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#経営・組織論

「心臓病の手術からみえてきたこと」新しく財団をつくろうとしているWIA加藤轍生さんに聞いてみた

2015.03.05 127view 

20代の初めから、社会起業家たちへのコンサルティングを仕事として取り組んできた加藤轍生さん。2011年には震災復興に取り組む社会起業家への投資を行うWorld in Asiaを立ち上げ、活動してきました。2015年、新しく財団を設立するとのことで、現在READYFOR?で賛同者を募集しています。

前編では財団についての話を伺いましたが、後編では働き方やリーダーシップについてのお話を伺いました。

加藤轍生さん

加藤轍生さん(右)へのインタビューの様子。

コンサルではできなかった、インパクトの追及

石川:これまでコンサルティングとして社会起業家に関わってこられたと思うんですけど、財団という形にたどり着いたのは、なぜだったんでしょう。

加藤:僕単独でコンサルティングをやってた方が、年収はずっと高いと思うよ(笑)。けれど、コンサルティングより財団をやった方が、社会的なインパクトが10倍くらい増える。コンサルって、お金持ってる人からお金をもらって問題解決をするビジネスであって、お金持ってない人たちには、たいして効果がない。

あと、コンサルティングって、前提として、お客さんに課金しないといけないから、お客さんの売り上げがあがるタイミング、費用を削れるタイミングしか関われないんだよ。起業家には、事業が伸びるタイミングや個人が成長するタイミングがあるけれど、そうしたインパクトが出せるタイミングと、お金を払えるタイミングって往々にして重ならないんだよね。

石川:そうですね。コンサルティングにお金を払えるNPOは限られるなと思います。

加藤:財団だったら、「目指していくのはこっちですよね」とか、「ちゃんとインパクトを計測していこう」とか、並走していくようなコミュニケーションができる。こちらもお金を出しているわけだから、関係性が変わる。これは大きな違いだね。最初に話した、NPOとITベンチャーのパートナーシップも、財団的なアプローチだったからつなげた。多分、コンサルティングだったら、うっとうしがられてただろうと思う。

石川:今までキャリアを積み重ねてきて、1番インパクトを出すためにたどりついた答えが財団だったっていうところなんですね。ところで、一昨年に心臓病で倒れられていますが、わざわざ無理を身体にかけてまで、これをやっていくモチベーションは何なんですか?

加藤:社会の問題を変えたいというのはもちろんあるんだけど、社会起業家の社会認識の仕方をもっと変えたいんだよね。たとえば、地域で活動してるリーダーは、みんな自分の地域のことだけで想像力がストップしてしまう。成功して影響力が強くなったリーダーが、「私の問題しか興味ありません」みたいなのはちょっとまずいかなと思っていて。

想像力をもう少し広げたら、隣の地域とエコシステムをつくったり、一緒にできることがいろいろある。そうした点在しているプレイヤーたちを応援して、点が線になって、線が面になったら、社会は変わってくると思うんだよね。本来繋がるべきものたちが、ちゃんと繋がるような支援ができたらいいなと思ってる。

石川:あと、「辺境から世界を変える」(加藤さん著作)にもあるとおり、アジアに関わってらっしゃるイメージも強いです。今回の財団ではどういうふうに関わっていくつもりですか?

加藤:日本とアジアで問題構造は違っても、求められてるソリューションってほとんど一緒だったりするんだよね。東北でやっているようなE-learning(インターネットを活用した教育システム)を、次はインドネシアやスリランカでやってみようという動きも起きているし。財団の活動範囲を国内にしぼるわけではないし、アジアと日本の問題を一緒に解決していければと考えています。

なぜ社会起業家はたまに世界を変えられるのか

社会的インパクトを求め続ける自己矛盾を抱えて

石川:加藤さんは、仕事をする上で、計画的な部分と偶発的なものを残す余地は、意図的に設計していますか。

加藤:最近、計画をしない努力をしてるね。「計画された偶発性」(Krumboltz 1999)みたいなものとも言えるかな。自分の能力、組織の能力に対して僕らは高いインパクトを求めるじゃない?僕は高い目標を掲げて、やりすぎて心臓病になったわけだけど。それって、力をとりこむんじゃなくて自分の能力をそこまで延ばさねばならないという、ちょっと間違ったプロフェッショナルマインドだったんだよね。

ビジネスに取り組む起業家は、インパクトを出そうとした時に、組織のキャパシティをスケールアップしようとする。けれど、ソーシャルアントレプレナーは、より大きな力を取り入れようとする(上図)。ここには大きなギャップがあるし、すごい自己矛盾がある。自分や組織の能力が低いにもかかわらず、高い社会的インパクトを求め続けるという自己矛盾を抱えながら走らないと、大きな力を取り込めない。

石川:ビジネス的なリーダーシップやスキルであったり、プロフェッショナルとしての在り方と、社会起業家の行動パターンが違うってことですね。 加藤:プロフェッショナルって、成果に対する再現性も求められるし、個人を起点にものを考えていて、目標をたてるときに自分ができそうな目標をたててしまうんだよね。でも社会を変えていくには、自分を主語にしないこと、「私」ではなくて社会そのものを主語にしていくことが重要だということだね。それが、社会起業家の持つ力なんじゃないかな。

石川:ビジネスセクターでまじめに修業した人ほど、そこの考え方の切り替えに、とても苦労してると思うんですよね。僕自身も(さほど修行していないけれど)、ついついやってしまう。仕事を美しくこなそうと、完璧主義になっちゃうんですよ。「自分が!」になっちゃってますね。

加藤:プロフェッショナルマインドが強すぎるんだろうね。こうした考え方やありかたって、学生のまま起業した人たちの方がうまいかもしれない。

石川:ビジネスや行政からみて、例えやっていることが素人っぽく見えたとしても、結果として大きなインパクトを出している方々がたくさんいらっしゃいますね。

心臓病の手術から見えた、相手を信じることの大切さ

石川:もう少し個人的な体験についても伺ってみたいのですが、大病を患って復活して、しばらくの期間を経て財団をつくることになったわけですけど、その経験と今の仕事との間のつながりってありますか?

加藤:それはあるよ。病気する前だったら、びびって今のチームを作れなかったと思う。今のボードメンバーは、それぞれが異分野のプロフェッショナルであり先駆者で、一人一人と話すだけですごくエネルギーを使う。そういう人たちとちゃんと向き合えるのは、病気の経験があったからだと思う。手術の経験を経て、取捨選択の基準が「それをやって、死んでも後悔が残らないことしかやらないようにしよう」となって、自分の時間の密度が5倍くらいになったしね。

あと、プロフェッショナルって、一定のクオリティを保てるとお互い信頼できることが、人間関係の前提でしょう。僕は支援や投資をする仕事だから、基本的には起業家に託す仕事なんだけど、病気になる前は信頼しきれていなかったなというのがあって。過剰に相手の問題を解決しようとしすぎてしまったところも結構あるし、ジレンマがあった。そうした部分が、心臓病を経てなくなったなと思います。

石川:よろしければ、病気の時の体験を詳しく聞いてもいいですか?

加藤:心臓病って、人にゆだねるっていう意味で、面白い体験だった。手術って医者とか看護師さんを信頼するためのプロセスなんだよ。最初に手術の説明を聞いたときは、危険率10%ってあって、「いや待て待て、10%の確率で死ぬってこと?」って、手術の説明を受けて、気を失って。気を取り直して、経営者としての始末をしつつ、遺書を書いたりもした。でもある時ふと、医師や看護師が一生懸命やってるのにそれを信頼しない僕にたいして、なんか変な感じがしたんだよね。だから、意識的に信頼するということを選択してみようと。自分の命を完全に預けるというか。

その後、手術してみて開胸したら心臓の弁が菌にやられて溶けてたり、本当に危なかった。でもそのときに、自分の命をちゃんと人に委ねる経験ができた。手術台に乗って全身麻酔をされたとき、なんか安心できたんだよね。この人たちに任せれば、別に死んでもいいやっていうか。手術室を出て自分の病室に行って、鏡をのぞいたら顔つきが変わってた。「自分が自分が」っていう感覚が消えてたし。自分を主語で考えれなくなった。

手術直後の加藤さん

手術直後の加藤さん

石川:それはすごい体験でしたね。

加藤: 友達の医師にも言われたんだけど、手術がうまくいったのは信頼したからじゃないかって。看護師さんとも話したけど、怖がってる人の注射って外れる確率が高いんだって。相手を信頼しているかどうかで、相手のマインドセットやパフォーマンスに影響するんだよね。

それは、社会起業家に関わるプロセスでも同じことが言えると思う。これはベンチャー投資と一緒なんだよ。ベンチャー投資で一番駄目なことは、途中で信じられなくなること。会社の事業には波があって、調子が下がった時に信頼関係が崩れやすい。そんな中で、「でもやっぱりこの人たちに賭けてるんだ」って覚悟がないといけない。それができると、関係の作り方がすごく変わる。

石川:手術での経験が、財団を立ち上げていく上での学びにもなったわけですね。

加藤:ビジネス・プロフェッショナルとしての力と、大きな力を取り入れていくようなソーシャルアントレプレナー(社会起業家)の力、両方持ってないとできないことがある。大きな目標を掲げてチャレンジして、かつ再現可能性が高くないとやれない仕事があって、財団もその中の1つだなあって。僕は今年で35歳なんだけど、20代では人のお金をお預かりすることは出来なかったと思う。両方の力を使っていくバランス感が、だんだんできてきたように感じているね。

石川:今だからこそできるチャレンジ、楽しみにしています。ありがとうございました。

>>前編「財団ってそもそも何ですか?」

WIA 加藤轍生さん関連リンク

WIA Lab Inc.代表取締役/加藤轍生

1980年大阪市に生まれる。喘息患者として公害病認定され、小学校時代の3年間を療養生活に費やす。経済成長の渦中のアジアを旅する中で、過去の日本と同じ構造の社会問題が再生産されているにも関わらず、それを解決するイノベーションが移転されてないことを知る。 大学在学中より、独立系のベンチャーキャピタルで事業開発の経験を積み、経営コンサルタントとして独立。その後、非営利セクターの事業開発に転じる。09年より、アジア圏での事業開発に軸足を移し、2011年に震災復興に挑戦する社会起業家への投資を行うWorld in Asiaを立ち上げ。以降、アジアの社会的投資のアクターとして活動する。著書に「辺境から世界を変える」(ダイヤモンド社)

聞き手/石川孔明

1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)とお茶と自然を愛する。

この記事を書いたユーザー

田村 真菜

田村 真菜

フリーランス/1988年生まれ、国際基督教大学卒。12歳まで義務教育を受けずに育ち、野宿での日本一周等を経験。311後にNPO法人ETIC.に参画し、「みちのく仕事」「DRIVE」の立ち上げや事務局を担当。2015年より独立、現在は狩猟・農山漁村関連のプロマネ兼ボディセラピスト。趣味は、鹿の解体や狩猟と、霊性・シャーマニズムの探究および実践。

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