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学生も成長し、企業の変革も加速するインターンシップの設計とは?「長期実践型インターンシップ入門」出版記念イベントレポート【1】

2024.05.09 

皆さんは、インターンシップと聞いてどのようなものを思い浮かべますか?

日本のインターンシップは学生が就職活動のひとつとして「就業体験」をする短期的なものが大半です。

 

一方、NPO法人ETIC.(エティック)は、1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ(当時の事業名はアントレプレナーインターンシッププログラム【EIP】)」をスタートさせました。

その後、2003年に、全国の中間支援組織とのネットワーク「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト(以下、チャレコミ)」を開始し、全国のメンバーと一緒に、全国の中小企業を受け入れ先として事業を行っています。

 

この度、「長期実践型インターンシップ」とはどのようなものか、そこに関わる「コーディネーター」はどのような役割なのか、価値のあるインターンシップが理解される、実践知のエッセンスを詰め込んだ書籍『長期実践型インターンシップ入門』が出版されました。

 

著者は名古屋産業大学の今永典秀さんと、全国でインターンシップのコーディネートに取り組んできた皆さんです。今回は、その出版記念イベントの模様をご紹介します。

 

<登壇者>

モデレーター:今永典秀(いまなが・のりひで)さん/名古屋産業大学

伊藤淳司(いとう・じゅんじ)/NPO法人ETIC.

南田修司(みなみだ・しゅうじ)さん/NPO法人G-net

(プロフィールは文末に記載)

 

 

今永さん: 「⻑期実践型インターンシップ」とは、一か月以上の⻑期間で、専属のコーディネーターが学生と企業双方に、事前・実施中・事後にわたって伴走支援を行うことで、企業の事業価値を高めながら、学生の教育効果の実現を両立するインターンシップのことです。

 

なぜ、この本をつくろうと思ったのか。

 

日本でのインターンシップのトレンドを見ると、2010年以降、超短期の「ワンデーインターンシップ」と呼ばれるものが大半を占めるようになりました。このインターンシップの効果は、業界を知る、知識を得る、雰囲気を知るといったものが中心です。

 

では、果たして学生の短期インターンシップは本当にメリットがあるのだろうか。企業の採用に繋がるとはいえ、資金力やブランド力だけで学生が集まり、大企業と中小企業で格差が生まれているのではないか。それは、「インターンシップ」ではなくてもいいのではないか。

 

多くの学生に価値のあるインターンシップとはどういうものかを理解できる本、学生向け入門書となる教科書を作りたいというのが一番の動機でした。

 

今日は、この「長期実践型インターンシップ」を立ち上げたエティックの伊藤さんにお話を伺い、その後、地方でこのプログラムを展開している岐阜県のG-net(ジーネット)の南田さんのお話を聞きながら、理解を深めていきたいと思います。

 

登壇者の3名。左上が今永さん、右上が伊藤、下が南田さん。

大学生が勝手に起業家のもとに行って修行したことが長期実践型インターンシップ事業の原点

 

伊藤: 僕がエティックに入ったのは1997年頃で、アントレプレナーインターンシッププログラム(EIP)をスタートした時から参画し、全国に広げていきました。

 

エティック(ETIC.)の、Eはアントレプレナー・アントレプレナーシップのEで、起業家・起業家精神のことです。1993年に大学サークルとして、大学生に起業家という生き方・働き方を伝えていこうとスタートしました。

 

はじめは、大学に経営者や起業家を招き「全国縦断アントレプレナーセミナー」を行いました。セミナーで学生が起業家の話を聞くと「自分もやってみよう!」と、その瞬間は盛り上がるのですが、一週間ぐらい経つと熱も冷め、また普通の姿に戻るという課題がありました。

一方、セミナーの後に、学生に本気スイッチが入り、「修行させてください!」と勝手に起業家を訪れ、いつの間にかその人の右腕になっているという、マッチングが起きていたのです。

 

このことから、経験・体験・実践の中で自発的に動き、学ぶことが重要なのではないかと感じ、自分たちで事業にしていこうとスタートしたのが「長期実践型インターンシップ」でした。

 

その背景には、当時エティックの理事をしていた佐藤真久(さとう・まさひさ)さんが研究していたアメリカでのインターンシップについての資料が大きな役割を果たしました。

 

ETIC.伊藤淳司の発表資料より

 

アメリカでのインターンシップの人数は、ベンチャー企業がアメリカで増え始めた1960年から、急激に増えています。その背景はベンチャー企業でのインターンシップの増加です。要するにスタートアップや新しい組織、少数制組織の中で大学生でも活躍できるという理論的な背景があったことを表しています。

 

ETIC.伊藤淳司の発表資料より

 

また、アメリカでは、インターンシップが行われる時期になると、人材が大移動し人口変動が起きるという話がありました。西海岸方面には、ハイテク産業、ベンチャー企業、NPOのもとでインターンシップをする人が行きます。ワシントン方面には、国連機関、連邦政府などでインターンシップをする人が行き、夏になるとサマーインターンに参加する学生でワシントンDCの人口が増えます。

 

これらの資料から、日本でもこういったことが起こり得るのではないか、それならば日本でもやる必要がある、やれるんじゃないかと非常に大きなきっかけになりました。

 

これらを踏まえて、それまでのエティックの取り組みを通じた起業家やベンチャー企業との繋がりを活かして、大学生の起業家マインドを育みながら、少数精鋭の組織や地域の中小企業に大学生がインターン生として参画して、経営者や起業家が考える新規事業などの力になれるのではないか、というコンセプトで事業がスタートしました。

 

1997年に東京を中心にインターンシップ事業を始めて、2004年にはこの事業で培ったインターンや起業支援、創業支援の仕組みを全国に広げていこうと、「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートしました。

 

これは、全国各地でエティックと同じようにコーディネートをする人や、やりたいという人たちを発掘し、集めて、一緒にインターンシップや、アントレプレナーシップを持った人材を輩出し、チャレンジしたい社長さんやリーダーを応援し、地域を盛り上げていこうという事業です。

 

開始当初は、札幌、山形、京都、大阪、岐阜の5つのモデル団体でスタートしました。 現在エティックは、約50団体のチャレコミの会員の皆さんや、全国で百数十箇所の地域プロデューサーの皆さんと一緒に様々な事業を展開しています。

企業と学生がホンキで取り組む事業にコーディネーターが徹底的に伴走する。若者たちと共に挑戦し実践し学び合うプログラム

 

南田さん: NPO法人G-net(ジーネット)は、2001年に岐阜県で創業し、僕は2代目の代表です。 創業当初はフリーペーパーを発刊したり、街でイベントを企画するまちづくり団体でした。 2004年に、まちをつくる人を育てる「人づくり」にシフトして、その同じ年にちょうど始まった実践型インターンシップのモデルを地域に増やすエティックの取り組みに手を上げ、地域の実践型インターンシップを始めました。

 

岐阜を盛り上げたい、特にチャレンジする人を増やし、人が集まってくるようなまちにしたい、そのためには面白い仕事、魅力的な仕事が必要で、10年・20年先の仕事を生み出せるような人材を育てないといけないと、大学生のインターンシップや社会人の副業・兼業もしくは新卒の就職のマッチングなどのサポートをしています。

 

ジーネットにとって、「ホンキ系インターンシップ」が変革の起点となりました。

僕の考えるインターンシップは、意図のもと設計され、まずは、マインドセットがあって、インプット機会があって、実践プログラムがあって、多様な出会いが保証されているものです。

 

価値あるインターンシップを生み出すためには、地域に密着してコーディネートできる伴走者と、リアリティある実践の場が必要です。若者と大学、若者と企業、いろんなステークホルダーが関わるので、必ずハレーションや、すれ違いが起きます。そういったところを徹底的に伴走して、結果的に学びそのものを最大化する役割を担っているのが我々ジーネットです。

 

代表的な事例を2つご紹介します。

僕らのお膝元の岐阜県大垣市には枡を作っている会社があります。

 

市場の8割のシェアを誇っているのですが、最盛期からすると市場自体が40%以下、10社あった枡会社も今は2社という大衰退産業です。計りとしても、節分でも、日本酒の盃としても使われなくなった厳しい状況の中でなんとかしたい!とインターンシップに挑戦されたのがこの大橋量器という会社でした。

 

10数年前、大橋量器の大橋社長は、周りに意味がないとか無理だと言われる中、新しいことにチャレンジしたい、このまま伝統的な地場産業がなくなってはいけないとインターンシップを募集し、留学経験を持っている学生や、日本の和を世界に届けたいと考えている学生が経験を積みたいと自ら手を挙げ飛び込みました。

「大橋量器の商品展開」G-net南田さんの発表資料より

 

南田さん: 今では大学生だけでなく社会人も含め多様な方が大橋量器に関わるようになり、人が活きる組織に変わってきています。 売上・社員数ともに3倍ぐらい伸び、働く人の平均年齢も20代まで若返る、という大変化が起きています。

 

もう一つの事例は、愛知県名古屋市にある老舗の合羽(カッパ)メーカーさん。こちらも海外からの輸入商材等が増える中で厳しい戦いを迫られていました。

 

合羽屋にできる社会課題解決とは何か考えた時に、小学校低学年の子どもが雨の暗がりに交通事故にあいやすいというデータがありました。そこで、子どもを事故から守る合羽を作れないかというプロジェクトを立ち上げ、共感した大学生と一緒に商品開発を行いました。

 

結果として、若者たちの成長と地域の新たな挑戦が生まれました。

 

地域にとって、このホンキ系インターンシップは、学生を育ててあげる、社会貢献で受け入れてあげるという「してあげる」プログラムではなく、若者たちと共に挑戦して実践して学び合うプログラムで、実際にそう考えている企業たちが自社の変革を実現しています。

 

インターンシップが終わった時にモチベーショングラフを書いてもらうのですが、約9割の学生たちはこういうモチベーション変遷を歩み、真ん中のターニングポイントは何なのかを毎回学生たちと会話します。

 

G-net南田さんの発表資料より

 

南田さん: 最初は期待を持っていたけど、そのうち不安が出てきて、その中で大きなきっかけになったのは何か。 それは、始めたばかりの頃(左側)は、自分のことを考えていて、終わり頃(右側)は、周りのことを考えるようになったということです。自己成長のために始めたインターンシップから、誰かのために自分のできることを提供したい、貢献したいと思うようになった。仕事そのものが他人ごとじゃなく自分ごとに変わってきたという声を多くの若者たちから聞きます。この目線の切り替わりは、長期間だからこそ、だと思います。

 

このような大学生の変化を支えたのは、「リーダーシップと出会える」「当事者たるオーナーシップに出会える」「実際に自分が貢献したいと思える課題や目の前で困っている人に出会える」「仲間に出会える」「何回でも挑戦して失敗できる」そして「ちゃんと内省して振り返りをする」というような要素です。まさにこの一連の流れを設計することが長期インターンシップを作る上で非常に大事にしています。

 

こうして、「ホンキ系インターンシップ」が起点となり、今のジーネットの様々な取り組みに発展してきているのですが、地域の課題、若者たちの成長課題、限られた資源、いろいろな制約もある中でどう価値を生み出すかが重要です。共に創造し共に学ぶ関係を築くことが実践型インターンシップの根幹を支えています。

 

G-net南田さんの発表資料より

 

後編の記事では、コーディネーターの役割について、全国のコーディネーターの皆さんの声を交えて紹介していきます。

 

登壇者プロフィール

今永典秀(いまなが・のりひで)さん/博士(工学)、名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科准教授、地域連携センタ一長、Co-Innovation University(2026年4月開学予定)ボンディングシップ・アドバイザー

名古屋大学卒業後、民間企業(大手銀行の法人営業、トヨタグループの不動産会社の経営企画など)、岐阜大学地域協学センターを経て、現職。

 

南田修司(みなみだ・しゅうじ)さん/NPO法人G-net代表理事

15年以上に渡り地域企業と若者をつなぐ短中長期インターンシップの設計、コーディネートに従事。

 

伊藤淳司(いとう・じゅんじ)/NPO法人ETIC.ローカルイノベーション事業部シニアコーディネーター

1997年から25年以上、実践型インターンシップをコーディネート。日本インターンシップ学会第3回槇本記念賞「最も秀逸なるインターンシップ」を受賞。

 

この記事を書いたユーザー
中島久美子

中島久美子

1979年宮崎県生まれ。結婚を機に広島に移住。広島で就いた起業家支援施設での受付業務を経て自らシェアオフィス・コワーキングスペースを立ち上げ現在に至る。チャレンジする人たちの話を聞いてわくわくしたり、応援することにやりがいを感じている。

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