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#スタートアップ

教育格差をなくしたい。データを活用し、次世代の教育インフラを構築するスタディカルテ樋口雅範さん

2022.11.04 

11月1日から7日は教育文化週間です。

今回は、オンライン学習塾の運営で得た指導データを活用した新しい学習システムを開発している株式会社スタディカルテの樋口雅範(ひぐちまさのり)さんにお話を伺いました。

 

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樋口 雅範(ひぐち・まさのり)さん

株式会社スタディカルテ 代表/TOKYO STARTUP GATEWAY2018ファイナリスト

神戸大学発達科学部卒業。数学の予備校講師として医学部・難関大学の受験分野で20,000時間以上の個別指導を経験したキャリアを持つ、教育のプロフェッショナル。2017年度 医学部合格率70% を達成。iU客員教員。2019年7月に株式会社スタディカルテを創業し、オンラインに特化した学習塾「スタディカルテLab」の運営と、学習システムの設計を担当している。

WEBサイト https://studykartelab.com/

Twitter https://twitter.com/masas0731

難関大受験に特化したオンラインで個別指導とアプリを活用した学習管理サービスを提供

スタディカルテLab WEBサイトTOPページ

スタディカルテLab WEBサイトTOPページ

 

株式会社スタディカルテは、2019年に創業したオンラインに特化した学習塾を運営する会社です。

 

医学部や難関大受験予定の生徒を対象に、オンラインでの個別指導と、アプリを活用した学習管理サービスを提供しています。

 

樋口さんによると、良い勉強の仕方は実はシンプルで、正しく理解し、必要な数だけ反復することだそうです。伸び悩んでいる時は、参考書が合っていない、目指す大学と傾向の違う問題を解いている、予習・復習のバランスが良くない、教科ごとの時間配分を間違えているなどの要因が考えられるとのこと。既存の予備校や学習塾ではそのような個別の課題への対応がしにくいため、個別指導に加えて独自の学習管理アプリで細やかなサービス提供をしています。在塾生徒の96%が「非常に満足・満足」と高い顧客満足度を維持しているそうです。

 

ただ、現在の事業は、スタディカルテの事業構想の「第一段階」とのこと。

現在開発中の「第二段階」のサービスこそが、樋口さんが大学生時代から考えていた教育格差をなくすことに繋がるビジネスです。

プロ講師が指導する学習データを二次利用し、低コストでサービスを提供したい

 

では、現在開発中の「第二段階」のサービスとはどういうものなのでしょうか。

スタディカルテLabでは、オンラインの個別指導で、講師が個々の学習課題に合わせてオンライン上の画面に板書する年間約8000枚のデータを4年間蓄積してきました。この学習データを二次利用する新しいシステムを開発しています。

 

講師による個別指導時の板書(スタディカルテラボYouTubeより)

講師による個別指導時の板書(スタディカルテLab YouTubeより)

 

現在はまだ開発段階ですが、このシステムを使えば、生徒の学習状況・理解度・関心に合わせた双方向型の指導が実現できるそうです。

 

生徒の理解度に合わせて、補足の解説をしたり、理解した生徒にはさらに理解を深める説明を加える効率的な仕組みを作ろうとしています。

 

そのような、かゆいところに手が届く便利なサービスを地理的・金銭的な格差なく提供することが、樋口さんが学生時代から思い描いてきた教育格差をなくすための事業です。

 

樋口さんはこう話します。

 

「この第二段階の事業では、生徒さんにも、講師にもメリットがあります。

 

生徒にとっては、場所に縛られずに、プロ講師による高品質な個別指導を受けられます。これは現在の事業でも可能でしたが、第二段階では蓄積された良質なデータと独自のアルゴリズムによって、イノベーションによる圧倒的な低コスト化を目指しています。

 

講師にとっても、これまで使い捨てだった板書を二次利用することで、場所に縛られず、参考書の印税のように収入を得ることができます。オンライン上に“編集可能な参考書”をつくるようなイメージです。実際に、今一緒にお仕事させてもらっている講師の方々からは“新しいオンライン教育の可能性にワクワクしている” “このような未来の教育を変える仕組みに関われることを嬉しく思う” など、とても良い反応を頂いています。来年の夏を目処に、段階的なサービス開始を目指しています」

 

樋口さんが事業を通して「進学したい生徒の金銭面の課題解決」に取り組みたいと思ったのは、自身の体験からでした。

 

金銭的な事情で大学を中退、独学で国公立大学に再入学した原体験

 

 樋口さんは、父親の病気で生活が苦しく、私立大学を一度中退して国公立大学に再入学した経験があります。また、予備校に行かず独学で合格しましたが、身の周りには大学に行きたくても金銭面で諦めてしまう人もいました。

 

大学時代は数学教師になる勉強をしながら、教育環境学を専する学科横断型の特殊な環境に身を置いていた樋口さんは、卒業後の進路について、教師になるか、起業するか最後まで迷ったそうです。

 

「中学高校の数学教師の採用通知をいただきました。ただ、それで本当にいいのか考え、結局教員採用を辞退しました。僕がやりたいことは公教育の中でできるのか。自分のやりたいことを試すには公教育の中ではやりづらい。だったら20代のうちにやりたいことに挑戦してみたいと思ったんです」

 

樋口さんのやりたいこととは、教育(Education)× テクノロジー(Technology)のEdTechという分野でした。2008年に大学に再入学した頃、アメリカの教育者で数学者のサルマン・カーン氏が創設したカーンアカデミーの話を聞き、興味をもちました。講師の授業の動画を公開し、学生は動画で予習し、その後に講師がフォローする反転学習についても研究したそうです。

 

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「金銭面で予備校に通えない生徒さんたちが使えるサービスをつくりたいという思いはありました。でも、それはすぐには難しい。お金が回らない仕組みで不自然なサービス提供をしても持続可能ではないので、お金が回るビジネスモデルをつくろうとスタートアップを選びました」

 

樋口さんは、教育格差という課題をなくすために起業の道を選びましたが、すぐに課題解決に向かうのではなく、まずはビジネスモデルを確立するための基盤作りに取り組みました。

 

2012年に大学卒業後、フリーランスの数学講師として関西を拠点に医学部受験の分野で活躍し、週4日は生徒に勉強を教えて収入を得ながら、週3日は大学時代の友人を中心にEdTechのシステム開発をしていました。動画を用いた反転学習・AI教材・質問対応サービスなど、複数の事業を開発し、方向転換等もしながら、大阪で5年ほど事業を行い、2017年に拠点を東京に移します。スタートアップのような会社を創るために投資家からの資金調達、さらなる仲間づくりを考えての上京でした。

 

翌年の2018年12月、樋口さんは東京都が主催するスタートアップコンテストTOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)でファイナリストを受賞し、その後すぐに株式会社スタディカルテを登記しました。

 

TSG2018の樋口さん

TSG2018の樋口さん

 

それから4年間かけてビジネスの基盤「第一段階」をつくりあげ、「第二段階」の事業で、ついに本当にやりたかった教育格差の課題に挑みます。

 

4年間を振り返って、樋口さんはこう話します。

「スタートアップとしては遅い。あと1,2年早くここまで来れたと思っています。それでも、なんとか前へ進んでこれました」

理由を聞くと、コロナ禍でのリモートワークでは、当初は社員との役割分担がうまく出来ずに自分自身に仕事が集中してしまいがちだったこと、コロナ禍で競合が多くなり、マーケティングコストの増加に苦戦したことが大きな要因だったそうです。

現在はその課題も改善されつつあり、たくさんの方のサポートを受け、第二段階へと進んでいます。

決勝大会は通過点。思いをかたちにして初めて価値がある。

 

樋口さんは2018年にTSGファイナリストを受賞した翌年から3年連続でメンターとしてエントリー者の事業にアドバイスをしています。 「僕はTSGをすごく活用しました。東京都の方、メンターの方、起業同期の方と情報交換できて助かったことが多かったです。それもあって恩返しのつもりでメンターとして関わり続けています」

 

エントリー者にどんなアドバイスをしているのか聞いてみたところ、

「自分自身、まだ発展途上の立場ということもあって偉そうなことは言えないんですが、実際に起業して、事業を形にして行くまでのリアルな話であれば、役に立ててもらえるかなと思っています。

 

今年担当させてもらった方々は、例年よりも想いが強く、一方でキャッシュフローが心配な方が多かった印象です。また、起業家のメンタルバランスや健康管理も大事で、私自身、常に躁状態のような精神状態で不眠症になったり、周りの起業家で心が折れてしまった人たちも沢山見てきました。ご自身の人生を費やし、周りの仲間などを巻き込んでいくことになるため、再起不能になったり、燃え尽きてしまわないように、上手く失敗できるように挑戦してもらいたいなと感じました。

 

また、せっかくのコミュニティなので、自分以外にも相性の良いメンターを見つけて、上手く頼ってもらえればと思います。挑戦するだけで素晴らしいことだと思うので」

 

メンターをしている樋口さん

メンターをしている樋口さん

 

TSGは11月下旬、2022年の決勝大会が行われます。1114人のエントリー者から5ヶ月間かけて選ばれた10人のファイナリストが、最優秀賞を目指して挑みます。

 

メンターであり、起業の先輩として、樋口さんは、決勝大会に向け準備をしているエントリー者の皆さんのことを思い浮かべ、こう話しました。

 

「TSGは、思いをかたちにするために一緒に伴走してくれる方がいる良い機会です。ただ、あくまで決勝大会は通過点です。決勝で終わりではなく、その1年後2年後、思いをかたちにして初めて価値があります。そこまでを含め、楽しみにしています」

 

2022年11月、TSGの決勝大会を経て、次のステージに進むエントリー者の皆さん。

そして、4年間かけてビジネスの基盤をつくりあげ、満を辞して教育格差の課題に挑む樋口さん。

思いをかたちにするための挑戦にこれからも注目し、応援したいと思います。

 

 

***

事務局編集後期:インタビュー時に、TSGの各年代OBOGとの同窓会をセッティングしてますと教えてくれた樋口さん。ありがたいことに、TSGでのつながりを大事にしてくださっている様子がとても伝わってきました。人と人との繋がりを大切にする樋口さんだからこそ、事業でも一人一人にしっかりと向き合っていると感じました。スタディカルテで学び革命が起こってほしいですね!

 


 

●東京都主催・400文字から世界を変えるスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2022」

https://tokyo-startup.jp/

 

 

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この記事を書いたユーザー
木村静

木村静

DRIVEメディア編集長。NPO法人ETIC.事業本部 広報 兼 ローカルイノベーション事業部 シニアコーディネーター。 北海道出身。札幌のまちづくりNPOに勤務し、コミュニティラジオ放送、地域情報の取材・執筆等を経て、2008年に上京しフリーランスに。アナウンス・司会、ライター、カメラマン、映像制作、講師、リサーチ、イベントのディレクション業などを事業領域に活動。 2015年〜NPO法人ETIC.に参画。 趣味は、歴史、映画、美術、ガーデニング、読書。

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