「ネイチャープレナー・エコシステムをオールジャパンでつくる」。
こんなメッセージを打ち出したプロジェクトが2025年7月、スタートしました。
「ネイチャープレナー(※)を、経済の主役にする」をミッションに、
- NPO法人ETIC.
- 森章研究室(東大先端研)
- 一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン
- 株式会社エーゼログループ
- 深尾昌峰氏(龍谷大学 副学長)
の5者合同発起として、一般財団法人を設立。団体名を「ネイチャープレナー・ジャパン(以下、NPJ)」とし、次世代の人材育成と事業・市場醸成に取り組みます。
※ネイチャープレナーとは、Nature(自然)とEntrepreneur(つくる人)を組み合わせた造語。自然と共に価値を生み出し、社会や経済を突き動かしていく人たちのことを表している。
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NPJの特徴の一つは、自然の再生・保全・管理などを実践する日本各地の団体やアカデミアなど先駆者たちが、次世代のアントレプレナー(起業家)育成に手を挙げたこと。今記事では、事業の仕組みと合わせて、NPJに参画した役員の中から6名の言葉をもとに、「NPJとは何か」、その世界観をお伝えします。
次世代ネイチャープレナーが10年後には人材育成と社会づくりの担い手に
NPJが目指すのは、最初の5年間で50の自然再生プロジェクトを助成すること、200人のネイチャープレナーを育成することです。
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現在、「2030年までに、自然が失われる流れをプラスに転じさせよう」を世界目標に、新しい「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の動きが広がっています。一方、現場では、投資される資金の不足や、未来の担い手を育成し、支援する仕組みや制度が不十分といった課題を抱えているのが現状です。
しかし、そのなかで見逃せない動きも起きています。特に若い世代の間で、自然と共に新しい未来を創ろうとする傾向が高まっているのです。NPJは、そんな彼らの挑戦を未来につなげるために生まれました。

NPJでは、現在の課題を解決へ導きつつ、若手のアントレプレナー(起業家)たちが自分の挑戦への火を燃やし続けられることを重視した仕組みをつくりました。
その仕組みの名前は、将来、起業や研究者を志す学生・若者を対象にした「次世代ネイチャープレナー・フェローシップ制度(事業・研究探求助成)」。全国各地ですでに実践する先輩ネイチャープレナーたちと若手のプレナーたちをつなぎ、オールジャパンで次世代を育てるエコシステムづくりに乗り出します。
今後、「発掘」「実践」「伴走」を3つの軸に、人と人、地域と地域をつなぎ、社会全体を巻き込む大きなうねりを生み出す起点をつくります。さらに10年後以降は、育成される立場だった次世代ネイチャープレナーが、多様なセクターを超えたインパクトを生み出す側となって、人材育成の役割を担います。
育った「人」と発展した「地域・事業モデル」がさらにさまざまなセクターを巻き込みながら、社会全体をネイチャーポジティブな方向へと加速させていきます。

現在、協力の意向を示してくれているのは、全国20を超える地域で活動する15以上の団体や個人。この広い実践者たちのネットワークこそがNPJの大きな財産で、これからより大きく育つ予定です。
「私たちも自然資本も超ポジティブに生きていける社会を」深尾昌峰さん(代表理事)
学生時代のボランティア活動や阪神・淡路大震災での経験をきっかけに、市民をベースとした非営利組織のマネジメント研究などを行ってきた深尾昌峰(ふかお まさたか)さん。その経験を活かして、ソーシャルの世界に新たな歴史をつくるべく就任しました。

深尾 昌峰 (代表理事)
龍谷大学 副学長 / 政策学部 教授
「我々のミッションは、ネイチャープレナーを経済の主役にすることです。本来、ど真ん中にある経済と環境を統合的に捉え、自然資本を活かした事業や生態系を守りながら我々も生態系の一部として生きていく。そういった環境づくりや私たちの暮らしみたいなものをデザインしていくことの必要性には、もうみんな気づいているはずなんですよね。
今後、新財団を通して、みなさんと一緒に事業をつくりながら、人材育成と事業創造を両輪に事業展開していきたいと思っています。目標は、5年間で200人の若いネイチャープレナーを育てることです。

ネイチャープレナーが孤立しないように、総力戦で支えながら、私たちの未来にいろいろな選択肢が考えられる生き方や社会を、皆さんと一緒につくっていきたい。
ぜひ私たちの旅、探求にご一緒いただいて、ネイチャープレナー領域を盛り上げていきましょう。私たちがハッピーな気持ちで、一人ひとりがのびのびと、自然資本と共に超ポジティブに生きていける、そういう社会をつくっていく。小さな一歩かもしれないけれど、壮大な夢に向かっていろいろなアクションを支えていきたいです」

「海や漁業とNPJをつなぎ、自然と共に経済と社会を突き動かす人を増やしていければ」長谷川琢也さん(理事)
新財団の理事を務める一人、長谷川琢也(はせがわ たくや)さんは、「海の人間」と自身を表現します。本格始動する団体の活動にこんなメッセージを送ります。

長谷川 琢也 (理事)
LINEヤフー株式会社
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン Co-Founder
「僕は、LINEヤフー株式会社で会社員をしながら、東北の震災をきっかけに、2014年、宮城県石巻市で一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げました。以来、漁師を増やす活動や漁業のイメージを良くすること、販路開拓などいろいろなことを、震災を乗り越えた漁業・水産業関係者と行っています。

農家や漁師の方には、『自然の力を変えるなんて何を無理なことを言っているんだろう』と思われることも多いです。
ただ、自然の影響をまっさきに受けるのは農家や漁師です。時代の流れをうまく利用して、企業と連携したり、消費者に理解してもらったり、研究者の方たちと一緒に、農業・漁業の課題を解決するために、新しいことにも耳を傾け、行動していきませんか? と、普段そんなお話をしています。
今後、自分が海や漁業とNPJの活動をつなぎ、自然と共に価値を生み出し、社会や経済を突き動かしていく人たちを増やしていけたらいいなと思っています」

「もし30年前、『ネイチャープレナー』が存在していたら」牧大介さん(評議員)
移住者が約2割を占める人口約1300人の岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)、北海道・厚真町(あつまちょう)、鹿児島県錦江町(きんこうちょう)など、2015年以降、各地域でローカルベンチャーの育成・支援事業を多くの仲間や関係者と一緒に広げてきた牧大介(まき だいすけ)さん。こんな言葉を今回の挑戦に向けて送りました。

牧 大介 (評議員)
株式会社エーゼログループ 代表取締役 CEO
「私たちの会社では、『未来の山をつくる』をビジョンに掲げて、かつてはあった、人と自然が関わり合いながら共栄していくような世界を意識的にどうつくっていくか、いろいろとチャレンジを生んでいます。
私自身は、学生のときに生態学を学びながら、地域にも関わりながら、どんなふうに自然と関わっていけばいいのか、未来をつくっていけばいいのかわからなくて、気づいたら自分で事業をつくっていました。

今は50歳すぎのおじさんで、学生時代なんて30年前の話ですが、もしあの頃の僕の目の前に『ネイチャープレナー』という言葉があったら、自分の生き方やプロセスは変わっていたんじゃないかと思います。もう少しスムーズに前に進めて、いろいろな人にお世話になりながら生きることができたんじゃないかという気もしています。
だからこそ、この取り組みに参加させていただき、これから『ネイチャープレナー』がたくさん育っていくなかで、僕たちが一緒に未来をつくっていく、未来の里山をつくっていく仲間が増えていくことに期待したいなと思います」

「自然の資源循環を加速度的にする人材育成を」坂野晶さん(評議員)
“鳥好き”をきっかけに、環境課題の解決に向けてキャリアや人生を切り開いている坂野晶(さかの あきら)さん。現在は、国内外の廃棄物削減と資源循環の取り組みを牽引しています。

坂野 晶 (評議員)
一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン 代表理事
一般社団法人Green innovation 共同代表
株式会社ECOMMIT 上席執行役員CSO
「私は鳥、特にインコ・オウムが好きすぎて、小学生の頃に、カカポという世界で一番大きいオウムにハマりました。
カカポは鳥好きにはたまらないのですが、飛べないからどう考えても絶滅しそうという、そんな鳥です。
当時10歳だった私はカカポが人間のせいでいなくなるということが許せなかった。でも、私がカカポという一種の鳥を守ろうと一生をかけて頑張ったとしても、その間に世界では100種類以上の別の種の鳥がいなくなります。
私は『それは、私たち人間社会の仕組みがそういった世界をつくっているからだよね』と思ったんです。だから、大学時代からは、環境政策という分野で私たちの社会の仕組みを変えることをライフミッションとすることに決めました。

現在は、日本で初めてゼロ・ウェイスト(無駄・浪費のない社会)宣言をした徳島県・上勝町での経験を活かし、国内外で廃棄物削減と資源循環の政策導入を担う、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事として活動しています。
同時に、加速度的な資源循環の仕組みをインフラとしてつくることを目指し、ビジネスの領域からも取り組もうと、株式会社ECOMMITというスタートアップに参画しています。さらに、こうした分野の人材育成にも取り組もうと、2021年からGreen Innovator Academyという人材育成プログラムを開始し、大学生と若手社会人を毎年100名以上育成しています。
資源循環を加速度的に進めていくための人材育成は、とても大事だと思っています。そのための共闘が必要。一緒に頑張りたいです」

「ボーダー的な存在を肯定し背中を押す場をつくりたい」小野邦彦さん(評議員)
「100年先もつづく、農業を。」を掲げる株式会社坂ノ途中の小野邦彦(おの くにひこ)さん。環境負荷の小さな農業に取り組む人たちを増やそうと、事業を展開しています。

小野 邦彦 (評議員)
株式会社坂ノ途中 代表取締役
「坂ノ途中は、外部から投入する化学肥料や農薬などに依存しないローインプット型の農業を広げたいと考えています。こういった農業には、新規就農の挑戦者が多くいます。しかし、惜しいことに、就農しても経営が成り立たない場合が多いんです。
この現状を何とかしようと、新規就農した方たちと連携して、彼らの営農計画を立てるところから、流通にのせるまでをご一緒しています。

また、東南アジア中心に、森林伐採を防ぐ活動もしています。貨幣経済の流入から、一過性の現金を得るために森林伐採をしたり、飼料用のトウモロコシのプランテーションを始めることが増えています。森の中でコーヒーを育てることで、森林保全と現金収入の両立を図ろうとしています。
『ネイチャープレナー』という人が増えてくるときに、僕が自分の実体験からどうしたって必要だと思うのは、コウモリでいることの肯定を、根本的にできるかなんです。
イソップ寓話で出てくるコウモリの話です。コウモリは、哺乳類の一種ですが、見た目は鳥に近い。でも、鳥類のコミュニティに行くと、『お前、哺乳類やろ』って言われます。だからといって、哺乳類のコミュニティに行くと、『お前、鳥類じゃん』って言われる。
僕の場合、一般的な営利企業の集まりに行くと、『小野さんって、環境まわりに熱心ですよね』と少し距離を置かれる感じがしたり、農業系の集まりに行くと、『小野さんって売上高を大事にするんですよね』と言われたり、少しだけつらい思いをするわけです(笑)。
でも、『課題解決をしよう』と考えたとき、ボーダー的な存在であることはすごく大事です。それが、オリジナリティの証かもしれない。NPJの取り組みが、そういうボーダー的なチャレンジをしている人の背中を押す存在で、『事業をつくるうえでそのつらさって必要だよ』と肯定してもらえる場になるといいなと思っています」

「時間がかかっても、自身のため、社会や地域のために活動する人をきちんと支えていける場所に」森章さん(評議員)
アカデミアの世界からNPJに参画している森章(もり あきら)さん。現在、国内外でフィールドワークを重ねながら、生態学研究と生物多様性保全をリードする森さんは、こんな言葉を送ります。

森 章 (評議員)
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
「現代では、『生物多様性は大事』というだけではなく、実際、生物多様性が損なわれると事業に支障が出たり、人の健康にとって不利益が生じるなど、いろいろなことがわかっています。だから、『ネイチャーポジティブ』や『生物多様性を回復させましょう』といった動きが加速しているわけです。
また、気候変動の問題では、『温暖化が進むとこんなに怖いことが起こる』という、悲観的なストーリーも昔から多く語られてきたように思います。

一方で、生物多様性は、『こんなふうになれば自然環境が豊かになり、その自然を活用できればこんなふうにハッピーになれる』と、さらに場合によっては稼げるという話も出ていると思います。『ネイチャーポジティブ』というだけあって、生物多様性は、ポジティブな方向に未来をつくっていけると思っていて、そういう視点を活かせるといいですよね。
もしかしたら長い時間を要するかもしれません。ただ、自身のためにも社会のためにも地域のためにも活動しようという人をきちんと支えていける場所がつくれたらいいなと思っています」


一般社団法人ネイチャープレナー・ジャパンの役員メンバー
現在、ネイチャープレナー・ジャパンでは、起業や研究者を志す学生・若者を対象に「次世代ネイチャープレナー・フェローシップ制度(事業・研究探求助成)」をスタートするべく、クラウドファンディングに挑戦しています。
次世代の地球環境再生に挑む起業家たちの挑戦を、ぜひ一緒に応援してください。
▼クラウドファンディングページ(2025年11月24日まで)
https://for-good.net/project/1002340
Webサイト : 一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパン(NPJ)
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