持ち出せるものを生み出し続けられるデザイナー、それが佐藤恒平のやりたいデザインです」

 

山形県の名産りんごをアピールする桃色ウサヒ

 

「ただ、これだけは変わらないのが、地域振興をする目的です。それはただ一つ、『地域の人が幸せを実感できること』です。僕はその指標が笑顔だと思っています。デザインというツールが地域の中でバリエーション豊かな笑顔を生み出すことができたなら、こんなに嬉しいことはありません。

 

今は、特に力を入れている『スキマクラス2.5組』をつくることを通して、全国の学校で生徒、先生、地域の人が笑顔になれる実践を引き続き発信していきます」

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。