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現場の取り組みから、地域における大きな仕組みづくりまで【子どもの未来のための協働―6団体の3年間 : 前編】

2023.05.10 

子どもの未来の ための協働 6団体の3年間(前編)

 

児童虐待、貧困、いじめ、教育格差など、日本社会は、子ども・若者やその家族を取り巻く多くの課題を抱えています。一方で、こういった課題への社会的認知が広がり、政府や自治体などでの対策が進みつつあります。

 

しかし、予防的取り組みや構造変化に向けての実装、制度化や運用はまだまだこれからです。

 

そこで、NPO法人ETIC.(エティック)では「子どもの未来のための協働促進助成事業」を2020年度に始めました。子どもの未来に向けた地域づくりを、コレクティブ・インパクト(協働)で実現しようと挑戦する団体を支援する事業です。

 

開始から3年経ち、2022年度に完了を迎えた本事業。

先日、これまで支援してきた実行団体およびその連携団体で、3年間を振り返るイベントを開催しました。3年間を経てどのような変化があり、新たに見えてきた課題は何かなど、各団体同士が継続的に活動していくために重要なポイントが共有されました。

 

2022年度、本事業は完了を迎えました。

NPO法人ETIC.(エティック)は2019年度より休眠預金等活用法に基づき、資金分配団体として「子どもの未来のための協働促進助成事業」を推進してまいりました。全国の子どもを支援する団体が、協働による地域の生態系醸成を実践することを目的に、そのモデルとなりうる実行団体に対して資金的・非資金的な支援を実施しました。

事業詳細はこちら>> 「子どもの未来のための協働促進助成事業

NPO法人Learning for All  : 地域内での連携が深まり「課題対応」だけでなく「アドボカシー活動」へも発展

 

<活動概要>

宇地原 : NPO法人Learning for All (LFA)は、子どもの貧困解決をミッションに、学歴期の子どもたちへの、学習支援や居場所の提供、子ども食堂など、各地で支援をしています。子どもをとりまく課題は、経済的困窮だけでなく、不登校、虐待、自殺など、さまざまであり、環境はますます悪化しています。子ども自身だけではなく、周りの大人も課題を抱えているため、それぞれに関わる団体同士の連携が大切だと考えました。団体同士を有機的に結びつけるための事業を申請し、採択を受けました。官民での子どもの地域課題への対応を進めています。

 

詳しい活動内容は下記をご覧ください。

>>  セクターを超えた協働で「子どものヘルプ信号」をキャッチする~つくば市とNPO法人Learning for All の協働~

 

<3年を振り返って>

宇地原 :

・ネットワークの形成

LFAは、地域で子どもの支援を行う団体とのネットワークづくりに注力してきました。学校内外での学習支援の機会を広げていくために、地域の支援団体への挨拶まわりや、会議の開催・参加などさまざまな活動を行いました。そうした関係が発展していく中で、学習支援団体が参加する講座の講師として、学習支援や子ども支援の基礎的な知識技能に関する研修も実施しました。

 

・地域内での変化(子どものニーズを拾い、応える地域へ)

活動実施期間は、コロナ禍でもあり、多くの子どもたちが困難に直面していました。そうした中でも、宅食の実施や不登校教室の運営などを進めました。また民間団体が協議会に加入する例はまだ全国でも数少ない、計5回の要保護児童対策地域協議会への参加が叶いました。

 

・今後の発展について

LFAでは、子どもを中心とした取り組みをもっと増やしていきたいという思いがあります。そこで、3年間の活動により築いたネットワークでの取り組みが発展し、教育委員会と協働し、子どもの権利に関する勉強会を実施することになりました。他の団体と具体的な「ゴール」を共有できるようになったのは大きな変化だと思います。

一方で、今後はネットワークの各団体の持続可能性を高め、実現していかなければならないとも感じています。団体の存続を支援する中間支援の役割が必要だと思います。

 

複雑な子どものニーズに対応する活動を進めるためには、さらなる連携の進化が重要です。これからも、連携を強化していきたいです。そして、アドボカシー活動などにおいても、ネットワークが市民の総意になると思うので、続けていきたいです。

 

安次富 : この3年間で、行政や地域の方との活動ができて、本当に貴重な機会でありよかったと感じています。実直に、当たり前のことをやっていく、子どもにいい支援を届けることを伝えることを繰り返すことで、理解を深めてもらえたと思います。当たり前のことを続けることの大切さを痛感しました。

 

佃 : 3年では、実は「学校内支援」よりも「学校外」のほうが子どものニーズにあうのではなど、活動を通してさまざまな変化に直面しました。こうした変化をマネジメントするのは難しいですが、新しいチャレンジができてよかったと感じています。

 

<質疑応答>

Q : 自治体と要対協の開催を決めた際には、調整機関になられたのでしょうか?

A : 具体的なケースを学校やスクールソーシャルワーカーに説明したことで、ケース会議になり、自治体と要体協での対応がふさわしいということになりました。現場での具体的なケースが地域を動かすことになったのだと思います。 

まつどでつながるプロジェクト(NPO法人MamaCan) : 孤育てを防ぐ取り組みを広げながら、ネットワーク団体を支える「中間支援」としての活動へ挑戦

 

<活動概要>

山田 : 松戸では、子育て支援に関するNPO3団体が連携し、親の孤立を予防するため、その他の支援団体を巻き込みながら「まつどでつながるプロジェクト」と称して、さまざまな取り組みをしています。特に、グレーゾーンといって「目に見える困難」に陥る寸前の状態の家庭の支援に注力しています。

 

グレーゾーン家庭の多くは、「もっと困っている人がいる」と思い、声を上げない可能性が高く、そのまま孤立が進んでいきます。孤立が進むと、虐待などのリスクが高まり負の連鎖が始まってしまうため。「まつどでつながるプロジェクト」を立ち上げ、いつでも相談できる窓口の設置、ファミリーカレッジ、地域円卓会議など、グレーゾーン家庭へアプローチする活動をしています。

 

3年間を通して、下記の8つの活動をしてきました。

●行政・支援団体・街の応援者がつながる地域円卓会議

●行政・民間の子育て情報をまとめたWEBサイト、LINE相談窓口

●結婚・出産前から子育てを学び「こんなはずじゃなかった」を予防するつながるファミリーカレッジの実施

●赤ちゃんの誕生を地域みんなで祝う出産お祝いプレゼントの配布

●課題を抱えている親や子に継続して関わる伴走型支援の仕組みづくり

●コロナ禍でも子どもたちの学びとつながりを切らさないオンライン学童

●キッチンカーによるアウトリーチ活動「駄菓子屋カフェくるくる」

●松戸子育て市民サポーター養成講座「まつドリ子育て応援隊」

 

詳しい活動内容は下記をご覧ください。

>> 誰もがなりうる「孤育て」を減らす。千葉県松戸市で進む、「達成したい未来」を共有した街ぐるみの連携

 

<3年を振り返って>

阿部 :

・当事者にとって安心できる場

活動の中で意識したことは、当事者とのつながりをつくること。当事者が求めるものを分析していくと、ちょっとしたことを共有できる相手を求めていることがわかったからです。例えば、出産前にLINE窓口(24時間対応)に登録いただくように勧めました。すると、産後、夜中の授乳の時に辛いなどの相談をリアルタイムでLINE上で受けることでき、当事者が“しんどい”とコメントすることもありました。

 

グレーゾーン家庭は、うまく言語化できない悩みを抱えている場合があり、安心できる話し相手を求めています。まつどでつながるプロジェクトでは、グレーゾーン家庭を支援することで、困難な状況に陥るのを防いでいます。

 

・行政との連携のチャレンジ

まつどでつながるプロジェクトは、行政団体やその他の子どもにかかわる支援団体や個人を招いて円卓会議を年3回ほど実施しました。延べ、126名の参加があり、さまざまな意見がでました。2022年度からは、「子ども政策課」との協働事業となり、継続的に実施していくことになりました。

 

・今後の発展について

まつどでつながるプロジェクトの活動は、支援者数が多数であり、取り組みも多岐にわたっています。一方で、まつどでつながるプロジェクトにも、中間支援団体としての機能が必要であると感じています。クラウドファンディングに挑戦するなど取り組みを始めていますが、困難が伴うとも実感しています。しかし、組織体制を強化することで中長期的に活動を続けていけるようになるので、中間支援組織としても成長できるようにしたいと思います。

 

コーディネーター(五井渕) :

まつどでつながるプロジェクトは、コンソーシアムの活動として、孤立を防ごう、個々それぞれに活動することの閉塞感から抜け出そうとの思いから始まりました。

 

また、プロジェクトに関わるそれぞれの団体が、子どもの課題の現場をもち、当事者と共にありながらも、「中間支援組織」として他団体への支援をするように成長し始めています。こうした両面性は今後に向けて大事なポイントになると思います。

 

3年を振り返って見えたきたことは、官民がフラットな立場で対話できる場をつくることで、関係性から生産性を高められるようになることです。さらに今後は、子どもの権利の普及や政策提言など、具体的なプロジェクトになっていくことを期待しています。

 

<質疑応答>

Q : 他機関連携でさまざまな立場の支援者や関係者が集うのは重要な一方で、連携を進める中での葛藤を感じることはありますか。

A : 職業・専門家としての立場から見える課題と現場から見える課題とでは、見え方が違うことがあるので、議論をすり合わせることが難しく感じる場合があります。しかし、個人としての気持ちでは、同じように課題を共有できることもあり、互いの理解が深まりズレを解消できたということがありました。

わが町にしなり子育てネット(特定非営利活動法人子育て運動えん) : 20年以上の連携を発展させてこれからの世代にもつなげていく

 

<活動概要>

田熊 : 大阪市西成区は、生活困窮世帯が多く生活しているエリアでもあったことから、20年以上前から、子どもを支える活動がありました。学校や保育園など官民のそれぞれの機関が、話し合いを設ける場の「ケア会議」から始まり、現在にいたるまで各団体が連携しながら支援を続けています。なお、このケア会議は、その後「要保護児童対策地域協議会」のモデルとなりました。

 

2000年ごろには、「わが町にしなり子育てネット」という名称をつけ、地域内の約70団体が連携し「子育ち・子育て」を支援するようになりました。居場所や楽しい遊びの場、虐待の予防・ヤングケアラーの保護、支援者の勉強会など、子どもたちのために発展。ネットワーク内では、情報連絡をして、要保護状況にある子どもの情報を共有し、対応を協議するだけでなく、親子の交流機会や家庭訪問など、予防的アプローチにも取り組んでいます。

 

<3年を振り返って>

・ 特定非営利活動法人子育て運動えん/わが町にしなり子育てネットの3年間での成果

西成地区では、古くから連携による支援が進んでいたので、本事業では特に「経済的困窮」「ひとり親世帯」などを対象に、深刻な課題があるにもかかわらず支援につながっていない孤立したケースを対象としました。そして、2020年以降のコロナの影響で、就労前の若者の孤立や不安・生活困窮も進んだため、若年層も対象としました。

 

この3年間、経済困窮する世帯や、ひとり親や困窮世帯に対して、「ぴよちゃんバンク、にしなりじゃがぴーパーク、あそぼパークプロジェクト、子育て応援講座」など、直接的にアウトリーチするだけでなく、居場所の提供も継続して行っています。それぞれの支援が何重にもなることで、表に出てこない課題を引き出せるようになりました。

 

若年層には、「みんなの家」という居場所を提供し、就職活動の際にも、根本となる自信・自律・自己効用を感じてもらえるようになる機会となりました。

 

一方で、個別の事業がいかに自立的に継続できるか、既存の制度の運用についても課題が見えてきました。たとえば、孤立家庭への支援で送迎サービスは提供できますが、他に少しの間外で遊んでいてもらいたいと親が思っても、 送迎サービスに外遊びが含まれないので対応できないなど、柔軟に対応できない部分が見えてきました。

 

・今後に向けて

日本全体で、子ども家庭庁などの動きが出始めてきていますので、要対協の時に西成がモデルとなったように、今後の政策立案に対して、西成の経験に基づいて提言できると思います。

 

今後は、もっと大人にも優しい町を目指していきます。無理している大人を見て傷つく子どももいるので、誰にでも優しいエコシステムの構築が必要です。さらに、就労前の若者に対しての支援はあまりないので、就労支援の前の支援の基盤を整備したいと思っています。

 

・活動を伴走したNPO法人Living in Peaceから見えた成果

西成の活動は、20年以上にもなり連携がもともとあったところです。今回の事業によって、明確な事務局機能ができたのは大きな成果だと思います。また、事務局機能ができたことで、SNSでの発信ができるようになり、若い世代の家庭ともつながれるようになりました。また、これまでの活動の歴史を冊子にまとめたことで、再度ビジョンを団体間で共有することができ、一体感がさらに高まりました。

 

一方、今後に向けて見えたきた課題として、現地で必要な人的資本や社会資本の重要性を感じました。また、西成では「支援する側、される側」が一体となっていた歴史がありましたが、最近では互いの立場に少し温度差を感じることもあります。いかに、未来世代に対して、西成らしい一体感のある支援を引き継いで行けるか模索をしています。

 

・今後に向けて

NPOが行政や企業と対等な関係になるにはどうしたらよいのか、さらに役割や機能を発展させる必要があると感じています。また、理論どおりにコレクティブインパクトの実践は難しい場合があるので、新しい有機的なロジックの発展が必要だと感じています。

 

<質疑応答>

Q : 就労前の若年層に対して、業務の斡旋ではない支援とは、どのようなものでしょうか。具体的な事例を教えていただけますでしょうか。

A : 就労前のサポートとして、どのような仕事をしたいか、どんなことができるかを高校生に質問しますが、具体的な会社や仕事は提案していません。高校生がしたいことやできることで、まずアクションをしてもらい、自分で仕事を作る体験をしてもらっています。たとえば、料理が好きな子は、自分でメニューなど考えて、お弁当屋さんをみんなの家で実践しました。こうした体験から、既存の仕事に就くだけでなく、自分で仕事は作れるという認識を深めています。

 

***

 

【後編はこちら】

>> 地域、当事者、行政、他団体…連携が深まり生まれる新たな機会も【子どもの未来のための協働―6団体の3年間  :  後編】

 

この特集の他の記事はこちら

>>  子どもの未来に向けたコレクティブインパクトの実践

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。