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お米を炊くことで暮らしの豊かさを伝えたい―新潟の小さな商店街で米屋を始めたIターン女子3人組の話―

2015.08.17 

新潟の小さな商店街で米屋を始めた3人の女性たちがいます。 吉野さくらさん、井上ゆきさん、堀あいりさんが新潟県新潟市西区内野に移住してきたのは、2015年の4月。内野は昔ながらの商店街が残る、どこか懐かしい雰囲気の町です。

3人の出身地は宮崎・東京・福井とバラバラですが、内野にある本屋の店主に誘われたことをきっかけに偶然出会ったとのこと。現在、米屋という“場”をきっかけに人と人が「つながる」、異世代が「つながる」ことを目指して、「つながる米屋 コメタク」を運営しています。

なぜ3人は、縁もゆかりもない新潟で米屋を始めたのでしょうか。彼女たちの米に対する想いと働き方にせまります。 左からゆきさん、さくらさん、あいりさん

左からゆきさん、さくらさん、あいりさん(写真:池ト ヒロクニ)

誰かのことを想って「米を炊く」。心に余白がある豊かな暮らしを伝える

― コメタクとは何をしているのですか?

 

ゆき: みんな、豊かで丁寧な暮らしを望んでいるのではないかと思っています。心に余白のある暮らし。誰かのことを思いながら、料理をしたり、買い物をしたり、食事をしたりする暮らし。でも実際には、できていない人の方が多いですよね。そこで、豊かに丁寧に生きる方法を「米を炊くこと」を通してこれからを担う若い人に伝えていきたいと活動をしています。

 

さくら: 現在、具体的には、内野に店を構える飯塚商店というお米屋さんと連携して、お米のwebサイト上での代理販売をしています。また、毎週土曜日の朝には朝ごはん会を、地域のイベントのときにはおにぎり屋台を出店しています。 コメタクが毎週土曜に開いている朝ごはん会の様子。食べる前にコメタクの想いを伝えます

コメタクが毎週土曜に開いている朝ごはん会の様子。食べる前にコメタクの想いを伝えます

― 米を炊くことがどうして“豊かさ”につながるのでしょうか

 

あいり: 「米を炊く」って、自分以外の誰かのことを想っての行為だと思うんです。お米を炊くときは、自分ひとりがそのとき食べる分だけじゃなくて、家族とか、未来の自分用に炊いていますよね。そういう自分以外の誰かを受け入れて想う生活が、余白のある暮らしであり、豊かな暮らしなんだと思います。

地域の知恵や文化を次世代につなげるチャレンジ

― 3人とも出身地でもない新潟に新卒で移住したのは、何がきっかけだったのですか?

 

さくら: 実は、3人とも西田卓司さん* という、内野駅前にある『ジブン発掘本屋 ツルハシブックス』の仕掛け人の方との出会いがきっかけなんです。それぞれが別々に西田さんと出会ったのですが、飯塚商店や地域で米屋を営む可能性を彼から教わって、すっかりその気になってしまったんですね(笑)。その後、3人で意気投合してコメタクを結成することになりました。

* 西田さん(西田卓司):新潟市西区内野駅前にある『ツルハシブックス』劇団員(店主)。2008年から2012年まで、ETIC.の支援を受け、長期実践型インターンシップ「起業家留学」を実施。現在は若者の地域活動による「キャリアドリフト型」キャリア形成を学ぶために国内留学中

ゆき: 私の場合は、内野に遊びにきたときにたまたま西田さんが飯塚商店を紹介してくれたのがきっかけでした。飯塚商店の試みにすごく感動してしまって。もう、飯塚商店のお米が本当においしかったんです。これまで食べてきたお米とは桁外れにおいしくて。 飯塚商店

飯塚商店。ここのお店のお米をwebで販売している

あと、飯塚さんのお話からみえる新しい世界が面白くてしょうがなかったんです。新潟県産コシヒカリでもお米の味が全然違うことや、米の保存の仕方、精米器や米の倉庫の雰囲気、そのすべてを知らなかったし、おいしいお米を届けるためにこんなに努力している人がいることも感動でした!

そして、それらは私たちの食生活にとって一番身近なお米に関するものだというところにグッとくるものを感じたんです。 私は生まれも育ちも東京で、大学では農学部に進学しました。大学2年生までは、とにかく外の世界に出たいと思っていて、タイでの留学も経験しましたね。その後、大学3年の夏休みに「地域づくりインターン」というプログラムに参加して色んな農山村に行ったことをきっかけに、地域で脈々と伝わってきた生活の知恵や暮らしの文化を、10年後20年後も残していきたい、そういうものを次世代につなげることをしたいと思うようになったんです。

ただ、つなげることを続けていくには、小さくてもお金が回る仕組みがないといけないですよね。だから、そういった仕組み作りをとにかくすぐやりたいと思ったんです。一方で、これが本当に自分に合っていることなのかどうかはイメージができなくて。そして、“やりたい”とは思ったけれど、新卒で仕事としてチャレンジする勇気がないとも思いました。じゃあ、休学して学生という身分でチャレンジしていこう思った矢先に、西田さんと出会いました。

女子大生の一人暮らし、和食中心の食生活で元気になった実感から

― 休学をしてやりたいことにチャレンジされているんですね。あいりさんはいかがでしょうか?

 

あいり: 大学3年のときに、就活説明会にも参加したけれど、結局何を仕事にしたいのか分からなくなったんです。それまで将来のことはまったく考えずに生活していたので。そのような経緯で、大学4年のときには日本仕事百貨でインターンを始めました。そうこうするうちに、「卒業したら地元帰るかなあ。でも、なんかもっと面白いことしたいんだよなあ」と思っていたタイミングで、インターン先でたまたま西田さんと出会ったんです。 コメタクまかない担当のあいりさんがつくったごはん

コメタクまかない担当のあいりさんがつくったごはん。 近所の方からもらった野菜をふんだんに使っています

西田さんが、「米屋をやったほうがいいと思うんですよ」という話をされて、面白い話だなとビビッときました。「女子大生はもっと食生活に気を配るといいんだけどねえ?」って話をされて、「私もそう思いますー!!」って。きゃー!ってなりました(笑)。

食の道に進もうとはまったく思っていなかったんですけど、大学時代に一人暮らしでの自炊を通して料理を好きになっていたのと、和食中心の食生活を心がけることで身体が元気になる実感があって、お米に関わることをするのは素敵だなって思ったんです。

「新しい生き方」の実験台になる

― 女子大生と食生活という問題意識に惹かれたんですね。さくらさんはいかがでしょうか?

 

さくら: 私は、自分の中で「面白い人になりたい」っていう想いと「いつ死ぬか分からない」という想いの2つの軸があって。

「面白い人になりたい」と思い始めたきっかけは、大学時代、インターンを通して「将来この人たちと絶対に仕事をしたい!」と思える色んな大人たちに出会えたことです。そういう人たちに、私と仕事がしたいと思ってもらうためには、私も面白くならなきゃいけないですよね。

それに加えて、人間いつ死ぬか分からないので、面白がることのできない選択はできる限りしたくないなと思っていました。面白くないと思いながら向き合うのはあまり誠実ではないし、周りの人も大切にできないので。 そして、ひょんなご縁で西田さんと出会い、色んなお話をするなかで、「米屋が地域の新しい文化を作れると思うんだよ。新しい価値観を米屋でつくれるはずだ」という仮説に共感すると共に、すごく面白いと思いました。

以前から、「新しい生き方」みたいなものを自分自身が実験台になって探っていきたいなという想いがずっとあったんです。だから、地域で米屋を営むことで、その仮説を実践する私の生き方自体が新しい価値観になるかもしれない、新しい価値観や文化を自分自身で生み出せるかもしれないと思いました。そして何より、米屋をしている自分やコメタク自体を面白がれる気がしたので、選択しました。

 

― 新卒でゆかりのない土地に移住することに戸惑いはありませんでしたか。お金の問題とかここで暮らしていけるかとか。

 

さくら: コメタクの活動自体は、まだ利益が得られるほどのものにはなっていません。なので、現在はそれぞれがバイトをしています。

 

あいり: 実は、生活費が驚くほどかかってないんですよ。先月は7,000円しか使いませんでした。

 

ゆき: 野菜を近所の人からいただくことが多いんですよ。ご近所さんに頼まれて、じゃがいもを掘るアルバイトとかに行ったりしていますし。 『飯塚商店』店主のこだわりが詰まったお米

『飯塚商店』店主のこだわりが詰まったお米

あいり: あと、一応わたしたちは、コメタクの活動はまずは2年間やってみようというスタンスで活動してるんです。わたしたちの事業は実験なので。メリハリをつけるという意味もあり期間を区切っています。

スキルがなくても皆で生きていける社会をつくる

― 何かしら専門的なスキルがないと将来生きていけないのではという不安はないですか?

 

ゆき: う~ん。というか、スキルがなくても生きていける社会っていいですよね。そういう社会をコメタクでつくっていきたい。

 

さくら: 新潟に来るまでの私たちも含めて、みんな一人で生きようとしすぎなんだと思います。ひとりで生きようとするから、特別なスキルがいくつも必要な気がしてしまう。

 

あいり: 私は、地方で生きていくためには、企む力が必要だと思っていて、今は企む方法を探っています。社会人が持つべき教養とかは、あと2年経ってからでも身につけられると勝手に思っています(笑)。

 

― これからコメタクでどういうことをしていきたいと思ってますか?

 

さくら: 誰にでもできることをしたいです。やっていないけど、やろうと思えば誰にでもできることを。 私だけがノウハウを持っていてもいつ死ぬか分からないので。いつ死ぬから分からないからこそ、自分にしかできないことをしても意味がないなと思っています。コメタク自体が、周囲の人にとって面白がってもらえる存在になるように、私自身もコメタクをもっと面白がっていきたいなと思っています。

 

あいり: 料理が好きということもあり、私たちがどういうものを食べて暮らしているのかを発信していきたいです。米を炊く生活をコメタクは伝えていきたいので、私たちなりの丁寧な暮らしである「ごはん」を、みんなと共有したいと思っています。

 

ゆき: 世代をつなげる活動をしたいです。おじいちゃんおばあちゃんから若者が受け取るものだとか、逆に若者が与えられるものだとかを見つめていきたい。おばあちゃんと女子学生の交流イベントを今は企んでいます。

 

― これからどんな風に働いていきたいと思いますか?

 

あいり: 「まち」と一緒に働きたいです。人の暮らしが好きですし、その暮らしを営む場である「まち」で、みんなの暮らしのどこかに関わっていたいと思います。

 

ゆき: 地域を歩いて得た気づきをどんどん行動に移していって、わくわくしながらそれを繰り返していくという働き方をしたいなと思っていますね。

 

さくら: 同級生の多くは社会人1年目なのですが、組織に入って働いている人が多いです。そんななか私はいつの間にか違う選択をしていました。でも、私のような生き方もなんだか面白そうだなと思ってもらえるような働き方をしていきたいです。

この記事を書いたユーザー
こやま かなこ

こやま かなこ

1990年新潟県生まれ。大学時代にまちづくりのゼミで南三陸や能登に行き、「人」の面白さに触れる。2013年にETIC.震災チームでインターンを経験し、理想の働き方について考えるようになる。よく行く海外は台湾。日本語を話すお年寄りの聞き書きをしている。

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