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資金調達の先へ! —ソーシャルビジネスのインパクトを広げる金融機関との協働についてのホンネトーク

2016.06.17 

NPO・ソーシャルベンチャー向け融資『CHANGE』の活用事例として、NPO法人発達わんぱく会理事長である小田知宏さん、株式会社みんなのごはん 代表取締役の岩溪寛司さんをお招きし、パネルセッションを行いました。

テーマは、「NPO・ソーシャルビジネス経営者による金融機関の使い倒し方」。経営者の皆さんのホンネに迫りました。 聞き手はETIC.インキュベーション事業部・マネージャーの佐々木健介、そして金融機関の専門家として西武信用金庫 常勤理事・業務推進企画部長である髙橋一朗さんと、事例の2社を担当する営業の方々にもご参加いただきました。

公開インタビューの様子

公開インタビューの様子

「実現したい社会」を作るために必要なタイミングで、資金を活用できることが最大のメリット

佐々木: 今回のパネルセッションでは、西武信用金庫さんの『CHANGE』というソーシャルビジネス成長応援融資を活用している二団体にご登壇いただきます。 事業を成長させていく上で具体的にどのように金融機関や中間支援のリソースを活用していけば良いのか、その可能性を感じ取っていただけたらと思っています。 それではまず、NPO法人発達わんぱく会の小田さんから順にお話をうかがっていきたいと思います。

 

小田: みなさんはじめまして、NPO法人発達わんぱく会の小田知宏です。まず私たちの活動の概要と、これまでの融資の活用についてお話させていただけたらと思います。

私たちNPO法人発達わんぱく会は、「発達障害のある子どもが、コミュニケーションの力を身につけ、長所を伸ばし、地域のなかで自分らしく生きていけるよう、家族、地域、行政のみんなで支援する。」ということを理念に掲げるNPOです。

具体的には、自閉症などを含む発達障害の幼児の療育事業をメインの活動としています。全国で約30万人も発達障害の幼児がいると言われていますが、なかなか配慮ある環境で成長できていないというのが現状です。私たちは、そうした環境を変えたいと思い活動を行っています。

現在、法人ができて5年目となります。「こころとことばの教室 こっこ」という名前で、子育て支援、児童発達支援と療育をサポートする教室を東京都江戸川区に1カ所、千葉県浦安市に3カ所持っています。

この『CHANGE』の融資では2年前に500万円をお貸しいただき、事業運転資金として活用してきました。そして今回新たに、『CHANGE』のなかの「社会変革応援コース」の融資を利用し、1,900万円をお借りすることとなりました。この資金は2016年春、江戸川区に作る5つめの教室の開設などに活用します。

NPO法人発達わんぱく会理事長・小田知宏さん

NPO法人発達わんぱく会理事長・小田知宏さん

助成金・補助金だけだと、タイミングや金額に制約が生じやすい

小田: 実は今回の新たな融資に関して、こんなにスピーディーに、資金の提供を受けた経験がなくて本当に感謝しています。 NPOの資金繰りというと、どうしてもタイミングや金額に制約が生じがちです。例えば、県からの補助金や、財団からの助成金などは年間を通じて決まったタイミングで、決まった金額が出る資金源の代表例です。もちろん、こうした資金も私たちにとっては非常に重要ではありますが、自分たちの事業のフェーズに合ったタイミングで資金調達ができないことは少なくありませんでした。

「こういう社会を実現したい」と思う一方で、満足のいく事業成長ができず苦しんでいたところで出会ったのが、西武信金さんの『CHANGE』でした。 例えば私たちが新しい教室を開くときには、事前にスタッフを採用し、育て、かつ地域に根ざして行くという行動を前もって行っておく必要があります。そうしたタイミングに合わせて資金ももちろん必要になります。 今まではタイミングに制約があることが多かったですが、融資を受けたことによって前もって準備を始め、安心して教室運営をスタートできるようになったことに、とても助かっています。

ビジョンの共有から具体的な事業を動かす仕組み導入まで一緒に。パートナーとしての金融機関の存在

佐々木: 前回は500万円、そして新しいステップでさらに1,900万円をお借りすることになったわけですが、具体的に今後どのように活用しようとお考えであるのか、そして西武信金さんとどのようなコミュニケーションを取って進められているのでしょうか?

 

小田: さきほど5つめの教室の設立についてはお話しましたが、加えてこの資金については新たな事業の柱を作りたいと思ってご支援、経営サポートをお願いしました。 これから寄付会員事業を立ち上げて、3年後には1,000万円規模にしたいと思って取り組みをスタートさせています。

西武信金さんとETIC.には時間と労力をかけて、一緒に具体策を考えていただいており、融資以降の経営サポートの手厚さも実感しています。 具体的には、寄付金事業の専門のコンサルタントさんをご紹介いただき、定期的なセッションを受け、時間をかけて事業計画を具体化してきました。 その過程では、アドバイザリー会議というかたちで、専門的知見がある方にお越しいただき、我々が目指すべき社会、それを実現するための寄付会員事業をどうすれば良いかという事業の骨子となるところから企画化に向けたアドバイスをいただきました。

また、そうしたステップにとどまらず、具体的に寄付事業が立ち上がったら顧客管理をはじめ非常に多くの仕事が発生しますので、そこに必要なシステムを導入するためにシステム会社さんをご紹介いただいたりと、多岐に渡るご支援をいただいております。 おかげさまで、2016年度には事業が始められる見通しになっています。

 

髙橋: 今回の小田さんの事例のように、「時間を買う」という融資の活用方法はこちらとしても推奨したい手段の1つです。 NPOやソーシャルベンチャーの場合には事業形態上大きな利幅が期待できず融資を活用しなければ、非常に長い期間をかけないとそれが実現できないという場合も多いです。

一方で、NPOやソーシャルベンチャーのみなさんが実行する事業は、地域でニーズがあり、待ち望まれている状態であることが殆どです。こうしたものは、我々としても是非支援をしてそれを実現させたいという気持ちですし、地域にニーズがあることであれば返済計画も立てやすいというのも事実です。

西武信用金庫 常勤理事・業務推進企画部長・髙橋一朗さん

西武信用金庫 常勤理事・業務推進企画部長・髙橋一朗さん

佐々木: その通りですね。そして小田さんにもう少しお聞きしたいのですが、他にも地域で資金を調達したり、支援を受けたりするチャンスもあると思いますが、改めて『CHANGE』を活用することによる他の手段との違いや、価値はどのようなところにあるとお感じですか?

 

小田: 私としては、 NPOとして目指すべき社会像を掲げているというところに共感してもらいたい、という気持ちは強く持っています。 残念ながら、西武信金さん以外の金融機関に行くと、大抵は貸借対照表だけ見られて終わってしまうんです。 私たちの目指す社会なんて当然聞いてくれないし、下手すると損益計算書すら見てくれないこともあります。結局どれだけ資産があるかで事業の中身まで見てもらえないということが非常に多く悔しい思いもしました。

一方で、この『CHANGE』は、こちらへの向き合い方が他の金融機関と180度異なるというのを日々感じています。 まず、私たちの考える目指すべき社会像に対して、現在どのような取り組みをしているかということに対ししっかり耳を傾けてくださるところからスタートします。一通り私たちが大切にしていることや目指していることをご理解いただき、その上で具体的な融資や返済についての話をスタートできます。

事業者側からのこまめなコミュニケーションが、信頼関係構築には不可欠

佐々木: ありがとうございます。突然ですが、ここでNPO法人発達わんぱく会を担当する西武信金の伊藤さんにお話をおうかがいしたいと思います。今回の融資について、通常の企業への融資と違う特徴や、小田さんのケースならではの特徴があれば是非お聞かせいただきたいのですがいかがでしょうか?

 

伊藤: まず、発達わんぱく会さんの場合には、他の融資との違いは特にないです。あくまで、通常と変わらずに事業性を評価して、どうやって返済していくのかという点を見極めさせていただいた結果です。 そして小田さんとは、関係はとても良い信頼関係が築けていると思っています。 小田さんは毎月事業の報告をしていただいていて、本当に頭が下がります。

一般の事業会社でも、そこまで細かくご報告をくださる会社はありませんよ。 小田さんは、先月の教室の回転数や目標の売上に対して達成・未達という報告をしっかり送ってくださいます。そうした積み重ねのなかで、私としては信頼関係が醸成されたのだと感じています。

西武信金・伊藤さん

西武信金・伊藤さん

佐々木: ソーシャルビジネスだから、ということではないということですね。そして実際、こうした報告を受けると、ご担当としてはどういう心境ですか?

 

伊藤: 正直嬉しいですね。しっかりと報告してくれて、そして事業の報告だけじゃなくて今やっている職員を育てる活動、助成金の申請の進捗状況、など事業全体について共有をいただけているというのが、非常にありがたいと思っています。

 

小田: こちらこそ、ありがとうございます。いつも親身にご相談にのってくださり、NPOに携わる人生何十年を共に歩んでくれるような、覚悟を感じています。 たとえ僕が代表を変わったとしても、個人としてはずっとお付き合いしてほしいなと思うほどです。ですから、もっともっと信頼いただけるように、そして僕たちもしっかり信頼していけるような関係性を築けたらと思っています。

ビジネスモデルを確立するところから徹底に支援を受ける

佐々木: では続いて、株式会社みんなのごはん、代表取締役の岩溪寛司さんからも活用事例をうかがいましょう。

 

岩溪: ただいまご紹介いただきました岩溪です。私からも事業の概要と融資の活用についてご紹介をさせていただけたらと思います。 私たちは、ベジタリアンやアレルギーをお持ちの方を中心に、食に不自由しない環境をつくるというのを1つのミッションとして掲げています。レシピ開発や自社開発商品の提供に至るまで、そうした食事を実際に提供するレストラン、学校、病院、ホテルなど幅広い業態のお客様とお取引をさせていただいています。

もともとは前身となるNPO法人で融資をしていただいていたのですが、事業はみんなのごはんに移管をし、今に至ります。振り返ってみると、よくあの状態で融資していただけたな…と思います。 融資を開始していただいた当時は、某ハンバーガーチェーンさんと接点があり、ベジタリアン向けのバーガーを導入することを事業の中心に据えていたものの、どのような仕組みで儲けるのか曖昧なことも多い状態でした。

事業計画も一生懸命書き起こしてはみたものの、それも仮説の域を出ず、という状態でした。 そうした状況ではありながら、200万円を融資いただき、運転資金にあてさせていただくことができました。

株式会社みんなのごはん 代表取締役・岩溪寛司さん

株式会社みんなのごはん 代表取締役・岩溪寛司さん

佐々木: 西武信金さんとしてはどのような期待を持って、融資を決められたのでしょうか?西武信用金庫でみんなのごはんを担当する瀬下さん、いかがですか?

 

瀬下: 当初はNPO法人THINK AGAIN実行委員会さん(現NPO法人ベジライフ協会)に対しての融資として、お付き合いがスタートしました。 初めてお会いしたころは、正直なところ財務的に脆弱な状態でした。もちろん融資の利用計画をご用意いただいたのですが、まだ実績もないころでしたから、実現可能性をどう見たら良いのかというところで非常に迷った案件だったことを覚えています。振り返ってみると通常のご融資だと、もしかしたらお断りしていたかもしれません。

しかし、この『CHANGE』の融資は社会性や課題解決のインパクトなどを含めた事業モデルを審査した上で総合的に判断するというのが1つの特徴です。 事業のビジネスモデルが将来期待できるかどうか、それだけではなく経営者である岩溪さんの事業への思い・考え方、そして将来どうしたいという気持ち、あるいはこの事業ができなかった場合にどうするのか?というところまでお話をさせていただきました。

そうした面も含めて、西武信金内の稟議を通したという背景がありました。 また、融資決定後は、事業拡大のためにお取引先などをご紹介させていただくなどのサポートも継続して取り組ませていただいています。 岩溪さんは非常に真摯に、さまざまなアドバイスを自分のものとされています。そして、バイタリティ溢れるご様子で活動をされているというところが、成功に繋がっているのだと思います。引き続き微力ながらご支援ができたらと思っています。

西武信用金庫・瀬下さん

西武信用金庫・瀬下さん

岩溪: 瀬下さんのお話のとおり、はじめはもう瀕死というか・・・(笑)そういったところから支えていいただき、財務的な面の基盤を作ることができました。

また、ETIC.さんからのご指導にも本当に助けていただいています。自分たちの事業の構築について、今までは「どうしたらいいですかね?」という域をなかなか出ませんでした。しかし融資をいただいてから約2年間のなかで、ときに厳しく、ときに優しくアドバイスをいただき、現在では私たちが行おうとしている事業がほぼ明確になりました。

現在当社の主要取引先となっているJALさんの機内食のレシピ作成と、自社開発の食品の卸売りの取引が実現したのも、ETIC.さんにマッチングイベントをご紹介いただき、徹底的にご指導いただいたのがきっかけです。 融資をいただいた当初はビジネスモデルが確立されておらず、満足な収益を得られていませんでした。

JALさんとはそのような中、まずレシピを提案して、それを買っていただきました。そしてレシピのなかに、私たちしか持っていない食材を埋め込んでおいて、このレシピを使う限りはみんなのごはんから買ってくださいねというモデルを作りました。

おかげさまで、2015年6月からJALさんとの取引ははじまっていますが、毎月発注をいただいて、その食材を卸して行くというかたちで収益が出せるようになりました。もちろん、融資の返済も順調です。 このプロセスを通じて私たちの商品が明確になったので、提案先をいかに多く作っていくかという新しいフェーズに移れたと感じています。

金融機関を通じて、NPOやソーシャルベンチャーがネットワークを広げるコツとは?

佐々木: 私たちも、みんなのごはんさんのケースのように、ネットワークのご紹介を含め、みなさんをサポートしています。一方で西武信金さんだからこそ提供できる地域内のネットワークの紹介というのもありますよね。

 

髙橋: そうですね。我々のみなさんに提供できる最大の強みは、そうしたお客様同士の引き合わせでもあります。中小企業と大企業、大学の先生と企業やNPOの方とか、横断的な組み合わせでビジネスマッチングや共同研究していただく機会を多く生み出しているのは当金庫ならではの取り組みです。

また、私たちがNPOやソーシャルビジネスをご支援しているなかで、みなさんがより多くの方たちとお取り引きいただく際に気をつけていただきたいことがあります。 それは、あまり想いの部分が強すぎると、なかなか前に進めないことがあるということです。 例えば、岩溪さんのケースでいうと、ベジタリアン向けの食事を広めて行くんだと強い気持ちがある一方で、「ベジタリアンのひとのために」という気持ちが強すぎると、実際にはベジタリアンじゃないひとにも身体に優しい食事を提供できるという要素を見落としがちです。

この要素を忘れてしまうと、世の中の半分以上のひとはベジタリアンではないですから、残念ながら接点を持つことが難しくなってしまいます。 どんなひとにも受け入れられるような、誰もが仲間なんだというスタンスが大切です。そういうスタンスで続けていると賛同者を募りやすくなります。 融資を受ける際には資金提供を受けるだけでなく、事業のスタンスを見直す機会としても活用いただき、私たちを通じてビジネスチャンスを広げていただけたらなによりです。

 

佐々木: ありがとうございます。事業を拡げたり、成長の機会もありますので、ソーシャルビジネスやNPOにも地域の金融機関や経営支援メニューをうまく活用してもらいたいですね。本日はありがとうございました。

 

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西武ソーシャルビジネス成長応援融資「CHANGE」では、創業期の事業成長を応援する500万円の融資に加え、拡大・成長期の社会的インパクト拡大を支える5,000万円の融資提供が2015年度よりスタートしました! 事業の成長を加速させるタイミングを前にした社会起業家の皆さん、ぜひ素晴らしい社会をつくるためのエンジンとして、「CHANGE」を広く活用していただければと思います。

西武ソーシャルビジネス成長応援融資 『 CHANGE(チェンジ)』

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村上 萌

1988年静岡県生まれ。高校卒業後、管楽器の修理人を3年間経験後一念発起して大学へ。法政大学卒業後は人材系企業で自社運営の新卒採用求人サイトの大学・学生向けプロモーションや、中途採用人材紹介の法人営業に従事。2015年3月より、配偶者の転勤により南アフリカ共和国在住。現在はクラウドソーシングでコラム執筆などを行っている。