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建物から人へ視野を広げて、まちの変化と共にあるお店を気仙沼でつくる──「くるくる喫茶うつみ」オーナー吉川晃司さん

2025.10.02 

地方では、ひとつのお店の存在が地域に大きな影響をもたらします。物が売買されるだけでなく、人々の暮らしに新たなつながりや、ポジティブな変化が生み出されています。

 

今回は、宮城県気仙沼市の市役所前にある八日町(ようかまち)商店街で、「くるくる喫茶うつみ」を経営する吉川晃司さんにお話を伺いました。

 

建築士として気仙沼に移住し、まちづくり中間支援団体の事務局を経たあと、現在は喫茶店店主としてまちの人たちの憩いの場、そして活動と出会いの拠点を営む吉川さん。その歩みには、「お店」を通したまちづくりのヒントが詰まっています。

 

この記事は、特集「移住して始める、地域にひらかれたお店」の連載として、移住後に地域に根ざした活動を行い、まちに新しいつながりやポジティブな変化をもたらしているお店を紹介しています。

 

吉川 晃司(よしかわ こうじ)さん

くるくる喫茶うつみオーナー

1985年生まれ。大学卒業後、東京都墨田区の木造密集エリアに開設したシェアアトリエ「float」を拠点に、空き家のリノベーションやアートプロジェクトの運営に携わる。2015年から建築設計事務所の業務として、気仙沼市の復興まちづくりに従事。同年より妻の実家のある岩手県一関市に移住。官民連携のまちづくり団体事務局を経て、2021年、八日町商店街の空き店舗を活用し「くるくる喫茶うつみ」を開業した。2019年にローカルベンチャーラボのエリアブランディングゼミに参加。

 

まちの人々が「くるくる」と店頭に立って活躍するレトロな喫茶店

宮城県の気仙沼駅から、徒歩約15分。2匹のサンマが「八」を形作っている看板が目印の八日町商店街の中、市役所の目の前にある交差点角に「くるくる喫茶うつみ」はあります。

 

 

お店がスタートしたのは、2021年。郊外の大型店進出や残ったままの東日本大震災による津波の被害、コロナ禍で空き店舗が増えた商店街で、「日常の中で人々が立ち寄れるあたたかい場所を増やしたい」という思いを込めて、もともと菓子店だった店舗のレトロな雰囲気を残して改装されました。

 

店名は、店主だけでなくいろいろな人が店に立って挑戦してほしいという願いを込めて「くるくる」と名付け、住民たちに愛された菓子店の屋号「うつみ」も残し、「くるくる喫茶うつみ」となったそうです。

 

 

店主の吉川さんは、東京都目黒区出身。筑波大学の建築デザイン領域を卒業し、2014年からまちづくりの仕事を広く手がける建築事務所に勤め始めました。そして事務所が請け負っていた気仙沼復興の仕事の現地スタッフとして赴任されたのだそうです。

 

東京で知り合ったパートナーが岩手県一関市(いちのせきし)の出身で、この赴任のタイミングで結婚し、一関市に住みながら八日町の復興まちづくりに携わってきました。

 

今も一関でご家族で暮らしています

 

建物から人へ。まちを捉える視点が広がっていった移住後の数年間

吉川さんがまちづくりに関心を持ったのは、墨田区で暮らしたことがきっかけだったと言います。

 

墨田区には古い建物が多く、まちづくりに関するさまざまな活動を行っている人たちがいて、大学卒業後は友人たちとぼろぼろになった町工場を借り上げてDIYで改装して、アーティストたちが作品制作できるシェアスタジオを始めたのだそう。勤めていた建築事務所とも、パートナーとも、この活動をきっかけに出会ったと言います。

 

墨田区の町工場をリノベーションしたシェアアトリエ兼イベントスペース「float」(撮影 : 高田洋三)

 

そうした背景もあり、建築事務所の気仙沼での仕事が終了したあとは、地元の経営者たちが震災後に創設したまちづくり中間支援組織「一般社団法人気仙沼市住みよさ創造機構(以下、機構。2021年08月閉業)」の事務局として働き始めます。そのときの経験が、「くるくる喫茶うつみ」に大きく影響しているのだと吉川さんは語ります。

 

「それまでは建築の観点からまちづくりに関わることが多く、まちづくり=ハードの開発だと思い込んでいたんです。けれど機構で、復興の支援にきた方々とまちの人をつなぐ仕事を始めて、人材系の会社さんの『採用を考えることもまちづくりだ』という言葉にハッとさせられました」

 

さらに、「八日町みちくさプロジェクト」という、空き地や商店街の店先のちょっとしたスペースを活用してまちの人たちが得意を活かすイベントを企画した際、移住者や若者の活動に快く協力してくれる年配の方たちの多さに驚いたという吉川さん。同時に、素晴らしいイベントが実施できても、翌日には元通りのまちに戻ってしまう課題を感じるようにもなったといいます。

 

「まちを変えていくなら、まちのさまざまな人たちが訪れやすい恒常的な活動拠点や、シンボルのような場所が必要なのではないかと考えるようになっていきました」

 

八日町みちくさプロジェクトの一幕

 

商店街の景色や雰囲気を、店内に寄せ集めたような店を目指して

それから、チャレンジショップやシェアオフィスの運営を構想し、2019年には商店街内で小さな商いができるシェアテナント「てんまど」をスタート。シェアテナントへのニーズの手応えは得られたものの、営業時間が出店者が出店する日の昼間の数時間に限られるという制約があり、「もっとふらっと立ち寄れるような場所をつくりたい」と思い始めたのだと語ります。

 

そうしたタイミングで宮城県から発表された、商店街の空き店舗を活用する場合に使用できるという補助金制度。最初は自分でお店をやることまでは考えていなかったという吉川さんですが、自らがプレイヤーとなり場をつくることを決心されました。

 

当初は、墨田区にある「喫茶ランドリー」のようなお店を構想していたという吉川さん。その話を聞いた商店街のおじさんから「洗濯機を置いたりすると地元の人は恥ずかしがって利用しないよ」という声をもらい、最終的にはシンプルな喫茶店としてスタートすることになりました。

 

「商店街の景色や雰囲気を店内に寄せ集めたようなお店にしたいというアイデアが浮かんだんです。そこから、お店にいるけれど商店街の中にいるかのような感覚を抱く空間を目指しました。

 

この建物はもともと全面ガラス張りで、通りすがりの人がふらっとパンを買っていってしまうような魅力的な場所だったんです。その印象を残して、まちになじむよう設計し、施工はつながりがあった地元の若い大工さんにお願いしました」

 

全面ガラス張りで、道行く知り合いとも出会える空間

 

これまで交わらなかった人たちが出会い、震災で一度は失われた時間が再び始まる場所

オープンから4年。若者や移住者だけでなく、地元の年配の方たちにも愛されるお店となっている「くるくる喫茶うつみ」では、吉川さんの願い通り、たくさんの人が“くるくる”と店頭に立って頻繁にイベントが開催されています。

 

例えば、「つながるアジア・カフェ」。NPO法人「地球対話ラボ」のプロジェクトでまちをリサーチした際、「まちで外国人をよく見かけるけれど、話したことはない」という声をよく聞いたことから、2021年11月から気仙沼に暮らすアジアルーツの方たちとの交流を目的に、月に一度の「つながるアジア・カフェ」(旧「つながるインドネシア・カフェ」)がスタートしました。「くるくる喫茶うつみ」では、会場提供・運営の協力をしています。

 

つながるアジア・カフェ開催時の様子

 

そのほかにも、月数回の夜営業「よる喫」、DJ教室やブックバー、ゲストがただ「いるだけ」のイベントなど、ここでは伝えきれないほどの数々のイベントを開催しています。そんなお店の在り方は、先述した「八日町みちくさプロジェクト」の延長線上に「くるくる喫茶うつみ」があるという想いからなのだそう。

 

11時〜17時の喫茶営業に加えて、毎週金曜日は夜営業「よる喫」も

 

「実際、お店によく来てくれる友人・知人と『こんなイベントをやってみよう』と話して開催されるイベントも多いです。だいたいは突発で決まって、1週間前に『来週のこの日って使えますか?』と聞かれることも普通にあります。

 

自分からの企画は、全体の数から考えるとすごく少ないと思います。企画するにしても、何かをやりたい人を主役に立てることが多いですね。

 

最近は音楽のイベント、特にここ1年はDJイベントをたくさん開催してます。音楽系の企画で知り合った人を通じて、震災前に八日町のすぐ近くにDJバーがあったことを知って。当時は毎晩のように夜遅くまで開いていて、DJの練習をしに来る人でにぎわっていたそうなんですが、震災後になくなってしまったんです。

 

そこに集っていた人たちが、今また集まり始めていて、その場所のひとつとして『くるくる喫茶うつみ』を使ってもらっています」

 

DJイベントの際の一枚。店内には同じ商店街の別のお店から借りてきた「たばこ」コーナーがあり、その中がDJブースになっています

 

「ほっと一息できて、そこに居るだけで土地の魅力と出合えてしまうお店」があるといい

移住者である吉川さん。これほどまでに多様な人たちと関わり合いながらお店を運営されている背景にあるものを伺うと、このように語ってくださいました。

 

「僕の場合、設計事務所を経由して気仙沼に来たので、移住者ネットワークは当初全く知らなかったんです。けれど、気仙沼の地元の方たちの移住者を受け入れる度量の広さがものすごくて、むしろ僕が気仙沼に“巻き込まれた”感覚です」

 

吉川さんお手製のビリヤニ。その他、季節のデザートも楽しめます

 

さらに、この先も商店街や地域の中に人々の新しい活動の拠点をつくりたいと語る吉川さんに、「地域にあるといいお店」について尋ねてみました。

 

「すごくありきたりかもしれないですが、僕自身いろいろな地域を訪問して、楽しいなと感じてきたお店は、その地域の案内所のような地域の特徴を体感できるお店でした。でも、決してそれだけではなくて、普通にお茶したい人も気持ちよく滞在できるような場所で。

 

『くるくる喫茶うつみ』も、ちゃんと喫茶店でありながらも、まちの変化の恒常的な拠点でありたいと思っています」

 


 

吉川さんが淹れるハンドドリップのおいしいコーヒー、お手製ビリヤニを味わいながら、気仙沼のたくさんの人たち、その活動と出会える「くるくる喫茶うつみ」。お店の営業日やイベント情報は公式Instagramで随時更新されていますので、ぜひチェックして遊びに行ってみてください。

 

移住者も地元民も関係なくおおらかにつながる気仙沼という土地の魅力に、きっと出会えるはずです。

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。

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